第2節 地球温暖化防止に向けた国内対策

 今後、京都議定書目標達成計画に規定された対策・施策について、各部門において各主体が全力で取り組むことにより、森林吸収量の目標である1300万炭素トン(基準年総排出量比3.8%)の確保、京都メカニズムの活用(同比1.6%)と併せて、京都議定書第一約束期間の目標を達成することとしています。

 同計画の実効性を確保し、京都議定書の6%削減約束を確実に達成していくためには、温室効果ガス別その他の区分ごとの目標の達成状況、個別の対策・施策の進捗状況について、各種データの整備・収集を図りつつ、厳格に点検し、機動的に計画を改定し、対策・施策の追加・強化を行うことが不可欠です。

 そのため、地球温暖化対策推進本部において、個々の対策について政府が講じた施策の進捗状況等の点検を毎年厳格に行います。

 具体的には、毎年6月頃と年内を目途に、地球温暖化対策推進本部等において、すべての対策評価指標等について、進捗状況の点検を行い、進捗が遅れている項目についての充実強化等や、排出量が増加傾向にある部門を中心に対策・施策の追加・強化の検討を進め、また、必要に応じ、毎年度、目標達成計画を見直すこととしています。

 さらに、第一約束期間の中間年度である2010年度以降速やかに、目標達成のために実効性のある追加的対策・施策を実施できるよう、2009年度には、第一約束期間全体(5年間)における我が国の温室効果ガス排出量見通しを示し、本計画に定める対策・施策の進捗状況・排出状況等を総合的に評価し、必要な措置を講じることとしています。

 そのほか、地域の自然的社会的条件に応じた地球温暖化対策を推進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施を支援します。

1 温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策

(1)エネルギー起源二酸化炭素に関する対策の推進

 ア 低炭素型の都市・地域構造や社会経済システムの形成

 環境負荷の小さいまちづくりの実現に向け、公共交通機関の利用促進、未利用エネルギーや自然資本の活用等を面的に実施するため、CO2削減シミュレーションを通じた実効的な計画策定や事業の実施を支援します。

 都市整備事業の推進、民間活動の規制・誘導などの手法を組み合わせて、集約型都市構造の実現、都市緑化等の推進、下水道における資源・エネルギーの有効利用等の促進、エネルギーの面的な利用の促進などを総合的に行うことにより、低炭素型都市構造を目指した都市づくりを推進するとともに、環状道路等幹線道路網の整備や高度道路交通システムITS)の推進等の交通流対策等の実施により低炭素型の交通システムを構築することを目指します。この際、エネルギーの需給に関連する各主体が、他の主体と連携してエネルギー効率の更なる向上を目指し、他の主体の省CO2化に積極的に貢献する取組を推進します。

 イ 部門別(産業・民生・運輸等)の対策・施策

 (ア) 産業部門(製造事業者等)の取組

 自主行動計画については、改定目標達成計画において示された観点を踏まえ、政府による自主行動計画の厳格な評価・検証を行います。中小企業における排出削減対策の強化のため、中小企業の排出削減設備導入における資金面の公的支援の一層の充実や、大企業等の技術・資金等を提供して中小企業等(いずれの自主行動計画にも参加していない企業として、中堅企業・大企業も含む。)が行った温室効果ガス排出抑制のための取組による排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用する、又は、コンビナート等の産業集積地において工場排熱を企業間で融通する等、複数の事業者が共同して自主的に省エネ・排出削減を行う仕組み(エネルギー・CO2共同削減事業)を構築し、また、省エネルギー効果の大きい連携事業に対して支援を行います。

 農林水産分野においては、平成19年6月に策定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき実施してきたバイオマスの利活用の推進等の地球温暖化防止策、暑さに強い品種の開発や栽培体系の見直し等の地球温暖化適応策、我が国の技術を活用した国際協力を引き続き推進します。さらに、同戦略を平成20年7月に改定し、農山漁村地域に賦存する様々な資源やエネルギーの有効活用による低炭素社会実現に向けた農林水産分野の貢献等を実施します。

 (イ) 業務その他部門の取組

 省エネルギー法を改正し、現行の「工場・事業場単位」による規制から「企業単位」での総合的なエネルギー管理へ法体系を改正するとともに、一定の要件を満たすフランチャイズチェーンについてチェーン全体を一体として捉え、本部事業者に対し、事業者単位の規制と同様のエネルギー管理を導入することで、工場・オフィスビル等の実効性のある省エネ取組の更なる強化を行います。また、改正省エネルギー法により、建築物に係る省エネルギー措置の届出等の義務付けの対象について、一定の中小規模の建築物へ拡大するため、法改正の趣旨の周知徹底を行います。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)の充実・普及、省エネ改修等の建築物の省エネルギーに関する設計等に係る情報提供等の推進を行います。さらにエネルギー需給構造改革推進投資促進税制により、省エネ効果の高い窓と空調、照明、給湯等の建築設備から構成される高効率ビルシステムの普及の推進を行います。トップランナー基準については、更に個別機器の効率向上を図るため、対象を拡大するとともに、既に対象となっている機器の対象範囲の拡大及び基準の強化を図ります。

 また、平成19年3月に閣議決定された新たな政府実行計画に基づき、政府の事務及び事業に関し、率先的な取組を実施します。特に、全国の国の庁舎において、太陽光発電、建物緑化、ESCO等のグリーン化を集中的に推進します。政府実行計画に基づく取組に当たっては、平成19年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した法律(平成19年法律第56号)に基づき、環境配慮契約を実施します。

 (ウ) 家庭部門の取組

 改正省エネルギー法により、ハウスメーカー等が建築・販売する戸建建売住宅の省エネ性能の向上を図る措置を導入し、また、建築物と同様、住宅に係る省エネルギー措置の届出の義務付けの対象について、一定の中小規模の住宅へ拡大するため、法改正の趣旨の周知徹底を行います。また、消費者等が省エネルギー性能の優れた住宅を選択することを可能とするため、住宅等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)や住宅性能表示制度の充実・普及、住宅設備を含めた総合的な省エネ評価方法の開発を推進し、省エネルギー性能の評価・表示による消費者等への情報提供を促進します。さらに、既存住宅において一定の省エネルギー改修(窓の二重サッシ化等)を行った場合に係る省エネ改修促進税制を延長し、また、製造事業者等による省エネルギー性能の品質表示制度を円滑に実施するとともに、その省エネルギー効果について各種媒体を活用した周知徹底を行うこととし、住宅リフォーム時に導入可能な各種省エネ対策について普及啓発を行います。家庭におけるエネルギー消費量の約3割を占める給湯部門においては、従来方式に比べ省エネルギー性能が特に優れたCO2冷媒ヒートポンプ給湯器等の機器が開発され製品化されており、これらの機器の加速的普及を図るため、その導入に対する支援を行い、事業者による更なる普及を促進するとともに、小型化・設置容易化等の技術開発を促進します。

 (エ) 運輸部門の取組

 自動車単体対策として、世界最高水準の燃費技術により燃費の一層の改善を図るとともに、燃費性能の優れた自動車やクリーンエネルギー自動車の普及等の対策を推進します。合わせて、環状道路等幹線道路ネットワークの整備等を推進するとともに、高速道路の多様で弾力的な料金施策等により、交通流対策を実施します。また、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律第59号)に基づく地域公共交通活性化・再生総合事業により、地方鉄道の活性化、都市部におけるLRTBRTの導入、乗継の改善等を総合的に支援します。物流分野に関しては、配送を依頼する荷主と配送を請け負う物流事業者の連携を強化し、地球温暖化対策に係る取組を拡大することで、物流体系全体のグリーン化を推進します。また、自動車輸送から二酸化炭素排出量の少ない内航海運又は鉄道による輸送への転換を促進するとともに、国際貨物の陸上輸送距離の削減にも資する港湾の整備を推進します。

 革新的省エネ技術の開発、船舶実燃費指標(海の10モード)の開発・国際標準化、内航海運における省エネ船舶の普及促進等からなるクールシッピング(海運分野の低炭素化)を推進します。

 輸送用燃料については、バイオエタノール3%混合ガソリンの利用拡大に取り組むとともに、さらに高濃度の利用に向けた走行実証等を行います。

 (オ) エネルギー転換部門の取組

 発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電については、今後も安全確保を大前提に、原子力発電の一層の活用を図るとともに、基幹電源として官民相協力して着実に推進していきます。また、原子力等の他のエネルギー源とのバランスやエネルギーセキュリティを踏まえつつ、天然ガスへの転換等その導入及び利用拡大を推進します。太陽光や太陽熱、風力、バイオマス、小水力等を活用した新エネルギーは、地球温暖化対策に大きく貢献するとともに、エネルギー源の多様化に資するため、国の支援策の充実等によりその導入を促進します。また、天然ガスコジェネレーションや燃料電池、ヒートポンプについても推進していきます。


(2)非エネルギー起源二酸化炭素、メタン及び一酸化二窒素に関する対策の推進

 廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進による化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減、廃棄物の最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物焼却施設における燃焼の高度化、混合セメントの利用の拡大、下水汚泥の燃焼の高度化等を引き続き推進します。


(3)代替フロン等3ガスに関する対策の推進

 産業界の計画的な取組の促進、代替物質等の開発等、代替物質を使用した製品等の利用の促進、冷媒として機器に充填されたHFCの法律に基づく回収等の施策を、引き続き実施します。

 具体的には、事業者の排出抑制のための取組の促進と先導的な技術導入に対する支援、冷凍空調機器や断熱材における温室効果の低いガスを用いた技術開発の早急な推進、代替フロンを含有する製品における「見える化」の推進(二酸化炭素換算表示)、特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(以下「フロン回収・破壊法」という。)による冷媒フロン類の回収の徹底、特定家庭用機器再商品化法(以下「家電リサイクル法」という。)及び使用済自動車の再資源化等に関する法律自動車リサイクル法)に基づくフロン類回収の徹底、とりわけ家電リサイクル法施行令の改正により追加されたヒートポンプ式洗濯乾燥機からのフロン類回収義務の着実な実施、発泡断熱材、エアゾールなどのノンフロン化をさらに推進するための普及啓発等に取り組みます。また、代替物質を使用した製品等の利用を促進するため省エネ自然冷媒冷凍等装置の導入補助等を引き続き行うとともに、液体PFC等の自主的な排出抑制対策を促進します。


(4)温室効果ガス吸収源対策の推進

 森林吸収量(1990年以降に森林経営活動等が行われた森林の吸収量)については、1,300万炭素トン(基準年度総排出量比3.8%)の確保のため、現状水準に加え、毎年20万haの追加的な間伐等の森林整備の実施が必要な状況となっています。

 このため、[1]国産材利用を通じた適切な森林整備、[2]森林を支える活き活きとした担い手・地域づくり、[3]都市住民・企業等幅広い森林づくりへの参画、などの取組を官民一体となって進める「美しいもり(もりと)づくり推進国民運動」を展開するなど、引き続き幅広い国民の理解と協力のもと、間伐等の森林整備等の加速化のための支援策を推進します。

 また、都市における吸収源対策として、引き続き都市公園整備、道路緑化等による新たな緑地空間を創出し、都市緑化等を推進します。

 さらに平成20年7月に改定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、農地土壌の温室効果ガスの吸収源としての機能の活用に向けた取組等を実施します。

2 横断的施策

(1)温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度

 地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)の改正により、平成22年度の報告から現行の「事業所単位」による報告から「事業者、フランチャイズチェーン単位」での報告へ制度が改正され、業務部門を中心に対象範囲が拡大することに伴い、事業者による算定・報告が着実かつ適切に実施されるよう、周知を図るとともに、報告された排出量等を確実に集計し公表します。


(2)排出抑制等指針

 地球温暖化対策推進法第21条に基づく排出抑制等指針については、現時点では主に業務部門における事業者が講ずべき措置について示していますが、今後は産業部門等他の部門における対策の内容についても必要に応じて検討を行う予定です。また、産業界の実態を反映し、実際の事業活動において事業者の参考となる、排出抑制等を努める上での望ましい排出原単位(経済活動の量を代表するものの単位量当たりの温室効果ガスの排出量)の水準についても必要に応じて検討を行うなど、事業者による温室効果ガスの排出抑制等のための取組を一層推進していく予定です。


(3)国民運動の展開

 京都議定書の第一約束期間の開始を踏まえ、地球温暖化防止行動の実践を促す「チーム・マイナス6%」の運動を引き続き実施していくとともに、低炭素社会づくりに向けて企業や国民がワークスタイル及びライフスタイルの変革のための行動を全国的・地域的に起こし、2050年までに60%~80%の温室効果ガス削減を目指す長期目標を達成するため、効果的な広報事業を展開していきます。


(4)「見える化」の推進

 低炭素社会づくり行動計画において、「見える化」について、2008年度中に排出量の算定やその信頼性の確保、表示の方法等に関するガイドラインを取りまとめることとされています。平成21年度以降は、このガイドラインをもとに、前述した日常生活CO2情報提供ツール(仮称)の試行的運用など、「見える化」の推進に関する試行的な実験を行い、本格的な導入に向けた作業を進めていく予定です。


(5)環境税等の経済的手法

 環境税等の経済的手法については、第6章第8節参照。


(6)国内排出量取引制度

 2008年10月に開始した「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」について、引き続き参加者の募集を行うとともに、その円滑な実施及びフォローアップを行い、ここでの経験を活かしながら、排出量取引を本格導入する場合に必要となる条件、制度設計上の課題等を明らかにして日本の特色を活かせる制度設計を行い、国際的なルール作りの場でもリーダーシップを発揮していきます。

 なお、自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)や国内クレジット制度については、引き続きその運営を行っていきます。


(7)カーボン・オフセット

 オフセットに関する海外との連携強化による情報収集や、「カーボン・オフセットフォーラム(J-COF)」を活用した継続的な普及啓発・相談支援を通じて、オフセットの取組実態を踏まえたガイドラインや基準の見直しを行います。また、モデル事業の実施等により「オフセット・クレジット(J-VER)制度」の対象となるプロジェクトを拡充するなど、J-VER制度の円滑な運営に努めます。

 JCAPのネットワークも活用しつつ、これらを通じてオフセットの取組を社会全体に定着させることで、市民・企業等あらゆる主体における排出削減等の活動を促進し、我が国を低炭素社会にシフトするため基盤作りに貢献します。

3 基盤的政策

(1)排出量・吸収量算定方法の改善等

 気候変動に関する国際連合枠組条約に基づき、温室効果ガス排出・吸収目録(インベントリ)を報告します。また、温室効果ガス排出量・吸収量の更なる精度等の向上に向けた算定方法の改善を必要に応じて行います。さらに、情報解析等を行うほか、インベントリ作成の迅速化等を図ります。


(2)地球温暖化対策技術開発の推進

 技術開発は、京都議定書目標達成計画において、その普及を通じて、環境と経済の両立を図りつつ、将来にわたり大きな温室効果ガス削減効果が期待できる取組として位置付けられており、第3期科学技術基本計画や分野別推進戦略に関係する各府省が連携し、産学官で協力しながら総合的に推進します。

 農林水産分野においては、農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を強化します。


(3)観測・調査研究の推進

 地球温暖化の実態を解明し、科学的知見を踏まえた一層適切な対策を講じるため、地球環境研究総合推進費等を活用し、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究を総合的に推進します。

 各国の低炭素社会づくりに関係する研究機関による「低炭素社会国際研究ネットワーク」を構築し、国際的に研究を推進します。

 地球温暖化分野の観測に関わる関係府省・機関が参加する連携拠点の運営や人工衛星「いぶき」(GOSAT)(第6章第3節1(5)参照)等を用いた温室効果ガスの観測技術の開発・運用を行う等、温室効果ガス、気候変動及びその影響等を把握するための総合的な観測・監視体制を強化するとともに、気候変動影響に対して脆弱なアジア太平洋地域を中心に、影響の監視・評価を行うネットワークの構築を進めることを通じ、同地域の温暖化対策への積極的参加を促します。



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