第1章
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くらしを彩る「環境のわざ」 |
第1節 技術で開く環境の世紀 |
1 住まいや仕事場での「環境のわざ」の例
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二酸化炭素排出量の推移をみると、生活の質の向上、OA機器の増加等によるエネルギー消費の増大に伴い、「家庭部門」と「業務その他部門」からの排出が、1990年度から2002年度までにそれぞれ28.8%、36.7%増加しており(図序-1-7参照)、住まいや仕事場からの環境負荷の低減が必要となっています。 (1)住宅・事業所の断熱・遮熱 日本の建築物は、これまで、風通しのよさに重点をおいて設計され、北海道などの寒冷地を除き、建築物の断熱対策はあまり進んでいませんでした。例えば、日本の複層ガラス(2枚のガラスの間に乾燥空気等を封入して断熱効果を高めたもの)の普及率は、欧州各国と比較すると低くなっています(図1-1-1)。 冬の暖房時に流出する熱の58%、夏の冷房時に流入する熱の73%が窓や扉などの開口部を経ているとされています。このため、開口部に複層ガラスや断熱性能に優れたサッシなどを用いることは冷暖房に使うエネルギーの削減に有効です。また、壁などに用いられる断熱材の性能を向上させることも、建築物の断熱性能を向上させます(図1-1-2、図1-1-3)。 |
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さらに、夏期の日射が強い時期には、夏の太陽光の熱を建物の外部で遮り、室内にその熱を入れないようにすることが、涼しく快適な居住空間を創出します。例えば、窓の外に庇や軒をつくり、庭に木を植え日陰をつくることや、ブラインド、カーテン等の活用、日射の多い南側の窓等への遮熱複層ガラスなどの採用がその対策です(図1-1-4、図1-1-5)。
住宅等の省エネルギー対策については、省エネ法に基づき、建築主に対し建築物の断熱構造化等について一定の努力義務が課されるとともに、建築主の判断の基準(以下「省エネルギー基準」という。)が定められています。平成11年3月の見直し(次世代省エネルギー基準)では、住宅については平成4年基準と比較して冷暖房用のエネルギー消費量の約20%削減に、建築物(非住宅)については平成5年基準と比較してエネルギー消費量の約10%削減にそれぞれ見合うことになるよう、基準が強化されました。また、一定以上の規模を持つ住宅以外の建築物については、省エネ法に基づき、省エネルギー計画の届出義務等が課せられています。さらに、住宅金融公庫融資において、次世代省エネルギー基準に適合する住宅については、金利の優遇や割増融資等が行われています。 次世代省エネルギー基準に適合した住宅は、冷暖房で図1-1-6のようなエネルギー削減効果があると推計されます。 (2)エネルギー供給・管理 家庭や事業所におけるエネルギー供給や使用のあり方も、大きく変化しています。 家庭用の太陽光発電設備の出荷量が増加しており、市場の拡大とともに価格も低下しています(図1-1-7)。 また、家庭用の燃料電池は、平成17年の市場への導入が見込まれています。家庭でのエネルギーの使用の合理化に関しては、省エネナビや家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)などの利用も効果があるものとして挙げられます。(詳細は、第3章第1節参照。) 事業所でも、太陽光発電施設やコージェネレーション設備が設置されています。また、エネルギーの使用の合理化のための手法としては、ESCOが注目されています。ESCOとは、Energy Service Companyの略称で、ビルや工場の省エネ化に必要な技術、設備、人材、資金などを包括的に提供するサービスです。省エネ効果をESCO事業者が顧客に対して保証するとともに、省エネルギー改修に要した投資、金利返済、ESCOの費用等の経費は、省エネルギーによる顧客の経費削減分から賄われます。 ![]() |
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(3)家電製品 序章で紹介した電気冷蔵庫以外にも、テレビ、空調機器や照明機器等、省エネ化が進んでいるものがあります。省エネ法では、現在商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているものの性能、技術開発の見通し等を勘案して基準を定めるトップランナー方式を採用することで、一層の省エネ技術開発を促進しています。 例えば、テレビでは、ロスの少ないトランスや回路設計などにより、消費電力の低減を図っています。さらに、待機時に不動作部への電源供給遮断やマイコンの消費電力の改善などにより、待機時の消費電力の低減化が図られています(図1-1-8)。また、ブラウン管より消費電力が少ない液晶テレビも急速に広がっています(図1-1-9)。 照明に要する電力消費量は、家庭における電力消費量の約16%を占めています。近年、生活の夜型化が進んでおり、照明機器の省エネ化を図ることの意義は大きくなっています。照明の省エネ化の代表的な製品は、電球型蛍光ランプです。電球型蛍光ランプは同じ明るさの白熱灯に比べ電力消費が約3分の1に、寿命が約6倍になります。 エアコンで冷暖房に使用されるエネルギーは、家庭で使用される電力の約25%を占め、最大のエネルギー使用機器となっています。エアコンも省エネ化が進んでおり、同程度の出力のものであれば、5年前のものに比べ、消費電力は約2割少なくなりました(図1-1-10)。コンプレッサー駆動モーターの改善や熱交換機の高効率化、インバータ制御化などの技術の進展が、省エネ化を実現しています。 |
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コラム
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燃料電池とナノテクノロジー |
ナノテクノロジーは、ナノスケール(10-9m)レベルで制御する技術のことで、環境分野でも、省エネルギー化、省資源化等を目的とした研究開発が進められています。 特に燃料電池では、電極や電極間に挿入する膜にナノテクノロジーを活用した技術を取り入れることにより、効率の高い発電が可能となるといわれています。 |
2 余暇での「環境のわざ」の例
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ア 豊かな自然の中での取組 鹿児島県の屋久島では、豊かで多様な自然環境を舞台にして、登山、森歩き、カヤック・カヌー、沢登り、スキューバダイビング等、多様なエコツアーが実施されています。エコツアーガイドは、地元の観光協会に登録しているだけでも、団体会員28団体、個人会員20名です。平成5年に屋久島が世界遺産登録されたこともあり、ガイドはここ数年で急速に増加しています。「平成13年度共生と循環の地域社会づくりモデル事業(屋久島地域)」(環境省)によると、ガイド業の粗生産額は約2億円以上と推定しており、屋久島の観光を考える上でエコツーリズムは重要な存在になっています。 このような地域では、原生的な自然を活用したエコツアーが多いことから、特定の地域が過剰利用とならないよう、特に国立公園などでは保護すべきエリアの徹底管理に加えて、資源調査に基づき利用エリアを分散させることが必要です。 |
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イ 多くの来訪者が訪れる観光地での取組 長野県軽井沢町では、20名の野生動植物の専門スタッフを抱える企業が、エコツアー事業や環境教育に取り組んでいます。この企業は、平成5年から自然解説イベントを有料で毎日開催し、現在では、自然解説・体験イベント、野生動植物の調査研究、野生動物の保護管理活動を行っています。その年間利用者数は1万人以上です。この企業の特徴は、環境教育を実施するだけでなく、自らが地域の野生動植物を調査し、その保全に関わっていることです。 ここでは、地元の町からツキノワグマの被害防除と保護管理のための調査、対策事業の委託を受けて、クマに発信器をつけて追跡を続けるほか、小型カメラを装着した巣箱を設け、野鳥の産卵や雛を育てる様子の観察等を行っています。参加者に野生動植物への科学的な理解を深めるとともに、エンターテイメント的要素も盛り込んで、自然の中の野生動植物に共感や感動を抱くエコツアーと環境教育を目指しています。また、宿泊施設としても「ゼロエミッション」を目標におき、廃棄物量の大幅な削減に取り組んでいます。 |
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ウ 里地の身近な自然、地域の産業や生活文化を活用した取組 千葉県和田町では、東京のNPO法人ネイチャースクール緑土塾と連携して、町が主催しNPOと協働で運営するという体制で、自然を学ぶネイチャースクールが始まりました。少子化のため廃校となった小学校跡を利用し、体験交流の拠点として町営の施設自然の宿「くすの木」を整備しました。NPOが和田町でネイチャースクールを始めた理由としては、自然が残っていること、東京から近いこと、人情が素朴であること等が挙げられています。 スクールでは、平成12年度から年に5~8回の1泊2日で講座を開設し、「和田学」「くじら学」「海辺の町の森林学」「田舎の料理学」等の和田町地域独自の講座を設けています。地元住民との交流をネイチャースクールの目的としており、都会と農村の心の交流を深めています。 (ネイチャースクールわくわくWADAのホームページ http://home.e03.itscom.net/npo-ns/) |
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(2)環境に配慮した宿泊施設 ホテルや旅館でも、環境配慮が行われています。 例えば東京都新宿区のあるホテルでは、排出される生ごみの堆肥化やプラスチック、ガラス、紙などのリサイクルを行っており、ごみの分別等について従業員教育に力を入れています。植木の水やりやトイレの水洗には、水道水を一度使用した後の中水を利用しています。 ある全国的なホテルチェーンでは「環境実践ホテル」を宣言して、歯ブラシ、かみそりは客室に置かず、顧客に持参を呼びかけています。部分補修が可能なタイルカーペット、節水タイプのトイレなども導入し、「親子エコロジースクール」の開催などを行っています。 三重県鳥羽市のある旅館では、毎日大量に使用する天ぷら油を旅館内の施設でディーゼル代替燃料に加工し、お客の送迎に使うバスの燃料にしています。生ごみは堆肥化し、自家発電の排熱は館内の給湯に利用しています。オフシーズンのプールには雨水を溜め、散水や洗車に使っています。 (3)環境にやさしい移動手段 旅の移動手段として何を選択するかによって、環境への負荷は大きく異なります。例えば二酸化炭素の排出量を例にとると、鉄道を利用した場合、自家用乗用車の約8%の排出で済みます(図1-1-13)。 |
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コラム
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鉄道の省エネルギー化 |
鉄道の省エネルギー化は、近年大きく進んでいます。ある鉄道会社の「社会環境報告書」によると、同社の最新型電車は、従来型の電車の半分以下のエネルギーで走行することができます。さらに、ディーゼルカーの省エネと排ガス対策のため、ハイブリッドシステム(ディーゼルエンジンとブレーキをかけた時に発生するエネルギーで発電を行うもの)を搭載した車両も試験的に開発されています。将来的には、燃料電池を組み込むことも考えられています。 ![]() |
3 ものづくりでの「環境のわざ」の例
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第2節 環境に配慮した事業活動の進展 |
1 環境マネジメントシステム
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しかし、ISO14001の認証取得には、人材面、費用面からの負担が大きいため、中小企業にとって必ずしも取り組みやすいことではありません。そこで環境省は、中小企業も含めたあらゆる事業者の自主的な環境への取組を促進するため、中小企業向けの環境配慮のプログラムであるエコアクション21を平成8年に策定しました。平成15年度には、参加登録事業者数が1,000事業者を超え、大手企業が取引先等に導入を求めるなど、多くの成果を上げています。さらに、平成16年度には、エコアクション21を改訂し、従来の参加登録制度に代えて、対外的な評価を得ることができる認証登録制度を導入します。これにより中小企業における環境配慮の取組が一層促進されることが期待されます。 また、地方公共団体・各種事業者団体等においても、簡易な環境マネジメントシステムへの取組や環境への取組状況を認証する諸制度を整備するなど、中小企業向けの仕組みが運用されています(表1-2-1)。 |
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2 環境報告書
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環境報告書の普及促進のため、さまざまな取組が行われています。国では、環境報告書作成のためのガイドラインを策定し、公表しているほか、環境報告書のデータベース運営、シンポジウムの開催等を行っています。民間では、環境報告書ネットワークの活動や環境レポート大賞等の取組が行われています(表1-2-2)。 また、国際的には、民間レベルで環境報告書の記載内容等に関するさまざまなガイドラインが発行されています。環境情報開示に関する制度化の動きもみられます。例えば、デンマークやオランダなどでは、法律等により、環境報告書の作成・公表が行われています。このほか、フランスやノルウェーなどでは、環境面の取組を財務に関する年次報告書へ記載することが制度化されています。 |
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3 金融での環境配慮
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4 環境保護で築く信頼感
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コラム
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企業の社会的責任(CSR)をめぐるさまざまな動き |
CSRについて、EU理事会は、平成14年7月、「企業の社会的責任:持続的な発展への企業貢献」という報告を出しました。この報告では、EUがあらゆる側面でCSRに取り組んでいくことを表明し、企業のCSRに関わる情報公開や監査等についての具体的指針を示しました。 ISOは、平成14年に、消費者政策委員会でCSRの国際規格化について検討し、第1世代のマネジメントを「品質」(ISO9000)、第2世代のマネジメントを「環境」(ISO14001)、第3世代のマネジメントを「企業の社会的責任」と位置づけました。消費者政策委員会の勧告に基づき、技術管理評議会の下の高等諮問委員会でCSRが議論され、平成16年4月に報告書の最終案が技術管理評議会に報告されました。 国内でも、CSRに関してさまざまな議論が行われています。(社)日本経済団体連合会では、CSRの推進には積極的に取り組むものの、CSRは民間の自主的取組で進めるべきとして、CSRの規格化や法制化に反対する一方、「企業行動憲章」等をCSRの観点から見直し、CSR指針として世界に発信していくこととしています。 平成16年1月、環境省は、環境報告書ネットワーク、日本経済新聞社、(財)地球・人間環境フォーラムとの共催で、「CSRと信頼性確保」をテーマとするシンポジウムを開催し、環境報告書や持続可能性報告書、CSRの考え方について議論を深めました。経済産業省では、平成14年に「CSR標準委員会」を設け、国際的な動向を調べるとともに、国際標準化のあり方について議論しています。 |