第8節 社会経済のグリーン化の推進に向けた取組


1 経済的措置


(1)経済的助成
ア 政府関係機関等の助成
政府関係機関等による環境保全事業の助成については、表7-8-1のとおりでした。

表7-8-1政府関係機関等による環境保全事業の助成


イ 税制上の措置等
平成18年度税制改正において、自動車税のグリーン化及び低燃費車の取得に係る自動車取得税の軽減措置について、軽減対象を重点化した上で延長、重量車燃費基準を達成かつ排出ガス性能に優れたディーゼルバス・トラック等の自動車取得税の軽減措置の創設、公害防止用設備の特別償却制度の対象設備にアスベスト廃棄物処理用設備を追加する等の見直しを行った上で延長、エネルギー需給構造改革推進投資促進税制及び再商品化設備等の特別償却制度の対象設備にバイオマス利活用設備の追加などの措置を講じました。

(2)経済的負担
ア 基本的考え方
環境への負荷の低減を図るために経済的負担を課す措置については、その具体的措置について判断するため、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制、廃棄物の抑制などその適用分野に応じ、これを講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響及び諸外国の活用事例等につき、調査・研究を進めました。

イ 具体的な取組事例
平成18年度においては、経済的措置の検討が深められた事例として以下のようなものがあります。

(ア)政府における環境関連税の検討状況
地球温暖化防止のための環境税については、京都議定書目標達成計画(平成17年4月28日閣議決定)では、「国民に広く負担を求めることになるため、関係審議会をはじめとする各方面における地球温暖化対策に係るさまざまな政策的手法の検討に留意しつつ、地球温暖化対策全体の中での具体的な位置付け、その効果、国民経済や産業の国際競争力に与える影響、諸外国における取組の現状などを踏まえて、国民、事業者などの理解と協力を得るように努めながら、真摯に総合的な検討を進めていくべき課題である。」とされています。
環境省は、平成16、17年に引き続き18年8月末に環境税の創設要望を提出し、その後環境税の具体案を示しました。
これを受けて、税制改正論議において活発な議論が行われ、政府税制調査会では、平成18年12月の「平成19年度の税制改正に関する答申」において、「環境税については、国・地方の温暖化対策全体の中での環境税の具体的な位置付け、その効果、国民経済や国際競争力に与える影響、諸外国における取組状況、既存エネルギー関係諸税との関係等を十分に踏まえ、総合的に検討していく。」と答申しました。

(イ)地方公共団体における環境関連税導入の動き
地方公共団体において、環境関連税の導入の検討が進められています。例えば、産業廃棄物の排出量又は処分量を課税標準とする税について、平成19年3月末現在、28の地方公共団体で条例が制定され、27の団体で施行されました。税収は、主に産業廃棄物の発生抑制、再生、減量、その他適正な処理に係る施策に要する費用に充てられています。
また、森林整備等を目的とする税が16県において導入され、今後さらに8県において導入が予定されています。例えば、高知県では、県民税均等割の額に500円を加算し、その税収を森林整備等に充てるために森林環境保全基金を条例により創設するなど、実質的に目的税の性格を持たせたものとなっています。

2 環境配慮型製品の普及等


(1)グリーン購入の推進
グリーン購入法(図7-8-1)に基づき、国等の各機関では、基本方針に即して平成18年度の環境物品等の調達方針を定め、これに基づいて環境物品等の調達を推進しました。また、17年度の調達実績を取りまとめ、公表しました。

図7-8-1グリーン購入法の仕組み

基本方針に定められた、国等の各機関が特に重点的に環境物品等を調達することにより、環境物品等への市場の転換を推進すべき品目である特定調達品目及びその判断の基準等については、その開発・普及の状況、科学的知見の充実等に応じて適宜品目の追加・見直しを行っていくこととしています。平成18年度においても19年2月に基本方針の変更(変更後、特定調達品目は17分野222品目)について閣議決定しました。
地方公共団体については、すべての都道府県、政令指定都市が調達の方針を作成してグリーン購入に取り組んでいます。その取組をさらに促すため、基本方針の変更について、地方公共団体を対象とした説明会を全国10か所において開催しました。
グリーン購入の推進のためには、各地域において行政、地元の事業者、住民等によるネットワークが組織されることが重要です。そこで、グリーン購入地域ネットワークの構築を推進するために、地方公共団体、消費者、事業者等に対し、情報提供や啓発のためのセミナーを開催しました。また、環境物品等の情報を購入者に提供するため、製造者等によるグリーン購入法の特定調達物品(基本方針の判断の基準を満たす物品)に関する情報の提供の場として「グリーン購入法特定調達物品情報提供システム」を運用し、定期的に更新しました。さらに、各主体のグリーン購入への取組を推進するため、様々な団体のグリーン購入に関する情報を紹介する「グリーン購入取組事例データベース」を運用し、定期的に更新しました。

(2)環境ラベリング
消費者が環境負荷の低い製品を選択する際に適切な情報を入手できるように、環境ラベルその他の手法による情報提供を進めました。日本唯一のタイプI環境ラベル(ISO14024準拠)であるエコマーク制度では、ライフサイクルを考慮した指標に基づく新しい商品類型を整備しており、平成19年3月末現在、エコマーク対象商品類型数は47、認定商品数は5,239となっています。
事業者の自己宣言による環境主張であるタイプII環境ラベルや民間団体が行う環境ラベル等の情報提供制度を整理、分析して提供する「環境ラベル等データベース」をホームページに開設し、定期的に更新しました。
購入者に対して製品やサービスの環境情報を定量的に開示するタイプIII環境ラベル(ISO14025準拠)であるエコリーフの普及を進めました。平成19年3月末現在のラベル公開数は、430件となっています。
また、環境物品を国際的に流通させてグリーン購入の取組を推進するためには、各国の環境ラベル制度における基準の共通化等が必要であるため、我が国のエコマークを中心に、各国環境ラベル間の相互認証に関する調査・分析を行いました。

(3)標準化の推進
日本工業標準調査会(JISC)は、平成18年度、「木材・プラスチック再生複合材」、「一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化した道路用溶融スラグ」などの環境JIS制定・改正を行いました。また、環境関連法令や契約等の中での環境JISの位置づけを確認しながら自治体・企業・消費者のグリーン購入における環境JIS活用状況の調査・検討を行いました。

(4)ライフサイクルアセスメント(LCA)
製品やサービスに関するライフサイクルアセスメントの手法について、投入される資源、エネルギー量と生産される製品及び排出物のデータ収集、定量化などを行うインベントリ分析や、インベントリ分析の結果を各種環境影響カテゴリーに分類し、それを使用して環境影響の大きさと重要度を分析するインパクト評価の手法などの調査・研究の成果を、データベースの運用などにより普及を進めるとともに、LCA手法を活用して、企業における環境配慮設計の導入を支援し、環境配慮製品(エコプロダクツ)の開発・市場拡大を促進しました。また、商品やサービスに起因する環境負荷をライフサイクル的視点から定量化し、その結果を分かりやすく消費者に提供する「商品環境情報提供システム」を構築しました。

3 事業活動への環境配慮の組込みの推進


(1)環境マネジメントシステム
環境マネジメントシステムの要求事項を定めた国際規格であるISO14001及びこれを翻訳した日本工業規格JISQ14001について、この情報提供等を行うとともに中小企業への環境マネジメントシステムの普及を図るため、環境マネジメントシステム構築融資制度により、事業者のISO14001認証取得及びそれに伴う環境対策投資を支援しました。また、全国各地で講習会を開催しました。平成19年3月末現在、環境マネジメントシステムISO14001の審査登録件数が23,772件となる等、ISO14001への取組が進んでいます。

(2)環境パフォーマンス評価
事業者が環境関連データを自主的・積極的に収集し、環境パフォーマンス指標等の形で活用する状態を創出するには、これらのデータを収集・管理することの効用や効果を明確に示すことが必要です。このため、「事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン―2002年度版―」による普及を引き続き行いました。また、国内外の動向等を踏まえ、環境報告書ガイドラインとの関連性も考慮しつつ、同ガイドラインの改訂に向けて有識者等による検討会を実施しました。

(3)環境会計
事業者による効率的かつ効果的な環境保全活動の推進に資する環境会計システムの確立に向けて、「環境会計ガイドライン2005年版」による、環境会計の更なる普及促進に努めました。また、企業経営に役立つ環境管理会計手法の研究を実施し、報告書を取りまとめました。

(4)環境報告書
様々な事業者による環境報告書の作成、公表を促進するため、「環境報告書ガイドライン(2003年度版)」により環境報告書の普及促進を引き続き行いました。また、環境報告書の作成者、利用者、有識者等からなる検討会を開催し、ガイドライン改訂に向けた検討を行いました。このほか、環境コミュニケーション大賞による表彰や環境コミュニケーションシンポジウムの開催などにより、環境報告書への取組支援を実施しました。
また、平成18年度には、環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律(平成16年法律第77号。以下「環境配慮促進法」という。)に基づいて、環境報告書を作成・公表する義務のある一定の要件を満たした公的法人(以下「特定事業者」という。)による初めての環境報告書が作成・公表されています。そこで、インターネット上に開設している環境報告書データベースの機能を見直し、特定事業者が公表している環境情報を容易に比較、検索できるように、また中小企業者が積極的に環境情報を公表できるように、データベースの機能改善を図りました。
さらに、環境報告書の記載事項について解説した「環境報告書の記載事項等に関する手引き」や、環境報告書の自己評価を行うための「環境報告書の自己評価に関する手引き」(試行版)を通じて、環境報告書の信頼性の向上に努めました(図7-8-2)。

図7-8-2環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律の概要


(5)中小企業の取組の促進
エコアクション21」(環境活動評価プログラム)について、ガイドライン等によりその普及に努めました。また、中小規模の事業者が多い運輸関係企業(トラック、バス、タクシー、旅客船、内航海運、倉庫及び港湾運送)においても自主的に環境保全の取組が推進できるように、グリーン経営認証制度について、引き続きその普及に努めました。

(6)公害防止管理者制度
工場における公害防止体制を整備するため、特定工場における公害防止組織の整備に関する法律(昭和46年法律第107号)によって一定規模の工場に公害防止に関する業務を統括する公害防止統括者、公害防止に関して必要な専門知識及び技能を有する公害防止管理者等の選任が義務付けられており、約2万の特定工場において公害防止組織の整備が図られています。
同法に基づく公害防止管理者等の資格取得のために国家試験が、昭和46年度以降毎年実施されており、平成18年度の合格者数は5,134人、これまでの延べ合格者数は30万4,797人です。
また、国家試験のほかに、一定の技術資格を有する者又は公害防止に関する実務経験と一定の学歴を有する者が公害防止管理者等の資格を取得するには、資格認定講習を修了する方法があり、平成18年度の修了者数は2,452人、これまでの修了者数は24万8,844人です。

(7)温室効果ガスの排出量等の定量化等に関する標準化
温室効果ガスの排出量・除去量の定量化等に関する国際規格(ISO14064-1~3)が、平成18年3月1日付けで発行されました。事業活動における温室効果ガスの排出量・除去量の定量化等の適正化のため、これらの国際規格を基にしたJIS案を、18年度の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業として(社)産業環境管理協会において作成しました。

4 環境に配慮した投融資の促進


(1)金融のグリーン化
企業の社会的責任という観点から環境への取組をとらえる傾向が高まっていることを受けて、平成18年4月に「環境と金融に関する懇談会」を開催しました。この懇談会では、経済活動を支える金融が、環境など社会的課題への配慮を前提とされたものに変わっていくために、投資家及び預金者等の各主体に期待される役割やその課題について検討を行い、同年7月、その結果を報告書「環境等に配慮した「お金」の流れの拡大に向けて」に取りまとめました。また、懇談会の成果を踏まえ、証券業界との協力により、「環境と金融に関するシンポジウム」を開催しました。さらに、金融機関の環境担当者やCSR担当者を対象に、金融機関と環境省双方から情報提供を行い理解を深めることを目的とした意見交換会を、同年9月と12月に実施しました。

(2)政府関係機関による支援
環境に配慮した事業活動を行う事業者を支援するため、環境配慮型経営促進事業を日本政策投資銀行の投融資項目とし、環境面からのスクリーニング手法を用いた低利融資を引き続き実施しました。
また、平成18年から、中小企業金融公庫及び国民生活金融公庫の融資対象として大気汚染防止法に規定する特定粉じん(アスベスト)を発生又は飛散させた者を追加し、アスベスト等の除去、封じ込め等を行う者を支援しました。

5 その他環境に配慮した事業活動の促進

環境保全に資する製品やサービスを提供する環境ビジネスの振興は、環境への負荷の少ない持続可能な社会の実現を目指す上で、極めて重要な役割を果たすものであると同時に、経済の活性化、国際競争力の強化や雇用の確保を図る上でも大きな役割を果たすものです。
我が国の環境ビジネスの市場・雇用規模について、環境省がOECDの環境分類に基づき調査、推計しています。その結果、平成17年の市場規模は約44兆1千億円、雇用規模は約102万6千人となっています。
また、省エネ家電やエコファンドなど、環境保全を考えた消費者の行動が需要を誘発するビジネスも上記の環境ビジネスに加えた、環境誘発型ビジネスの市場・雇用規模については、平成17年の市場規模は約58兆3千億円、雇用規模は約137万2千人となっています(表7-8-2)。

表7-8-2環境ビジネス及び環境誘発型ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状

地域における企業、NPO、市民等が連携した環境に配慮したまちづくりに資する「環境コミュニティ・ビジネス」、企業がこれまで製品としていたものをサービス化して提供する「グリーン・サービサイジング事業」を発掘し、その展開を支援しました。

6 社会経済の主要な分野での取組


(1)物の生産・販売・消費・廃棄
ア 農林水産業における取組
たい肥等による土づくりを通じて化学肥料、化学合成農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業生産を推進するため、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)に対する金融・税制上の支援措置や、環境と調和のとれた持続的な農業生産を推進するために必要な共同利用機械・施設、土壌・土層改良等の整備に関する支援を引き続き行いました。
また、環境と調和のとれた農業生産活動を促進するため、農業者が環境保全に向けて最低限取り組むべき農業環境規範の普及・定着を引き続き推進しました。
畜産業において発生する家畜排せつ物からの環境負荷を低減するため、たい肥化施設等の施設整備を推進し、家畜排せつ物法に基づく適正な処理や保管の確保とともに、たい肥化による農業利用やエネルギー利用等の一層の推進を図りました。
さらに、自然環境や国土の保全など農業の多面的機能を発揮するため、効果の高い地域の共同活動や農業者ぐるみでの環境負荷の低減に向けた先進的な営農活動への支援策など、その基盤となる農地・水・環境の保全と質的な向上を図るための検討を進めました。
森林・林業においては、持続可能な森林経営及び地球温暖化対策の推進を図るため、造林、保育、間伐等の森林整備を推進するとともに、計画的な保安林の指定の推進及び治山事業等による機能が低下した保安林の保全対策、多様な森林づくりのための適正な維持管理、二酸化炭素の貯蔵庫となるなどの特徴を有する木材利用の推進に引き続き努めました。
水産業においては、持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)に基づく、漁協等による養殖漁場の漁場改善計画の作成を推進しました。また、つくり育てる漁業を推進するため、沿岸域の藻場・干潟の造成、底質改善等を実施しました。さらに、栽培漁業については、遺伝的多様性の確保、生態系への影響等に配慮しつつ、種苗の生産、放流等を実施し、養殖業については漁場の利用方法と漁場環境間の定量的データを取得するとともに、養殖業由来の環境負荷を低減するための実用的技術の開発を進めました。加えて、漁協等による「資源管理型漁業」を一層推進することにより、各地域の多種多様な漁業実態に即した水産資源の適切な保存・管理と持続的な利用を図るための事業を実施しました。

イ 製造・流通業における取組
製造・流通業に対しては、適切な指導を行ったほか、省資源・再資源化推進のための環境整備を行いました。また、中小企業の公害対策について、実態を把握するとともに、中小企業自身の研究開発を支援しました。
食品産業に対しては、生産段階では、環境情報の提供、産業廃棄物管理票制度の普及推進を行いました。流通段階では、飲食店等の食品廃棄物から製造される肥飼料等の特性と効果的利用法を把握するための検討を行いました。また、容器包装リサイクル対策を行うとともに、食品リサイクル法の普及啓発、先進的な食品リサイクルシステムの構築及び食品リサイクル施設の導入を図りました。
また、建築物の居住性(室内環境)の向上と省エネルギー対策をはじめとする環境負荷の低減等を、総合的な環境性能として一体的に評価を行い、結果を分かりやすい指標として提示する建築物総合環境評価システム(CASBEE)について、建築物のライフサイクルに対応した評価ツールの整備に加え、街区レベルでの環境性能評価システム等の開発・普及を推進しました。

(2)エネルギーの供給と消費
環境への負荷の少ないエネルギー供給構造を形成するため、発電部門、都市ガス製造部門等のエネルギー転換事業部門におけるエネルギー効率の向上や、環境への負荷の少ない新エネルギーの導入拡大を積極的に進め、次のような取組を実施しました。
産業用ボイラー等の燃料を石油・石炭等から環境負荷の少ない天然ガスへ転換する事業者への支援策を講じました。太陽光やバイオマス等の新エネルギーの低コスト化・高効率化のための技術開発・実証試験や、民間事業者や地方公共団体等が新エネルギー設備を設置する際の補助を通じて導入促進等の支援措置を講じました。また、将来の水素社会の実現に向けて、燃料電池や水素関連の研究開発と併せて、量産化技術の確立や研究開発体制の強化等を図りました。さらに、電気事業者に新エネルギー等から発電される電気を一定量以上利用することを義務付ける、RPS法の着実な運用等を通じて電力分野における新エネルギー導入の拡大に努めました。加えて、海水・河川水・下水・ごみ焼却廃熱等の未利用エネルギーを活用する技術の導入に対する支援等により、未利用エネルギー等の活用を進めました。
原子力については、供給安定性等エネルギー政策の観点のみならず、発電過程で二酸化炭素を排出することがなく、地球温暖化対策に資することから、エネルギー基本計画においても、安全の確保を大前提に、国民の理解を得つつ、核燃料サイクルを含め、原子力発電を基幹電源として推進することとしています。また、平成17年に閣議決定された「原子力政策大綱」では、エネルギー安定供給及び地球温暖化対策に貢献している原子力発電について、2030年以降も総発電電力量の30~40%程度以上を担うことを目指す等の基本方針が示されるとともに、2050年頃からの商業ベースでの導入を目指す高速増殖炉サイクル技術の実用化や、ITER計画の推進についても記述されました。この原子力政策大綱の実現に向けた政策枠組みと具体的なアクションとして、18年8月に、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会において、核燃料サイクルを含む原子力発電の推進を、エネルギー安全保障の確立と地球環境問題を一体的に解決する要と位置付けるとともに、核融合エネルギー技術等の研究開発について、長期的視点から着実な推進に努めることが必要であるとした「原子力立国計画」を策定しました。これを受けて、電力自由化時代に対応した原子力発電所の初期投資負担平準化のための措置を講じました。さらに今後需給逼迫が懸念される天然ウランについても、ウラン埋蔵量世界第2位のカザフスタンに昨年8月総理が訪問し、ウラン鉱山共同開発を含む原子力協力の拡大について合意するなど、ウラン資源の安定供給を目指し積極的な資源外交を展開しました。
省エネルギー対策については、重点的な取組として、以下のような施策を講じました。
近年エネルギー消費の伸びが大きい民生・運輸部門等に係る対策の強化を図る、エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49号)の一部改正法が平成18年4月から施行されたことを踏まえ、改正省エネ法の周知徹底を行いました。また、産業部門において費用対効果にすぐれ、政策的意義が高い省エネ設備への大規模投資に対する支援を行うとともに、民生部門の省エネを確実に進める上で大きな役割を果たし得る高効率給湯器等の導入等を重点的に支援しました。さらに、自動車、家電等に適用するトップランナー基準の対象機器の拡大と強化、家電の省エネ性能を表す新しい表示制度の開始、包括的な省エネルギーサービスを提供するESCO事業の普及促進、2030年に向けた省エネルギー技術戦略の策定等を実施しました。
また、総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油製品品質小委員会の答申(平成15年8月)を踏まえ、サルファーフリー(硫黄分10ppm以下)燃料の早期普及を促すため、ガソリンを20年の規制強化に先駆けて供給する事業者に対する支援措置を実施しました。
さらに、エネルギー等の特別会計のグリーン化を促進し、新エネルギー対策、省エネルギー対策、京都メカニズムの活用等の取組を推進しました。

(3)運輸・交通
運輸・交通分野における環境保全対策については、自動車1台ごとの排出ガス・騒音規制の強化を着実に実施しました。自動車NOx・PM法に基づく自動車使用の合理化等の指導を進めるとともに、冬季における高濃度の大気汚染に対応するため、入出荷貨物車台数の抑制等を内容とする「季節大気汚染対策」を実施しました。12月を「大気汚染防止推進月間」として、広く国民を対象に、公共交通機関の利用促進を訴える等大気汚染防止のための普及・啓発活動を実施しました。

ア 低公害車の開発等
次世代低公害車の技術開発としては、ディーゼルエンジンの高い熱効率を維持したまま排出ガスの低減を図ることを目的とした予混合圧縮燃焼エンジン技術、革新的後処理システム技術の開発を進めるとともに、低公害性の抜本的な改良を目指すジメチルエーテル自動車、次世代ハイブリッド自動車、大型CNG自動車、従来の大型ディーゼルエンジンよりも排出ガスを大幅に低減したスーパークリーンディーゼル車の公道試験等を実施し、さらにLNG、FTD(合成軽油)及び水素を燃料とする自動車の開発を進めました。また、バスなど大型の燃料電池自動車に係る基準を整備するために、燃料電池バスの公道走行試験を実施しました。さらに、自動車税のグリーン化や低公害車に対する自動車取得税の軽減措置等の税制上の特例措置を講じ、低公害車のさらなる普及促進を図りました。
エコドライブについては、地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」の6つのアクションの一つに盛り込まれており、その普及を図りました。また、交通の方法に関する教則により、アイドリングストップの普及啓発を図りました。

イ 交通管理
新交通管理システム(UTMS)の一環として、交通管制システムの高度化等により、交差点における発進・停止回数を減少させるとともに、光ビーコン等を通じて交通渋滞、旅行時間等の交通情報を迅速かつ的確に提供しました。また、交通公害低減システム(EPMS)を神奈川県、静岡県、兵庫県において運用しました。さらに、3メディア対応型道路交通情報通信システム(VICS)車載機の導入・普及等を積極的に推進しました。
都市部を中心に、各種交通規制を効果的に実施することにより、その環境の改善に努めました。具体的には、大型車を道路の中央寄りに走行させるための通行区分の指定を行うとともに、大量公共輸送機関の利用を促進し、自動車交通総量を抑制するため、バス優先・専用通行帯の指定、公共車両優先システム(PTPS)の整備等を推進しました。
都市における円滑な交通流を阻害している違法駐車を防止し、排除するため、駐車規制の見直し、平成18年6月1日から施行された新たな駐車対策法制による取締りの強化、違法駐車抑止システム、駐車誘導システム等の運用、違法駐車防止条例の制定の働きかけ等のハード・ソフト一体となった駐車対策を推進しました。

ウ グリーン物流の実現
効率的で環境にやさしい物流の実現を目指すため、平成17年11月に策定された「総合物流施策大綱(2005-2009)」においても、物流に関わるさまざまな関係者が連携して地球環境問題に適切に対応することが重要な課題とされています。
そのため、「グリーン物流パートナーシップ会議」を活用し、事業者の連携・協働による取組のうち、先進的なモデル事業及びCO2排出削減量が明確な普及事業への支援等を通じて、グリーン物流の実現を図るとともに、17年度のモデル事業のうち、特に優れた取組の事業者に経済産業大臣表彰及び国土交通大臣表彰を行いました。
また、物流の総合的、効率的な実施に対する支援法である流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(平成17年法律第85号)に基づき、施行から18年度末までに52件の総合効率化計画を認定しました。
鉄道においては、二酸化炭素排出量の少ない輸送手段である鉄道貨物輸送へのモーダルシフトを推進するため、東京から北九州間において一貫して1編成のコンテナ貨車26両(1,300トン)輸送を実現する山陽線の輸送力増強事業の推進を図りました。環境負荷低減の取組に対する消費者や企業の意識の向上のために、鉄道貨物輸送による環境負荷低減に積極的に取り組んでいる企業や商品を認定する「エコレールマーク」制度については、18年度末までに企業32件、商品10件を認定しました。(http://www.mlit.go.jp/tetudo/index.html

エ 公共交通機関利用の促進
自家用自動車に比べ環境負荷の少ないバス・鉄道などの公共交通機関利用への転換を促進するため、バスを中心としたまちづくりを行うオムニバスタウンの整備推進、バス・鉄道共通ICカードの普及促進、バスロケーションシステムの普及促進、ノンステップバスの導入促進等、バスの利用促進策を講じました。また、軌道改良・曲線改良等の幹線鉄道の高速化等を行う一方、三大都市圏における都市鉄道新線の整備、複々線化等の輸送力増強による混雑緩和や、速達性の向上を図りました。さらに、貨物線の旅客線化、駅施設や線路施設の改良などにより既存ストックを有効活用するとともに、乗継円滑化等に対する支援措置を講じることによる利用者利便の向上策を講じました。
また、「公共交通利用推進等マネジメント協議会」を通じて、低公害バス等の活用による通勤交通の公共交通利用転換、カーシェアリング推進等の交通サービスの需要側における取組を促進しました。

オ ESTの取組への普及推進
公共交通機関の利用を促進し、自家用自動車に過度に依存しないなど、環境的に持続可能な交通(EST)の実現を目指す先導的な地域の取組に対して集中的に支援策を講じるESTモデル事業を21地域で実施しました。

(4)情報通信の活用
テレワークSOHO、テレビ会議、高度道路交通システム(ITS)、電子商取引など、様々な情報通信システムが普及することにより、交通の代替、交通流の円滑化、生産・流通の効率化やペーパーレス化などを通じて大きな環境負荷の低減効果が期待できます。
平成18年10月から育児・介護に携わる職員を対象に、総務省においてテレワーク(在宅勤務)を開始しました。
また、「2010年(平成22年)までにテレワーカーを就業者人口の2割(IT新改革戦略(平成18年1月IT戦略本部決定))」という政府の目標の実現のため、産学官からなる「テレワーク推進フォーラム」の活動と連携を図りつつ、課題解決のための調査研究や普及活動を展開しました。(http://www.telework-forum.jp
また、ICT(情報通信技術)システム利用時の環境負荷を低減するため「環境負荷低減に資するICTシステム及びネットワークの調査研究会」を開催し、環境への「マイナスの影響」を抑え、「プラスの効果」を高めるための指針となる、ガイドブック「ICTを環境にやさしく活用するために」を作成し、公表しました。


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