環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書>令和3年度 環境の保全に関する施策 令和3年度 循環型社会の形成に関する施策 令和3年度 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策>第1章 地球環境の保全>第1節 地球温暖化対策

令和3年度 環境の保全に関する施策
令和3年度 循環型社会の形成に関する施策
令和3年度 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策

第1章 地球環境の保全

第1節 地球温暖化対策

1 研究の推進、監視・観測体制の強化による科学的知見の充実

気候変動問題の解決には、最新の科学的知見に基づいて対策を実施することが必要不可欠です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の各種報告書が提供する科学的知見は、世界全体の気候変動対策に大きく貢献しています。この活動を拠出金等により支援するとともに、国内の科学者の研究活動や、関連する会合への参加を支援することにより、我が国の科学的知見をIPCCが策定する各種報告書に反映させ、国内の議論に活用していきます。また、イベントの実施や啓発資料の作成を通じて、気候変動に関する科学的知見についての国内の理解を深めていきます。IPCCは、現在第6次評価サイクルにあり、2018年10月には「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC 特別報告書(1.5℃特別報告書)」、2019年8月に「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書(土地関係特別報告書)」、同年9月に「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書(海洋・雪氷圏特別報告書)」が公表されました。さらに、2019年5月のIPCC第49回総会は日本の京都市で開催され、パリ協定の実施に不可欠な「IPCC温室効果ガス排出・吸収量算定ガイドライン(2006)の2019年改良(2019年方法論報告書)」が公表され、衛星データの有用性が示されました。今後はこれらの特別報告書等の内容も踏まえ、2021年から2022年にかけて予定されている、第6次評価報告書の公表へ向けた執筆活動が引き続き進められる予定です。我が国の研究を始め、最新の科学的知見が各種報告書に適切に反映されるよう、執筆者を支援し、IPCCの活動に貢献していきます。

温室効果ガス観測技術衛星1号機(GOSAT)や2018年10月に打ち上げた2号機(GOSAT-2)による継続的な全球の温室効果ガス濃度の観測を行います。また、パリ協定に基づき世界各国が温室効果ガス排出量を報告する際に衛星観測データを利活用できるよう、GOSATシリーズの観測データからの推計結果と、インベントリからの推定結果の比較・評価を行い、信頼性向上を図るとともに、各国を技術的に支援していきます。3号機に当たる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)は2023年度打ち上げを目指して開発し、継続的な観測体制の維持を図ります。また、環境省はGOSATの事業主体として、GOSATがスペースデブリとして滞留することがないように引き続き検討を行い、必要な措置を行います。急速に温暖化が進む北極域の環境変動等に関する観測研究を行うための研究プラットフォームとして、砕氷機能を有し、北極海海氷域の観測が可能な北極域研究船の建造に着手します。さらに、環境研究総合推進費等を用いた他の衛星や航空機・船舶・地上観測等による監視・観測、予測、影響評価、調査研究の推進等により気候変動に係る科学的知見を充実させます。

2 脱炭素社会の実現に向けた政府全体での取組の推進

2020年10月26日の第203回国会において、菅義偉内閣総理大臣は2050年までにカーボンニュートラル、すなわち脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。同月30日に開催された政府の地球温暖化対策推進本部においては、菅義偉内閣総理大臣から全閣僚に対して、「成長戦略会議」や「国と地方で検討する新たな場」等において議論を重ね、「地球温暖化対策計画」、「エネルギー基本計画」、「パリ協定に基づく長期戦略」の見直しを加速するよう指示がありました。同年12月25日には、成長戦略会議において「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が議論され、国民・生活者目線での2050年脱炭素社会実現に向けたロードマップ等の検討を行う「国・地方脱炭素実現会議」も開催されました。こうした議論を踏まえ、2021年11月に予定されている国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26。以下、国連気候変動枠組条約締約国会議を「COP」という。)までに、2030年に向けた我が国の取組について国連に通報することを目指します。

また、革新的環境イノベーション戦略(2020年1月統合イノベーション戦略推進会議決定)に基づき、カーボンニュートラルの実現に向けて革新的技術の確立と社会実装を目指していきます。

3 エネルギー起源CO2の排出削減対策

産業・民生・運輸・エネルギー転換の各部門においてCO2排出量を抑制するため、低炭素社会実行計画の着実な実施と評価・検証による産業界における自主的取組の推進や、パリ協定と整合した目標設定(SBT:Science Based Targets)等の企業における中長期的な削減目標や行動計画の策定支援、省エネルギー性能の高い技術・設備・機器の開発・実証・導入促進、殺菌力が強い深紫外線を発するLEDの高度化・他技術との組合せによる衛生環境向上・省CO2に資する技術の開発・実証、トップランナー制度等による家電・自動車等のエネルギー消費効率の向上、家庭・ビル・工場のエネルギーマネジメントシステム(HEMS/BEMS/FEMS)の活用や省エネルギー診断等による徹底的なエネルギー管理の実施、ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ゼブ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及や既存の住宅・建築物の改修による省エネルギー化、革新的な建設機械(電動、水素、バイオマス等)の導入拡大に向けた普及・支援策の促進、地球温暖化対策に資するあらゆる「賢い選択」を促す「COOL CHOICE」の推進、次世代自動車の普及・燃費改善、道路の整備に伴って、いわゆる誘発・転換交通が発生する可能性があることを認識しつつ、CO2の排出抑制に資する環状道路等幹線道路ネットワークの強化、ETC2.0等を活用した道路を賢く使う取組の推進等や高度道路交通システム(ITS)の推進、信号機の改良、信号灯器のLED化の推進等による交通安全施設の整備等の道路交通流対策、公共交通機関の利用促進、グリーンスローモビリティ(時速20km未満で公道を走ることが可能な4人乗り以上の電動パブリックモビリティ)の推進、連結トラック等のトラック輸送の高効率化に資する車両等の導入や過疎地域等における無人航空機を活用した物流実用化等による社会課題と物流の脱炭素化・低炭素化の同時解決、鉄軌道の省エネルギー化、船舶の革新的省エネルギー技術等の実証事業等による船舶の省エネルギー化・低炭素化の促進、水素等の次世代エネルギーの大量輸入や貯蔵、利活用等を図るとともに、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化等を通じて温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルポートの形成、CO2排出物基準の導入による環境性能に優れた航空機材の普及促進、航空交通システムの高度化の促進、エコエアポートの推進、バイオジェット燃料を含む持続可能な航空燃料の普及等による航空の省エネルギー化・低炭素化の促進、モーダルシフト、共同輸配送、貨客混載等の取組支援による環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築促進、再生可能エネルギーの最大限の導入、火力発電の高効率化や安全性が確認された原子力発電の活用等による電力分野の低炭素化等の対策・施策を実施します。また、国際海運及び国際航空分野については、それぞれ国際海事機関(IMO)及び国際民間航空機関(ICAO)で地球温暖化対策が進められているところ、引き続きその取組を主導します。

4 エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスの排出削減対策

非エネルギー起源CO2、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等の排出削減については、農地等の適切な管理、廃棄物処理やノンフロン製品の普及等の個別施策を推進します。フロン類については、モントリオール議定書キガリ改正、改正されたフロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号。以下「フロン排出抑制法」という。)の施行(2020年4月)も踏まえ、上流から下流までのライフサイクルにわたる包括的な対策により、排出抑制を推進します。

5 森林等の吸収源対策、バイオマス等の活用

森林等の吸収源対策として、間伐や再造林等の森林の整備・保全、農地等の適切な管理、都市緑化等を推進します。また、これらの対策を着実に実施するため、バイオマス等の活用による農山漁村の活性化と一体的に推進します。

吸収源対策や木材・木質バイオマスの利用拡大を推進するため、森林・林業の担い手の育成や生産基盤の整備など、総合的な取組を実施します。

藻場・干潟等の海洋生態系が蓄積する炭素(ブルーカーボン)を活用した新たな吸収源対策の検討を行うとともに、それらの生態系の維持・拡大に向けた取組を推進します。

6 国際的な地球温暖化対策への貢献

COP24において採択されたパリ協定の実施指針に基づき、国際的な地球温暖化対策を着実に進めます。また、「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2018」等に基づき、日本の優れた技術・ノウハウを活用しつつ、途上国と協働してイノベーションを創出する「Co-innovation(コ・イノベーション)」の考え方の下、途上国支援を着実に実施していきます。また、再エネが豊富な第三国と協力し、再エネ由来水素の製造、島嶼(しょ)国等への輸送・利活用を促進していき、途上国の脱炭素社会への移行を支援していきます。さらに、土地利用変化による温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の約2割を占め、その排出を削減することが地球温暖化対策を進める上で重要な課題となっていることから、特に途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)を積極的に推進し、森林分野における排出の削減及び吸収の確保に貢献します。適応分野においても各国の適応活動の促進のため、アジア太平洋適応情報プラットフォームにおいて科学的知見や政策ツール、人材育成等を実施し、世界適応ネットワーク(GAN)、アジア太平洋適応ネットワーク(APAN)でその活動を広報していきます。

7 横断的施策

海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)に基づき、促進区域の指定等に向けて取り組み、海洋に関する施策との調和を図りつつ、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用を促進します。

地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)に定める温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度、排出抑制等指針について一層の充実を図っていきます。

持続可能な脱炭素社会の構築や適応方策を推進するための学校や社会における環境教育、脱炭素社会に向けたライフスタイルの転換、国・地域、企業、家庭等での「見える化」の推進を図っていきます。

我が国でのより一層の取組の推進を促す観点から、公的機関の率先的取組、中小企業等の温室効果ガスの排出削減を促すJ-クレジット制度の推進、カーボンフットプリントマークなど環境ラベルの活用、環境金融の活用、民間資金を低炭素投資に活用する方策の検討、エネルギー消費情報等のオープン化、グリーンなデジタル技術の実証・活用等の促進を図っていきます。

脱炭素社会構築を支えていくため、排出量・吸収量の算定手法の改善、サプライチェーン全体での排出量削減取組の推進、削減貢献量や排出削減量の算定手法に関する検討、省エネルギー・省CO2効果の高い家電やOA機器等の普及を促進するための支援策の実施、地球温暖化対策技術の開発の推進、調査研究の推進、国、地方公共団体、NGO・NPO、研究者・技術者・専門家等の人材育成・活用、評価・見直しシステムの体制整備、道路の交通流対策等を図っていきます。

さらに、第五次環境基本計画(2018年4月閣議決定)において掲げられた地域循環共生圏の考え方の具現化に向けた重要な第一歩として、再生可能エネルギーと動く蓄電池としてのEV(電気自動車)等を組み合わせながら、各地域に敷設した自営線で地産エネルギーを直接供給することなどにより、地域の再生可能エネルギー自給率を最大化させるとともに、防災性も兼ね備えた地域づくりを目指します。この取組を通じて、地域が主体となり、地産エネルギーを最大限活用する事例を数多く創出していくことで、脱炭素社会への移行を実現させていきます。

8 公的機関における取組

(1)政府実行計画

政府は、政府全体の温室効果ガス排出量の削減目標を達成すべく取組を加速するとともに、地球温暖化対策計画の見直しと歩調を合わせ、政府実行計画の見直しを行う予定です。

(2)地方公共団体実行計画

地方公共団体は、地方公共団体実行計画を策定し、これに基づく自らの率先的な取組により、区域の事業者・住民の模範となるべく、実効的・継続的な温室効果ガス排出の削減に努めることが必要とされています。

こうした取組を促進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施に資するマニュアル類を作成するほか、優良な取組事例の収集・共有、地方公共団体職員向けの研修や地域レベルの温室効果ガス排出量インベントリ・推計ツール等の整備等を行います。