第3節 化学物質の環境リスクの管理

1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

 化学物質審査規制法に基づき、平成21年度は、新規化学物質の製造・輸入について574件(うち低生産量新規化学物質については270件)の届出があり、事前審査を行いました(図4-3-1)。


図4-3-1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律のポイント

 また、昭和48年の化学物質審査規制法公布時に製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)等の安全性点検を行っており、平成21年度には、分解性・蓄積性について16物質、人への健康影響について26物質、生態毒性について59物質についての安全性評価に関する審議を行いました。さらに、既存化学物質の安全性点検を加速するため、国と産業界が連携し、国内製造・輸入量が1,000t/年以上の既存化学物質について、安全性情報を収集し、国民に対し分かりやすく情報発信することを目的とする「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称:Japanチャレンジプログラム)」を推進しました。具体的には、事業者からの情報収集に係る協力が得られていない化学物質については引き続き公開し、本プログラムへの事業者の参加を促進したほか、本プログラムで得られた情報の発信を行うデータベース(J-CHECK)のさらなる充実を図りました。(http://www.safe.nite.go.jp/jcheck/Top.do;jsessionid=BA09D044CB02DE606B97FB0C614A10FB

 さらに、持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)における「2020年までに、すべての化学物質による人の健康や環境への影響を最小化する」という目標を踏まえ、厚生科学審議会、産業構造審議会及び中央環境審議会の合同会合において、化学物質審査規制法の見直しに関する検討を行いました。この結果を踏まえ、化学物質審査規制法の一部を改正する法律案が平成21年2月に閣議決定され、通常国会において同年5月に成立しました。本改正により、「環境中で分解しにくい化学物質」に加え、「環境中で分解しやすい化学物質」についても規制の対象とし、平成23年度からは、新たに「既存化学物質」についても製造・輸入実績数量等の届出を義務づけ、届出を踏まえ優先度をつけて化学物質のリスク評価を実施することとなりました。(http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/kaisei21.html)また、同年5月に開催された残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下「POPs条約」という。)第4回締約国会議において新たに廃絶・制限の対象物質とすることが決定されたペルフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)(別名PFOS)等12物質を第1種特定化学物質に追加する等、本法施行令等についても所要の改正を行いました。(http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/minaoshi_seirei.html

2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

 化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)については、同法施行後の第8回目の届出として、平成20年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、平成22年2月に公表しました(図4-3-2図4-3-3図4-3-4)。MSDS(化学物質等安全データシート)制度については、パンフレットの配布等を行い、より一層の定着を図りました。さらに、平成21年度に、PRTR制度及びMSDS制度の普及を含め、事業者による自主的な化学物質管理を促進させるために、全国8か所において講演会を実施しました。平成20年11月の対象物質の見直し及び第一種指定化学物質等取扱事業者になり得る業種への医療業の追加を内容とする化学物質排出把握管理促進法に基づく政令の一部改正について、関係資料の配布等や、事業者や地方公共団体への周知等を行いました。また、「廃棄物の処理方法」等の届出事項の追加及び届出事項の集計を効率的に行うための二次元コードの採用等を内容とする同法に基づく省令の一部改正を行いました。さらに、個別事業所ごとのPRTRデータの公表を受け、PRTRデータの利用促進方策について検討を行いました。


図4-3-2 化学物質の排出量の把握等の措置(PRTR)の実施の手順


図4-3-3 届出排出量・届出外排出量の構成(平成20年度分)


図4-3-4 届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量(平成20年度分)

3 ダイオキシン類問題への取組

 ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)の2つの枠組みにより進められています。

 平成11年3月に策定された基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリーの作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進を定めています。

 一方、ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、土壌汚染に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

(1)環境への排出と人への影響

 ア 環境中の汚染状況

 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成20年度にダイオキシン法に基づく常時監視などにより、大気、水質、底質、土壌等の調査を実施しました。(表4-3-1


表4-3-1 平成20年度ダイオキシン類に係る環境調査結果(モニタリングデータ)(概要)

 イ 排出インベントリー

 ダイオキシン法及び基本指針に基づき国の削減計画で定めたダイオキシン類の排出量の削減目標が達成されたことを受け(図4-3-5)、平成17年に国の削減計画を変更し、新たな目標値として22年までに15年に比べて約15%の削減をすることとしました。21年11月のインベントリー(目録)では、20年の排出総量の推計は、15年から約43%の削減がなされており、順調に削減が進んでいます。


図4-3-5 ダイオキシン類の排出総量の推移

 ウ 人の摂取量

 平成21年度の調査において、平成20年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.94(※)pg-TEQと推定されました(図4-3-6図4-3-7)※食事からのダイオキシン類の摂取量は0.92pg-TEQです。この数値は経年的な減少傾向から大きく外れるものではなく、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています。


図4-3-6 日本におけるダイオキシン類の1人1日摂取量(平成20年度)


図4-3-7 食品からのダイオキシン類の一日摂取量の経年変化

(2)ダイオキシン法の施行

 ア 特定施設の届出状況の把握

 ダイオキシン法に基づく特定施設のうち大気基準適用の特定施設については、平成20年度末現在、全国で11,796施設があり、廃棄物焼却炉が10,792施設(4トン/h以上の大型炉:1,131、2~4トン/hの中型炉:1,482、2トン/h未満の小型炉:8,179)、産業系施設が1,004施設(アルミニウム合金製造施設:840、製鋼用電気炉:111等)でした。また、20年度に504の廃棄物焼却炉が廃止又は排出基準の適用を受けない小さな規模に構造が変更されました。

 水質基準適用の特定事業場については、平成20年度末現在、全国で1,879事業場の届出があり、その大部分(1,428事業場)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設でした。

 イ 規制指導状況

 ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、平成20年度は大気基準適用施設で85件、水質基準適用事業場で2件、合計87件(平成19年度104件)で、前年度に比べ減少しました。また20年度において、法に基づく命令が発令された件数は、大気関係27件、水質関係0件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係3,341件、水質関係136件でした。

 ウ 土壌汚染対策

 環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに5地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定されています。これら5地域では、対策計画に基づく事業が完了しました。これらの対策に係る都道府県等が負担した経費に対し助成を行いました。さらに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(3)その他の取組

 ア ダイオキシン類の測定における精度管理の推進

 平成17年に改定された「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」又は平成18年に作成された「ダイオキシン類の環境調査に係る精度管理の手引き(生物検定法)」に基づいて実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、測定に係る精度管理を推進するために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。

 イ 調査研究及び技術開発の推進

 ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性やばく露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。

 また、環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。

 さらに、廃棄物焼却炉からの排出ガス、ばいじん及び燃え殻について簡易測定法の導入に向けた検討等に取り組みました。

4 農薬のリスク対策

 農薬の使用は生理活性を有する物質を環境中に放出するものであり、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、農薬は、農薬取締法に基づき規制されており、農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬の登録を保留するかどうかの基準(農薬登録保留基準)のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る基準を環境大臣が定めています。

 水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準について、個別農薬の基準値の設定を行いました。また、農薬登録保留基準については、国内外の知見や国際的な動向を考慮して、その充実を図るための検討を行いました。

 特定農薬については、「特定防除資材(特定農薬)指定のための評価に関する指針」の改正を行うとともに、「特定防除資材(特定農薬)の指定に関する資料を提供する際の資料概要の様式及び記入例について」を策定し、個別資材の指定に向けた検討を行いました。

 さらに、農薬の環境リスク対策の推進に資するため、農薬使用基準の遵守状況の確認、農薬の各種残留実態調査、農薬の生態影響調査、農薬の飛散対策に関する調査、農薬の吸入毒性に関する調査等を実施しました。



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