環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第6章>第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

1 グリーン・イノベーションの推進

(1)環境研究・技術開発の実施体制の整備

ア 研究開発の総合的推進

 科学技術基本計画に基づき、持続可能な社会の構築に資する観点及び環境と経済の統合的向上に資する観点から、我が国の環境問題への対応及び国際社会への貢献に資する研究開発を推進します。主な施策例は表6-3-1のとおりです。


表6-3-1 研究開発の総合的推進に関する施策の例

 また、「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」(平成22年6月中央環境審議会答申)の取組状況について、平成26年11月に総括フォローアップ結果として公表し、平成27年夏頃をめどに今後の研究・開発の在り方について検討を進めます。

 表6-3-1 研究開発の総合的推進に関する施策の例

イ 環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進

(ア)国立研究開発法人国立環境研究所

 国立研究開発法人国立環境研究所では、環境大臣が定めた第3期中期目標(平成23年度~平成27年度)と第3期中期計画に基づき、組織的に集中して研究展開を図る課題対応型研究など、環境研究の中核的機関として国内外の関係機関とも連携しつつ環境研究を推進します。さらに、東日本大震災からの復旧・復興に貢献するため、災害と環境に関する研究を行います。また、適切な環境情報の提供を進めます。

(イ)国立水俣病総合研究センター

 国立水俣病総合研究センターでは、国の直轄研究機関としての使命を達成するため平成27年度に策定した「中期計画2015」の4つの重点分野について、引き続き研究及び業務を積極的に推進します。特に、地元医療機関との共同研究による脳磁計(MEG)・磁気共鳴画像診断装置(MRI)を活用した臨床研究、妊婦・胎児のメチル水銀のばく露評価に関する研究、国内外諸機関との共同による環境中の水銀観測及び水俣病発生地域の再生・振興に関する調査・研究、水俣病の治療向上に関する研究を進めます。

 また、水銀に関する水俣条約締結を踏まえ、新しい水銀分析技術を開発する等、開発途上国に対する技術移転を促進します。水俣病に関する情報収集機能を持つ水俣病情報センターについては、歴史的資料等保有機関として適切な情報収集及び情報提供を実施します。

ウ 各研究開発主体による研究の振興等

 文部科学省においては、先進環境材料分野、植物科学分野、環境情報分野、北極気候変動分野において大学等のネットワークを構築し、組織横断的な教育・研究活動や施設・設備の共同利用、産学連携プラットフォームの構築等を引き続き推進していきます。大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が実施する、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を横断的に取り入れた地球環境問題の解決に資する研究プロジェクトや科学研究費助成事業による研究助成など、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を行います。また、戦略的創造研究推進事業等により、環境に関する基礎研究を推進します。

 地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。これらの地方環境関係試験研究機関における試験研究の充実強化を図るため、地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するほか、環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進、国と地方環境関係試験研究機関との緊密な連携の確保を図ります。

(2)環境研究・技術開発の推進

 「環境研究総合推進費」では、平成27年度から戦略研究プロジェクト「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究」を開始します。

 また、地球温暖化の防止に関する研究の中で、各府省が中長期的視点から計画的かつ着実に関係研究機関において実施すべき研究を、「地球環境保全試験研究費」により効果的に進めます。

 総務省では、国立研究開発法人情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境観測技術として、人工衛星から地球の降水状態を観測するGPM搭載二周波降水レーダ、同じく人工衛星から地球の雲の状態を観測する雲レーダ、ライダーによる風速や温室効果ガスの高精度観測技術、突発的局所災害の観測及び予測のために必要な次世代ドップラーレーダ技術、大気微量物質等を計測する高周波センシング技術、天候等に左右されずに被災状況把握を可能とするレーダを使用した高精度地表面可視化技術の研究開発等を引き続き実施します。さらに、情報通信ネットワーク設備の大容量化に伴って増大する電力需要を抑制するため、光の属性を極限まで利用するフォトニックネットワーク技術による低消費電力光ネットワークノード技術等、極限光ネットワークシステム技術の研究開発を引き続き推進します。

 農林水産省では、国産バイオ燃料の利用促進を図るため、バイオエタノールの生産コストを大幅に削減する技術開発を進めるとともに、農林水産分野における温室効果ガスの排出削減技術・吸収源機能向上技術の開発及び影響評価に基づく地球温暖化の進行に適応した生産安定技術の開発について推進します。さらに、これらの研究開発に必要な生物遺伝資源の収集・保存や特性評価等を推進します。

 東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた被災地における営農の早期再開のため、高濃度汚染地域における農地土壌除染技術体系の構築・実証、高濃度汚染農地土壌の処分技術の開発、農作物への放射性物質吸収抑制技術の開発、汚染地域の農地から放出される放射性セシウム動態予測技術の開発を行います。さらに、消費者に安全な木材製品を供給するため、木材製品、作業環境などに係る放射性物質の調査・分析を行うとともに木材の安全確保のため、効率的な放射性物質の除去・低減のための技術の検証・開発を行います。

 経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料や高機能タンパク質等の高付加価値物質を生産する高度モノづくり技術の開発等を引き続き実施します。また、バイオテクノロジーの適切な産業利用のために、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)の適切な施行や、海外の遺伝資源の円滑な利用を促進するため関係者との協議を行う等、事業環境の整備を引き続き実施します。

 国土交通省では、地球温暖化対策にも配慮しつつ地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策を検討できるシミュレーション技術の運用や、地球温暖化対策に資する都市緑化等によるCO2の吸収量算定手法の開発等を引き続き実施します。下水道革新的技術実証事業(B-DASH)による下水汚泥有効利用等の新技術の開発と普及を積極的に進めます。鉄道の更なる省エネ化を図るため、節電、省エネ効果が期待される蓄電池電車等の技術開発を推進します。海運からのCO2の排出削減に向け、船舶からのCO2排出規制に関する国際的枠組み作りと民間事業者等が行う先進的な研究開発の支援を一体的に推進し、国際競争力を強化しつつ、CO2排出の大幅な削減対策を実施します。また、船舶の環境負荷低減技術の普及を目指し、国立研究開発法人海上技術安全研究所を通じて、省エネデバイス等の実海域における運航性能を設計段階で評価できる手法の開発・研究を行います。港湾空港技術研究所では、国内外に広く適用可能なブルーカーボン(海洋によって隔離される炭素)の計測手法を確立することを目的に、大気と海水間のガス交換速度や海水と底生系(底生動植物、堆積物)間の炭素フロー等を定量的に計測するための沿岸域における現地調査や実験を含む研究を推進しています。

 さらに、3Rに配慮した製品の長寿命化やリサイクルが簡単な製品の設計・製造技術等に資する研究開発として、「元素戦略プロジェクト」、「革新的構造材料を用いた新構造システム建築物研究開発」、「希少金属等高効率回収システム開発」及び「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」等の事業を実施していきます。

(3)環境研究・技術開発の効果的な推進方策

 CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業により、引き続き早期に実用化が必要かつ可能な再生可能エネルギー・未利用エネルギー・省エネルギー等のCO2排出削減技術の開発、主要なステークホルダーの参画を得ながら優良技術を社会に組み込むための実証研究、再生可能エネルギーの導入加速に当たって指摘されている自然環境及び生活環境への悪影響の克服に関する技術開発等を強力に推進し、その普及を図ります。さらに、二酸化炭素回収・貯留(以下「CCS」という。)技術の導入に向けて、回収されたCO2を船舶(シャトルシップ)で海上輸送し、海底下に圧入・貯留するシステムの検討等を行います。

 文部科学省では、東日本大震災の被災地の復興と我が国のエネルギー問題の克服に貢献するため、[1]福島県への革新的エネルギー技術研究開発拠点の形成、[2]被災地の大学等研究機関の強みをいかしたクリーンエネルギー技術の研究開発を推進していきます。

 また、先端的低炭素化技術開発事業では、抜本的な温室効果ガスの削減を実践するため、従来技術の延長線上にない新たな科学的・技術的知見に基づいた革新的技術の研究開発を、引き続き幅広く公募によりシーズを発掘し、競争的環境下で推進していきます。

 経済産業省では、省エネルギー、再生可能エネルギー、クリーンコールテクノロジー及びCCS等の技術開発・実証を引き続き実施します。

 環境技術実証事業では、先進的な環境技術の普及に向け、技術の実証やその結果の公表等を引き続き実施します。

 地球環境保全等試験研究費や環境研究総合推進費により実施された研究成果について、引き続き広く行政機関、研究機関、民間企業、民間団体等に紹介し、その普及を図ります。

2 官民における監視・観測等の効果的な実施

(1)地球環境に関する観測・監視

 気候の観測・監視については、世界気象機関(WMO)及び全球気候観測システム(以下「GCOS」という。)の枠組みに基づき、地上及び高層における定常気象観測及び地上放射観測を引き続き推進するとともに、その推進に向けた国際的な取組に積極的に参画します。また、温室効果ガスなど大気環境の観測については、国立研究開発法人国立環境研究所及び気象庁が、温室効果ガスの測定を行います。国立研究開発法人国立環境研究所では、沖縄県波照間島、北海道落石岬、富士山等で温室効果ガスのモニタリングを長期的に行うほか、航空機・船舶を利用してアジア、オセアニア、太平洋地域の大気中及び海洋表層における温室効果ガスのモニタリングや陸域生態系における二酸化炭素収支の観測を行います。また、気候変動によるサンゴや高山植生の生態系変化に対しての観測を行います。気象庁ではWMOの全球大気監視計画(以下「GAW計画」という。)の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線及び大気混濁度等の定常観測を東京都南鳥島等で引き続き実施するとともに、航空機による北西太平洋上空の温室効果ガスの定期観測を継続します。さらに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測を実施します。これらの観測データについては、定期的に公表していきます。また、黄砂に関する情報及び有害紫外線に関する情報を引き続き発表します。

 衛星による地球環境観測については、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測を行い、観測データの検証、解析を進め、全球の温室効果ガスの濃度分布、月別・地域別の吸収・排出量の推定データ、濃度の三次元分布推定データのより正確な把握等を目指すとともに、平成29年度の打上げを目指して観測精度と密度を飛躍的に向上させた2号機の開発を進めます。また、主要な温室効果ガス排出国の排出の監視を強化するとともに、全球の温室効果ガスの継続的な観測体制を整備するため、3号機の開発に平成29年度をめどに着手し、平成34年度に打ち上げることを目指します。そのほかにも、降水、雲・エーロゾル、植生等の地球環境に関する全球の多様なデータの収集を行う衛星の研究開発やデータ提供、世界に先駆けて地球観測機能を強化した「静止地球環境観測衛星」としての次期静止気象衛星ひまわりの整備等、人工衛星による観測・監視技術の開発利用を一層推進します。また、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を引き続き推進し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進します。さらに、地球規模の高度海洋監視システムを構築する「アルゴ(Argo)計画」を引き続き推進します。

 第54次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の基本観測のほか、南極地域観測第Ⅷ期計画に掲げた「南極域から探る地球温暖化」をメインテーマとして、各種研究観測を実施します。

 また、気候変動を解明する鍵となる北極研究について、研究基盤の整備や、コンソーシアムの創設による研究者の連携強化、モデル研究者と観測研究者の協働促進を実施します。

 地球温暖化対策に必要な観測を、統合的・効率的なものとするため、環境省と気象庁が共同で運営する「地球観測連携拠点(温暖化分野)」の活動を通じて、関係府省・機関間の観測の連携を推進します。また、温暖化影響に対して脆(ぜい)弱な東アジアの途上国における監視・影響評価を推進することにより、途上国の取組に寄与し、気候変動対策に係る将来の国際的な枠組みの構築に貢献します。

 地球環境変動予測研究については、引き続き、世界最高水準の性能を有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等及び全球予測結果の高精細化や不確実性の低減等のための研究開発を推進します。また、観測・予測データの収集からそれらのデータの解析処理を行うための共通プラットフォームの整備・運用を実施していきます。さらに、具体的な適応策の提示までを統一的・一体的に推進することにより、温暖化に伴う環境変化への適応策案に貢献する研究開発を推進していきます。

 地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢整備のため、「地球環境保全試験研究費」において「地球観測モニタリング支援型」の課題を継続して実施します。全国の気象官署における観測開始以降の観測資料の利用を促進するなど、地球温暖化の状況等に関する調査研究を推進し、地球温暖化予測の強化を図ります。また、国内の影響・リスク評価研究の更なる進展のため、日本付近の詳細な気候変化の予測精度を高めるための技術開発を引き続き推進します。また、GPS装置を備えた検潮所において精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供を継続します。

(2)技術の精度向上等

 更なる環境測定分析の精度向上等を目指して、引き続き地方公共団体及び民間の環境測定分析機関を対象とした環境測定分析統一精度管理調査を実施します。

3 技術開発などに際しての環境配慮等

 「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づき、事業者から提出される浄化事業計画の同指針適合確認を行う等、引き続き適切な制度の運用を行います。