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第4節 

4 特定有害物質等による被害

 大気汚染防止法第2条第5項の規定により二酸化セレン、弗化水素、塩素等24物質が特定有害物質として指定されている。これらの物質は、本法の前身であるばい煙規制法の当時から逐年指定されてきたものであって、工場、事業所における発生施設が故障、破損その他の事故を起こし、これらの物質が多量に排出された場合、その周辺の地域住民への健康被害を防ぐため、企業がその応急措置やすみやかな復旧措置をとるべきこと、ならびに都道府県知事が企業に対し事故の拡大や再発の防止に必要な措置をとるように勧告できるとされているものである。
 ところで特定有害物質によるおもな被害については、次のような事例がある。
(1) 二酸化セレン
 香川県坂出市において昭和28年より操業を開始した金属精錬工場の煙突その他から二酸化セレンなどの有害物質が放出され、附近の人畜に危害を及ぼした。被害としては中北部落住民多数が、頭痛、胸痛、全身倦怠を訴え、爪のき裂等をきたす者も出た。
(2) 弗化水素
 静岡県蒲原町、福島県喜多方町、愛媛県新居浜市のアルミ製造工場などの周辺で、弗化水素による農作物(稲、みかん、柿、梅等)の発育不全、減収や蚕の死滅などの被害が発生している。
(3) 塩素
 昭和39年9月富山県富山市化学工場において塩素ガスが漏洩し、半径約1kmの地域住民538名が被害を受け病院に収容された(うち重症52名)。野菜、花、果樹の被害、牛乳や鶏卵の減収も見られた。43年12月東京都荒川区の電解工場の変電室の火災により、電源のスイッチを切ったため、作業中の電解室から塩素ガスがあふれだし、附近にただよつた。このため消火作業にあたつた23名が塩素ガス中毒となり近くの病院で手当てを受け、うち13名が入院した。
 以上の事例以外にも相当数の被害が発生しているものと思われるが、いおう酸化物による大気汚染と違い、発生業種もかたよつているなど地域限局性が強く、また、その原因が正確につかめぬまま眼刺激、悪臭等の問題として処理されることも多いことなどのため、その実態を完全には握することは非常に困難である。しかし、苦情例に多くみられる工場等から常時、少量ずつ排出される有害物質の問題等を含めて大気汚染問題としては今後いつそう重視すべきものである

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