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第1節 

2 余暇での「環境のわざ」の例

 「環境のわざ」は普段の生活だけではなく、余暇という場面でも発揮されています。

(1)エコツーリズム
 エコツーリズムの定義は人によりさまざまですが、環境省では、以下の3つの要素を含み、かつこれらの融合と永続的な達成を目指すものとしています。
1)地域固有の自然的・文化的資源を理解しながら、その魅力を享受できる教育的・解説的要素を含んだ観光が成立している
2)資源が持続的に利用できるよう環境への負荷軽減の配慮と保護・保全策がなされている
3)地域経済や地域社会の活性化に資する
 「旅行者動向2003」((財)日本交通公社)によると、エコツアーの経験率はまだ少ないものの、一度エコツアーを体験した人の再訪意欲は、「是非参加したい」「参加したい」を合わせると、93.1%と非常に高いという結果が出ています(図1-1-11図1-1-12)。





 エコツーリズムは、観光を受け入れる側と観光する側が協働して創りあげていく観光のあり方でもあります。地域住民は地域の自然や文化の価値を再認識し、またエコツアー参加者との交流により、地域に活力をもたらすことが期待されます。旅行者は、森の香り、水の冷たさ、土の暖かみ、あるいは暗闇の恐怖など、本物の自然を体験することができます。また登山やトレッキングなどの愛好者は、知的探求心をさらに満足させることができます。次に、いくつかの例をみてみましょう。
ア 豊かな自然の中での取組
 鹿児島県の屋久島では、豊かで多様な自然環境を舞台にして、登山、森歩き、カヤック・カヌー、沢登り、スキューバダイビング等、多様なエコツアーが実施されています。エコツアーガイドは、地元の観光協会に登録しているだけでも、団体会員28団体、個人会員20名です。平成5年に屋久島が世界遺産登録されたこともあり、ガイドはここ数年で急速に増加しています。「平成13年度共生と循環の地域社会づくりモデル事業(屋久島地域)」(環境省)によると、ガイド業の粗生産額は約2億円以上と推定しており、屋久島の観光を考える上でエコツーリズムは重要な存在になっています。
 このような地域では、原生的な自然を活用したエコツアーが多いことから、特定の地域が過剰利用とならないよう、特に国立公園などでは保護すべきエリアの徹底管理に加えて、資源調査に基づき利用エリアを分散させることが必要です。



イ 多くの来訪者が訪れる観光地での取組
 長野県軽井沢町では、20名の野生動植物の専門スタッフを抱える企業が、エコツアー事業や環境教育に取り組んでいます。この企業は、平成5年から自然解説イベントを有料で毎日開催し、現在では、自然解説・体験イベント、野生動植物の調査研究、野生動物の保護管理活動を行っています。その年間利用者数は1万人以上です。この企業の特徴は、環境教育を実施するだけでなく、自らが地域の野生動植物を調査し、その保全に関わっていることです。
 ここでは、地元の町からツキノワグマの被害防除と保護管理のための調査、対策事業の委託を受けて、クマに発信器をつけて追跡を続けるほか、小型カメラを装着した巣箱を設け、野鳥の産卵や雛を育てる様子の観察等を行っています。参加者に野生動植物への科学的な理解を深めるとともに、エンターテイメント的要素も盛り込んで、自然の中の野生動植物に共感や感動を抱くエコツアーと環境教育を目指しています。また、宿泊施設としても「ゼロエミッション」を目標におき、廃棄物量の大幅な削減に取り組んでいます。



ウ 里地の身近な自然、地域の産業や生活文化を活用した取組
 千葉県和田町では、東京のNPO法人ネイチャースクール緑土塾と連携して、町が主催しNPOと協働で運営するという体制で、自然を学ぶネイチャースクールが始まりました。少子化のため廃校となった小学校跡を利用し、体験交流の拠点として町営の施設自然の宿「くすの木」を整備しました。NPOが和田町でネイチャースクールを始めた理由としては、自然が残っていること、東京から近いこと、人情が素朴であること等が挙げられています。
 スクールでは、平成12年度から年に5〜8回の1泊2日で講座を開設し、「和田学」「くじら学」「海辺の町の森林学」「田舎の料理学」等の和田町地域独自の講座を設けています。地元住民との交流をネイチャースクールの目的としており、都会と農村の心の交流を深めています。
(ネイチャースクールわくわくWADAのホームページ http://home.e03.itscom.net/npo-ns/



(2)環境に配慮した宿泊施設
 ホテルや旅館でも、環境配慮が行われています。
 例えば東京都新宿区のあるホテルでは、排出される生ごみの堆肥化やプラスチック、ガラス、紙などのリサイクルを行っており、ごみの分別等について従業員教育に力を入れています。植木の水やりやトイレの水洗には、水道水を一度使用した後の中水を利用しています。
 ある全国的なホテルチェーンでは「環境実践ホテル」を宣言して、歯ブラシ、かみそりは客室に置かず、顧客に持参を呼びかけています。部分補修が可能なタイルカーペット、節水タイプのトイレなども導入し、「親子エコロジースクール」の開催などを行っています。
 三重県鳥羽市のある旅館では、毎日大量に使用する天ぷら油を旅館内の施設でディーゼル代替燃料に加工し、お客の送迎に使うバスの燃料にしています。生ごみは堆肥化し、自家発電の排熱は館内の給湯に利用しています。オフシーズンのプールには雨水を溜め、散水や洗車に使っています。

(3)環境にやさしい移動手段
 旅の移動手段として何を選択するかによって、環境への負荷は大きく異なります。例えば二酸化炭素の排出量を例にとると、鉄道を利用した場合、自家用乗用車の約8%の排出で済みます(図1-1-13)。




コラム 鉄道の省エネルギー化
 鉄道の省エネルギー化は、近年大きく進んでいます。ある鉄道会社の「社会環境報告書」によると、同社の最新型電車は、従来型の電車の半分以下のエネルギーで走行することができます。さらに、ディーゼルカーの省エネと排ガス対策のため、ハイブリッドシステム(ディーゼルエンジンとブレーキをかけた時に発生するエネルギーで発電を行うもの)を搭載した車両も試験的に開発されています。将来的には、燃料電池を組み込むことも考えられています。


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