5 地域環境力からの持続可能な社会づくりを目指して
地域という場は、日々のくらしと深い関わりがあるゆえに、地域が与えている環境負荷やその影響、そして行動を起こした場合のその成果を比較的身近に感じることができる場といえます。このため、人々は比較的明確に問題意識をもち、主体的に環境保全に取り組んでいくことが期待できます。また、地域社会という輪の中であれば、既存のコミュニティを活用することなどを通じ、地域の人々が比較的容易に連携しあい、環境保全のための取組に参加することもできるでしょう。第1節で見たように、わが国で地域発の環境保全の取組が常に日本全体の取組をリードしてきたのは、そもそも地域が持っているこうしたメリットが、一つの背景としてあると考えられます。
本章では、こうしたメリットをもった地域発の取組が持続可能な社会の構築という大きな課題に向けて効果的であるために何が必要かを見てきました。その結論は、一言でいえば、「地域環境力」という言葉で表される地域全体としての取組意識・能力を高めていくことであり、そのためには、地域がそれぞれ個性を持っていることを十分踏まえた上で、地域の情報を主体的に収集して地域を的確に把握するとともに、地域を構成する幅広い主体が連携して一つの方向性を共有していくことが重要である、ということになります。さらに、地域の把握と目標のステップアップを不断に行っていかなければ、地域環境力を伴った状態で取組を継続させていくことはできませんし、持続可能な社会のための敷石ともなり得ません。資金や活動拠点、人材をきちんと確保することも重要となります。
1992年(平成4年)の地球サミットをきっかけに「持続可能な社会」という言葉がよく使われるようになりましたが、今日、これには多様な意味が込められるようになっています。「持続可能な地域づくり」も、本来的には、地球規模での人類の永続的な生存を実現するため、すなわち地球環境の保全のために地域社会はどうあるべきかということを念頭に置いたものでした。加えて、今日、地域が健全性と活力を備えていくために地域社会はどうあるべきかという、地域社会そのものの持続可能性を念頭に置いた、別の意味での持続可能な地域づくりも必要となっています。第4節で見たように、この二つの意味での持続可能な地域づくりに役立つものとして、地域環境力を地域で醸成、充実させていくことが、今、必要となっているのです。
それぞれの地域において諸課題を克服し、地域環境力を備えた効果的な取組を進めていくことは、決して容易ではないかもしれません。しかし、地域環境力を備えた一つの地域の小さな取組は、それぞれが、地域の発展と環境保全との統合を図っていく上での有効なモデルとして、他の地域さらには世界へと広がっていく可能性を持っており、持続可能な社会の構築に向けた変革の大きな原動力となるといえます。