6 自然の減少が顕著な地域における自然的環境の回復
(1)自然再生事業の推進
釧路湿原における蛇行河川の復元、湿地の復元、集水域の広葉樹林の復元や、埼玉県くぬぎ山における廃棄物中間処理施設等の立地により改変された里山の再生など、過去に損なわれた自然環境を再生する事業に、関係各省が連携し、専門家、地元自治体、NPO、地域住民の参加を得て着手しました。
さらに、自然再生についての基本理念を定め、自然再生を推進するための具体的な手順を示した自然再生推進法(平成14年法律第148号)が、議員立法により成立し、同法が施行されたことを受け、自然再生基本方針を策定するなど、同法の円滑な運用のための体制整備に努めました(総説図2-4-10)。
(2)自然的環境の整備
ア 都市における緑地の整備等
市町村による「緑の基本計画」の策定を通じた総合的かつ計画的な緑地の保全及び緑化を推進し、公共空間における緑のストックの増加、公共公益施設等における高木植樹の推進を図りました。
がけ崩れ対策においては、第4次急傾斜地崩壊対策事業5か年計画に基づき、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備を推進しました。
また、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創出するため、「都市山麓グリーンベルト整備事業」を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創造を図りました。
イ 都市公園等
第6次都市公園等整備7か年計画の最終年度として、都市における自然的環境の保全・再生・創出、都市環境の改善、広域的なレクリエーション活動や個性ある都市・農村づくり等への対応に重点をおいて、事業費3,098億2,600万円をもって、都市公園等整備事業の積極的推進を図りました。
国営公園については、全国16か所において整備を進めました。
また、市町村が策定する「緑の基本計画」に基づき、都市の景観形成、環境改善及び防災機能向上のため、緑地の整備及び緑化の必要性が特に高い地区において緑地の整備等を実施する緑化重点地区総合整備事業、埋立造成地や工場等からの大規模な土地利用転換など自然的環境を積極的に創出すべき地域や廃棄物の埋立処分等により良好な自然的環境が消失した地域において、自然的環境の再生、多様な生物の生息生育基盤の確保等を図る自然再生緑地整備事業の創設等、各種施策に応じた都市公園等の整備を積極的に推進しました。また、生態系の保全に係る水と緑のネットワーク(生態系保全ネットワーク)の整備について、関連事業との連携を強化しより効果的な事業の展開を図りました。
ウ 国民公園及び戦没者墓苑
旧皇室苑地の皇居外苑、新宿御苑及び京都御苑は国民公園として、昭和46年度以降は環境省が管理し、広く一般に利用され親しまれています。
皇居外苑(北の丸地区を含む。)は115.1haの面積を有し、皇居前広場はクロマツと芝生を中心として、北の丸地区は森林公園として整備されています。また、新宿御苑は明治時代における代表的庭園であり、58.3haの苑内には1,500本の桜樹のほか、全苑にわたり花を観賞できるよう花木が整備されており、年間約100万人の入園者が訪れています。さらに、京都御苑は京都市のほぼ中心に位置する63.3haの苑地で、京都市の中央公園的役割をも果たしています。
千鳥ケ淵戦没者墓苑は面積1.6ha余りの苑地で、戦後海外各地から収集された遺族に引き渡すことのできない戦没者の遺骨348,824柱(平成14年5月現在)が安置されています。
これら公園の快適な利用に資するため、園内の清掃、芝生、樹木の手入れを行うとともに、平成14年度においては、新宿御苑旧新宿門門衛所等整備、千鳥ケ淵戦没者墓苑改修工事を行いました。
エ 河川環境等の整備
(ア)河川
河川環境に関する基礎情報の収集整備のため、河川並びにダム湖及びその周辺における生物の生息状況の調査「河川水辺の国勢調査」を全国の一級河川及び主要な二級河川、国が管理するダム等で実施し、河川環境データベース(URL:http://www.mlit.go.jp/river/IDC/)として情報提供を開始しました。また、河川環境に関する専門的知識を有する地域の方々の参加を得て、きめ細かな河川環境の管理に資する「河川環境保全モニター制度」を実施しました。
また、河川環境管理基本計画の策定を推進し、自然環境の保全に配慮するとともに、水と緑の公共空間として地域住民に憩いとレクリエーションの場を提供するため、河川の高水敷等の整備により河川の自然環境の適正利用を推進しました。さらに、流域の水循環の適正化を図るための種々の施策を推進しました。
平成14年度には、河川の蛇行化復元や、乾燥化傾向のある湿地の冠水頻度を増加させるなどの自然再生事業を創設し、渡り鳥等の生物の良好な生息・生育環境を有する自然河川や、湿地・干潟などウェットランドの再生を進めました。また、良好なうるおいのある水辺空間の保全並びに形成や、河川水面利用の適正化等を図る「河川環境整備事業」、周辺の景観や地域整備と一体となった河川改修を行う「ふるさとの川整備事業」、河川改修と市街地整備をあわせて行う「マイタウン・マイリバー整備事業」、堤防の強化とあわせ側帯上に植樹を行う「桜づつみモデル事業」を実施しました。また、治水上の安全性を確保しつつ、多様な河川環境を保全したり、できるだけ改変しないようにし、また、改変する場合でも最低限の改変にとどめるとともに、良好な自然環境の復元が可能となるように川づくりを行う「多自然型川づくり」、河川横断施設とその周辺の改良、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」、高齢者、障害者に配慮し、すべての人にやさしい河川環境を整備する「まほろばの川づくりモデル事業」、間伐材の有効利用を通して、自然を活かした川づくりと森林整備との連携を図る「森を育む川づくり」を実施しました。また、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境に配慮した災害復旧を実施しました。
(イ)ダム周辺
ダム貯水池において整地、法面保護、緑化対策等を図り、ダム湖の活用、親水性の向上を図る「ダム湖活用環境整備事業」を実施し、また、ダム周辺の河川環境の回復を目的とした「ダム水環境改善事業」を実施しました。
さらに堆砂及び水質改善対策とあわせて常時一定水位で利用可能な湖面を確保し、ダム湖の親水性を向上させる「レクリエーション湖面整備ダム事業」を1ダムにおいて実施し、地方公共団体等が主体となるレクリエーション事業と一体となって共同ダム事業を行う「レクリエーション多目的ダム事業」を3ダムにおいて実施しました。
(ウ)砂防設備周辺等
山腹・斜面等の緑化、樹林帯の整備等により荒廃山地や斜面の保全と緑化を図るため、「緑の砂防」を重点的に実施し良好な自然環境の創出を図りました。
また、土砂災害の防止とあわせて、すぐれた自然環境や社会的環境をもつ地域等の渓流において、自然環境との調和を図り、緑と水辺の空間を確保することによる生活環境の整備、または、景観・親水性の向上や生態系の回復等を図り周辺の地域環境にふさわしい良好な渓流環境を再生する「砂防環境整備事業」を6渓流(事業費273百万円)で実施しました。
がけ崩れ対策においては、第4次急傾斜地崩壊対策事業五箇年計画に基づき、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備を推進しました。
また、土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創造するため、「都市山麓グリーンベルト整備事業」により、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創造を図りました。
その他、土砂移動についても河川環境等の面から配慮が必要であり、山地部から海岸までの土砂の運動領域を「流砂系」という概念で捉え、ダム堆砂の進行、河床低下、海岸侵食等の土砂管理上の問題が顕在化している流砂系において、土砂の移動に配慮し、砂防、ダム、河川、海岸の各領域が連携を図り、土砂の量と質に関するモニタリング等の取組を実施しました。
オ 港湾及び漁港・漁場における環境の整備
(ア)港湾
環境と共生する港湾(エコポート)の形成を目標に、水質・底質を改善する汚泥しゅんせつや覆砂、干潟の創造、緑地の整備などを推進しています。また、平成12年3月の港湾法(昭和25年法律第218号)の一部改正では、港湾に関する環境施策の充実を改正の柱の一つとし、環境の保全・創造の推進等に向けて幅広く効果的な取組を推進することとしました。さらに、平成12年12月に告示された港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針では、良好な自然環境の保全や、失われた自然環境の回復と新たな環境の創造などを図ることとしました。
これらを受けて港湾の親水性を高め快適な環境を創造し、港湾を利用する人々に憩いの場を提供するため、平成14年度は神戸港等124港において緑地等の整備、大阪港等18港において干潟等の整備を行いました。また、歴史的港湾施設の保存、活用を図るとともに、周辺の環境整備を一体的に進める歴史的港湾環境創造事業を実施しました。なお、平成13年12月に都市再生プロジェクトとして決定された「臨海部における緑の拠点の形成」については、自然と共生する社会の実現にむけた自然再生型公共事業の一環として、東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、大阪湾の尼崎臨海部を対象として臨海部における大規模緑地整備に関する調査を行いました。
また、マリーナは、そのすぐれた景観と高い親水性からアメニティの高い潤いのある空間を創出することが期待される施設であり、自然環境の保全との調和を図りつつ、快適な環境を創造する観点から、その整備を推進しています。
(イ)漁港及び漁場
海水交流機能を有する防波堤等の整備、水産動植物の生息、繁殖が可能な護岸等の整備並びに自然環境への影響を緩和するための海浜等の整備を総合的に行う自然調和型漁港づくり推進事業を全国37地区で実施しました。
また、漁村の生活排水対策として漁業集落排水施設整備を全国139地区で実施したほか、漁港区域内の水域における汚泥・ヘドロの除去覆砂並びに藻場・干潟等の整備を行う水域環境保全対策等を全国5地区で実施しました。
沿岸域の藻場・干潟の造成、ヘドロのしゅんせつ等を行うとともに、藻場・干潟の整備保全事業を支援するための地方財政措置を講じました。
カ 海岸における環境の整備
多様な海洋性レクリエーション需要の増大に伴う海浜利用の進展に対処するとともに、快適で潤いのある海岸環境の保全と創出を図るため、砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上もすぐれた人と海の自然のふれあいの場を整備する海岸環境整備事業を平成14年度は、全国235か所において事業費371億円で実施しました。
キ 緑化推進運動への取組
緑化推進連絡会議を中心に、国土の緑化に関し関係行政機関相互の緊密な連絡を図り、総合的かつ効率的な施策を推進し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図っているところであり、また「平成14年度緑化推進運動の実施計画」を取りまとめ、以下のような施策を実施し、運動の一層の展開と定着化を図りました。
1) 身近な場所に実のなる木など野鳥の好む樹木等を保全又は植栽し、野鳥の観察のための施設の整備により、野鳥の生息に適した環境の創出と野鳥に親しむ場の整備を図る「小鳥がさえずる森づくり」運動を推進しました。
また、民間資金による緑化を進めるため、(社)ゴルファーの緑化促進協力会の協力を得て、ゴルファーによる緑化協力運動を推進しました。
2) 地球温暖化防止をはじめとする多面的機能を有する森林整備・保全を社会全体で支えるという国民意識の醸成・高揚を図り、国土緑化を推進するため、全国植樹祭等を開催する事業、森林ボランティアなどの広範な国民による自発的な森林づくりを促進する事業、学校林の活用を促進する事業等に助成したほか、国民参加の森林づくりを推進する仕組みの構築とその普及・啓発を推進しました。
また、巨樹・巨木林や里山林等身近な森林・樹木の適切な保全・管理のために必要な技術開発と普及啓発を促進しました。
さらに、「みどりの日」、「みどりの週間」を中心に、国民各層が参加する緑化活動等の全国的な展開を推進したほか、緑の募金運動、その募金を活用した国内外の森林整備等への取組を推進しました。
3) 都市緑化の推進に当たっては、「春季における都市緑化推進運動」期間(4〜6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る各種活動を実施したほか、緑の相談所(都市緑化植物園)、都市緑化基金の拡充強化等を図りました。