環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第1章>第2節 気候変動の影響への適応の推進

第2節 気候変動の影響への適応の推進

1 気候変動の影響等に関する科学的知見の集積

気候変動の影響に対処するため、温室効果ガスの排出の抑制等を行う緩和だけではなく、既に現れている影響や中長期的に避けられない影響を回避・軽減する適応を進めることが求められています。この適応を適切に実施していくためには、科学的な知見に基づいて取組を進めていくことが重要となります。

我が国の気候変動影響に関する科学的知見については、2015年3月に中央環境審議会により取りまとめられた意見具申「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と課題について」において、気温や水温の上昇、降水日数の減少等に伴い、農作物の収量の変化や品質の低下、漁獲量の変化、動植物の分布域の変化やサンゴの白化、桜の開花の早期化等が、現時点において既に現れていることとして示されています。また、将来は、農作物の品質の一層の低下、多くの種の絶滅、渇水の深刻化、水害・土砂災害を起こし得る大雨の増加、高潮・高波リスクの増大、夏季の熱波の頻度の増加等のおそれがあると示されています。

この意見具申から5年経過した2020年12月には、新たに最新の知見を取りまとめ、気候変動適応法(平成30年法律第50号)に基づく「気候変動影響評価報告書」を取りまとめ、公表しました。同報告書では、2015年の意見具申より約2.5倍の文献を引用し、知見が充実したほか、昨今の台風等の激甚災害の実態を踏まえ、分野・項目ごとの個別の影響が同時に発生することによる複合的な影響や、ある影響が分野・項目を超えて更に他の影響を誘発することによる影響の連鎖・相互作用を扱う「複合的な災害影響(自然災害・沿岸域分野)・分野間の影響の連鎖(分野横断)」についても記載しました。

2016年には、適応に関する情報基盤である「気候変動適応情報プラットフォーム」が構築されました。本プラットフォームは、国立研究開発法人国立環境研究所が運営しており、気温、降水量、米の収量、熱中症の救急搬送人員など様々な気候変動影響に関する予測情報や、地方公共団体の適応に関する計画や具体的な取組事例、民間事業者の適応ビジネス情報等についても紹介することで、国、地方公共団体、民間事業者等の適応の取組を促進しています。

2 国における適応の取組の推進

気候変動適応に関する取組については、2015年の中央環境審議会意見具申「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と課題について」で取りまとめられた科学的知見に基づき、同年11月に、政府として気候変動の影響への適応計画を閣議決定しました。気候変動の影響への適応計画の閣議決定以降、各府省庁により各分野の適応策が実施されるとともに、同計画のフォローアップを行ってきました。

その後、適応策の更なる充実・強化を図るため、国、地方公共団体、事業者、国民が適応策の推進のため担うべき役割を明確化し、政府による気候変動適応計画の策定、環境大臣による気候変動影響評価の実施、国立環境研究所を中核とした情報基盤の整備、気候変動適応広域協議会を通じた地域の取組促進等の措置を講ずる事項等を盛り込んだ気候変動適応法案を2018年2月に閣議決定し、同年6月に成立、同年12月に施行されました。

2018年11月には、気候変動適応法に基づく「気候変動適応計画」を閣議決定しました。本計画では、適応の主流化、科学的知見の充実、地域での適応の推進、関係行政機関の連携体制等の基本戦略が定められているとともに、政府が推進する気候変動適応に関する分野ごとの施策が取りまとめられています。また、同年12月には、環境大臣を議長とする「気候変動適応推進会議」が開催され、関係府省庁が連携して適応策を推進していくことを確認しました。2020年9月に開催した第3回会合では、各府省庁における気候変動を踏まえた防災の取組について情報共有を行うとともに、2021年3月に開催した第4回会合では、気候変動適応計画のフォローアップ改定のスケジュール等について、情報共有を行いました。

一般的に気候変動の影響に脆(ぜい)弱である開発途上国において、アジア太平洋地域を中心に適応に関する二国間協力を行い、各国のニーズに応じた気候変動の影響評価や適応計画の策定等の支援を行いました。

さらに、アジア太平洋地域の途上国が科学的知見に基づき気候変動適応に関する計画を策定し、実施できるよう、国立環境研究所と連携し、2019年6月に軽井沢で開催した、G20関係閣僚会合において立ち上げた国際的な適応に関する情報基盤であるアジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)のコンテンツの充実を図りました。

また、気候変動への適応策の一つとして重要な熱中症対策については、関係省庁が緊密に連携して取り組んでおり、2013年からは7月を熱中症予防強化月間と定め、普及啓発を集中的に実施しました。2018年~2020年の夏季は記録的な酷暑のため、熱中症予防強化月間を8月末まで延長し、地方自治体等における熱中症対策の強化を呼び掛けました。環境省では、ウェブサイト等を活用した暑さ指数(WBGT)の情報提供、「熱中症環境保健マニュアル」や「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」等を通じた普及啓発、2019年度からは「熱中症予防対策ガイダンス策定事業」において様々な熱中症対策の実証事業を実施しました。また、2020年夏には環境省と気象庁が連携して、国民に暑さへの気づきを促し、効果的な熱中症予防行動につなげるための新たな情報発信「熱中症警戒アラート」を関東甲信地方で先行的に実施しました。

3 地域等における適応の取組の推進

気候変動の影響は地域により異なることから、地域の実情に応じて適応の取組を進めることが重要です。地方公共団体の科学的知見に基づく適応策の立案・実施を支援するため、気候変動適応情報プラットフォームにおいて、気候変動影響の将来予測や各主体による適応の優良事例を共有するとともに、地方公共団体の気候変動適応法に基づく地域気候変動適応計画の策定支援を目的として、地域気候変動適応計画策定マニュアルを2018年度に作成・公表しました。また、国、地方公共団体、地域の研究機関等が参画する「地域適応コンソーシアム事業」は、2019年度まで3か年にわたり、地域における具体的な気候変動影響に関する調査や適応策の検討を行い、成果を公表しました。2019年度より開始した、住民参加型の「国民参加による気候変動情報収集・分析」事業を、対象地域を拡大して実施しました。さらに、2020年度より、気候変動適応法に基づく気候変動適応広域協議会(全国7ブロック(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州・沖縄))に分科会を設置し、関係者の連携が必要な気候変動適応課題等について検討する「気候変動適応における広域アクションプラン策定事業」を開始しました。この事業では分科会において2022年度末までにアクションプランを策定し、各地域ブロックにおける構成員の連携による適応策の実施や、地域気候変動適応計画への組込みを目指しています。そのほか、今後の地球温暖化に伴い、強い台風や大雨の増加が予測されており、災害の更なる激甚化が懸念されていますが、将来の台風等の評価に関する科学的知見が不十分であることから、将来の気候変動下での台風等の影響評価に関して、より詳細な科学的知見を創出する「気候変動による災害激甚化に係る適応の強化事業」を2020年度より開始しました。

気候変動による影響は様々な事業活動を行う事業者にも及ぶ可能性があります。事業者は、気候変動が事業に及ぼすリスクやその対応について理解を深め、事業活動の内容に即した気候変動適応を推進することが重要であるとともに、他者の適応を促進する製品やサービスを展開する取組である適応ビジネスの展開も期待されます。環境省では、海外の先進事例も参照しつつ、事業者の自主的な気候変動適応を促進するためにガイドを策定するとともに、セミナー等の機会も通じて、事業者に的確な気候変動適応の促進を行いました。また、事業者の適応ビジネスを促進するため、国内での気候変動適応情報プラットフォームや国際的な情報基盤であるAP-PLATも活用しつつ、事業者の有する気候変動適応に関連する技術・製品・サービス等の優良事例を発掘し、国内外に積極的に情報提供しています。