2 環境リスクの低減及びリスクコミュニケーションの推進
(1)化学物質の環境リスクの管理
化学物質の環境リスクの管理については、各種の法令に基づく規制を継続します。また、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づき得られるデータ(PRTRデータ)を、環境リスクの管理などに適切に活用するための手法の検討及び活用の取組を推進します。
(2)化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化学物質審査規制法)
化学物質審査規制法に基づく業務を着実に実施していくとともに、化学物質の総合的な対策に資するため、化学物質の安全性情報の整理・体系化、安全性に関する試験・評価方法の確立等の基盤整備を実施するほか、化学物質対策に関する国際協力を実施します。
また、化学物質の動植物への影響に着目した審査・規制制度を導入するとともに、環境中への放出可能性を考慮した、一層効果的かつ効率的な措置等を講じるために、化学物質審査規制法の改正を踏まえた新たな審査・規制制度の実施に向けて必要な準備を進める必要があります。
(3)特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化学物質排出把握管理促進法)
PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)については、国、地方公共団体が連携しつつ、届出データの集計・公表、個別事業所のデータの開示、届出対象外の排出源からの排出量の推計・公表を行う等、法に規定された業務を着実に実施し、同制度を引き続き円滑に運用していきます。特に、平成16年度の届出から、届出対象となる事業所の年間取扱量の要件が「5トン以上」から「1トン以上」に変更されることから、平成15年度は事業者への周知に一層努めるとともに、届出外の排出量の推計の精度の向上を図ります。MSDS(化学物質等安全データシート)制度については、事業者がMSDSの適切な交付・提供を行うよう、引き続き周知等を実施します。
(4)ダイオキシン類問題への取組
ダイオキシン対策については、ダイオキシン対策推進基本指針及びダイオキシン類対策特別措置法(ダイオキシン法)に基づき、政府一体となった取組を迅速かつ着実に進めます。
ア ダイオキシン法の施行
特定施設に対する規制措置の徹底などを図るとともに、環境中のダイオキシン類の存在状況を常時的確に把握し、環境基準及び規制基準の設定・見直しなどの的確な実施を図るため、都道府県等が行う常時監視について助成を行います。
一般国民が立ち入ることができる地域で土壌環境基準を超過した地域に対し、対策地域の指定、対策計画の策定等の必要な措置が早急に講じられるよう、都道府県などに助言します。また、都道府県等が実施するダイオキシン類による土壌の汚染の除去等に当たって都道府県等が負担する経費への助成を実施します。
また、臭素系ダイオキシンについてもその毒性や暴露実態に関する知見を収集・整理するとともに、大気、水質等の環境中濃度や、排出の可能性のある施設からの排出実態を把握します。
イ その他の取組
以上のほか、ダイオキシン対策推進基本指針に基づき、関係府省が連携し引き続き各種の取組を進めます。
(ア)耐容一日摂取量をはじめとした各種基準などに係る科学的知見の充実
ダイオキシン類の各種環境媒体や食物を通じた暴露などに関する最新の情報を収集し、ダイオキシン法に基づく基準などに係る科学的知見の一層の充実を図ります。
(イ)ダイオキシン対策推進基本指針に基づくダイオキシン類の排出削減対策
排出インベントリーの更新を行うなど、施策の効果を把握しつつ、いまだ明らかになっていない発生源からの排出実態や発生源と環境中の濃度との関連等についての新たな科学的知見をさらに充実させ、必要な対策について検討します。
(ウ)ダイオキシン類に関する検査体制の整備
平成15年度に環境省が実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、環境省が測定分析機関に対しダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針に規定された事項等が実施されているかについて受注資格審査を行います。また、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を進めます。
(エ)健康及び環境への影響の実態把握
環境、生物、人体、廃棄物焼却施設、産業分野等各方面におけるダイオキシン類について、関係府省の連携の下で実態把握を行います。
(オ)調査研究及び技術開発の推進
平成11年度に策定した総合的計画に基づき、毒性評価、環境中挙動、人への暴露評価、生物への影響などに関する調査研究及び廃棄物の適正な焼却技術、汚染土壌浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、精度管理、簡易測定分析などに関する技術開発に取り組みます。
(カ)ダイオキシン類の環境基準を超過した水底の底質対策の推進
港湾においては、平成14年度に策定した「港湾における底質ダイオキシン類対策の技術指針」に基づき底質ダイオキシン類対策を進めます。
更に、ダイオキシン類を含んだしゅんせつ土砂を大量に処理する技術の確立及び安全に除去する技術などについて調査・研究を行います。
(キ)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
廃棄物の最終処分の適正なあり方について一層の充実を図るため、引き続き埋立地内におけるダイオキシン類の長期的挙動の把握、廃棄物焼却炉である特定施設以外から排出される廃棄物のうちダイオキシン類を高濃度に含む可能性のある廃棄物の把握等に努め、必要な措置を講じていきます。
(ク)国民への的確な情報提供と情報公開
国民に対して、ダイオキシン問題についての理解と協力を得るため、調査研究や技術開発の成果を公開する等、あらゆる機会をとらえ、関係府省が協力して各種取組を進めます。
(5)農薬のリスク対策
農薬については農薬取締法に基づき、農薬登録保留基準の設定を引き続き行うとともに、その基準設定を適切に行うために必要な基礎的知見の集積を図ります。
また、内分泌かく乱作用を含む農薬の生殖毒性の評価体系を構築するための調査研究、環境中に残留する農薬の実態調査等各種調査研究、陸域を含めた農薬の生態系への影響を把握するため調査研究を行っていきます。
さらに、平成14年8月にわが国が加入した残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約により、POPsの廃棄物・在庫(ストックパイル)の適正処理などが求められているため、平成13年12月に取りまとめた「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル」の改善にかかる検討や、POPs廃農薬の無害化処理技術の実証調査等を進めて参ります。
(6)リスクコミュニケーションの推進
環境リスクに関する市民、産業、行政等関係者の共通の理解を促進するリスクコミュニケーションの推進を図るため、PRTRを分かりやすく解説した市民ガイドブックの作成等を通じ、化学物質の環境リスクやリスクコミュニケーションに関する情報の整備に努めるとともに「化学物質と環境円卓会議」といった対話の場の充実、対話の推進のために、リスクコミュニケーションに資する人材の育成等を進めます。