第2節 地球温暖化対策に係る国際的枠組みの下での取組

1 気候変動枠組条約に基づく取組

 気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。現在、温室効果ガスの排出量は地球の吸収量の2倍以上であり、上記の目的の実現のためには早期に世界全体の排出量を半分以下にする必要があります(表1-2-1)。


表1-2-1 気候変動に関する国際連合枠組条約の概要

 1997年(平成9年)に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、先進各国の温室効果ガス排出量について、法的拘束力のある数量化された削減約束を定めた京都議定書が採択されました。

 京都議定書は、先進国が、2008年(平成20年)から2012年(平成24年)まで(以下、第一約束期間)の各年の温室効果ガスの排出量の平均を基準年(原則1990年(平成2年))から削減させる割合を定めています。例えば日本の削減割合は6%、米国は7%、EU加盟国は全体で8%です。中国やインドなどの途上国に対しては、数値目標による削減義務は課せられていません。対象とする温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン等の6種類です(表1-2-2図1-2-1)。


表1-2-2 京都議定書の概要


図1-2-1 世界のエネルギー起源二酸化炭素の国別排出量とその見通し

 2010年(平成22年)12月末現在、192か国及び欧州連合が京都議定書を締結しています。米国は2001年に京都議定書への不参加を表明し削減義務を負っていません。2009年(平成21年)1月に発足したオバマ政権は気候変動に関する国際交渉への積極的な貢献を明言しましたが、京都議定書には参加しないという姿勢を変えていません。

 2001年(平成13年)に開催されたCOP7における京都議定書の具体的な運用方針の決定を受け、先進諸国等の京都議定書締結に向けた環境が整い、わが国は、2002年(平成14年)6月4日、京都議定書を締結しました。その後、発効要件が満たされ、2005年(平成17年)2月16日に、京都議定書は発効しました。発効後初の会合であるCOP11及び京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)では、第一約束期間後の2013年以降の次期枠組みに向けた公式な議論が開始され、また、「京都議定書の下での附属書I国のさらなる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)」が立ち上がりました。2007年(平成19年)に開催されたCOP13では、新たにすべての条約締約国により2013年以降の枠組みについての検討を行う「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」を立ち上げること、2009年(平成21年)12月のCOP15で合意を得ることなどを含む、バリ行動計画等の諸決定がなされました。これによって、わが国の方針である米中を含むすべての主要排出国が責任ある形で参加する公平かつ実効性のある枠組みの構築に向けた交渉が開始されることとなりました。

 2009年(平成21年)12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15及びCOP/MOP5では、30近くの国・機関の首脳レベルの協議・交渉の結果、先進国は削減目標、途上国は削減行動を提出すること等を盛り込んだ「コペンハーゲン合意」が作成され、条約締約国会議として「同合意に留意する」と決定されました。

 2010年(平成22年)1月末、わが国は、コペンハーゲン合意への賛同の意思表明と、同合意に基づいて、「すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として、温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減する」との目標を気候変動枠組条約事務局に提出しました。2010年(平成22年)12月末時点の条約事務局の発表によれば、主要国を含む85か国(世界全体のエネルギー由来の排出量の80%以上に相当)が削減約束又は削減行動を提出しています。

 また国連の枠組みにおける交渉とは別に、2010年5月のメキシコ・ドイツ共催による気候変動に関する閣僚級会合(ペータースベルク気候変動対話)及び9月のスイス・メキシコ共催による気候変動非公式閣僚級会合が開催され、わが国からも閣僚が参加、わが国の目指す枠組みに対する理解を求めてきました。さらに、同年10月に「森林保全と気候変動に関する閣僚級会合(REDD+ 閣僚級会合)」を日本(愛知県・名古屋市)で主催するなど、気候変動交渉の進展に貢献してきました。

 2010年(平成22年)11月から12月にかけてメキシコ・カンクンで開催されたCOP16及びCOP/MOP6では、閣僚間での交渉を重ねた結果、わが国は、コペンハーゲン合意を踏まえ、米中等を含むすべての主要国が参加する真に公平かつ実効的な一つの法的拘束力のある国際枠組みの早期構築を目指し交渉に臨みました。途上国から先進国に対し、京都議定書の第二約束期間の設定に関する要求がありましたが、わが国は、京都議定書は世界全体のCO2排出量の約27%しかカバーしておらず、すべての主要国を含む枠組みの保証がない中で第二約束期間を受け入れれば、2013年以降も一部の国のみが削減義務を負う枠組みが継続・固定化されることになり、世界規模での真の削減につながらない旨を粘り強く働きかけました。最終的には、先進国・途上国両方の削減目標・行動が同じ枠組みの中に位置付けられ、わが国が目指す次期枠組みの基盤となるカンクン合意が採択されました。さらにカンクン合意には、緑の気候基金という新たな基金の設立、技術メカニズムの設立などが明記されるとともに、最貧国向けの気候変動適応計画の策定や、途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)といった途上国支援に関連した事項が盛り込まれ、重要な前進となりました。

 また、COP/MOP6では、京都議定書第二約束期間に対する各国の立場を害しない旨脚注で明記しつつ、COP15と同様に先進国の排出削減目標をまとめた文書に留意することとなりました。加えてAWG-LCAは、さらに一年間作業を継続することが決定され、AWG-KPでの作業も引き続き継続されることが決定しました。

2 クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)及びエネルギー効率に関する国際パートナーシップ(GSEP)

 クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップAPP)はアジア太平洋地域において、増大するエネルギー需要、エネルギー安全保障、気候変動問題などに対処することを目的として、2005年7月に立ち上げについて合意された枠組みであり、クリーンで効率的な技術の開発・普及・移転のための協力を行う地域協力の官民パートナーシップとして、日本、豪州、カナダ、中国、インド、韓国、米国の7か国が参加し、具体的な取組が行われていましたが、2011年4月に行われたAPPの政策実施委員会においてその活動の終了が合意されました。

 APPでは、主要な8つの協力対象分野のタスクフォース([1]よりクリーンな化石エネルギー、[2]再生可能エネルギーと分散型電源、[3]発電及び送電、[4]鉄鋼、[5]アルミニウム、[6]セメント、[7]石炭鉱業、[8]建物及び電気機器)において、セクター・対象分野ごとに最良の省エネ・環境技術やベストプラクティス等の知見の共有、省エネに係る技術移転、エネルギー効率に係る指標の検討等について、官民が連携して取組を進める「セクター別アプローチ」に取り組みました。その結果、それぞれのセクター・対象分野の固有の実情を踏まえた実効的な削減対策を実施し、計150件を超えるプロジェクトが行われました。

 APPにおいて実施されたこれらの活動は非常に有益なものであり、官民協力による具体的かつ着実な取組は今後も継続されることが望まれます。2010年7月に米国で開催されたクリーンエネルギー大臣会合において、エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)が日米共同提案のイニシアティブとして承認され、同年9月には、国際省のエネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の下のタスクグループとしても承認されました。今後は、APPの一部のタスクフォース活動(発電及び送電、鉄鋼、セメント)をこれらの枠組みの下で発展的に継続するべく、準備を進めているところです。

3 開発途上国への支援の取組

 途上国においては、大気汚染や水質汚濁等の環境汚染問題が喫緊の課題となっていることから、環境汚染対策と地球温暖化対策を同時に進めることができるコベネフィット・アプローチが有効です。わが国においては、2007年12月の中国及びインドネシア両国の大臣との間で一致した内容に基づき、本アプローチに係る具体的なプロジェクトの発掘・形成や共同研究等を進めています。2010年11月には、コベネフィット・アプローチの推進及びコベネフィット型事業の普及を目的とした、「アジア・コベネフィット・パートナーシップ」の創設を支援しました。

4 京都メカニズムの活用と新たな二国間の枠組みの構築に向けた取組

 京都メカニズムとは、京都議定書を締結した先進国が、市場メカニズムを活用して削減約束を達成する仕組みであり、クリーン開発メカニズムCDM)、共同実施JI)及び排出量取引の3つの手法があります(表1-2-2)。

 京都議定書目標達成計画においては、京都メカニズムの利用が国内対策に対して補足的であるとの原則を踏まえつつ、国内における温室効果ガスの排出削減対策及び吸収源対策に最大限努力しても、なお京都議定書の約束達成に不足すると見込まれる差分については、京都メカニズムを活用して対応することとしています。この差分である約1億トン(基準年総排出量比1.6%相当)について、政府はNEDOを活用して平成22年12月末までに9,780万t-CO2のクレジットを契約取得しました。

 環境省や経済産業省を中心として、民間事業者等に対してCDM/JIプロジェクト実施のための支援を行いました。具体的には、CDM/JI事業の実施可能性調査による案件の発掘や、民間事業者が参考とするCDM/JI事業実施マニュアルの改訂を行い、CDMの方法論、個々のCDM/JIプロジェクト概要、CDM/JIに関する国際的な議論の動向等に関するデータベースを構築するなど、情報の提供を通じてCDM/JIの事業化促進を図りました。また、CDMを活用してコベネフィット・アプローチを促進することを目的として、2008年度から「コベネフィットCDMモデル事業」(例.タイ・アユタヤのエタノール工場における水質汚濁対策と温室効果ガス削減)への資金支援を実施しています。また、事業の主要受入国におけるCDM/JI受入に係る制度構築及び実施計画の策定を支援したほか、受入国側の情報をわが国の事業者向けに広く提供しました。

 さらに、京都メカニズムの総合的な推進・活用を目的として関係府省で構成する京都メカニズム推進・活用会議において、平成22年12月末までに計731件のCDMJI事業を承認しました。

 一方、クリーン開発メカニズムについては、プロジェクト登録やクレジット発行のための手続きが複雑であり長い時間を要すること、わが国企業が得意とする省エネルギープロジェクトの登録が難しいこと、登録プロジェクトの地域が偏在していること等の課題があるため、国連の会議等において、その改善に向けた働きかけを行うとともにわが国の技術、製品、インフラ等の提供を通じた途上国等での排出削減への貢献を適切に評価する新たな二国間の枠組みの構築に向けた取組を進めました。具体的には、途上国における温室効果ガス排出削減量や測定方法に関する調査を13か国で33件実施したほか、インド、ベトナム及びメコン諸国との首脳会談において、気候変動に関する二国間の議論を強化していくことで一致しました。

5 気候変動枠組条約の究極的な目標の達成に資する科学的知見の収集等

 地球温暖化に対する国際的な取組に科学的根拠を与えてきたIPCCの活動に対して、わが国は、2007年(平成19年)に公表された第4次評価報告書をはじめとした各種報告書作成プロセスへの参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行いました。また、わが国の提案により地球環境戦略研究機関IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリータスクフォースの技術支援組織の活動を支援しました。

 また、環境研究総合推進費では、「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」を、地球温暖化により世界や日本の気候が今度どのように変化するのか、より正確で分かりやすい形で国民各層及び国際社会に対して提供することを目的として、平成19年度より実施しています。

6 その他の取組

 昨今、気候変動問題は以前にも増して注目を集め、その対策のための議論も大きく加速しています。上記のほかにも、特に2013年以降の次期枠組み構築のための国際的な議論がさまざまな形で行われています。2009年(平成21年)7月にイタリアで開催されたG8ラクイラ・サミットにおいて、G8北海道洞爺湖サミットにおいて合意した、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの目標を世界全体で共有することを再確認し、この一部として、先進国全体で、1990年又はより最近の複数の年と比して2050年までに80%又はそれ以上削減するとの目標を支持する旨表明されました。

 また、COP15での成果に向けて政治的リーダーシップの創出に貢献することを目的として立ち上げられ、日本、米国、中国など16か国及び欧州連合が参加する「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」では、2009年(平成21年)7月に、気候変動に係る将来の協力へのビジョンを含む首脳宣言を取りまとめました。

 さらに、2009年(平成21年)11月に発表された気候変動交渉に関する日米共同メッセージにおいて、両国は、2050年までに自らの排出量を80%削減することを目指すとともに、同年までに世界全体の排出量を半減するとの目標を支持することを表明しました。

 さらに、COP15の結果を受け、潘基文国連事務総長が気候変動に関して2つのハイレベル・パネル、「地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル」及び「気候変動資金に関するハイレベル諮問グループ」を設置しました。地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルは、気候変動問題に焦点を当て、経済、社会及び環境の3つの側面から、持続可能な開発への課題の解決方法を検討するため、2010年(平成22年)9月に第1回会合が開催され、わが国より鳩山由紀夫前総理が出席しました。また、気候変動資金に関するハイレベル諮問グループは、わが国から西村六善内閣官房参与が参画しました。同諮問グループは、2010年(平成22年)11月に、気候変動の長期資金に関する最終報告書を取りまとめることにより、COP16の成功に貢献しました。このように、わが国は、各国と協力して気候変動問題への対処を進めています。

 加えて2010年(平成22年)10月25日には、日印首脳会談での成果文書において気候変動に関する二国間の議論の強化で一致したことや、同年10月31日には日越首脳会談での成果文書において二国間オフセット・クレジットの構築等に関する意見交換の指示について一致するなど、二国間などでも多くの進展がありました。



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