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第3節 

3 主体間の連携


 ヨハネスブルグサミットにおいて小泉総理大臣は、わが国を代表して持続可能な開発を実現するための最大のポイントが「人」であると指摘し、人々の自立と連帯等により、人類の明るい未来を開くことを訴えました。これは、地域レベルの取組にも当てはまることです。そこで、地域においてどのような取組体制を整えていけば、人々が連携して効果的な環境保全の取組につなげていくことができるのか、見ることとします。

(1)グラウンドワークに見る主体間の連携
 グラウンドワーク*は、1980年代にイギリスで始まった実践的な環境改善活動です。住民が行政や企業とパートナーシップを取りながら、地域の環境改善活動に取り組み、三者の仲介役になるのがトラストと呼ばれる専門組織です。イギリスでは、このトラストが全国に約50か所あり、700人のスタッフが年間約4万人のボランティアの協力を得て、約3,000件のプロジェクトを展開しています。トラストは環境問題に関心の高い人たちや女性、中高年者の就職の場にもなるだけでなく、人々の生きがいの場ややりがいの場、社会貢献の場にもなっています。わが国でも平成7年に(財)日本グラウンドワーク協会が設立され、活動が行われています。
 静岡県三島市では、富士山からの湧水が豊富で昔から美しい水辺環境がありましたが、地下水の汲み上げや開発などにより環境悪化が進行していました。平成4年9月、それまでバラバラに活動してきた市内8つの団体が一堂に会し、「グラウンドワーク三島実行委員会(現在のNPO法人グラウンドワーク三島)」が結成されました。同委員会による環境改善活動は、イギリスのグラウンドワークの手法を導入しており、市民が主役となって、そこに行政と企業を取り込み、三者による地域総参加の体制づくりを進めています。
 具体的には、行政は資料提供や資金的支援、企業は技術的支援や資機材の供与、地域住民は現場での環境改善活動の実践や保全管理への協力、子どもたちは遊び空間としてのアイデアの提供などを行っています。財政的には参加市民団体からの拠出金、企業からの賛助金・寄付金、行政からの補助金などが収入源になっており、また、機材の供与、労力の提供などさまざまな現物による支援も得られています。こうした協力関係からお互いの信頼関係が生まれ、主体間の連携によるまちづくり事業が行われています。現在は、「三島梅花藻の里づくり」、「ドブ川の再生」、「学校ビオトープの建設」、「住民協働の公園づくり」などのプロジェクトが進行しています。


源兵衛川の河川清掃(静岡県三島市)
NPO法人グラウンドワーク三島(http://www.gwmishima.org/)提供

(2)主体間の連携・協働の必要性
 上記の事例を見ても、さまざまな主体が取組にかかわることによって、効果的な環境保全の取組が可能となっていることがわかります。持続可能な社会を形成するためには、1)環境問題の性格が変わっていくにつれ、環境問題にかかわる主体が増大してきていること、2)社会の高度化・複雑化につれ、各主体の専門性が高まっており、これを十分に活用していく必要があること、3)環境問題以外にもさまざまな社会や経済の問題が存在し、より良い地域づくりに取り組んでいくためには、さまざまな主体の意見やさまざまな目的を融合してより良い方向性にしていく必要があること、を念頭に、地域を構成するすべての主体の連携と協働を図ることが必要となります。
 また、主体間の連携を図ることは、1)各主体の有限な資源を合わせ行動の拡大を図ることができること、2)連携する各主体がそれぞれの立場を相互に補うことができること、3)主体間で取組を相互評価し、よりよい取組へと発展させることができることなど、地域での環境保全活動を進める上で、それぞれの主体が個別に取り組む以上の相乗効果が期待できます(図2-3-5)。こうした効果を十分発揮できるように、主体間の連携を図り、協働した取組を行っていくことが必要といえます。



(3)主体間の連携・協働によるメリット
 主体間が連携し、協働による取組を図っていくことには、どのようなメリット(利点)があるのでしょうか。内閣府による世田谷区での調査によれば、市民団体にとってのメリットとして、情報の交換、活動内容の充実、地域の人への認知などが挙がっています(図2-3-6)。



 また、東京都「市民活動団体基礎調査」(平成14年2月)によれば、社会的信用が向上する、財政的に安定する、情報交換・共有化ができる、広報・宣伝がしやすくなる、広く一般に認知される、活動の範囲が広がる、公共施設が利用しやすくなる、といったメリットが挙げられています。
 連携を深め、協働による取組を深めていくことにより、各主体の育成が期待されるほか、活動団体名や活動内容の認知度を高めることによって、地域の人々の支援を得ていくきっかけになると見込まれます。

(4)主体間の連携の現況
 地方公共団体を対象とした、環境省「環境基本計画で期待される地方公共団体の取組についてのアンケート調査」(平成14年5月)によれば、都道府県及び政令指定都市の方が市区町村に比べ、行政と住民、行政と事業者との間の連携や協働が一層図られている傾向にあります(図2-3-7図2-3-8)。





 また、「市民活動団体基礎調査」によれば、市民活動団体と行政との連携・協働は、不定期なものも含めて多く行われていますが、任意団体の方がNPO法人よりも実施割合が高い傾向があります(図2-3-9)。また、市民活動団体と企業の間では、NPO法人の方が、連携・協働が図られている傾向が見られます(図2-3-10)。



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