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第4節 

3 学童に対する影響

 大気汚染が学童の健康に与える影響は、本質的には1に述べた一般の人体影響と変わるところはないのであるが、次代をになう児童の発育期に及ぼす影響から特に重要である。
 厚生省は、昭和40年度から小学校児童を対象として5カ年間継続調査を実施している。
 調査対象地区は、40年度は大阪、四日市の2地区、41年度より千葉県市原地区を加えて3地区とした。それぞれの地区において従来の環境測定の結果に基づき、大気汚染の著しい地区に存在する小学校(以下「汚染校」という。)と、大気汚染の影響がきわめて少ない地区に存在する小学校(以下「対照校」という。)を1〜2校ずつ選定した。対象学童は、第1年度(40年度)において2年生であつたものを5か年間追跡することとし、加えて、各年度における6年生児童も調査対象とした。調査は大気汚染の季節的変動を考慮して年3回実施することとした。その内容は質問調査、欠席状況調査、呼吸機能検査を中心とする医学的検査、気象および環境測定である。
 調査結果については、43年度現在5か年継続調査の4年度目であり、まだこれまでの3か年間のデータしか得られてないので断定はできないが、傾向として次のようなことがうかがえる。
 大気汚染の欠席率に及ぼす影響について急性呼吸器疾患による月別欠席状況をみると40年度は、大阪の2年生を除いて、ほとんどの月において汚染校の欠席率が、対照校より高く、年間延べ欠席率が汚染校が対照校の1.5〜3倍であつた。(第2-1-12図(1)参照)。
 41年度においては、両校の間の差が認められなかつた。
 42年度では、大阪では有意差が見られなかつたが、四日市では、各学年、男女すべてについて汚染校に欠席率が高かつた。(第2-1-12図の(2)参照)。
 質問調査による「眼のいたみ」、「のどの痛み」、「せき」、「たん」などの自覚症状の訴えは、いずれの年度も汚染校に多く見られている。第2-1-13図は42年度の結果を示す。呼吸機能検査の結果は当初、汚染校と対照校の差は必ずしも顕著でなかったが、次第に差が明らかになつていく傾向がうかがわれる。これら経年変化は、5か年間の調査完了後、詳細に解析を行うこととしている。
 42年2月、文部省においては、学校における公害の被害の現状を把握するための全国的な実態調査を行なった。その調査結果によれば、公害による種々の影響を受けている学校は相当数に上つており、そのうち、騒音と大気汚染によるものが大半である。
 大気汚染による被害の程度については、測定機器により科学的な測定結果によつて判断すべきであるが、一応全般的な傾向を知るための一つの方法として、次のような表現によつてその程度をは握することとした。
 Aクラス 温暖な季節でもばい煙や臭気のため窓を開けられない日が多い。
 Bクラス 温暖な季節でもばい煙や臭気のためしばしば窓を閉める日が多い。
 Cクラス 温暖な季節でもばい煙や臭気のためときどき窓を開けられない。
 このように3段階に分けて調査した結果の比率は、第2-1-14図のとおりである。また、大気汚染の季節的なもの、時間的なものについてみると、1年中ないし1日中というのが、全体の半数以上を上回つている。
 学校の立地条件や環境条件により、同一学校の中でも教室の位置によつて被害の状況が異なるので、教室を単位としてみると、騒音および大気汚染によるものがほとんどであるが、騒音に比べて大気汚染による1校当たりの被害教室数が多いことから大気汚染による被害の範囲が大きいことがわかる。
 以上のような調査結果から見ても、大気汚染が学童の心身および教育活動に及ぼす影響は無視できないものがあり、教育環境の悪化に伴う学習能率の低下も問題となるところである。

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