環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

1 多様な主体の参画

(1)マルチステークホルダーによる生物多様性主流化のための連携・行動変容への取組

我が国では、2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された「愛知目標」の達成に向け、産官学民の多様なステークホルダーからなる、「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」(事務局:環境省)を2011年9月に設置しました。

2021年11月にはUNDB-Jの後継組織として生物多様性の世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の達成や生物多様性国家戦略2023-2030の推進を目指し、産官学民の連携・協力による生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため、「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF)」を設立しました。

本会議では、企業や自治体等の行動変容を促す取組を行いました。具体的には、J-GBFを構成する団体の取組をまとめた「J-GBFネイチャーポジティブ行動計画」を策定するとともに、企業、自治体、団体等に向けて、ネイチャーポジティブの実現に向けた行動の第一歩として「ネイチャーポジティブ宣言」の発出の呼びかけを開始しました。発出していただいた宣言は、ネイチャーポジティブ宣言のポータルサイトで公表しています。また、ビジネスフォーラムや地域連携フォーラム、行動変容ワーキンググループといった会議を開催し生物多様性における知見の共有や、企業や国民の具体的な行動変容を促す取組について議論をしたほか、ビジネスマッチングイベントを行いました。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2024年3月末時点で47都道府県、168市区町村で生物多様性地域戦略が策定されています。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2024年3月時点で193自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国で57の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づき、2024年3月時点で16地域が地域連携保全活動計画を作成済みであり、22地域で同法に基づく地域連携保全活動支援センターを設置しています(図2-2-1、表2-2-1)。また、同法の更なる活用を図るため、地域連携保全活動支援センターへの各種情報提供、同センターの設置促進等を行いました。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、税制支援措置等を継続するとともに、非課税措置に係る申請時の留意事項等を追記した改訂版のナショナル・トラストの手引きの配布等を行いました。

また、利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得等、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とした地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年法律第85号。以下「地域自然資産法」という。)の運用を進めました。2024年3月時点で、地域自然資産法に基づく地域計画が沖縄県竹富町と新潟県妙高市で作成されており、両地域において同計画に基づく入域料の収受等の取組が進められています。

(3)生物多様性に関する広報・行動変容等の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2023年のテーマは「From Agreement to Action:Build Back Biodiversity」でした。国際生物多様性の日を迎えるに当たり、国連大学サステイナビリティ高等研究所、地球環境パートナーシッププラザ、日本自然保護協会と共催で、オンラインシンポジウム「国際生物多様性の日2023シンポジウム-「合意」を「実行」に。生物多様性を取り戻そう。-」を開催しました。冒頭に山田美樹環境副大臣(当時)が挨拶し、デイビッド・クーパー生物多様性条約事務局長代理からの基調講演を始め、国内外の知見を共有しました(写真2-2-1)。また、前項で紹介したJ-GBFの各種取組のほか、「こども霞が関見学デー」、「GTFグリーンチャレンジデー」など、様々なイベントの開催・出展や様々な活動とのタイアップによる広報活動等生物多様性に配慮した事業活動や消費活動の促進に向けた活動を進めています。

写真2-2-1 国際生物多様性の日2023シンポジウム-「合意」を「実行」に。生物多様性を取り戻そう。-山田美樹副大臣(当時)

2 ビジネスにおける生物多様性の主流化

(1)ネイチャーポジティブ経済への移行に向けた企業への支援

2021年2月に、英国財務省から生物多様性の経済学に関する報告書であるダスグプタレビューが公表され、経済活動における生物多様性への配慮の重要性がますます高まっています。

このような近年の経済界を取り巻く生物多様性に関する国際動向を踏まえ、ネイチャーポジティブの実現に資する経済社会構造への転換を促すため、関係省庁とともに、2024年3月に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定しました。2023年4月のG7環境・気候変動・エネルギー関係大臣会合において、議長国日本の主導でG7ネイチャーポジティブ経済アライアンス(G7ANPE)を設立し、情報開示に反映すべき要素や課題に関する各国意見の共有・発信や、経団連主催によるネイチャーポジティブに資する技術・ビジネスモデル等に関する国際ワークショップを行いました。

また、「生物多様性民間参画ガイドライン(第三版)」を公表するとともに、2020年5月に策定した「生物多様性民間参画事例集」及び「企業情報開示のグッドプラクティス集」の英語版も用いながら、2023年に開催されたG7サミット等で国際的に発信をしました。

経済界を中心に自発的な組織として設立された「経団連自然保護協議会」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」との連携・協力を継続しました。さらに、2020年11月には経団連と環境省で立ち上げた「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」について、日本企業の先進的な取組として2023年に開催されたG7サミット等で紹介しました。

また、ネイチャーポジティブに関するビジネス機会の創出を目指し、2023年3月と12月の2回にわたり、経団連自然保護協議会と協力してビジネスマッチングイベントを開催しました。

(2)自然関連情報開示とESG投融資等

民間レベルでの国際的な動きとしては、生物多様性・自然資本に関する情報開示を求める自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が情報開示のフレームワークを2023年9月に公表したほか、定量的なインパクト評価や目標設定の手法を定めるScience Based Targets for Nature(SBTs for Nature)、生物多様性に関する国際規格を検討するISO TC331等において、生物多様性を企業経営に組み込んでいく仕組みづくりが加速しています。こうした国際的イニシアティブやESG投融資等の動きを受け、環境省では個別の課題に対応するための関連する検討会やこれらを統合的に検討するネイチャーポジティブ経済研究会において検討を重ねたほか、2023年度には、事業者向けに気候関連財務情報開示及び自然関連財務情報開示に関して解説するワークショップを開催しました。本ワークショップでは、TNFD等の自然資本に関する情報開示に活用可能なツールの実践等を通し、企業の情報開示の実施・高度化を支援・促進しています。こうした民間企業の支援を通じてビジネスにおける生物多様性の主流化を推進しています。

(3)生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みの一例として、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、木材・木材製品については、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)(平成12年法律第100号)により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすために、証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等については、国が定める「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠することとしています。また、農業の環境負荷の低減につながる有機農業により生産された農作物等について、官公庁を始め国等の機関の食堂での使用に配慮するようグリーン購入法に基づく基本方針が見直されました。加えて、合法伐採木材等の利用を促進することを目的として、木材等を取り扱う事業者に合法性の確認を求める合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)(平成28年法律第48号)が2017年5月に施行されました。政府は、この法律の施行状況について検討を進め、2023年4月に成立した「クリーンウッド法の一部を改正する法律」(令和5年法律第22号)では、国内市場で最初に木材等の譲受け等をする木材関連事業者による合法性確認等の義務付けや、合法性の確認等の情報が消費者まで伝わるよう小売事業者を木材関連事業者に追加することなどを措置しました。

3 自然とのふれあいの推進

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトがスタートしました。本プロジェクトでは、美しい日本の国立公園の自然を守りつつ、そのブランド力を高め、国内外の誘客を促進することにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の「保護と利用の好循環」を実現するため、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を中心に、先行的、集中的な取組を進めてきました。現在は、先行公園の取組成果を踏まえ、全34国立公園への取組の展開を進めています。このような中で、これまでの取組実績に基づき、国立公園のブランディングを更に強化するため、2023年6月に国立公園のブランドプロミス(国立公園が来訪者・地域に約束すること)として、「感動的な自然風景」「サステナビリティへの共感」「自然と人々の物語を知るアクティビティ」「感動体験を支える施設とサービス」の4項目を定めました。また、2023年には、阿寒摩周国立公園や十和田八幡平国立公園等での廃屋撤去等の利用拠点の上質化に向けた取組が進められるとともに、阿蘇くじゅう国立公園において策定された「自然体験活動促進計画」及び「利用拠点整備改善計画」を、改正自然公園法(昭和32年法律第161号)に基づき初めて認定しました。加えて、2023年12月には三陸復興国立公園満喫プロジェクト推進協議会において、新たに三陸復興国立公園ステップアッププログラム2025を策定しました。

インバウンド需要が急速に回復する中、国立公園の美しい自然の中での感動体験を柱とした滞在型・高付加価値観光を推進することとし、2023年1月から国立公園の利用の高付加価値化の方向性と、国立公園ならではの感動体験を提供する宿泊施設を中心とした利用拠点の面的な魅力向上に取り組む先端モデル事業の進め方を検討し、「宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的魅力向上に向けた取組方針」(2023年6月公表)を策定しました。これに基づき、2023年8月に「国立公園における滞在体験の魅力向上のための先端モデル事業」の対象とする国立公園として、十和田八幡平国立公園(十和田湖地域)、中部山岳国立公園(南部地域)、大山隠岐国立公園(大山蒜山地域)、やんばる国立公園の4か所を選定しました。各公園において、自治体等と連携し、民間提案を取り入れて、国立公園の利用の高付加価値化に向けた基本構想の検討に取り組んでおり、2024年3月には、集中的に取り組む利用拠点の第一弾として十和田八幡平国立公園の休屋・休平地区を選定したところです。

また、2023年度は新たに8社と国立公園オフィシャルパートナーシップを締結し、既締結の継続企業と合わせてパートナー企業数は計137社となりました。そして、昨年度に引き続き、ビジターセンターや歩道等の整備、多言語解説やツアー・プログラムの充実、その質の確保・向上に向けた検討、ガイド人材等の育成支援、利用者負担による公園管理の仕組みの調査検討、国内外へのプロモーション等を行いました。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動や、サンゴ礁や干潟の生き物観察など、子供たちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員及びパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

国立公園の周遊促進を目的とした、アプリを用いた「日本の国立公園めぐりスタンプラリー」の運営や、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成を行いました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を国直轄事業とし、安全で快適な公園利用を図るため、ビジターセンター、園地、歩道、駐車場、情報拠点施設、公衆トイレ等の利用施設や自然生態系を維持回復・再生させるための施設の整備を進めるとともに、国立公園事業施設の長寿命化対策、多言語化対応の推進等に取り組みました。2023年度には、山陰海岸国立公園の鳥取砂丘フィールドセンター(2023年4月オープン)及び富士箱根伊豆国立公園の須走口インフォメーションセンター(2023年7月オープン)を新規整備しました。また、国立・国定公園及び長距離自然歩道等については、46都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。現在、長距離自然歩道の計画総延長は約2万8,000kmに及んでいます。

旧皇室苑地として広く親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、施設の改修、芝生・樹木の手入れ等を行いました。また、庭園としての質や施設の利便性を高めるため、新宿御苑において早朝開園を行うなど、取組を進めました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育の場となる森林・施設の整備等への支援策を講じました。国有林野においては、森林教室等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施するとともに、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」等の設定・活用を図り、国民参加の森林(もり)づくりを推進しました。また、「レクリエーションの森」の中でも特に優れた景観を有するなど、地域の観光資源として潜在能力の高い箇所として選定をした「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」において、重点的に観光資源の魅力の向上、外国人も含む旅行者に向けた情報発信等に取り組み、更なる活用を推進しました。

(4)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2022年度には、温泉掘削許可143件、増掘許可16件、動力装置許可95件、採取許可55件、濃度確認105件、浴用又は飲用許可1,743件が行われました。

環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については2024年3月末時点で79か所を指定しています。

2018年5月から現代のライフスタイルに合った温泉地の楽しみ方として「新・湯治」を推進するためのネットワークである「チーム新・湯治」を立ち上げ、2023年度は3回のセミナーを実施しました。2024年3月末時点で433団体が参加しています。

また、温泉地全体での療養効果を科学的に把握し、その結果を全国的な視点に立って発信する「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」について、「新・湯治」の効果の検証・発信を各温泉地における自主的な取組として継続していくためのモデル事業を実施しました。

(5)都市と農山漁村の交流

農泊の推進による農山漁村の活性化と所得向上を実現するため、農泊をビジネスとして実施するための体制整備や、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げるための専門家派遣等の取組、農家民宿や古民家等を活用した滞在施設等の整備の一体的な支援を行うとともに、農泊地域の情報発信など戦略的な国内外へのプロモーションを行いました。

また、農山漁村が有する教育的効果に着目し、農山漁村を教育の場として活用するため、関係府省が連携し、子供の農山漁村における体験等を推進するとともに、農山漁村を都市部の住民との交流の場等として活用する取組を支援しました。