環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第1章>第2節 気候変動対策に係る国際的枠組みの下での取組

第2節 気候変動対策に係る国際的枠組みの下での取組

1 気候変動枠組条約に基づく取組

(1)気候変動枠組条約及び京都議定書について

気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。

この条約の下で1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、締約国会議を「COP」という。なお、本章におけるCOPは、気候変動枠組条約締約国会議を指す。)で採択された京都議定書は、先進国に対して法的拘束力のある温室効果ガス削減の数値目標を設定し、また柔軟性措置としての京都メカニズム等について定めています。2008年から2012年までの第一約束期間においては、日本は基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)加盟国全体では同8%等の削減目標が課されました。これに対し、同期間の日本の温室効果ガスの総排出量は5か年平均で12億7,800万トンCO2であり、森林等吸収源や海外から調達した京都メカニズムクレジットを償却することで京都議定書の削減目標(基準年比6%減)を達成しました。

2012年に行われた京都議定書第8回締約国会議(CMP8。以下、京都議定書締約国会議を「CMP」という。)においては、2013年から2020年までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、近年の新興国の排出増加等により、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1にすぎないことなどから我が国は参加せず、全ての主要排出国が参加する新たな枠組みの構築を目指して国際交渉が進められてきました(図1-2-1)。

図1-2-1 世界のエネルギー起源二酸化炭素の国別排出量(2015年)
(2)パリ協定について
ア パリ協定採択までの経緯

2011年のCOP17及びCMP7では、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することとし、そのための交渉を行う場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設置することに合意しました。

2013年のCOP19及びCMP9では、全ての国に対し、自国が決定する貢献案(INDC)のための国内準備を開始しCOP21に十分先立ちINDCを示すことを招請することなどが決定されました。

2014年のCOP20及びCMP10では、INDCに含まれるべき情報等が決定されました。

2015年、フランス・パリにおいて、COP21及びCMP11が行われ、全ての国が参加する温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されました。また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務付けられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、5年ごとに世界全体としての実施状況の検討(グローバルストックテイク)を行うこと、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。そのほか、二国間オフセット・クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応に関する世界全体の目標設定及び各国の適応計画作成過程と行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

パリ協定の採択を受けて、ADPは作業を終了し、パリ協定の実施に向けた検討を行うための新たな作業部会である「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」を設置することなども合意されました。

イ パリ協定の発効

2016年4月にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。5月には我が国でG7伊勢志摩サミットが開催され、同協定の年内発効という目標が首脳宣言に盛り込まれました。9月には米中両国が協定を同時締結したほか、国連主催のパリ協定早期発効促進イベントが開催されるなど、早期発効に向けた国際社会の機運が大きく高まりました。そして10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定が発効しました。なお、我が国は11月8日に締結しました。

ウ 米国のパリ協定脱退表明、実施方針に関する交渉等

2016年11月、モロッコ・マラケシュにおいて、COP22、CMP12及びパリ協定第1回締約国会合第1部(CMA1-1。以下、パリ協定締約国会議を「CMA」という。)が行われました。COP22では、パリ協定の実施指針等に関する交渉の進め方について、引き続き全ての国が参加する形で行うこと、実施指針を2018年までに策定することなどが決定されました。

2017年6月、米国トランプ大統領はパリ協定から脱退する意向を表明しました。これを受け、我が国は、「米国のトランプ政権がパリ協定からの脱退を表明したことは残念である」、「パリ協定の締約国と同協定の着実な実施を進めることを通じ、この問題に積極的に取り組んでいく」との声明を発出しました。

2017年11月、ドイツ・ボンにおいて、COP23、CMP13、CMA1第2部(CMA1-2)が行われ、フィジーが議長国を務めました。COP23は米国がパリ協定からの脱退を表明してから初めてのCOPとなりましたが、米国も交渉に参加しました。COP23では、[1]パリ協定の実施指針に関する交渉の進展、[2]2018年の促進的対話のデザインの完成、[3]グローバルな気候行動の推進の3点が焦点になりました。実施指針の策定については、技術的な作業が進展し、指針のアウトラインや具体的な要素がまとめられました。促進的対話については、議長国フィジーの考え方である「タラノア」(包摂性があり、参加型で、透明な対話のプロセス)の精神を反映し、タラノア対話という名称になりました。このデザインとして、2018年1月から12月のCOP24にかけて、温室効果ガスの排出状況、目指すべき目標及びその達成方法の三つの論点について、各国やその他幅広い主体で対話を行うことになりました。グローバルな気候行動の推進については、日本の優れた技術・ノウハウを活用しつつ、途上国と協働してイノベーションを創出する「Co-innovation(コ・イノベーション)」をキーワードとして我が国のビジョンと具体的な取組を取りまとめた「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2017」を2017年10月に発表し、これをCOP23会場に設置したジャパン・パビリオンにおけるイベント等を活用して、世界に発信しました(写真1-2-1)。このほか、英国及びカナダが、現存する従来の石炭火力発電所の段階的廃止を目指し、各国政府、自治体、企業と連携して取り組むための連合をCOP23期間中に設立しました。

写真1-2-1 中川環境大臣による閣僚級ステートメント

2 モントリオール議定書に基づく取組

2016年10月、ルワンダ・キガリにおいて、モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催され、HFCの生産及び消費量の段階的削減を求める議定書の改正が採択されました。本改正を踏まえ、中央環境審議会地球環境部会フロン類等対策小委員会・産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会フロン類等対策WG合同会議を開催し、2017年11月に「モントリオール議定書キガリ改正を踏まえた今後のHFC規制のあり方について」を公表しました。さらに、2018年3月には、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律の一部を改正する法律案」を第196回国会に提出しました。

3 短寿命気候汚染物質に関する取組

ブラックカーボン等の短寿命気候汚染物質については、その削減が短期的な気候変動防止と大気汚染防止の双方に効果があるとして国際的に注目されており、2012年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質(SLCP)削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、2012年4月に我が国も参加を表明しました。2017年11月にはCOP23の場でCCAC閣僚級会合が開催され、廃棄物分野や農業分野を始めとしたSLCP対策の重要性を再確認したボンコミュニケが採択されました。2017年9月にはCCACに対して、ブラックカーボンの排出インベントリ作成や排出削減等に関する国内の取組をまとめたレポートを提出しました。

4 開発途上国への支援の取組

途上国においては、大気汚染や水質汚濁等の深刻な環境汚染問題を抱えているため、地球温暖化対策と環境改善を同時に実現することのできるコベネフィット・アプローチが有効です。我が国においては、2007年12月の中国及びインドネシア両国の大臣との間で合意した内容に基づき、本アプローチに係る具体的なプロジェクトの発掘・形成や共同研究等を進めてきました。2015年7月には日インドネシア間で、2016年4月には日中間で、それぞれの協力の継続に係る文書に署名し、引き続き協力を実施しています。また、アジア地域におけるコベネフィット・アプローチの推進・普及を目的とした「アジア・コベネフィット・パートナーシップ」の活動を支援するとともに、定期会合やウェブサイト等を通じて、本アプローチの普及啓発に取り組みました。

途上国が「一足飛び(リープフロッグ)」に低炭素社会へ移行できるよう、JCMを通じて、都市間連携を活用し、日本の自治体が持つ経験を基に、制度・ノウハウ等を含め優れた低炭素技術を途上国に大規模に展開するための支援や、アジア開発銀行(ADB)等と連携したプロジェクトへの資金支援を実施しました。

加えて、気候変動による影響に脆(ぜい)弱である島嶼(しょ)国に対し、気候変動への適応・エネルギー・水・廃棄物分野への対応に関する支援や、研究者によるネットワーク設立に向けた支援など、様々な環境問題を支援する取組を行っています。

5 JCMの推進に関する取組

環境性能に優れた先進的な低炭素技術・製品の多くは、一般的に導入コストが高く、途上国への普及に困難が伴うという課題があります。このため、途上国への優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するJCMを構築・実施してきました。こうした取組を通じ、途上国の負担を下げながら、優れた低炭素技術の普及を促進しました。2017年1月末までに、モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピンの17か国とJCMを構築しています。

これまでにクレジットの獲得を目指す112件の環境省JCM資金支援事業のほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証事業を実施しました。これらの事業のうち、4か国(インドネシア、モンゴル、ベトナム、パラオ)における10件のJCMプロジェクトから合計で10,464トンCO2のJCMクレジットが発行されました。また、7か国(インドネシア、パラオ、モンゴル、ベトナム、パラオ、バングラデシュ、タイ)で25件がJCMプロジェクトとして登録され、15か国(インドネシア、ベトナム、モンゴル、タイ、パラオ、モルディブ、ケニア、バングラデシュ、カンボジア、エチオピア、ラオス、コスタリカ、メキシコ、サウジアラビア、チリ)で50件のJCM方法論が承認されました。

6 気候変動枠組条約の究極的な目標の達成に資する科学的知見の収集等

世界の政策決定者に対し、正確でバランスの取れた科学的情報を提供し、気候変動枠組条約の活動を支援してきたIPCCは、現在第6次評価サイクルにあり、第6次評価報告書(2021年から2022年にかけて公表予定)に加え、1.5度特別報告書、海洋・雪氷圏特別報告書、土地関係特別報告書及び温室効果ガスインベントリに関する方法論の改良報告書(2018年から2019年にかけて公表予定)の策定を行っています。これら報告書は、パリ協定において、その実施に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられています。我が国は、第6次評価サイクルの各種報告書作成プロセスに向けた議論への参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行っています。さらに、我が国の提案により公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリ・タスクフォース(TFI)の技術支援ユニットの活動を支援し、各国の適切なインベントリ作成に貢献しています。第6次評価サイクルにおいても、我が国はTFIの共同議長を引き続き務めています。

本条約の目標を達成するための我が国の取組の一つとして、環境研究総合推進費による「SLCPの環境影響評価と削減パスの探索による気候変動対策の推進(S-12)」及び「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究(S-14)」等の研究を2017年度にも引き続き実施し、科学的知見の収集・解析等を行いました。これらの研究により明らかとなった知見は、IPCC等にインプットされることになります。