環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第8節 生物多様性及び生態系サービスの把握

第8節 生物多様性及び生態系サービスの把握

1 自然環境データの整備・提供

(1)自然環境データの調査とモニタリング

我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査のほか、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化を把握しています。

自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した1/2万5,000現存植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。2019年度までに、全国の約89%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、クマ等の野生鳥獣の生息分布状況の調査を実施しました。

自然環境保全基礎調査における巨樹・巨木林調査では、2000年度の第6回フォローアップ調査終了後からは市民参加型調査に移行し、調査結果を「巨樹・巨木林データベース」ウェブサイトで公開しています。同ウェブサイトでは、ドローンを活用した「空から見た巨樹の動画」や「おすすめの観察コースガイド」、「各地の観察会情報」等のコンテンツを通じて巨樹・巨木林の魅力に触れられるほか、調査結果の閲覧や報告等を手軽に行うことができます。

モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(磯、干潟、アマモ場、藻場、サンゴ礁等)、小島嶼(しょ)について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施し、その成果を公表しています。また、得られたデータは5年ごとに分析等を加え、取りまとめており、2019年度に3回目のとりまとめ報告書を公表しました。

インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集し、提供するシステム「いきものログ」により、2020年度1月時点で480万件の全国の生物多様性データが収集され、地方公共団体を始めとする様々な主体で活用されています。

2013年以降の噴火に伴って新たな陸地が誕生し、拡大を続けている小笠原諸島の西之島に、2019年9月に上陸し、鳥類、昆虫、海洋生物、植物、地質、火山活動等に関する総合学術調査を実施しました。

(2)地球規模のデータ整備や研究等

地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化等を推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」の取組の一環として、2019年6月にマレーシアのクアラルンプールにおいてAP-BONワークショップを開催しました。また、同年11月にオーストラリアのキャンベラで開催された第12回アジア・オセアニア地球観測グループ(AOGEO)シンポジウムにおいて、AP-BON分科会を開催し、アジア太平洋地域における生物多様性モニタリングを推進しました。さらに、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする「東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)」を推進するため、同地域の行政担当官や若手研究者等を対象に、ワシントン条約附属書掲載種の識別研修を2020年2月にフィリピンのマニラで実施しました。

研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「ミャンマーを中心とした東南アジア生物相のインベントリー-日本列島の南方系生物のルーツを探る-」、「日本の生物多様性ホットスポットの成因と実態の時空的解明」等の調査研究を推進するとともに、約469万点の登録標本を保管し、標本情報についてインターネットで広く公開しました。また、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の活動を支援するとともに、日本からのデータ提供拠点である独立行政法人国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供しました。

(3)国立公園における自然環境インベントリ整理

再生可能エネルギーの導入促進が求められている今日、国立公園内におけるこれら取組の効率的な導入の支援を主な目的として、2016年度から全国に34か所ある国立公園における地形・地質、動植物を始めとした景観要素に関する既存資料を網羅的に収集し、インベントリとして整理しています。2020年3月には、これらのデータを活用して自然環境の概況や法制度等の様々な条件を可視化し、環境アセスメントデータベースにおいて公開しました。

(4)生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

生態系を活用した気候変動への適応策(EbA)を促進するための手引きの取りまとめに向け、国内外のガイドラインや事例の収集等を行い、基本的な考え方や踏まえるべき視点等を整理しました。

2 生物多様性及び生態系サービスの総合評価

生態系サービスを生み出す森林、土壌、生物資源等の自然資本を持続的に利用していくために、自然資本と生態系サービスの価値を適切に評価・可視化し、様々な主体の意思決定に反映させていくことが重要です。そのため、生物多様性の主流化に向けた経済的アプローチに関する情報収集や、生態系サービスの定量的評価に関する研究を実施するとともに、企業の生物多様性保全活動に関わる生態系サービスの価値評価・算定のための作業説明書(試行版)を2019年3月に公表しました。また、生物多様性及び生態系サービスの現状について総合的な評価を行うため、内容の検討や必要な情報収集を行いました。