環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第6章>第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

1 科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装の施策

(1)統合的な環境研究・技術開発の推進

脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の構築や、安全確保に資する研究開発等を実施します。加えて、国際的なニーズである環境収容力や国内や地域での需要側の暮らしのニーズを把握した上で、将来及び現在の国民の本質的なニーズを踏まえたイノベーションの創出を目指し、環境・経済・社会の統合的向上の具体化、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブの各分野及び複数領域に関連する統合的な研究・技術開発や、安全・安心等に資する研究・技術開発、また、自然科学のみならず人文・社会科学も含めた総合知の活用に資する研究・技術開発を実施します。

その際、特に以下のような研究・技術開発に重点的に取り組み、その成果を社会に適用します。

ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブを目指す中長期の社会像がどうあるべきかを不断に追究するため、環境と経済・社会の観点を踏まえた、統合的政策研究を推進します。

また、ネット・ゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブに係る複数の課題に同時に取り組むWin-Win型の技術開発や、複数の課題の同時解決の実現を妨げるような課題間のトレードオフを解決するための技術開発等、複数の領域にまたがる課題及び全領域に共通する課題も、コスト縮減や、研究開発成果の爆発的な社会への普及の観点から、重点を置いて推進します。また、AI、IoT等のデジタル技術、量子等の先端的な科学技術、先端材料技術やモニタリング技術、DX関連技術、経済安全保障に資する技術、分野横断的に必要とされる要素技術等については、技術自体を発展させるとともに、個別の研究開発への活用を積極的に促進します。

(2)環境研究・技術開発の効果的な推進方策

研究開発を確実かつ効果的に実施するため、以下の方策に沿った取組を実施します。

ア 各主体の連携による研究技術開発の推進

技術パッケージや経済社会システムの全体最適化を図っていくため、複数の研究技術開発領域にまたがるような研究開発を進めていくだけでなく、一領域の個別の研究開発についても、常に国内外の他の研究開発の動向を把握し、その研究開発がどのように社会に反映されるかを意識する必要があります。

このため、研究開発の各主体については、産学官、府省間、国と地方等の更なる連携や、同種のみならず異種の学問領域や業界・業種の間の連携等を推進し、また、アジア太平洋等との連携・国際的な枠組みづくりにも取り組みます。その際、国や地方公共団体は、関係研究機関を含め、自ら研究開発を行うだけでなく、研究機関の連携支援や、環境技術開発に取り組む民間企業や大学等の研究機関にインセンティブを与えるような研究開発支援を充実させます。

イ 環境技術普及のための取組の推進

研究開発の成果である優れた環境技術を社会実証・実装し、普及させていくために、新たな規制や規制緩和、経済的手法、自主的取組手法、特区の活用、シームレスな環境スタートアップ等の支援・表彰によるイノベーションの促進等、あらゆる政策手法を組み合わせ、環境負荷による社会的コスト(外部不経済)の内部化や、予防的見地から資源制約・環境制約等の将来的なリスクへの対応を促すことにより、現在及び将来の国民の本質的なニーズに基づいた研究開発を進めるとともに、環境技術に対する需要をも喚起します。また、技術評価の導入や信用の付与等、技術のシーズをひろい上げ、個別の技術の普及を支援するような取組を実施します。

ウ 成果の分かりやすい発信と市民参画

研究開発の成果が分かりやすくオープンに提供されることは、政策決定に関わる関係者にとって、環境問題の解決に資する政策形成の基礎となります。そのためには、「なぜその研究が必要だったのか」、「その成果がどうだったのか」、「どのように環境問題の解決に資するのか」に遡って分かりやすい情報発信を実施します。また、研究成果について、ウェブサイト、シンポジウム、広報誌、見学会等を積極的に活用しつつ、広く国民に発信したり関係者と対話したりすることを通じて成果の理解促進を更に強化し、市民の環境政策への参画や持続可能なライフスタイルの実現に向けた意識変革・行動変容を実現します。

エ 研究開発における評価の充実

研究開発における評価においては、PDCAサイクルを確立し、政策、施策等の達成目標、計画、実施体制等を明確に設定した上で、その推進を図るとともに、研究開発の進捗状況や研究成果がどれだけ政策・施策に反映されたかについて、事前、中間、事後そして追跡評価等の適切な組合せを通じて適時、適切にフォローアップを行い、実績を踏まえた計画・政策等の見直しや資源配分、さらには新たな政策等の企画立案を行っていきます。

オ デジタル・プラットフォーム構築等によるグローバルな環境ビジネスにおける優位性の確立

データを基盤とするプラットフォームビジネスについては、データの質と量がその価値や競争優位性に直結し得ることから、環境ビジネスにおいても製造・輸送等のサプライチェーンの各段階で生まれる価値あるデータを最大限に活用するため、企業や業種の垣根を越えて国内の関係者がデータを連携し、流通させる仕組みを構築します。そして、Scope3算定ルールの共通化等に向けたモデル支援の他業界展開に加えて、事業者・投資家・金融機関のニーズ等も踏まえつつ、排出量情報プラットフォームの在り方を検討するとともに、EEGSの利用価値を向上するための方策や機能拡充等について検討を行います。

また、TNFDデータファシリティの立ち上げに向けた共同研究を進め、特に日本企業がこれを使ってTNFDの枠組みに沿った開示を通じたネイチャーポジティブ経営を進めるための試行、検証を進めるとともに、日本企業のサプライチェーンによる環境負荷の評価・開示のための技術的支援も進めます。さらに、国立環境研究所では、今後ますます加速するデータの大規模化、データ流通の活性化、データ駆動型研究の進展に伴い必要となる環境情報基盤整備を確立する。データから付加価値を創り出すための人材育成・ソフトウェア開発も行い、外部による環境研究・環境データ利用を支援・促進する。これらの取組により、環境データを学術利用に限らず、社会に幅広く流通させることで、国民の行動変容にまでつなげていきます。

カ 国際的な枠組みへの貢献・国際標準化(知的財産戦略)

我が国が強みを有する環境技術の活用・普及等のため、国際的な枠組みへの貢献や多国間・二国間協力等を通じて、環境課題に関する国際連携を推進します。

環境技術に関連する国際標準化や国際的なルール形成の推進のためには、諸外国との協調が不可欠であり、科学的知見やデータの共有や政策対話等を通じて相手国・組織に応じた戦略的な連携や協力を行うとともに、途上国を始めとする各国の環境関連の条約の実施に貢献します。また、第六次環境基本計画や環境研究・環境技術開発の推進戦略(2024年8月環境大臣決定)、新たな国際標準戦略(2025年6月知的財産戦略本部決定予定)に基づき、環境分野の新たな国際ルールづくりを我が国が主導できるよう、関係省庁と連携しながら国際標準化を推進します。

2 官民における監視・観測等の効果的な実施

監視・観測等については、個別法等に基づき、着実な実施を図ります。また、広域的・全球的な監視・観測等については、国際的な連携を図りながら実施します。このため、監視・観測等に係る科学技術の高度化に努めるとともに、実施体制の整備を行います。また、民間における調査・測定等の適正実施、信頼性向上のため、情報提供の充実や技術士(環境部門等)等の資格制度の活用等を進めます。

3 技術開発などに際しての環境配慮等

新しい技術の開発や利用に伴う環境への影響のおそれが予見される場合には、環境に及ぼす影響について、技術開発の段階から十分検討し、未然防止の観点から必要な配慮がなされるよう、適切な施策を実施します。また、科学的知見の充実に伴って、環境に対する新たなリスクが明らかになった場合には、科学的根拠が不十分または不確実な場合においても、その時点で利用可能な最良の科学的知見に基づいて、未然防止原則や予防的取組の観点から必要な配慮がなされるよう、適切な施策を実施します。