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第1節 

2 地球環境の状況


 それでは、地球環境の状況はどうなっているのでしょうか。地球サミットにおいて、「環境と開発に関するリオ宣言」、「アジェンダ21」が採択されたほか、各分野でも、「気候変動枠組条約」、「生物多様性条約」等の国際約束が合意され、さまざまな取組が国際レベルで進んできています(図序-1-6)。しかしながら、地球全体でみた場合に環境の状況が改善しているとは言い難い状況にあります。むしろ、地球温暖化、森林減少、土壌劣化、生物多様性の減少、淡水の不足等深刻な状況になっています。



(1)地球温暖化
 二酸化炭素などの温室効果ガス*は、地表が反射した太陽からのエネルギーを吸収し地表を温めることによって地表の平均気温を約15℃に保っていますが、この温室効果ガスの大気中濃度が増加すると、地表の気温が上昇することになり、このことを地球温暖化といいます。気象庁によると、2002年(平成14年)の世界年平均地上気温の平年差*は、観測史上2番目に高い値となっており、1980年代中頃から高い状態が続いています(図序-1-8)。この要因の一つとして、二酸化炭素などの増加に伴う地球温暖化の影響があるのではないかと考えられています。2001年(平成13年)にまとめられたIPCC*(Intergovernmental Panel on Climate Change 気候変動に関する政府間パネル)第3次評価報告書によると、20世紀中の地球の平均地上気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の上昇は、0.6℃±0.2℃であるとされており、1990年から2100年までの間に1.4℃〜5.8℃上昇すると予測されています。大気中の二酸化炭素濃度は、1750年と比較すると1999年には約31%増加しており、この増加率は、過去2万年間で前例のないものであり、過去42万年間を通じて最高の濃度であるとされています(図序-1-9)。また、例えば二酸化炭素については、排出による二酸化炭素濃度増加量のおよそ4分の1が排出後数世紀にわたって大気中に残留し、気候に持続的な影響を及ぼすことから、現在のレベルで温室効果ガス濃度が安定したとしても気温の上昇、それに伴う海面水位上昇は今後数世紀にわたると予測されています。





 このような環境に大きな負荷を与える現在の生活を続けていけば、私たちの将来の生活にも影響を及ぼすおそれがあります。例えば、わが国への影響に関する研究をまとめた報告書「地球温暖化の日本への影響2001」によると、1mの海面上昇が起こった場合、わが国においては、平均満潮位以下の土地は現在の861km2から2,339km2へ、そこに居住する人口は200万人から410万人へ、資産は54兆円から109兆円に増大し、現在と同じ安全性を確保するためには、2.8〜3.5mの堤防かさ上げなど11.5兆円の対策費用が必要になるとされています。

(2)森林減少
 森林は、二酸化炭素を吸収・貯蔵し、生物多様性の保全、国土の保全、水源のかん養、水質の浄化等人間の生存に不可欠なさまざまな機能をもっています。FAO(Food and Agriculture Organization 国連食糧農業機関)によると、世界には約39億ヘクタールの森林があり、地球の陸地の約30%を占めています。しかしながら、1990年(平成2年)から2000年(平成12年)までの間に、全世界で年間約940万ヘクタールもの森林が失われているとされています。これは、わが国のおよそ4分の1に相当する面積で、中国・四国・九州地方の総面積に匹敵します(図序-1-10)。森林減少の原因は複雑で地域ごとに異なりますが、大規模な森林火災、過度の薪炭材採取、過放牧、不適切な商業伐採等が指摘されており、こうした森林の減少は、地球温暖化、生物多様性の減少、土壌と水の保全等に大きな影響を及ぼします。



(3)土壌劣化
 陸地の基盤である土壌は、動植物の生命を支え、農業生産の基礎としてだけではなく、地球の生物多様性の保全に大きな役割を果たしています。土壌は地球の生態系にとって必要不可欠なものであり、人間を支える穀物や他の植物を生育させる基本的な要素といえます。地球の陸地面積は、約130億ヘクタールであり、地球表面の3分の1に満たない面積ですが、気候的要因だけでなく、過放牧、農業、森林減少につながる不適切な伐採活動等の人間活動により土壌の劣化が進んでいます。UNEPの報告によると、世界で地球の陸地面積の約15%が土壌劣化の影響を受けています(図序-1-11図序-1-12)。土壌劣化は、生物多様性の減少、気候の変動といった他の地球環境問題とも深い関連があります。気候の変動が土壌劣化を加速させる一方で、土壌劣化の進展による気候の変動への影響なども指摘されています。





 近年、中国をはじめとする北東アジア地域においては、黄砂(砂塵嵐)の発生・移動頻度が増加しています。黄砂は、従来から黄河流域及び既存の砂漠等からの自然現象であると理解されてきましたが、近年、急速に広がりつつある過放牧などによる土壌劣化に起因する可能性が指摘されるようになり、人為的な問題としても着目されています。新聞報道によると、2002年(平成14年)に発生した大規模な黄砂は、北京では隣のビルが見えないほどの猛威をふるい、韓国では空港・学校等が閉鎖され、わが国でも、九州で交通機関に影響が出たとされています。また、同年には仙台や釧路等でも黄砂が観測されています。2002年(平成14年)4月に行われた第4回日中韓三か国環境大臣会合共同コミュニケにおいても、この問題について、モニタリング能力の強化や国際的な連携の重要性が盛り込まれています。

(4)淡水資源
 水は、人間を含めた生物にとって不可欠な資源であるだけでなく、農業、工業等私たちの社会経済活動にとってもなくてはならない資源です。地球上には、約14億km3の水が存在しますが、このうち利用が比較的容易であるものは地球上の水のわずか約0.01%、約0.001億km3であるといわれています。今日、世界の多くの国々では、水に関するさまざまな問題に直面しており、1998年(平成10年)の中国長江流域洪水では、3,000人以上が死亡し、2002年(平成14年)の南部アフリカにおける10年に1度といわれる干ばつでは、約1,300万人が深刻な食料危機に見舞われました(図序-1-13)。



コラム 環境危機時計
 環境問題に取り組む研究者、NGO関係者ら有識者約3,900人を対象に(財)旭硝子財団が行っている調査では、平成4年から毎年、地球環境の悪化に伴う危機を時刻で表す「環境危機時計」の質問をしています。12時を環境悪化による地球滅亡の時刻とし、3時から6時を「少し不安」、6時から9時を「かなり不安」、9時以降を「極めて不安」と分けており、平成14年には、前年より3分間時計の針が戻って9時5分となりましたが、「極めて不安」な時間帯の入口になっています。(図序-1-7

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