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第3節 

3 ダイオキシン類問題への取組

(1)背景
ア ダイオキシン類とは
 「ダイオキシン類対策特別措置法」(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)では、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に加え、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)をダイオキシン類として定義しています。
 ダイオキシン類は、毒性の強い物質ですが、日常の生活の中で摂取するような微量では、急性毒性が生じるようなことはありません。
 ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで意図せざるものとして生成されます。現在、日本での主な発生源はごみ焼却施設ですが、その他にも金属精錬などにおける熱処理工程などのさまざまな発生源があります。
イ 環境中の汚染状況
 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成14年度にダイオキシン法に基づく常時監視などにより、大気、水質、底質、土壌等の調査が実施されました(表5-3-1)。



ウ 人の摂取量
 平成14年度に厚生労働省が実施した調査では、日本における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量の推計値は1.49pg-TEQ/kg/日とされています。そのほか、呼吸により空気から摂取される量が約0.028pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0076pg-TEQ/kg/日と推定され、人が一日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約1.53pg-TEQと推定されています(図5-3-5)。この水準は、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図5-3-6)。





(2)ダイオキシン類対策の枠組み
 ダイオキシン対策は、現在二つの枠組みに基づいて進められています。一つは平成11年3月に「ダイオキシン対策関係閣僚会議」において策定された「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)であり、もう一つは、同年7月に制定されたダイオキシン法で、平成12年1月から施行されました。
 基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリーの作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理及びリサイクル対策の推進を定めています。
 一方、ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物処理に関する規制、汚染状況の調査、汚染土壌に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

(3)基本指針に基づく施策
ア 排出インベントリー
 平成15年12月にダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)の見直しが行われました(図5-3-7)。それによると、9年の日本のダイオキシン類の年間排出量は約7,680〜8,140g-TEQ、14年は940〜970g-TEQで、9年からの5年間でおおむね88%の削減がなされたと推計されています。15年の予測値では約91%削減と削減目標は達成される見通しです。



イ ダイオキシン類に関する検査体制の整備
 ダイオキシン類の環境測定における的確な精度管理を推進するために定めた「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」の普及を図るために、平成15年度に環境省が実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査については、環境省が測定分析機関に対し同指針に規定された事項等が実施されているかの受注資格審査を行い、ダイオキシン類に係る環境測定を的確に実施できると認めた機関であることを引き続き受注先の要件にしました。また、「ダイオキシン類の環境測定を外部に委託する場合の信頼性の確保に関する指針」に沿ってダイオキシン類測定を進めました。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を引き続き実施しました。
ウ 健康及び環境への影響の実態把握
 ダイオキシン類の各種環境媒体や食物を通じた暴露等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、血液中のダイオキシン類濃度の測定を目的とした人への蓄積量調査や環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。
エ 調査研究及び技術開発の推進
 平成15年度においては、特に廃棄物の適正な焼却技術、汚染土壌浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、簡易測定等に関する技術開発及び毒性評価、人への暴露評価、生物への影響等に関する調査研究に重点的に取り組みました。
オ 廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 平成11年9月に設定した廃棄物の減量化の目標量を踏まえ、政府全体として一体的、計画的な廃棄物対策を推進しました。
 また、「循環型社会形成推進基本法」をはじめとする廃棄物・リサイクル関連法に基づき、廃棄物等の発生抑制に努めるとともに、循環資源の再使用(リユース)や再生利用(リサイクル)を推進しました。
 さらに、学校においては、原則としてごみ焼却炉を廃止したため、今後は適切なごみ処理やごみの減量化等を推進することが重要です。

(4)ダイオキシン法の施行
ア 特定施設の届出状況の把握
 ダイオキシン法に基づく特定施設の届出状況について、大気基準適用の特定施設については、平成14年度末現在、全国で1万3,685施設の届出があり、廃棄物焼却炉が1万2,728施設(4t/h以上の大型炉:1,052、2〜4t/hの中型炉:1,557、2t/h未満の小型炉:1万119)、産業系施設が957施設(アルミニウム合金製造施設:787、製鋼用電気炉:118等)でした。また、14年度に、5,772の廃棄物焼却炉が廃止又は排出基準の適用を受けない小さな規模に構造を変更されました。
 水質基準適用の特定施設については、平成14年度末現在、全国で3,829施設の届出があり、その大部分(3,135)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設でした。
イ 環境の汚染状況の調査
 ダイオキシン法に基づき、都道府県等が実施する大気、水質、底質、土壌の汚染状況の常時監視に対し、助成を行いました。また、河川における水質・底質に関する実態調査を行いました。
ウ 特定施設の追加について
 平成15年12月に4−クロロフタル酸水素ナトリウムの製造の用に供する施設等2業種の施設を、一定レベル以上の濃度のダイオキシン類の発生が新たに確認された施設として、ダイオキシン法の特定施設(水質基準対象施設)に追加しました(施行は、16年1月1日)。
エ 土壌汚染対策について
 環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに2地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定され、対策計画が策定されています。これまでに指定された2地域について、都道府県が実施するダイオキシン類による土壌の汚染の除去等について都道府県が負担する経費を助成しました。
 加えて、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。
オ 水底土砂の取扱について
 水底土砂については、一部の底質中に高濃度のダイオキシン類が含まれていることが判明したことを踏まえ、海防法施行令等が改正され、ダイオキシン類を含む水底土砂の排出方法に関する基準が定められ、平成15年10月1日から適用されました。
カ その他の取組
 ダイオキシン法に基づく大気総量規制に関し、その手法の検討を引き続き実施しました。また、ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性や暴露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、環境中の臭素系ダイオキシン類を測定するパイロット調査等の調査研究、排出実態に関する調査研究等を進めました。
 また、排出ガス、ばいじん及び燃え殻に含まれるダイオキシン類の簡易測定法に係る技術的適用可能性を検討しました。
 河川等の水質、底質に関しては、平成15年に、「河川、湖沼等におけるダイオキシン類常時監視マニュアル(案)」及び「河川・湖沼等における底質ダイオキシン類対策マニュアル(案)」を策定するとともに、環境基準値を超える底質を除去するための対策技術や、ダイオキシン類を含んだ底質の簡易測定技術についても調査・検討を実施しています。

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