7 野生生物の保護管理
(1)野生動植物の捕獲・譲渡等の規制、生息・生育環境の整備等
ア 種の保存法に基づく各種施策の推進
種の保存法に基づき、各種施策を推進しました。
絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターが、平成15年3月末現在8か所に設置されています。
国有林野においては、希少な野生動植物の生息地又は生育地であり、自然環境の保全に配慮した管理を行う必要のある国有林の区域に、必要に応じて森林生態系保護地域、森林生物遺伝資源保存林、特定動物生息地保護林等の保護林を設定するとともに、その保護管理を行いました。また、保護林のネットワークの形成を図るため、緑の回廊*を設定し、野生生物の自由な移動の場として保護するなど、より広範で効果的な森林生態系の保護に努めました。平成14年4月1日現在、13か所が設定されています。さらに、ツシマヤマネコ等の国内希少野生動植物種を対象として保護のための巡視を実施するとともに、その生息・生育環境の維持・整備のために必要な調査事業を実施しました。
イ 保護増殖事業等の推進
絶滅のおそれのある野生動植物種の保存を図るための保護増殖事業、調査等を引き続き以下のように実施しました。
1) 佐渡トキ保護センターにおいて将来の野生復帰に向け引き続き人工飼育下での繁殖を進めます。平成11年1月に中国から贈られたトキの友友(ヨウヨウ)・洋洋(ヤンヤン)のペア及び友友・洋洋の子、優優(ユウユウ)とその相手として平成12年10月に贈られた美美(メイメイ)のペアから繁殖したトキ及び佐渡の自然で産まれた最後のトキである「キン」とあわせて平成15年3月現在、計25羽を飼育しています。
2) コウノトリについては、豊岡市において、野生復帰に向けた取組を実施しました。増殖事業により、平成15年3月現在の個体数は101羽となっています。
3) イリオモテヤマネコの生息モニタリング調査や、傷病個体のリハビリ飼育等を実施しました。
4) ツシマヤマネコの生息地におけるモニタリング調査を実施するとともに、生息地への再導入を目的とした人工繁殖事業を福岡市が同動物園において実施しました。
5) アホウドリの既存繁殖地の環境を維持改善する工事を実施するとともに、新たな繁殖地に個体群を誘致するための事業等を実施しました。
6) タンチョウについて、冬期の給餌及び生息状況の把握のための調査モニタリング等を実施しました。
7) シマフクロウについて、巣箱の設置及び給餌事業を実施しました。また、野外におけるつがい形成促進のためのリハビリ飼育や放鳥等を実施しました。
8) イヌワシについて、個体群の維持が特に困難な地区における、繁殖率の高い地域からのヒナの移入に関し検討等を実施しました。
9) 北海道の希少海鳥(エトピリカ、ウミガラス、チシマウガラス)について、生息状況把握と今後の保護増殖事業の方法についての検討等を実施しました。
10) ミヤコタナゴの生息地において、生息環境の改善、安定化のための事業を実施しました。また、生息環境の監視等を実施しました。
11) イタセンパラについて、生息状況と生息環境の調査及び生息環境の監視等を実施しました。
12) 小笠原の希少植物について、人工増殖の技術開発と自生地への再導入等を実施しました。
13) 沖縄県北部のやんばる地域のノグチゲラについて、生息状況把握のためにモニタリング、生態・行動圏調査等を行うとともに、ヤンバルテナガコガネの保護のための巡視等を関係機関と実施しました。
14) 奄美の希少鳥類(オオトラツグミ、アマミヤマシギ)について、生息状況把握のためのモニタリング等を実施しました。
15) 沖縄本島及び周辺海域のジュゴンについて、全般的な保護方策を検討するため、昨年度に引き続き、専門家により調査手法を検討した上でジュゴン及びその餌場となる海草藻場の広域的な調査を実施しました。
(2)野生鳥獣の保護管理の推進
野生鳥獣については、近年、その保護に対する国民の要請が高まっている一方で、シカやイノシシなど特定の鳥獣による農林水産業や自然生態系への被害が深刻化し、社会問題化しています。
人と野生鳥獣との共存を実現するための方策として、野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理という考え方から、次のような施策を推進しました。
ア 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の改正
鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正7年法律第32号)の改正が行われ、名称も鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に改められ平成14年7月に公布されました。この改正では、法律の目的に「生物多様性の確保」が新たに加わり、鳥獣の保護を通じた生物多様性の確保の方向性が示されたほか、鳥獣の保護に支障を及ぼすおそれのある猟法による鳥獣の捕獲について、区域を定めて規制する「指定猟法禁止区域」制度の導入や、狩猟等に使用される鉛製銃弾による鳥獣の鉛中毒の防止等を図るために山野への捕獲した鳥獣の放置を禁止する規定等が新たに盛り込まれています。
イ 鳥獣保護事業の推進
平成11年6月の鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の一部改正や地方分権に対応し、長期的ビジョンに立った野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした第9次鳥獣保護事業計画(平成14〜18年度)の基準に基づき、鳥獣保護区の設定、有害鳥獣駆除及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
ウ 適正な狩猟の推進
適正な管理下での狩猟は、野生鳥獣を適正な生息数にコントロールする手段として一定の役割を果たすことから、事故防止、違法行為防止の徹底等適正な狩猟を確保するために関係者への指導を行うとともに、捕獲禁止又は狩猟制限の見直しを行いました。
また、都道府県及び関係狩猟者に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するよう助言しました。
なお、管理された狩猟や狩猟を行い得る場を指定している猟区は、放鳥獣などにより積極的に狩猟鳥獣の保護繁殖を図る一方で、入猟日、入猟者数等を制限することにより、秩序ある管理された狩猟を実現するための制度であり、設定状況は表1-6-16のとおりです。
エ 野生鳥獣に関する調査研究の推進
野生鳥獣の生息状況等に関する調査については、「鳥類観測ステーション」における標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査等渡り鳥の生息状況調査等を実施しました。
オ 農林漁業被害の防止対策
特定鳥獣保護管理計画の策定及び実施の推進を目的として、「野生鳥獣管理適正化事業」等に要する経費を地方公共団体に補助しました。
また、将来にわたる鳥獣管理体制の構築及び担い手の育成を目的として、「野生鳥獣保護管理技術者育成事業」を実施しました。
また、野生鳥獣を適正に管理し、農林業被害を軽減する農林生態系の管理技術の開発等の試験研究、農林業被害防止のために防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止技術の確立と被害防止システムの整備等の対策を推進するとともに、新たに農業被害防止に必要な知識の普及を図りました。さらに森林の機能発揮と野生鳥獣との共存を目指した多様な森林の整備等を行う事業等を実施し、野生鳥獣による農林業被害防止対策を推進しました。
また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の硬度強化を促進しました。
カ 野生鳥獣の生息環境の整備
国設鳥獣保護区とその周辺において、人の利用の適正な誘導、野生鳥獣の生態等に関する普及啓発、野生鳥獣の生息に適した環境の保全整備を図る「野生鳥獣との共生環境整備事業」を北海道のウトナイ湖及び秋田県の森吉山において実施しました。
また、国有林等において、野生鳥獣の移動経路を確保し、生物多様性の保全を図る回廊を整備するために、「野生動物生息地ネットワーク整備モデル事業」等を実施しました。
キ 渡り鳥の保護対策の推進
渡り鳥の保護対策としては、生息状況調査を実施したほか、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルについて、その生息環境を改善し、周辺への農業被害を軽減するために遊休地の確保等の事業を実施しました。
(3)水産資源の保護管理の推進
水産資源の保護・管理については、引き続き、漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、海洋生物資源の採捕量の管理に加え、新たに漁獲努力量に着目した管理を行うほか、次の対策を実施しました。
1) 資源が著しく減少している水産動植物の保護・増殖を図るため、水産資源保護法に基づき指定された保護水面において、所要の管理、調査等を行いました。
2) 水産資源の持続的かつ高度な利用を図るため、資源管理型漁業を推進しました。
3) 緊急に資源の回復を図る必要がある魚種について、漁獲努力量の削減等の措置を計画的に講じる「資源回復計画」の作成・実施を推進しました。
4) 魚類の遡上を円滑にし適正な河川流量を流下させて生態系の保護等を図るための地域用水環境整備事業を実施したほか、渓流域における生態系の保全を考慮した渓流魚等内水面資源の効率的な増殖管理手法の確立を図りました。また、内水面漁業及び生態系に深刻な影響を与える外来魚の問題に対応するため、外来魚の駆除、処理対策、漁場の生態系の復元を図りました。
5) 資源状況の良好なミンククジラ等については、その持続的な利用の実現のための調査を実施していますが、資源状態の回復が遅いシロナガスクジラ等については、その生態、資源量、回遊等の実態を把握し、資源回復手法の解明に資するための調査を実施しました。
6) 保護が必要とされるウミガメ(2種)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ)及びジュゴンについて水産資源保護法に基づき引き続き原則採補禁止等の保存措置を講じました。
7) 漁場環境に配慮しながら持続可能な海洋水産資源の利用を行うため、混獲防止技術の開発、混獲対象種増殖技術の開発を実施しました。
8) 減少の著しい水生生物に関するデータブックの掲載種について、現地調査及び保護手法の検討を引き続き実施しました。
9) 国際的に関心が高いサメ類及び海鳥の保全・混獲問題に対処するため、サメ類の保存・管理及び海鳥の偶発的捕獲の対策に関する行動計画の実施を促進しました。
(4)移入種への対応
わが国の移入種問題の全体像を把握し、対応の方針を策定するため、専門家による移入種問題検討会を設置し、平成14年8月に対応方策に係る基本的な考え方を「移入種(外来種)の対応方針」として取りまとめました。平成15年1月には、具体的な移入種対策の検討を進めるため、中央環境審議会へ「移入種対策に関する措置の在り方について」諮問しました。また、外来種影響・対策研究会において平成13年3月に「河川における外来種対策に向けて(案)」を取りまとめており、現地における適正な外来種対策に活用されています。
また、鹿児島県の奄美大島、沖縄やんばる地域において希少動物に影響を及ぼしているマングースの排除のための事業、沖縄県の西表島において生態系に影響を及ぼすおそれのあるオオヒキガエルの監視のための事業を進めました。
遺伝子組換え生物については、移入種と同様の影響が懸念されるため、遺伝子組換え生物の輸出入に関する国際的な枠組みを定めたカルタヘナ議定書*が採択されました。政府においては、この議定書に対応するための国内制度のあり方について、中央環境審議会に諮問し、平成14年9月の答申等を踏まえ、平成15年3月には、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案を第156回国会に提出したところです。
(5)調査研究等の推進
絶滅のおそれのある野生動植物については、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、汽水・淡水魚類、昆虫類、陸淡水産貝類、クモ形類・多足類等・甲殻類等、維管束植物、蘚苔類、藻類、地衣類、菌類についてそれぞれレッドリストを公表し、これに基づき平成14年8月までに、「爬虫類・両生類」、「植物I(維管束植物)」、「植物II(維管束植物以外)」、「哺乳類」及び「鳥類」について、改訂版レッドデータブックの出版を行いました。また、平成14年度からこれらのレッドリストを見直すための検討に着手しました。
また、野生生物保護思想の普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として鹿児島県において第56回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、愛鳥モデル校を中心に行われている野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。