環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第8節 生物多様性及び生態系サービスの把握

第8節 生物多様性及び生態系サービスの把握

1 自然環境データの整備・提供

(1)自然環境データの調査とモニタリング

我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査のほか、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化を把握しています。

自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した1/2万5,000現存植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。2020年度までに、全国の約94%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、タヌキ等の野生鳥獣の生息分布状況の調査を実施したほか、藻場の分布、鳥類の繁殖分布状況の調査成果を公表しました。

モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(磯、干潟、アマモ場、藻場、サンゴ礁等)、小島嶼(しょ)について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施し、その成果を公表しています。また、得られたデータは5年ごとに分析等を加え、取りまとめており、2019年度に3回目のとりまとめ報告書を公表しました。

インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集し、提供するシステム「いきものログ」により、2021年12月時点で約522万件の全国の生物多様性データが収集され、地方公共団体を始めとする様々な主体で活用されています。

2013年以降の噴火に伴い新たな陸地が誕生し、拡大を続けている小笠原諸島の西之島に、2019年9月に上陸し、鳥類、節足動物、潮間帯生物、植物、地質、火山活動等に関する総合学術調査を実施しました。しかし、2020年12月以降の火山活動により、生態系が維持されていた旧島の全てが溶岩若しくは火山灰に覆われ、西之島の生物相がリセットされた状態となりました。原生状態の生態系がどのように遷移していくのかを確認することができる世界に類のない科学的価値を有する西之島の適切な保全に向けて、2021年7月と9月にドローン等を用いて陸域と海域の現状を確認する調査を行いました。

(2)地球規模のデータ整備や研究等

地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化等を推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」の取組の一環として、AP-BON参加者の能力向上や参加者間の更なるネットワーク強化を目的に、オンラインセミナーを計5回開催し、アジア太平洋地域における生物多様性モニタリングの体制強化を推進しました。

研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「過去150年の都市環境における生物相変遷に関する研究-皇居を中心とした都心での収集標本の解析」、「極限環境の科学」等の調査研究を推進するとともに、約485万点の登録標本を保管し、標本情報についてインターネットで広く公開しました。また、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の活動を支援するとともに、我が国からのデータ提供拠点である独立行政法人国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供しました。

(3)生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)及び気候変動適応策(EbA)の推進

生態系を活用した気候変動への適応策(EbA)を促進するため、地域における取組事例の調査等を行い、EbAを現場で実施する際の基本的な考え方や踏まえるべき視点等を紹介する手引きの取りまとめを進めました。また、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)を推進するため、かつての氾濫原や湿地等の再生による流域全体での遊水機能等の強化に向けた「生態系機能ポテンシャルマップ」の作成方法の検討等を進めました。

2 放射線による野生動植物への影響の把握

福島第一原発の周辺地域での放射性物質による野生動植物への影響を把握するため、関係する研究機関等とも協力しながら、野生動植物の試料の採取、放射能濃度の測定、推定被ばく線量率による放射線影響の評価等を進めました。また、関連した調査を行っている他の研究機関や学識経験者と意見交換を行いました。

3 生物多様性及び生態系サービスの総合評価

生態系サービスを生み出す森林、土壌、生物資源等の自然資本を持続的に利用していくために、自然資本と生態系サービスの価値を適切に評価・可視化し、様々な主体の意思決定に反映させていくことが重要です。そのため、生物多様性の主流化に向けた経済的アプローチに関する情報収集や、生態系サービスの定量的評価に関する研究を実施するとともに、企業の生物多様性保全活動に関わる生態系サービスの価値評価・算定のための作業説明書(試行版)を2019年3月に公表しました。また、2021年3月に公表した「生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021(JBO3)」の結果をわかりやすく伝える広報資料を作成しました。