環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第3節 環境、経済、社会が統合的に向上した持続可能な地域づくり

第3節 環境、経済、社会が統合的に向上した持続可能な地域づくり

 環境的側面、経済的側面、社会的側面が複雑に関わっている現代において、健全で恵み豊かな環境を継承し、持続可能な社会を実現するためには、社会経済システムに環境配慮が織り込まれ、環境面から持続可能であると同時に、経済、社会面でも健全で持続的である必要があります。さらに、持続可能な社会を実現するには、社会経済システム全体に環境配慮を織り込むだけでなく、それぞれの地域における自然、経済、社会等の特性に合わせた、多様で持続可能な地域づくりが不可欠です。

 ここでは、環境、経済、社会が統合的に向上した持続可能な地域づくりの方向性について、その考え方を述べていきます。なお、一口に地域といっても、自然、歴史、文化、風土、産業構造などが違って多種多様であり、それぞれの地域によって目指すべき、持続可能な地域の具体的な姿は異なることに留意が必要です。

1 環境、経済、社会の統合的向上

 環境政策が重視すべき方向性として環境基本計画で示されている「環境、経済、社会の統合的向上」は、これまで、いかに社会経済システムに環境配慮を織り込むかという観点を中心に展開されてきました。これは引き続き最も重要な観点である一方、経済・社会的課題が深刻化する中では、環境政策の展開に当たり、環境保全上の効果を最大限に発揮できるようにすることに加え、諸課題の関係性を踏まえて、経済・社会的課題の解決に資する効果をもたらせるよう政策を発想・構築する観点から、「環境、経済、社会の統合的向上」を実現することも重要です。こうした観点から「環境、経済、社会の統合的向上」を目指すことが、持続可能な地域、ひいては持続可能な社会の実現につながっていきます。

2 地域資源を活用した、環境、経済、社会の統合的向上

(1)地域資源の維持や質の向上

 地域の経済社会活動は、地域の特性に大きな影響を与える地域資源の上に成立しています。地域資源には、その地域のエネルギー、自然資源や都市基盤、産業集積等に加えて、文化、風土、組織・コミュニティなど様々なものが含まれます。これらの資源を資本として捉え直すと、大きく分けて、地域の環境そのものである自然資本、建築物、道路、設備などの人工資本(社会資本を含む)、コミュニティや文化などの社会関係資本などとも言うこともできます。

 経済社会活動は、これら地域資源を土台として生み出されています。地域が持続可能であるためには、経済社会活動によって地域資源が損なわれないようにしなければなりません。地域資源が損なわれることで地域の持続可能性に問題が生じた例としては、大気や水などの自然資源が汚染され、地域の人々が激甚な被害を受けた公害がその典型と言えます。逆に、地域資源の質の向上が、経済社会活動の向上につながる可能性があります。例えば、森林や里地里山の管理等を通じて創出された美しい自然景観、美味しい水、きれいな空気といった良好な環境、歴史的な街並み等の文化的資源や、公共交通を軸とした「歩いて暮らせる市街地」などの地域資源について、その質を向上させることは、人々の生活の質の向上や地域資源を活用している事業の高付加価値化に結び付くと考えられます。また、地域の多様性と固有性、連携から生まれる独自の文化や付加価値が、日本人が国際社会の中で生きていく上での支えとなるとともに、我が国の成長エンジンになり得ることを踏まえれば、我が国の社会全体の向上の観点からも、地域の多様性の源泉となる地域資源の維持、質の向上が重要であると考えられます。

(2)地域資源の活用を通じた環境保全の取組による、地域経済・社会の課題解決

 地域において環境、経済、社会の統合的向上を図るためには、温室効果ガスの中長期の大幅削減、適正な物質循環の確保や生物多様性の保全等に向けた環境保全に必要な取組を進めつつ、その取組が地域の経済の活性化やコミュニティの再生といった経済・社会的課題の解決にも寄与することが望ましいと考えられます。

 例えば、地域資源の一つである再生可能エネルギーを活用した自立・分散型エネルギーの導入は、防災時の非常用電源となるとともに、第3章で詳述するように地域外へ流出しているエネルギー代金の支払額を削減し、地域によっては地域外へエネルギーの余剰分を販売することで、域外から資金を獲得することが可能になると考えられます。また、廃棄物処理においても、経済性や地域の特性に応じた熱回収を行い、近隣に電気や熱を供給することは、化石燃料に依存しない自立・分散型エネルギーの導入による地域経済・社会の活性化につながると考えられます。

 また、人工資本の集積により成立する都市構造も、地域資源の一つです。例えば市街地のコンパクト化は、自動車依存度や床面積を適正化してCO2排出量の削減に寄与するとともに、中心市街地の活性化や歩行量の増加による健康の維持・増進につながることが期待されます。

 さらに、地域資源の一つである豊かな自然環境の保全は、地域の文化と結び付いて地域固有の風土を形成するとともに、高付加価値な観光商品の提供に寄与することなども期待されます。また、上流域の里地里山の保全は、下流域を含めた地域の防災・減災効果等を有しています。

 このように、地域における環境への取組が、地域が抱える経済・社会的課題の解決に結び付く可能性があります。エネルギー価格の変動や製造業の海外移転など、グローバル経済の影響が強くなっている状況で、再生可能エネルギーや豊かな自然環境などの地域資源を活用して、地域に根ざしたビジネスを振興することは、いわば地域経済の足腰を強くすることにつながると考えられます。その際、地域資源が有する環境の付加価値が、適切に市場で評価されることが重要です。また、環境への取組によりコミュニティの再生、人々の運動量の増加などに結び付くことで、健康で心豊かな生活の実現に寄与する可能性があります。

3 都市と農山漁村が連携する地域循環共生圏の創造

 広域にわたって経済社会活動が行われている現代において、それぞれの地域が、環境、経済、社会が統合的に向上した持続可能な地域を実現するに当たって、各地域がその特性を生かした強みを発揮しつつ、不足分を互いに補完することが必要となることも考えられます。特に都市と農山漁村は、補完的な関係が顕著なことから、ここでは、都市と農山漁村が一体となって連携していくことを「地域循環共生圏」と呼ぶこととし、その内容を説明します。

 「循環」と「共生」は、第一次環境基本計画において示され、平成24年に策定された現行の第四次環境基本計画に至るまで引き継がれている持続可能な社会の構築を目指すに当たっての我が国の長期的目標です。「循環」とは、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて、資源やエネルギーの面でより一層の循環・効率化を進め、不用物の発生抑制や適正な処理等を図るなど、経済社会システムにおける物質循環をできる限り確保することによって、炭素循環など地球における循環システムを健全に維持するよう環境への負荷をできる限り少なくし、低炭素社会を始めとした循環を基調とする経済社会システムを実現することです。「共生」とは、大気、水、土壌及び多様な生物等と人間の営みとの相互作用により形成される環境の特性に応じて、かけがえのない貴重な自然の保全、二次的自然の維持管理、自然的環境の回復及び野生生物の保護管理など、保護あるいは整備等の形で環境に適切に働き掛け、その賢明な利用を図るとともに、様々な自然との触れ合いの場や機会の確保を図るなど自然と人との間に豊かな交流を保つことによって、健全な生態系を維持・回復し、自然と人間との共生を確保することです。

 「地域循環共生圏」は、「循環」「共生」で目指している環境、経済、社会の統合的向上を図るため、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて補完し支え合う考え方です(図1-3-1)。


図1-3-1 地域循環共生圏のイメージ

 都市においては、汚染物質の排出を最小限にし、また、市街地のコンパクト化を含めた省エネルギーを進めつつ再生可能エネルギーの導入を最大限図る一方、農山漁村では、食料や再生可能エネルギー等について付加価値を高めつつ地産地消を図ります。都市は、そのエネルギー需要に比べて地域内で供給できる再生可能エネルギーの量には限りがあり、農山漁村からの再生可能エネルギーの供給によっても賄われます。農山漁村からは、再生可能エネルギーの他にも、豊かな森から生まれたきれいな空気や水、食料、里地里山の保全を通じた自然災害の防止などの自然の恵み、いわゆる「生態系サービス」が供給されます。また、農山漁村では、このような生態系サービスを生み出す、森・里・川・海のつながりを管理するコストが不足しているため、都市からボランティアや専門家等の必要な人材や資金などの供給を受けます。このほか、都市と農山漁村が連携することで、資源循環がより広域で効率的に行える可能性があります。

 上記は、地域循環共生圏における都市と農山漁村の様々なつながりの一例に過ぎませんが、このように都市と農山漁村が、相互補完によって相乗効果を生み出しながら、それぞれの経済社会活動を行う「地域循環共生圏」の創造が、環境、経済、社会が統合的に向上した持続可能な地域を実現する上で重要であると考えられます。

「つなげよう、支えよう森里川海」

 豊かな森はきれいな空気と水を生み、土砂災害を防ぎます。人の営みで維持された里では、安全で美味しい農作物が育てられます。川は水を運んで大地に潤いを与え、海は新鮮な魚介類を育みます。また、森と海は川でつながっており、土砂の移動により干潟・砂浜などが形成されます。森から供給される栄養塩類は川や海の魚を始めとする生物を育み、豊かな海をつくります。私たちは、森・里・川・海に手を加えつつ、持続的に利用することで、様々な恵みを受けてきました。このような自然からの恵みは「生態系サービス」と呼ばれており、これを生み出す森・里・川・海という生態系とそのつながりは、国民共有の財産と言えます。

 豊かな森はきれいな空気と水を生み、土砂災害を防ぎます。人の営みで維持された里では、安全で美味しい農作物が育てられます。川は水を運んで大地に潤いを与え、海は新鮮な魚介類を育みます。また、森と海は川でつながっており、土砂の移動により干潟・砂浜などが形成されます。森から供給される栄養塩類は川や海の魚を始めとする生物を育み、豊かな海をつくります。私たちは、森・里・川・海に手を加えつつ、持続的に利用することで、様々な恵みを受けてきました。このような自然からの恵みは「生態系サービス」と呼ばれており、これを生み出す森・里・川・海という生態系とそのつながりは、国民共有の財産と言えます。

 一方で、自然は人の思いどおりにならず、ときに大きな自然災害をもたらします。地震や火山が多く、地形が急峻(しゅん)な日本列島は、災害の多い国です。先人は、森・里・川・海との付き合い方をよく知り、手を加えて上手に管理し、自然に抗わずにリスク等をうまく避けながら、この列島で生きてきました。しかしながら、高度経済成長期以降の開発や過剰利用により、森・里・川・海のつながりは分断されたり、それぞれの質が低下してきています。その間、GDPは大きく拡大しましたが、同時に自然は大きく改変され、身近だった生きものが姿を消しました。例えば、かつては普通に見られたメダカ、鮒(ふな)寿司の材料として親しまれてきたニゴロブナ。これらは河川や湖沼、湿原のほか、水田、ため池や水路などの人が築いてきた水系をも含めたネットワークを利用する淡水魚類ですが、その多くが絶滅危惧種となってしまいました。

 また、人口減少が進む中、森・里・川・海の管理の担い手不足も深刻な問題です。前節で述べたとおり、上流の森と里の荒廃は、災害の危険性が増大し、水の供給にも影響することから、下流に住む人々にとっても大きな問題です。気候変動の進行により、災害リスクが高まる中、管理不足による森・里・川・海の劣化は、より大きな被害を招くおそれがあります。また、災害を避ける知恵も失われつつあります。

 今、我が国は大きな転換点を迎えています。自然の恵みと脅威を十分に認識した上で、人口が増加し続けた過去100年の間に損なってきた国土の自然環境を、人口が減少に向かう次なる100年をかけて回復していくことが求められています。「自然資本」である森・里・川・海を、国民全体で上手に管理し、国土の自然環境を回復することで初めて、自然の恵みに支えられた安全で豊かな国民生活を送ることが可能となります。このために必要なのが、森・里・川・海を「つなぐこと」と「支えること」です。

 「つなぐこと」は、森・里・川・海のつながりを再生し、森林や里地里山等の自然環境を適切に管理することによって、森・里・川・海の本来の恵みを取り戻すことです。人口が減少し、土地利用に余裕を見いだせるこれからは、過去の災害や地域に根付く知恵を踏まえて、市街地のコンパクト化等を進める中で、災害に脆(ぜい)弱な土地を自然に戻し、安全な土地利用に転換していく視点も大切です。

 一方で、森・里・川・海のつながりの再生と管理にはコストがかかります。人口減少と高齢化が進む地方だけでそのコストを担うのは困難で、都市を含む国民全体で負担して「支えること」が必要です。「支えること」には、直接支える方法と、経済活動を通じて支える方法があります。直接支える方法には、里地里山の維持管理活動にボランティアで参加したり、募金に協力すること等があります。また、エコツーリズムに参加したり、自然資源を活かした地域産品を購入することは、経済活動を通じて、楽しみながら支える方法です。バイオマスなどの再生可能エネルギーの活用も、経済活動を通じて支える取組の一つで、里地里山等の管理にも貢献できます。

 加えて、地方圏及び里地里山で人口が減少していく中では、生態系サービスを享受する国民一人一人が日常の暮らしの中でその恵みを意識し、生態系サービスを支えていくことのできる仕組みの構築が必要です。

 こうした自然の恵みを活用した人的な交流、経済活動、管理のための資金の支援などは、地域づくりを支える基盤となります。また、生態系サービス供給の担い手としての意識は、地域の誇りにつながります。このように、森・里・川・海を「つなぐこと」と「支えること」は、持続可能な地域づくりを実現する大きな鍵でもあるのです。