環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策>第4章 水環境、土壌環境、地盤環境、海洋環境、大気環境の保全に関する取組>第1節 健全な水循環の維持又は回復

第4章 水環境、土壌環境、地盤環境、海洋環境、大気環境の保全に関する取組

第1節 健全な水循環の維持又は回復

健全な水循環の維持又は回復に当たっては、河川の流入先の沿岸域も含め流域全体を総合的に捉え、それぞれの地域に応じて、各主体がより一層の連携を図りつつ、次のような流域に共通する取組を進めるとともに、地域の特性に応じた課題を取り込みつつ、取組を展開していきます。

1 流域における取組

流域全体を総合的に捉え、効率的かつ持続的な水利用等を今後とも推進していくため、水の再利用等による効率的利用、水利用の合理化、雨水の利用等を進めるとともに、必要に応じて、未活用水の有効活用、環境用水の導入、ダムの弾力的管理を図り、水質や水生生物等の保全等の観点から、流量変動も考慮しつつ、流量確保のための様々な施策を行います。

流域全体を通じて、貯留浸透・かん養能力の保全・向上を図り、湧水の保全・復活に取り組むほか、降雨時等も含め、地下水を含む流域全体の水循環や栄養塩類等の物質循環の把握を進め、地域の特性を踏まえた適切な管理方策の検討を行います。その際、地下水については、共有資源としての性格にも留意し、地下水流域の観点に立って検討を行います。さらに、流水は土砂の移動にも役割を果たしていることから、流域の源頭部から海岸までの総合的な土砂管理の観点から、関係機関と連携し、土砂移動の調査研究や下流への土砂還元対策に取り組みます。

より一層の生物多様性の確保を図るため、水辺地を含む流域の生態系を視野に入れた水辺地の保全・再生に取り組み、多様な水生生物の種や個体群等の保全を図ります。さらに、多種多様な化学物質による水環境への影響を低減する手法として、生物を用いた水環境の評価・管理(改善)手法について、引き続き検討を行います。

気温の上昇や短時間強雨の頻度の増加等の気候変動により、水温上昇、水質や生態系の変化等の水環境への影響が予想されることから、これらの観測・監視や影響評価等の調査研究により知見を蓄積し、適応策について検討を行います。

地震等災害時等においても、国民生活上最低限求められる水循環を確保できるよう、災害に強くエネルギー効率の高い適切な規模の水処理システムや水利用システムの構築や災害時の水環境管理の方策の確立など様々な施策を推進します。

これらの施策を推進していくためにも、水環境に精通した人材育成が欠かせないことから、独立行政法人国立環境研究所の政策支援機能や地方の研究機関、大学等との連携・調整機能の強化を図ります。また、水域の物質循環機構、生物多様性や生息・再生産機構の解明、モニタリングデータの解析・評価など良好な水環境の形成に資する調査研究や科学技術の進歩を活かした技術開発を推進します。

2 森林、農村等における取組

森林は水源かん養機能、生物多様性保全機能など水環境の保全に資する多様な公益的機能を有しており、それらの機能の維持、向上のため、水源地対策の一環として、保安林等の法制度の活用や治山施設の整備により、森林の保全を推進します。また、流域全体を通じて森林所有者等による森林の適正な整備を推進するとともに、水源かん養機能等の発揮を図るための適正な整備を必要とするものについては、公的主体による森林の整備を推進します。さらに、渓畔林など水辺森林の保全・管理に際して水環境の保全により一層配慮するとともに、森林の公益的機能に着目した基金を地域の特性を踏まえて活用することやボランティア活動など流域の住民や事業者が参加した森林の保全・整備の取組を推進します。なお、森林整備に当たっては、地域の特性に応じた伐期の多様化や複層状態の森林の整備など、多様な森林整備を通じて保水能力の高い森林の育成に努めます。

農村・都市郊外部においては、川の流れの保全や回復、流域の貯留浸透・かん養能力の保全・向上、面源からの負荷削減のため、里地里山の保全、緑地の保全、緑化、適正な施肥の実施、家畜排せつ物の適正な管理を推進します。水源かん養機能等の農業の多面的機能は、農業の持続的な営みを通じて発揮されることから、水田や畑地の保全を推進し、耕作放棄地の発生を防止します。また、地域住民を含め多様な主体の参画を得て、水田や水路、ため池など農地周りの水環境の保全活動を進めるとともに、環境との調和に配慮しつつ基盤整備を推進します。

3 水環境に親しむ基盤づくり

都市部においては、水循環の変化による問題が現れやすく、河川流量の減少、親水性の低下、ヒートアイランド現象等が依然として問題となっており、貯留浸透・かん養機能の回復など、可能な限り自然の水循環の恩恵を増加させる方向で関連施策の展開を図る必要があることから、地下水かん養機能の増進や都市における貴重な貯留・かん養能力を持つ空間である緑地の保全と緑化を推進するとともに、都市内の水路等の創出・保全を図ります。

地下水かん養に資する雨水浸透施設の整備、流出抑制型下水道の整備、透水性舗装の促進等を進めます。さらに、雨水や下水処理水等の生活用水としての利用等を進めるとともに、貯水池の弾力的な運用や下水の高度処理水等の河川還元等による流量の確保等の取組を進めます。河川整備に際しては、多自然川づくりを基本として自然に配慮することなどにより水辺の自然環境を改善し、生物の良好な生息・生育・繁殖環境の保全・創出に努めます。このほか、親水性の向上、ヒートアイランド対策等への活用が有効な地域では、都市内河川、下水の高度処理水等の利用や地中熱、下水熱の利用を環境影響に配慮しつつ進めます。