第3節 化学物質の環境リスクの管理

1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 化学物質審査規制法に基づき、平成22年度は、新規化学物質の製造・輸入について660件(うち低生産量新規化学物質については339件)の届出があり、事前審査を行いました。

 また、昭和48年の化学物質審査規制法公布時に製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)等については安全性点検を行っており、平成22年度には、分解性・蓄積性について9物質、人への健康影響について7物質、生態毒性について5物質の安全性評価に関する審議を行いました。この既存化学物質の安全性点検を加速するため、国と産業界が連携し、国内製造・輸入量が1,000t/年以上の既存化学物質について、安全性情報を収集し、国民に対し分かりやすく情報発信することを目的とする「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称:Japanチャレンジプログラム)」を推進しました。具体的には、事業者からの情報収集に係る協力が得られていない化学物質については引き続き公開し、本プログラムへの事業者の参加を促進したほか、本プログラムで得られた情報の発信を行うデータベース(J-CHECK)のさらなる充実を図りました。また、平成22年9月に樹脂用難燃剤、繊維用難燃剤として使用されている1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン(第1種監視化学物質)について製造又は輸入の事業を行う者に対し、鳥類の繁殖に及ぼす影響に関する有害性調査指示を行いました。

 さらに、持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)における「2020年までに、化学物質による人の健康や環境への著しい悪影響を最小化する」という目標を踏まえて、平成21年5月に化学物質審査規制法が改正されたことを受け、すべての工業用化学物質から優先評価化学物質を絞り込むためのスクリーニング評価の方法やそれに基づく優先評価化学物質の環境リスク評価の方法について、検討を行いました。平成22年度には既存の第2種・第3種監視化学物質についてスクリーニング評価を行い、審議の結果、88物質を優先評価化学物質に指定することとなりました(図4-3-1)。また、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下「POPs条約」という。)第4回締約国会議において新たに廃絶・制限の対象物質とすることが決定され、化学物質審査規制法の、第1種特定化学物質に追加されたペルフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)(別名PFOS)又はその塩について、取扱い上の技術基準を定める省令等の制定を行いました。


図4-3-1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律のポイント

2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)については、同法施行後の第9回目の届出として、平成21年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、平成23年2月に公表しました(図4-3-2図4-3-3図4-3-4)。MSDS(化学物質等安全データシート)制度については、パンフレットの配布等を行い、より一層の定着を図りました。さらに、平成22年度に、PRTR制度及びMSDS制度の普及を含め、事業者による自主的な化学物質管理を促進させるために、全国8か所において講演会を実施しました。対象物質の見直し等を内容とする化学物質排出把握管理促進法に基づく政令の一部改正や、届出事項の追加や二次元コードの採用等を内容とする同法に基づく省令の一部改正について、関係資料の配布等により事業者や地方公共団体への周知等を行いました。さらに、個別事業所ごとのPRTRデータをインターネット地図上に分かりやすく表示し、ホームページ上に公開しました。


図4-3-2 化学物質の排出量の把握等の措置(PRTR)の実施の手順


図4-3-3 届出排出量・届出外排出量の構成(平成21年度分)


図4-3-4 届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量(平成21年度分)

3 ダイオキシン類問題への取組

(1)ダイオキシン類による汚染実態と人の摂取量

 平成21年度のダイオキシンに係る環境調査結果は表4-3-1のとおりです。


表4-3-1 平成21年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)

 また、平成22年度の一日摂取量調査において、平成21年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.85pg-TEQと推定されました(図4-3-6図4-3-7)※食事からのダイオキシン類の摂取量は0.84pg-TEQです。この数値は経年的な減少傾向から大きく外れるものではなく、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています。


図4-3-6 日本におけるダイオキシン類の一人一日摂取量の内訳(平成21年度)


図4-3-7 食品からのダイオキシン類の1日摂取量の経年変化

(2)ダイオキシン法等に基づく対策

 ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)の2つの枠組みにより進められています。

 平成11年3月に策定された基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリー(目録)の作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進を定めています。

 ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、土壌汚染に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

 ダイオキシン法及び基本指針に基づき国の削減計画で定めたダイオキシン類の排出量の削減目標が達成されたことを受け(図4-3-5)、平成17年に国の削減計画を変更し、新たな目標値として22年までに15年に比べて約15%の削減をすることとしました。22年12月のインベントリーでは、21年の排出総量の推計は、15年から約59%の削減がなされており、排出量は引き続き前年度を下回っています。


図4-3-5 ダイオキシン類の排出総量の推移

 ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、平成21年度は大気基準適用施設で65件、水質基準適用事業場で3件、合計68件(平成20年度87件)で、前年度に比べ減少しました。また21年度において、法に基づく命令が発令された件数は、大気関係11件、水質関係0件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係2,479件、水質関係135件でした。

 ダイオキシン類による土壌汚染対策については、 環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに5地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定されています。これら5地域では、対策計画に基づく事業が完了しました。さらに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(3)その他の取組

 ア ダイオキシン類の測定における精度管理の推進

 平成21年に改定された「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」又は「ダイオキシン類の環境調査に係る精度管理の手引き(生物検定法)」に基づいて実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、測定に係る精度管理を推進するために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。

 イ 調査研究及び技術開発の推進

 ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性やばく露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。

 また、環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。

 さらに、21年度末に廃棄物焼却炉からの排出ガス、ばいじん及び燃え殻の測定の一部に公定法としての簡易測定法の追加が行われるとともに、これらの簡易測定法の普及状況のフォローアップや今後の課題の検討を行いました。

4 農薬のリスク対策

 農薬は、生理活性を有し、意図的に環境中に放出されるものであり、正しく使用しなければ、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、農薬取締法に基づき規制されており、農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬の登録を保留するかどうかの要件のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る基準(農薬登録保留基準)を環境大臣が定めています。

 特に、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準は、個別農薬ごとに基準値を設定しており、平成22年度には、水産動植物の被害防止に係る登録保留基準については24農薬、水質汚濁に係る農薬登録保留基準については50農薬に基準値を設定しました。また、農薬登録保留基準については、国内外の知見や国際的な動向を考慮して、その充実を図るための検討を行いました。

 特定農薬については、「特定防除資材(特定農薬)指定のための評価に関する指針」に基づき、個別資材の指定に向けた検討を行いました。

 さらに、農薬の環境リスク対策の推進に資するため、農薬使用基準の遵守状況の確認、農薬の各種残留実態調査、農薬の生態影響調査、農薬の飛散対策に関する調査、農薬の吸入毒性に関する調査等を実施しました。



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