2012年(平成24年)6月20日から22日にかけて、ブラジルのリオデジャネイロにて、国連持続可能な開発会議(リオ+20、UNCSD)が開催されます。リオ+20という通称は、1992年に開催された環境と開発に関する国連会議(地球サミット、UNCED)から数えてちょうど20年目に行われる節目の会議であることから名付けられたものです。リオ+20には、各国から元首・首脳などが参加を予定しており、また、地方公共団体や企業、NGOなど、さまざまな立場にある個人や団体がリオ+20への参加を表明しています。
リオ+20では、持続可能な開発を実現するための世界の取組について議論が行われます。そこでは、持続可能な開発の実現に関するこれまでの取組や目標達成状況について総括を行うとともに、新たに取り組むべき課題や今後達成すべき目標について認識を共有し、今後の取組に向けた国際的合意を結ぶための政治的文書を作成することを目標としています。また、リオ+20では、[1]持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済及び[2]持続可能な開発のための制度的枠組みについて、実効性のある成果が求められています。
この節では、持続可能性に関するこれまでの国際的な動きや、同会議のテーマである「持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」と「持続可能な開発のための制度的枠組み」について考察するとともに、これまでの議論の状況、及び同会議に対する我が国や各ステークホルダーの立場など、リオ+20の全体像について概観します。
2012年6月に開催されるリオ+20のテーマである「持続可能な開発」は、全世界で実現すべき共通の課題であるといえます。
この用語が広く一般に認識されるようになったきっかけは、1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」が公表した報告書「我ら共有の未来(Our Common Future、ブルントラント報告書)」であるといわれています。同報告書では、「持続可能な開発」を「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」と定義しており、成長の回復と質の改善、人間の基本的ニーズの充足、雇用、食糧、エネルギー、水、衛生の必要不可欠なニーズへの対応、人口の抑制、資源基盤の保全、技術の方向転換とリスクの管理、政策決定における環境と経済の統合を主要な政策目標として位置づけました。これがきっかけとなって、環境と開発に関する世界各国間での合意が必要であるとの認識が共有されるようになり、後の環境と開発に関する国連会議(地球サミット、UNCED)の開催へとつながっていきます。
開発に関するこうした概念が普及した背景には、社会・経済活動の拡大に伴って、市民生活や事業活動による環境へのインパクトが著しく増大したことが挙げられます。世界経済がグローバル化する中、先進国においては、過度の経済効率性が追求された結果、大量生産・大量消費・大量廃棄型のライフスタイルと社会経済活動が拡大し、一方で開発途上国では、熱帯林の破壊などに見られるような環境の酷使が常態化しました。また、開発途上国間においても、資源保有国や新興工業国などの中進国と、いわゆる最貧国の間での格差の拡大が進んでおり(南南問題)、こうした地域においては、貧困・人口増加・食料不安の悪循環により、持続的でない開発が急速に広がっています。
このような状況は世界の構造的な問題であり、すべての国が、それぞれの異なった立場に即して、問題解決のための努力を行っていく必要があります。時代の進展に伴い、環境問題は、地球規模という空間的な広がり・将来の世代にもわたる影響という時間的な広がりを持つようになり、世界全体で克服すべき主要テーマとなるにいたりました。
こうして1992年(平成4年)に開催された地球サミットでは、先進国と開発途上国との間でのさまざまな対立を克服するための具体的方法について、議論がなされました。その結果、各国や国際機関が遵守すべき行動原則である環境と開発に関するリオ宣言、同宣言を達成するための行動計画であるアジェンダ21などを採択するとともに、国連気候変動枠組条約・生物多様性条約の署名が開始され、持続可能な開発を進めることが、人類が安全に繁栄する未来への道であることが確認されました。
アジェンダ21や個々の環境関連条約については、目標の達成をより確かなものとするべく、国連経済社会理事会の下に新たに設置された国連持続可能な開発委員会(UNCSD)がフォローアップを行っています。また、地球サミットから10年にあたる2002年(平成14年)には持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット:リオ+10)が開催され、アジェンダ21策定後の成果等を踏まえ、具体的な取組の促進に関する国際的合意が示されました。
2007年9月、ブラジル政府は国連総会において、1992年の地球サミットから20年目となる2012年に、同会議のフォローアップ会合をリオデジャネイロで開催することを提案しました。これを受け、2009年(平成21年)、「国連決議64/236」が採択され、国連持続可能な開発会議(リオ+20)を2012年にリオデジャネイロで開催することが決定しました。
リオ+20の目的について、同決議では、「持続可能な開発に関する新たな政治的約束を確保し、持続可能な開発に関する主要な会議の成果の実施における現在までの進展及び残された課題を評価し、新しい又は出現しつつある課題を扱うこと」としています。さらにリオ+20では、前述のとおり[1]持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済及び[2]持続可能な開発のための制度的枠組みについて、実効性のある成果が求められています。
これを踏まえ、リオ+20においては、グリーン経済に関する具体的な政策論を展開し、持続可能な開発の実現に向けた諸課題を解決するための合意を得ることを目標としています。また、持続可能な開発のための制度的枠組みについては、環境問題を総合的に取り扱う国際機関の設立や、環境に関する多国間条約の統合・連携等が議論されることとなります。
以上に見たように、資源制約や環境問題に伴うリスクを軽減しながら、人間の福利や不平等を改善し、経済成長も達成するための具体的な取組の議論を進めることは世界の潮流であり、リオ+20は我が国を含め、各国がどのような社会経済のあり方を目指し、取組を進めるのかを考え直す重要な機会であると考えることができます。
リオ+20では、持続可能な開発の実現に向けた歩みを着実に進めるため、実効性のある成果文書の策定が求められています。そのためには、各国政府、国際機関、その他非政府組織から、それぞれの問題意識や知見等を集約し、会議の成果に反映させることが重要であると考えられます。
国際連合のリオ+20事務局は、幅広い意見を集約するための公平かつ透明なプロセスとして、各参加主体に対し、成果文書へのインプットに関する意見を募集しました。その結果、我が国をはじめとして、世界中から総数677の提案が集まりました。これらのインプットはその後の検討過程において反映され、リオ+20の成果文書の素案であるゼロドラフト「我々が望む未来」(The Future We Want)の基礎となっています。これらの提案書は一般に公開されており、国際連合のリオ+20関連ウェブサイトで確認することができます。
我が国の提案では、グリーン経済に関する9つの主要分野について、我が国の東日本大震災の経験を踏まえた提案が行われています。防災の分野では、東日本大震災の教訓を踏まえた災害管理体制を強化するため,2005年に策定された「兵庫行動枠組」に代わる新たな国際合意を策定することを提言し、震災から得られた知見や教訓を国際社会で共有することを提言しています。また、大胆なエネルギーシフトに向けた省エネルギー、再生可能エネルギー等の導入の促進を図り、技術革新とグリーン・イノベーションの推進の必要性についても提案を行っています。2010年に議長国としてイニシアティブを発揮した「生物多様性条約(COP10)」の成果についても、持続可能な開発の重要課題として位置づけ、愛知目標の実現に向けた取組の強化を進めるべきだとしています。
これらの提言を踏まえ、2012年(平成24年)1月、リオ+20事務局から、成果文書の素案(ゼロドラフト)が公表されました。ゼロドラフトでは、リオ宣言をはじめとするこれまでの世界の取組について、その重要性を再確認するとともに、グリーン経済の実現、制度的枠組みの強化、各国の取組状況とその評価の枠組みについて提言されています。
ゼロドラフトをめぐって、途上国はODAのコミットメントの強化や技術移転の重要性を主張し、一方、EUはグリーン経済のロードマップの作成、UNEPの専門機関化を主張し、米国は非政府の団体の役割の重要性を強調しました。
我が国は、持続可能な開発のためには、先進国と途上国の二分法を見直すことや、グリーン経済への移行が不可欠であること、組織の改編の是非の議論だけでなく現行の制度的枠組みの具体的な改善方策について合意し行動につなげることが重要であること、人間の安全保障を追加することを主張しています。
今後、これらの議論をどのように集約し、世界が持続可能な社会の実現に向けてどのような合意を得るのか、この会議の結果が注目されています。
リオ+20では、各国の政府に加え、企業、NGOなどのステークホルダーも積極的な関わりを見せています。リオ+20の開催期間中、各国の代表が集まって行われる公式会合と並行して、同じくリオデジャネイロにて、NPOや企業等による「ピープルズサミット」が開催されます。ピープルズサミットには世界から様々な団体が集い、各種イベントや講演会を行うなど、持続可能な開発に関する議論が行われる予定です。
広範な関係者がこうした対話を行うことによって、それぞれの主体的な取組が促されるとともに、対話の成果として得られる決定や合意についても、幅広い主体の立場や意見を反映した、より正当性の高いものとなることが期待されます。こうした意思決定のプロセスは「マルチステークホルダー・プロセス」(MSP)と呼ばれており、環境・経済・社会に関する幅広い課題について総合的に取り組むために有効であるとして、アジェンダ21においてその考え方が示されています。
我が国においても、国連事務局の推奨を受け、広範な社会層をはじめとした多様な主体が対話する機会を設けるべく、リオ+20国内準備委員会が平成23年7月に設置され、平成24年3月までに計5回の委員会と2回のワークショップが開催されています。また平成23年10月には国内準備委員会提案へのインプットが国連事務局に提出されています。
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