むすび 地球環境の健全な一部となる経済への転換

 持続可能な社会の形成が、人類にとって待ったなしの課題となっています。その課題を解決するためには、私たちの日常生活から経済産業活動のあり方まで、あらゆる領域において環境と経済を互いに助け合う形に変え持続的に発展させる視点での見直しが必要です。大量に生産し、消費し、廃棄するというこれまでの方法を見直すことが必要です。

 この取組を効果的に進めるには、多様な主体が連携し、様々な創意工夫を凝らていくことが重要です。また、取り組む施策は、環境対策だけに留まらず、経済的価値や社会的価値なども、併せて追求していくものでなくてはなりません。

 第1章では、地球とわが国の環境の状況について、環境問題の分野ごとに概観しました。

 第2章では、環境への負荷となる私たちの人間活動について、昨今の具体例を取り上げながら、その動向を概観しました。私たちの生活スタイルや経済情勢の変化は、環境と密接なかかわりを持っています。他方、環境を良くする様々な取組も行われています。これについても簡単に最新の状況を紹介しました。また、こうした取組が盛んになっている背景には、私たちの価値観の変化があると考えます。

 第3章では、その第1節で、世界が低炭素社会の構築、生物多様性の確保や3Rの構築へと向かう流れの中で、まさに今、大きな国際交渉が行われていて、こうした流れの方向を決める重要な時期であることを示しました。そして第2節で、昨今の世界的な不況の下で、グリーン・ニューディールと称される施策、つまり、環境を良くすることによって一層発展するような新しい形の経済づくりを進める政策が一斉に行われるようになりましたが、その意義や可能性を掘り下げました。最後に第3節では、わが国を持続可能な社会にするために、技術による相乗効果、社会的な連携による相乗効果が発揮されるような様々な取組が進められていることを紹介しました。それらの事例からは、低炭素社会、循環型社会及び自然共生社会の構築という環境分野の三つの目標を相互に密接に関連のあるものとして同時達成を目指すことが重要であるということが分かります。そうした姿勢により、相乗的に環境改善効果を高め、また、経済的にも一層豊かになることが見てとれました。

 環境を良くする取組を着実に続けることにより、私たちの生活の質は高まりますし、気候や生態系が健全に維持され、無駄の無い社会へと繋がっていきます。それを実現するには、あらためて地球が有限のシステムにより成り立っていることを認識し、人類の営む経済が、地球の大きな物質循環やエネルギーの流れ、健全な生態系の中で永続的に成り立つようなものに変えていかなくてはなりません。地球と共に生きる経済が目指すべき姿です。

 経済活動の本質は、資源や製品などを、それらを求める者へ適切に配分し、万人に十分な付加価値を与える活動に他ならず、環境と共存しながらも成り立つものです。すなわち、私たちの経済活動は、厳しい環境制約の下でも活発に活動を続けることができるはずのものと言えます。一方で私たちは、地球が有限なシステムにより成り立っていることに気づきつつも、その受け皿の大きさゆえに経済活動を通じて環境に負荷を与え続けてきました。しかし、環境の価値を無視して対価なく使い続ければ、やがてその価値を失うことになります。環境と共存した経済活動を実現するには、環境対策を織り込んだ新しい経済の形に移行することが重要です。

 私たちは、100年先、1000年先の子どもたちからこの地球を付託されています。将来の世代が安心して地球で暮らせるように、21世紀初頭の人類の選択が正しかったと言われるように、今こそ知恵と力を結集する時です。わが国は古くから、ものを大切にする文化を育んできました。様々な物を無駄なく最後まで使い切ること、自然から得られる恵みを取り尽くさずに持続的に農林水産業を営もうとする姿勢などに見てとれます。このような哲学をあらためて認識し、環境の価値を的確に経済に反映し、環境を良くする取組を地道に続けることによって、人類は地球の生態系の中の健全な一部として生存し続けることができると考えます。

 2008年、世界はかつてないほどの不況に直面しました。そして、今なお厳しい状況の中にあります。しかし、100年に一度の不況は、日本が世界でその存在感を示す千載一遇のチャンスです。環境対策、環境技術に対して日本の持てる知恵と人材を総動員し、いち早く環境と経済が持続的に発展する社会を作り、世界の価値観、国際社会の取組を私たちがリードしていきましょう。



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