環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第5節 地域循環共生圏の創出に向けた地域間の交流・連携

第5節 地域循環共生圏の創出に向けた地域間の交流・連携

1 都市と農山漁村の交流・連携

地方圏(三大都市圏以外の地域)では、出生率低下や若者の転出による人口減少と高齢化が同時に生じており、結果的に地方圏の方が国全体で見たときよりも人口減少・高齢化がより急速に進んでいます。そして、人口規模が小さい地域ほど、地方公共団体の財政力が脆(ぜい)弱な傾向があります。

こうした中、各地方の様々な主体同士が連携し、その地域の人材、資金、自然資源等を有効に活用しあって相乗効果を得ることで地域の活性化を図っていくことが重要です。これは、都市圏と地方圏の間でも同様で、都市圏には、地方圏に比して人材と資金が集まりやすい一方で、食料、水、木材といった物質やエネルギーの多くを地方圏を含む地域外から得ています。都市圏の人々が、地方圏からの農林水産品や自然の恵み(生態系サービス)等によって自らが支えられているということに気付き、人材や資金を地方圏に向けるよう発想することが必要です。このため、都市圏と地方圏が持続可能なまちづくりを行うためには、それらの地域の間で、自然のつながりや経済のつながり、更には人的なつながりといったつながり(ネットワーク)を強化し、地域の活性化につなげていくことが必要です。

事例:民間資金を活用したファンドによる再生可能エネルギーの普及拡大(東京都)

東京都は、2014年度に再生可能エネルギー発電事業に特化した「官民連携再生可能エネルギーファンド」を組成しました。東京都と民間投資家が出資し、ファンド運営事業者が、出資された資金を都内の再生可能エネルギー発電事業や東京電力ホールディングス株式会社、東北電力株式会社管内の再生可能エネルギー発電事業に対して投融資するという、民主導の仕組みになっています。

このファンドは、電源立地地域として東京の様々な都市活動を支えている東北地方等において再生可能エネルギー発電事業を推進することにより、地域振興に貢献することを投資方針の一つに位置付けています。ファンドから投融資を受け、整備された地域の再生可能エネルギー発電所を通じて、電力の低炭素化のみならず、未利用地の有効活用や固定資産税等の支払い等により地域経済への貢献につながっていくことが期待されています。

SGET千葉ニュータウンメガソーラー発電所/SGET三条バイオマス発電所
嬬恋ソーラーウェイ

事例:エネルギー供給による東京都世田谷区と群馬県川場村の地域間連携

東京都世田谷区と群馬県川場村の交流は、1981年に世田谷区が区民の第二のふるさとづくりを目的として川場村と「区民健康村相互協力に関する協定」を締結したことでスタートしました。それ以来、小学生の移動教室や区民と村民の交流拠点となる宿泊施設の整備、区民・村民共有の財産である川場村の森林を中心とした環境保全活動等を実施してきました。

こうした関係性の下、川場村から地域の森林資源を活用した木質バイオマス発電所の電力を世田谷区民に供給したいとの申し出があり、世田谷区と川場村は、2016年2月に「川場村における自然エネルギー活用による発電事業に関する連携・協力協定」を締結しました。両自治体で協議会を立ち上げて検討を行い、川場村産電気を世田谷区民が購入する仕組みを構築しました。大規模な地産エネルギーの開発が難しい住宅都市である世田谷区では、この仕組みを他自治体に横展開するべく取組を進めています。

~川場村産の電気を世田谷区民が購入する仕組み~

事例:なごや循環型野菜おかえりやさいプロジェクト(名古屋市)

名古屋市では、市民、事業者、行政、大学が連携して、2008年から「おかえりやさいプロジェクト」を実施しています。このプロジェクトは、市内のスーパーマーケット、ホテル、学校給食等から発生する生ごみ約1,300トンを堆肥にリサイクルし、その堆肥を使って愛知県内や近隣の農家(約12ha)が育てたブロッコリー等の野菜を地域ブランド「おかえりやさい」として、市内のスーパーマーケット、ホテル、商店街で販売等するほか、学校給食で提供する「循環」の取組です。食品廃棄物を資源として地域で循環させることで廃棄物が削減され、輸送に係るフードマイレージが小さくなり、野菜の栽培に生ごみ堆肥を使うことで、化学肥料や農薬の使用を減らし、地域への環境負荷も少なくなっています。

おかえりやさいを育てている畑/スーパーでの販売

市内の学校給食では、おかえりやさいを使用した献立を年2回提供し、献立表にマスコット「おかえりぼーや」のマークや取組内容を記載しています。また、おかえりやさいプロジェクトは、この循環の取組を消費者に「見える化」するため、おかえりやさいを巡る見学ツアーや市民講座が開催したり、「おかえりやさいの歌」を作るなど市民への普及啓発に積極的に取り組んでいます。

2 流域圏の連携

我が国は海に囲まれた島国であり、急峻(しゅん)な山岳地帯から流れ出す河川に沿って里地里山や都市が発達し、文化や産業等が形づくられてきました。これらの森・里・川・海のつながりの中で、物質等が循環することにより、多くの生態系サービスが育まれています。

例えば、私たちの日々の暮らしに密接に関わっている生態系サービスに「水」があります。雨は断続的にしか降りませんが、河川には水が絶えることなく流れています。森林では雨水が土壌に浸透し、その水が土壌の中をゆっくり移動して少しずつ河川へと流れ出すことで、河川の水量が安定します。このような森林の有する水源かん養機能の貨幣価値は、年間約30兆円と試算されています。そして、その水を育む森林は、人が生きるために必要な基盤として、古来より同じ流域内の人々によって守られ、その森林の価値を分かち合うことで、安全で豊かな暮らしが維持されてきました。また、「食料」、「資材」等の生態系サービスを守り供給してきた地方と、そのサービスを享受してきた都会による地域間の連携という観点も重要です。地方と都市との連携により、資源、資金及び人が循環することで、互いに必要としているものを補完し、支え合うことができます。例えば、地方にとっては遊休農地の活用や地域資源の販路の開拓、都市にとっては自然とのふれあいの場や良質の資源の確保につながるなど、それぞれがメリットのある関係を築くことが可能です。

森・里・川・海から得られる生態系サービスを適切に利用し、将来にわたって恵みを享受し続けるためには、その地域だけの視点で取り組むのではなく、生態系サービスの受け手となっている地域も含めた広域的な連携が必要です。本項では、地域間で連携し、支え合いながら、生態系サービスを適切に利用するための取組を進めている事例を紹介します。

事例:人の生活・水環境・漁業資源が連携する里川のシステム「長良川システム」(岐阜県)

岐阜県では、「清流」を守り育て、緑豊かな「清流の国ぎふ」づくりを県民協働で推進するため、2012年度からは「清流の国ぎふ森林・環境税」を導入し、自然環境の保全・再生を県民全体で支えていくための様々な取組を進めています。

具体的には、流域清掃活動として、環境保全団体等と関係機関が連携して河川清掃ネットワークを構築し、長良川を始めとする3流域について、上流域から県外の下流域に至る流域協働による河川清掃活動を展開しています。また、上流域と下流域の交流事業として、地域のNPO等の指導の下、森・里・川・海それぞれのフィールドにおける自然体験や環境保全活動を通じて、森・里・川・海のつながりや環境保全への理解を深める親子ツアーを開催しています。さらに、市町村や各種団体が行う地域の自然環境の課題解決に向けた創意工夫のある取組の支援を行っており、間伐や植樹等の森林環境整備やそのための人づくり、里山の保全活動、木育や自然体験活動を通じた環境教育など、地域の自然環境を守り、地域の資源を活用し、地域の魅力を伝える取組が各主体によって推進されています。

特に長良川では、流域約86万人の暮らしの中で、清流が保たれ、その清流で鮎が育ち、清流と鮎は地域の経済や歴史文化と深く結びついています。この人の生活、水環境、漁業資源が相互に連関した里川のシステムである「長良川システム」が「清流長良川の鮎〜里川における人と鮎のつながり〜」として、2015年12月、世界農業遺産に認定されました。この「長良川システム」を次世代へつなげていくため、流域の関係者が一体となり、河川由来のアユの資源確保につながる稚アユ生産や放流事業を推進するとともに、地域の農林水産物・加工品、伝統工芸品や観光資源を活用し、「清流長良川の恵みの逸品」を始めとするブランドづくりや観光誘客に取り組んでいます。また、「長良川システム」を世界に発信するとともに、開発途上地域における内水面漁業の発展に貢献するため、「岐阜県内水面漁業研修センター」を開設し、研修生の受入れや研究員の派遣にも取り組んでいます。2018年6月には、川や魚に親しむ体験学習や国内外への情報発信の拠点となる「清流長良川あゆパーク」がオープンします。世界農業遺産認定を契機として、「長良川システム」を活かした地域の活性化や国際貢献に積極的に取り組んでいます。

長良川システムの概要/「清流長良川の鮎」ロゴマーク

事例:「紀の川じるし」で流域の産業を元気に(奈良県川上村、吉野川・紀の川流域14市町村)

奈良県川上村を源流とする吉野川は、水道水や農業用水として奈良盆地に恵みを届けながら、和歌山県に入り「紀の川」と名前を変え、紀伊水道の海へと注ぐ一級河川です。この川は、古くから上流域の林業、中流域の農業、河口域の漁業と質の高い農林水産業や流域の景観・風土を育んでいます。

同村は「水源地の村」として、1996年に「川上宣言」を全国に発信し、最源流部の原生林約740haを「水源地の森」として購入して、森林の保全活動等を行ってきました。また、吉野川・紀の川流域の14市町村と連携した事業を実施し、流域の住民と共に水源地の村づくりを進めてきました。

さらに、吉野川・紀の川の流域をひとつの「商店街」に見立て、川の流れがもたらす地域の「恵み」をブランド化し、地域を元気にして、水源の森を守り、流域の環境を守る意識を広めるため、2015年に林業、農業、漁業のキーパーソンとともに「紀の川じるし」というブランドを立ち上げました。川による森・里(大地)・海のつながりを「見える化」し、それぞれの場所や人のおもいと気質が詰まった産品を消費者に手に取ってもらうことで、流域ぐるみで各地域の課題解決を目指しています。また「水源地の森」や流域の自然、地域産業の「恵み」を教材とした「紀の川じるしのESD」にも取り組んでいます。

「紀の川じるし」ポスター

事例:流域のつながりを取り戻す(熊本県球磨川)

熊本県は2018年3月に、県南部を流れる球磨川にある県営荒瀬ダムの撤去工事を完了しました。本格的なコンクリートダムの撤去としては、国内初の事例となります。

荒瀬ダムは1955年に発電用ダムとして建設され、企業や家庭への主要な電力供給源の一つとして大きな役割を果たしてきましたが、県内の発電量に占める割合が低下し、その役目を終えたとして、2012年から県による撤去工事が行われてきました。

県は生物多様性の保全・回復に資する重要なモデルケースとして荒瀬ダム撤去に取り組んでいくため、2012年にダム周辺地域を生物多様性保全回復モデル地域に指定し、河川形状、水質、底質、動植物のモニタリング調査や学識経験者等による科学的な評価・検証を行っています。

これまでの調査結果によれば、ダムの上流域と下流域のつながりや瀬・淵など多様な河川環境が回復するとともに、清流に生息する底生動物や魚類の種類が増加し、アユなどの餌となる藻類が順調に生育する傾向が見られています。

また、九州大学の調査によれば、環境省の「日本の重要湿地500」に選定されている球磨川河口において、ダム撤去に伴う干潟の底質環境の変化に応じた生物相の変遷が見られるなど、沿岸環境にも好影響を与えていると考えられています。

荒瀬ダム撤去前/荒瀬ダム撤去後

コラム:「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト

私たちの暮らしは、自然の恵み(生態系サービス)によって支えられています。きれいな空気、豊かな水、美味しい食べ物や資材を始め、防災・減災機能、生活文化やレクリエーションなど、その種類は数えきれません。こうした自然を象徴するのが「森」「里」「川」「海」です。本来、森里川海は互いにつながり、影響しあって恵みを生み出しています。しかし、行き過ぎた開発や利用・管理の不足等によって、そのつながりが絶たれたり、それぞれの質が低下しています。また、気候変動や人口減少・高齢化といった問題が森里川海とそのつながりの荒廃に拍車をかけ、私たちの暮らしにも影響が表れ始めています。

環境省では、2014年から「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトと銘打って、国民全体で「森里川海を豊かに保ち、その恵みを引き出すこと」や「一人一人が、森里川海の恵みを支える社会をつくること」を目指して、多様なステークホルダーと連携して、様々な取組を実施しています。

「つなげよう、支えよう森里川海」という名には、「森里川海を保全し、それぞれをつなげる」という意味が込められていますが、森里川海だけではなく、それらに関わる「人」もつなげていくことが大切です。このプロジェクトを通じて、国民一人一人が自然の恵み(生態系サービス)を意識して自分ゴト化し、暮らしを通じて「地域循環共生圏」を支えるライフスタイルへの転換を目指しています。

プロジェクトシンボルマーク