第2節 地球温暖化防止に向けた国内対策

 今後、京都議定書目標達成計画に規定された対策・施策について、各部門において各主体が全力で取り組むことにより、森林吸収量の目標である1,300万炭素トン(基準年総排出量比3.8%)の確保、京都メカニズムの活用(同比1.6%)と併せて、京都議定書第一約束期間の目標を達成することとしています。

 同計画においては、その実効性を確保し、京都議定書の6%削減約束を確実に達成していくために、温室効果ガス別その他の区分ごとの目標の達成状況、個別の対策・施策の進捗状況について点検等を行うこととしています。

 そのほか、地域の自然的社会的条件に応じた地球温暖化対策を推進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施を支援します。

 また、地球温暖化を防止するためには、地球規模での温室効果ガスの更なる長期的・継続的かつ大幅な削減が必要です。そのため、我が国は、1990年比で、2020年までに25%の温室効果ガスの排出削減を目指すとの中期目標を、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として掲げるとともに、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとの長期目標を掲げ、2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を少なくとも半減するとの目標をすべての国と共有するよう努めることとしています。その達成のためには、国内排出量取引制度、地球温暖化対策のための税及び全量固定価格買取制度を含めたあらゆる政策を総動員し、その実現を目指していくことが必要です。

 わが国の地球温暖化対策の基本的な方向性を明らかにするために、地球温暖化対策に関しての基本原則や国、地方公共団体、事業者及び国民の責務、温室効果ガス排出量の削減に関する中長期的な目標、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本計画、基本的施策等を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案を平成22年3月に閣議決定し、国会に提出しました。

 法案の成立後には、基本法に基づき基本計画を定めることになりますが、環境省では、中長期目標を実現するための具体的な対策・施策の一つの絵姿、及びその場合の経済効果を提示するため、2010年(平成22年)3月31日に「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(環境大臣試案)」を発表しています。今回の試案は、今後国民の御意見を伺いながら、より充実したものとなるよう精査していく予定です。

1 温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策

(1)エネルギー起源二酸化炭素に関する対策の推進

 ア 低炭素型の都市・地域構造や社会経済システムの形成

 低炭素都市づくり関連施策の集中投入、低炭素都市推進協議会を通じた成果の情報共有等により、施策の効果の最大化を図るとともに、各府省の連携・協力のもと「環境モデル都市」を創出するなど、低炭素都市づくりを推進します。

 具体的には、公共交通機関の利用促進、未利用エネルギーや自然資本の活用等の面的な実施によるCO2削減シミュレーションを通じた実効的な計画策定や事業の実施の支援、新エネルギーやICTを活用した次世代エネルギーシステムの確立、バイオマスタウンの形成や、それらを支えるため、地域に眠るクリーンエネルギー資源の発掘、低炭素都市づくりを支える人づくり等を行います。

 イ 部門別(産業・民生・運輸等)の対策・施策

 (ア)産業部門(製造事業者等)の取組

 自主行動計画については、京都議定書目標達成計画において示された観点も踏まえ、政府による自主行動計画の厳格な評価・検証を行います。中小企業における排出削減対策の強化のため、中小企業の排出削減設備導入における資金面の公的支援の一層の充実や、大企業等の技術・資金等を提供して中小企業等(いずれの自主行動計画にも参加していない企業として、中堅企業・大企業も含む。)が行った温室効果ガス排出抑制のための取組による排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用する国内クレジット制度、コンビナート等の産業集積地における工場排熱の企業間での融通等、複数の事業者が共同して自主的に省エネ・排出削減を行う仕組み(エネルギー・CO2共同削減事業)の構築を通じ、省エネルギー効果の大きい連携事業に対する支援を行います。

 農林水産分野においては、平成19年6月に策定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき実施してきたバイオマスの利活用の推進等の地球温暖化防止策、暑さに強い品種の開発や栽培体系の見直し等の地球温暖化適応策、わが国の技術を活用した国際協力を引き続き推進します。さらに、同戦略を平成20年7月に改定し、農山漁村地域に賦存するさまざまな資源やエネルギーの有効活用による低炭素社会実現に向けた農林水産分野の貢献等を実施します。

 (イ)業務その他部門の取組

 省エネルギー法を改正し、現行の「工場・事業場単位」による規制から「企業単位」での総合的なエネルギー管理へ法体系を改正するとともに、一定の要件を満たすフランチャイズチェーンについてチェーン全体を一体として捉え、本部事業者に対し、事業者単位の規制と同様のエネルギー管理を導入することで、工場・オフィスビル等の実効性のある省エネ取組のさらなる強化を行います。また、改正省エネルギー法により、建築物に係る省エネルギー措置の届出等の義務付けの対象について、一定の中小規模の建築物へ拡大するため、法改正の趣旨の周知徹底を行います。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)の充実・普及、省エネ改修等の建築物の省エネルギーに関する設計等に係る情報提供等の推進を行います。さらにエネルギー需給構造改革推進投資促進税制により、省エネ効果の高い窓と空調、照明、給湯等の建築設備から構成される高効率ビルシステムの普及の推進を行います。トップランナー基準については、さらに個別機器の効率向上を図るため、対象を拡大するとともに、すでに対象となっている機器の対象範囲の拡大及び基準の強化を図ります。

 また、平成19年3月に閣議決定された政府実行計画に基づき、政府の事務及び事業に関し、率先的な取組を実施します。特に、全国の国の庁舎において、太陽光発電、建物緑化、ESCO等のグリーン化を推進します。政府実行計画に基づく取組に当たっては、平成19年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成19年法律第56号)に基づき、環境配慮契約を実施します。

 (ウ)家庭部門の取組

 改正省エネルギー法により、ハウスメーカー等が建築・販売する戸建建売住宅の省エネ性能の向上を図る措置を導入し、また、建築物と同様、住宅に係る省エネルギー措置の届出の義務付けの対象について、一定の中小規模の住宅へ拡大するため、法改正の趣旨の周知徹底を行います。また、消費者等が省エネルギー性能のすぐれた住宅を選択することを可能とするため、住宅等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)や住宅性能表示制度の充実・普及、住宅設備を含めた総合的な省エネ評価方法の開発を推進し、省エネルギー性能の評価・表示による消費者等への情報提供を促進します。さらに、既存住宅において一定の省エネルギー改修(窓の二重サッシ化等)を行った場合の固定資産税の税額減額措置等を延長し、また、製造事業者等による省エネルギー性能の品質表示制度を円滑に実施するとともに、その省エネルギー効果について各種媒体を活用した周知徹底を行うこととし、住宅リフォーム時に導入可能な各種省エネ対策について普及啓発を行います。家庭におけるエネルギー消費量の約3割を占める給湯部門においては、従来方式に比べ省エネルギー性能が特にすぐれたCO2冷媒ヒートポンプ給湯器等の機器が開発され製品化されており、これらの機器の加速的普及を図るため、その導入に対する支援を行い、事業者によるさらなる普及を促進するとともに、小型化・設置容易化等の技術開発を促進します。

 (エ)運輸部門の取組

 自動車単体対策のみならず、交通流対策、燃料対策、エコドライブなどの自動車利用の効率化対策等も含めた総合的アプローチを推進します。自動車単体対策として、世界最高水準の燃費技術により燃費の一層の改善や、燃費性能のすぐれた自動車やクリーンエネルギー自動車の普及等の対策を推進します。あわせて、環状道路等幹線道路網の整備等の推進により、交通流対策を実施します。また、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律第59号)に基づく地域公共交通活性化・再生総合事業により、地域鉄道の活性化、都市部におけるLRTBRTの導入、乗継の改善等を総合的に支援します。物流分野に関しては、配送を依頼する荷主と配送を請け負う物流事業者の連携を強化し、地球温暖化対策に係る取組を拡大することで、物流体系全体のグリーン化を推進します。また、自動車輸送から二酸化炭素排出量の少ない内航海運又は鉄道による輸送への転換を促進するとともに、国際貨物の陸上輸送距離の削減にも資する港湾の整備を推進します。

 船舶の革新的省エネ技術の開発、船舶実燃費指標(海の10モード)の開発・国際標準化、内航海運における省エネ船舶の普及促進等により海運分野の低炭素化を推進します。

 輸送用燃料については、バイオエタノール3%混合ガソリンの利用拡大に取り組むとともに、さらに高濃度の利用に向けた走行実証等を行います。

 (オ)エネルギー転換部門の取組

 発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電については、今後も安全確保を大前提に、原子力発電の一層の活用を図るとともに、基幹電源として官民相協力して着実に推進していきます。また、原子力等のほかのエネルギー源とのバランスやエネルギーセキュリティを踏まえつつ、天然ガスへの転換等その導入及び利用拡大を推進します。再生可能エネルギーの利用を促進するため、全量固定価格買取制度の創設に係る施策を講じます。また、再生可能エネルギーを利用するための設備の設置の促進電力系統の整備の促進、規則の適切な見直し等、必要な施策を講じます。また、天然ガスコジェネレーションや燃料電池、ヒートポンプについても推進していきます。

(2)非エネルギー起源二酸化炭素、メタン及び一酸化二窒素に関する対策の推進

 廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進による化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減、廃棄物の最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物焼却施設における燃焼の高度化、混合セメントの利用の拡大、下水汚泥の燃焼の高度化等を引き続き推進します。

(3)代替フロン等3ガスに関する対策の推進

 産業界の計画的な取組の推進、代替物質等の開発等、代替物質を使用した製品等の利用の促進、冷媒として機器に充填されたHFCの法律に基づく回収等の施策を、引き続き実施します。

 具体的には、事業者の排出抑制のための取組の促進と先導的な技術導入に対する支援、冷凍空調機器や断熱材における温室効果の低いガスを用いた技術開発の早急な推進、代替フロンを含有する製品における「見える化」の推進(二酸化炭素換算表示)、特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(以下「フロン回収・破壊法」という。)による冷媒フロン類の回収の徹底、冷媒フロン類の使用時排出対策、特定家庭用機器再商品化法(以下「家電リサイクル法」という。)及び使用済自動車の再資源化等に関する法律自動車リサイクル法)に基づくフロン類回収の徹底、発泡断熱材、エアゾールなどのノンフロン化をさらに推進するための普及啓発等に取り組みます。また、代替物質を使用した製品等の利用を促進するため省エネ型自然冷媒冷凍等装置の導入補助等を引き続き行います。

(4)温室効果ガス吸収源対策の推進

 森林吸収量(1990年以降に森林経営活動等が行われた森林の吸収量)については、1,300万炭素トン(基準年度総排出量比約3.8%)の確保のため、平成19年度以降の6年間に、毎年55万haの間伐等の森林整備の実施が必要な状況となっています。

 このため、森林境界を明確化する取組への助成や「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法(平成20年5月施行)」に基づく措置等を活用し、間伐等の森林整備を引き続き推進します。

 また、都市における吸収源対策として、引き続き都市公園整備、道路緑化等による新たな緑化空間を創出し、都市緑化等を推進します。

 さらに平成20年7月に改定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、農地土壌の温室効果ガスの吸収源としての機能の活用に向けた取組等を実施します。

2 横断的施策

(1)温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度

 地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)の改正により、平成22年度の報告から現行の「事業所単位」による報告から「事業者、フランチャイズチェーン単位」での報告へ制度が改正され、業務部門を中心に対象範囲が拡大することに伴い、事業者による算定・報告が着実かつ適切に実施されるよう、引き続き周知を図るとともに、報告された排出量等を確実に集計し公表します。

(2)排出抑制等指針

 地球温暖化対策推進法第21条に基づく排出抑制等指針について、引き続き産業部門その他の部門についても必要に応じて検討を行うなど、事業者による温室効果ガスの排出抑制等のための取組を一層推進していく予定です。

(3)国民運動の展開

 政府では、全ての主要国による公平かつ実効的な枠組みの構築と意欲的な目標への合意を前提に温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減するという目標に向け、2010年1月14日より地球温暖化防止のための新たな国民運動「チャレンジ25キャンペーン」を展開しています。この国民運動では特にCO2が増加しているオフィスや家庭などにおけるCO2削減の具体的な行動を「6つのチャレンジ」として提案し、その行動の実践を広く国民の皆様に呼びかけていきます。

(4)「見える化」の推進

 「カーボンフットプリント制度」の構築・普及等の取組を引き続き行うとともに、前述した日常生活CO2情報提供ツールや「見える化」による温室効果ガスの削減効果の把握のための調査の結果を活用しつつ、主に家庭部門や業務部門での温室効果ガス削減のための施策を進めていく予定です。

(5)環境税等の経済的手法

 環境税等の経済的手法については、第6章第8節参照。

(6)国内排出量取引制度

 2010年3月に国会に提出した地球温暖化対策基本法案においては、温室効果ガスの排出の量の削減が着実に実施されるようにするため、キャップ・アンド・トレード方式による国内排出量取引制度の創設を盛り込んでおり、このために必要な法制上の措置について、地球温暖化対策のための税と並行して検討を行い、法施行後1年以内を目途に成案を得ていきます。

 また、2008年10月に開始した「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」については、本格制度の基盤となるものではありませんが、排出実態等に関する情報収集、排出量の算定・検証の体制の整備、対象事業者における排出量取引への習熟等の意義があることから、本格制度に向けた準備のため、見直しを行った上で継続することとしています。

 なお、自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)や国内クレジット制度については、引き続きその運営を行っていきます。

(7)カーボン・オフセット

 オフセットに関する国内・海外の情報収集や、「カーボン・オフセットフォーラム(J-COF)」を活用した継続的な普及啓発・相談支援を通じて、オフセットの取組実態を踏まえたガイドラインや基準の策定・見直しを行います。また、「オフセット・クレジット(J-VER)制度」については、対象となるプロジェクトの拡充やJ-VER認証プロセスの効率化により、J-VER制度の円滑な運営を図るとともに、事業者等への支援を充実させるなど制度活用を促進させるための取組を強化していきます。

 日本カーボンアクション・プラットフォーム(JCAP)のネットワークも活用しつつ、これらを通じてオフセットの取組を社会全体に定着させることで、市民・企業等あらゆる主体における排出削減等の活動を促進し、わが国を低炭素社会にシフトするための基盤づくりに貢献します。

3 基盤的政策

(1)排出量・吸収量算定方法の改善等

 気候変動に関する国際連合枠組条約に基づき、温室効果ガス排出・吸収目録(インベントリ)を報告します。また、温室効果ガス排出量・吸収量のさらなる精度等の向上に向けた算定方法の改善を必要に応じて行います。さらに、情報解析等を行うほか、インベントリ作成の迅速化等を図ります。

(2)地球温暖化対策技術開発の推進

 地球温暖化の防止及び地球温暖化への適応に資する技術の高度化及び有効活用を図るため、再生可能エネルギーの利用、安全の確保を基本とした原子力発電、エネルギーの使用の合理化、燃料電池、蓄電池並びに二酸化炭素の回収及び貯留に関連する革新的な技術等の開発及び普及を促進します。

 農林水産分野においては、農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を強化します。

(3)観測・調査研究の推進

 地球温暖化の実態を解明し、科学的知見を踏まえた一層適切な対策を講じるため、環境研究総合推進費等を活用し、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究を総合的に推進します。

 わが国を含む各国の研究機関による「低炭素社会国際研究ネットワーク」を引き続き支援し、国際的に研究を推進します。

 地球温暖化分野の観測にかかわる関係府省・機関が参加する連携拠点の運営や、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)(第6章第3節1(4)参照)等を用いた森林炭素吸収量の推定、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)第6章第3節1(4)参照)等の開発・運用を行う等、温室効果ガス、気候変動及びその影響等を把握するための総合的な観測・監視体制を強化します。



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