環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第7節 個人で取り組む適応

第7節 個人で取り組む適応

1 暑熱・熱中症対策

熱中症は、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称で、めまい、筋肉痛、頭痛、吐き気、倦怠(けんたい)感、意識障害等の様々な症状があります。高温環境下にいた時の体調不良は全て熱中症の可能性があります。死に至る可能性のある病態ですが、予防法を知って、それを個人、地域及び社会全体で実践することで、防ぐことができます。熱中症は、気温や湿度が高く風が弱い日、特に急に暑くなった日には体温調節がうまくいかず、発生しやすくなります。高齢者や幼児、体調の悪い人や持病のある人等は、熱中症を発症するリスクが高いため、特に注意する必要があります。

熱中症を予防するためには、こまめな水分補給(汗をかいた時には塩分も補給)、涼しい服装や日傘・帽子の活用のほか、暑い時は無理をせず、日陰等を利用してこまめに休憩することなどが重要です。

環境省では、熱中症の病態や予防法、発症時の対応等をまとめた「熱中症環境保健マニュアル2018」、暑い時期に開催されるイベントの主催者や施設の管理者に向けた「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2019」など、熱中症対策に関する情報をまとめ、広く配布することにより、熱中症の予防のための啓発普及に取り組んでいます。環境省熱中症予防情報サイトでは、このような熱中症対策に関する資料や暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度))など、熱中症予防に役立つ情報を公表しています。また、熱中症関係省庁連絡会議の事務局として、関係省庁と連携し、熱中症予防強化月間を設定し、取組を呼びかけています。

日本の年平均気温は、100年当たり約1.2℃の割合で上昇しています。日本の大都市では、ヒートアイランド現象の影響が加わり、年平均気温は100年当たり約2~3℃の割合で上昇しています。

日射を遮ることは、暑さ対策としてとても効果的です。屋外では、日射を遮ることで体感温度が3~7℃程度低下します。家の窓の外によしずを立てかけたり、緑のカーテンを育てたり、外出の時には日傘を差したりすることで、暑さを和らげることができます。

コラム:暑さ指数(WBGT)

環境省では、熱中症予防に関する情報を広く提供するため、熱中症に関する情報を集約した「熱中症予防情報サイト」を運営しています。このウェブサイトでは、熱中症の基礎知識や熱中症の対処方法(応急処置)、熱中症対策の普及啓発に活用できる資料等を掲載し、様々な情報提供を行っています。

ここで提供している情報の一つに、「暑さ指数(WBGT)」があります。暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperture、湿球黒球温度)とは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。暑さ指数は、人体と外気との熱のやり取り(熱収支)に着目した指標であり、人体の熱収支に与える影響の大きい[1]湿度、[2]日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、[3]気温の三つを取り入れた指標です。

暑さ指数は、労働環境や運動環境の指針として有効であると認められ、ISO等で国際的に規格化されています。日本スポーツ協会では「熱中症予防運動指針」、日本生気象学会では「日常生活に関する指針」を公表しており、労働環境については世界的にはISO7243、国内ではJIS Z8504「人間工学─WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価─暑熱環境」として規格化されています。

夏場の厳しい暑さへの対応に当たっては、こうした情報も活用しながら、熱中症を未然に防ぐことが重要です。

熱中症予防情報サイトTOP画面

事例:涼を分かち合い、熱中症を防ぐ

環境省では、オフィスや家庭での冷房時に室温28℃でも快適に過ごすことができる工夫「クールビズ」から、さらに一歩踏み込み、エアコンの使い方を見直し、涼を分かち合う「クールシェア」を推進しています。クールシェアでは、家庭や地域で楽しみながら節電に取り組むことができます。環境省では、クールシェアに賛同する企業・団体、個人が設置し、一般の方々が気軽に集まって涼むことのできる場所をクールシェアスポットとし、オンライン上のマップ(クールシェアマップ)として公開することを推進しています。

また、埼玉県では、熱中症対策の一環として、6月から9月までの間、県内の公共施設のほか県内企業等の協力を得て外出時の一時休憩所の設置や、熱中症についての情報発信拠点である「まちのクールオアシス」の設置を行っています。金融機関・郵便局、スーパー・コンビニエンスストア等、小売り・商業施設等、薬局・ドラッグストア、医療機関、介護施設、事業所など幅広い業種の企業など約7,600施設に協力をいただいています。さらに埼玉県では、暑さにより体調が悪くなった方が来訪した場合の対応マニュアルを作成し、「まちのクールオアシス」の協力施設に提供しています。

クールシェアマップ、「まちのクールオアシス」協力施設の目印ステッカー

事例:長年培った熱中症対策の知見と“身体を芯から冷やす”新しい熱中症対策(大塚製薬株式会社)

大塚製薬株式会社は、「汗の飲料」をコンセプトに、1980年にポカリスエットを発売して以来、発汗によって失われた水分・電解質(イオン)補給に関する研究を継続し、様々なシーンでの有用性について科学的根拠を蓄積してきました。1991年に、日本体育協会(現:日本スポーツ協会)が設置した「スポーツ活動における熱中症事故対策に関する研究班」に協力を開始するなど、運動時の熱中症対策をはじめ、様々な生活シーンでの水分・電解質(イオン)補給の重要性について啓発活動を展開することで、生活者への熱中症の認知と理解の向上に取り組んできました。

同社では、熱中症対策の知見やノウハウを生かした活動として、社員が現場に出向いて行う熱中症セミナーを25年以上続けており、スポーツ実施者や指導者だけでなく、暑熱環境下で働く方々、高齢者にも熱中症対策の重要性を知る機会を広く提供しています。また、全国中学校体育大会、全国高等学校総合体育大会、国民体育大会等のスポーツ大会での支援を通じて、積極的な水分・電解質(イオン)補給を促進しています。さらに、近年では、各都道府県と連携協定を締結し、自治体と協働で熱中症対策セミナーを実施したり、ポスター・冊子等のツールを用いた情報提供など、官民協働での熱中症対策に取り組んでいます。

2018年には、これまでの熱中症研究で蓄積したノウハウをもとに、「深部体温(体の内部の温度)」に着目した「ポカリスエットアイススラリー」を商品化しました。アイススラリーは、細かい氷の粒子が液体に分散した流動性のある氷で、通常の氷に比べ結晶が小さく冷却効果が高いことから、効果的に深部体温を下げることができる特性が確認されています。同社では、常温保存が可能な液体を凍らせてスラリー状にする独自の技術によって「飲める氷」を実現し、適切な電解質濃度で失った水分を素早く補給しながら、身体を芯から冷やすという熱中症対策の新たな選択肢を提案しています。

地球温暖化や超高齢化社会による熱中症リスクが高まりつつある今、同社は、製薬企業として蓄積した科学的根拠と新しい視点を持って、熱中症の更なる減少を目指しています。

出前講座の様子
ポカリスエット「アイススラリー」

2 災害への備え

近年、2017年の「平成29年7月九州北部豪雨」、2018年の「平成30年7月豪雨」をはじめとして、毎年のように全国各地で水害・土砂災害が頻発し、甚大な被害が発生しています。我が国では、大雨の発生頻度が増加傾向にあり、今後、地球温暖化の進行により、大雨のリスクは更に高まることが予測されており、気候変動により、施設の能力を上回る外力(災害の原因となる豪雨、高潮等の自然現象)による水害が頻発する懸念が高まっています。

水害・土砂災害への対策では、施設整備等のハード対策に加え、住民への情報の提供、情報伝達等の訓練、避難、応急活動、事業継続等の備え、被害からの早期復旧のための事前検討等のソフト対策も組み合わせて総合的に取り組むことが重要です。ソフト対策においては、台風や豪雨等の気象情報、ハザードマップ及び避難経路を確認し、気象災害に備え身を守る準備をすることも適応の取組と言えます。

事例:ゲリラ雷雨防衛隊(株式会社ウェザーニューズ)

我が国の1970年代後半からの観測データによれば、過去30年程度の間で、1時間当たり50ミリ以上の短時間強雨の年間発生回数は増加傾向にあり、今後も豪雨の頻度や降水量の増加が懸念されています。

株式会社ウェザーニューズでは、このような近年の突発的な雷雨の増加を踏まえ、こうした雷雨による被害を減らすべく、2008年に「ゲリラ雷雨防衛隊」を発足しました。これは、コミュニティの登録者による雨雲の報告の共有と、同社によるその報告の解析を組み合わせることで、全国で突発的な雷雨が発生する可能性のある地域を地図上で知らせるものです。

その仕組みは、まず、スマートフォンアプリ「ウェザーニュースタッチ」の専用コミュニティ(ゲリラ雷雨防衛隊)に登録している人たちが、雷雲に発達しそうな怪しい雲を、ゲリラ雷雨防衛隊の本部であるウェザーニューズに報告します。報告を受けた同社は、その内容をAIを取り入れた独自の画像判定技術を用いて解析し、独自に開発した「WITHレーダー」の観測データと合わせて雲の発生・発達状況を把握します。そして、突発的な雷雨発生のおそれがある場合は、登録者に30分前までに知らせるというもので、登録者が事前に情報を得ることにより被害を軽減することを目指すものです。過去の実績では、約10万人の隊員の報告によって捕捉率90%を実現し、登録者に59分前までにお知らせしています。近年はこのようにAI技術を積極的に取り入れることで、西日本豪雨のような極端気象についてもより正確に予測することが可能になってきています。

スマートフォンアプリによるお知らせ、ゲリラ雷雨防衛隊による予測の流れ

3 モニタリング活動への参加

2012年10月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」では、新たに科学的基盤の強化に関する基本戦略が加わり、生物多様性に関する情報を継続して把握することの重要性、行政機関・研究機関・市民等の様々な主体が把握している生物多様性情報の相互利用、共有化の促進の必要性が述べられています。

これを受け、環境省では、我が国の生物多様性情報を総合的に管理することを目指して、一般市民をはじめとした多様な主体から、生物多様性情報をインターネット上で収集し、それらを提供するためのシステム「いきものログ」の運用を2013年10月から開始しています。

「いきものログ」では、自然環境保全基礎調査やモニタリングサイト1000など、環境省自然環境局生物多様性センターが実施した調査結果のデータが登録されているほか、環境省をはじめとする国の機関・都道府県・市区町村・研究機関・専門家・市民等が実施した各種調査の結果をそれぞれ報告し、広く共有することができます。報告されたデータはデータベースに一元的に管理されており、ウェブサイト上での検索・閲覧や分布図の表示、CSV等の形式でのダウンロードが可能です。なお、データの登録は、インターネットに接続されたパソコンからだけでなく、「いきものログ」専用アプリケーションをスマートフォンやタブレットにあらかじめダウンロードすることで、インターネット環境のない野外でも使用することが可能です(図2-7-1、図2-7-2)。

図2-7-1 「いきものログ」ウェブサイトトップページ
図2-7-2 ニホンジカの検索結果の分布図表示例(10kmメッシュ)

様々な団体や個人が別々に管理している生物多様性情報の共有化及び情報提供の促進は、より正確かつ広範囲にわたる生物多様性情報や生態系の経年変化、気候変動の影響の把握につながることから、今後も、このような取組を推進していきます。