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第1節 

3 地球規模での社会、経済との関わりからみた環境の状況


(1)環境、経済、社会の相互影響
 こうした地球規模での環境に対する負荷の増大は、先進国における大量生産・大量消費・大量廃棄といった生産消費パターン、近年進展しているグローバル化、世界の各地域における貧困、人口増加といった社会問題等と複雑に関わりあっています。
 例えば、経済のグローバル化は、環境関連技術・サービス等の広がりや環境に配慮した製品の普及等を世界各国にもたらしています。その一方で、国際的な物流に伴うエネルギーの増大や有害廃棄物の越境問題を発生させるおそれ等も生じさせています。また、グローバル化は、それぞれの国の産業の国際競争力に影響を及ぼすことで産業構造の変化をもたらし、それがその国の環境負荷の構造を変える可能性もあります。さらに、自由貿易が適切な形で進められない場合には、文化や自然の多様性が損なわれたり、地域の環境の実情が考慮されなくなるおそれも生じ得ます。
 また、開発途上国における耕地開発・家畜の放牧、森林伐採等は、食料確保、燃料採取といった生存のために必要不可欠なものですが、貧困や急速な人口増に対応するための過耕作、過放牧、森林の再生能力を超える伐採等、自然環境へ過度の負荷が与えられると、深刻な環境劣化につながります。劣化した環境から十分な資源や食料を得ることは難しく、結局、貧困に拍車がかかることにつながります(表序-1-2

)。



 さらに、経済や社会問題などを背景に紛争が起きれば、それが環境に深刻な影響を与える場合もあり、また逆に深刻な環境劣化は、居住が不可能な地域を広げることとなり、これが紛争の原因になったり、居住地を移動せざるを得なくなる「環境難民」の発生をもたらしたりしています。こうしたことを背景に、今回のヨハネスブルグサミットで採択された実施計画の中においては、「貧困を撲滅することは、今日世界が直面している最大の地球規模の課題であり、特に開発途上国にとっては、持続可能な開発のために不可欠な条件である。」とうたわれています。

(2)水問題と人口増加
 ここで、本節2で見てきた淡水資源と人口増加の関わりについて、もう少し詳しく見てみます。
 水は、先に見たように有限で貴重なものですが、国連「世界水発展報告書」によると、人口増加に伴い、水需要が増加し1人当たり水供給量が明らかに減少しているとされています。1970年(昭和45年)から1990年(平成2年)の間に、世界の人口は開発途上国を中心として約16億人増加していますが、世界の1人当たり水供給量は、約3分の1減少しているとされています。他方で、1人当たり水使用量は増加傾向にあり、国連によると1950年(昭和25年)から1995年(平成7年)の間に1人当たりの水使用量は、約17%増加しています(図序-1-14図序-1-15)。





 こうした状況の中で、水不足、水質汚濁、洪水といった問題が発生していますが、さらに開発途上国における人口増加と貧困を背景とした都市への人口集中が、問題をより深刻なものにしており、WHO*(World Health Organization 世界保健機構)によると、2000年(平成12年)の時点で、都市では約1億7千万人、都市以外では約9億2千万人もの人々が安全な水供給を受けることができない状態にあります。安全な水が供給されず健康が損なわれると、生産性の低下、所得の減少をまねき貧困につながります。2015年(平成27年)までに世界人口は、約11億人増加し、その88%が都市に居住するようになると予測されており、特に都市における水供給体制の整備が必要になるとされています(表序-1-3

)。



 こうした水問題に対する国際的な関心も高まってきており、ヨハネスブルグサミットでも、「2015年までに、収入が1日1ドル以下の世界の人々の割合、飢餓で苦しむ人々の割合を半減させ、同じ日までに、安全な飲料水へのアクセスができない人々の割合を半減させること」との目標が掲げられました。また、2003年(平成15年)3月「第3回世界水フォーラム」が、滋賀県、京都府及び大阪府の琵琶湖・淀川流域において開かれました。1997年(平成9年)に始まった「世界水フォーラム」は、世界の水関係者が一同に会し、21世紀の国際社会における水問題の解決に向けた議論を深め、その重要性を広くアピールすることを目指す国際的な催しです。同フォーラムの機会に日本政府主催で開催された閣僚級国際会議では、草の根レベルからのガバナンスを重視し、家庭や近隣のコミュニティからの取組の強化を訴えつつ、飲料水、衛生の分野の目標の達成等に向け努力することをうたった閣僚宣言が採択されました。

(3)エコロジカルフットプリント
 このように地球規模での環境問題は、私たちの社会、経済と密接に関わっています。人類が地球上で生存していくためには限られた資源を有効に使って持続可能な社会を築くこと、地球の有限性(環境容量)を考えて社会経済システムへ環境配慮の織り込みを行っていくことが必要といえます。
 地球の環境容量をあらわす一つの例として、エコロジカルフットプリントがあります。エコロジカルフットプリントとは、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で開発された指標であり、WWF*(World Wide Fund for Nature 世界自然保護基金)では、この指標を用いて地球の環境容量を計算しています。エコロジカルフットプリントは、人々の資源消費量と自然の生産能力とを比較したものです。高所得国の1人当たり資源消費量は、低所得国の6倍にも達しており、地域別では、北アメリカが最も高くなっています(図序-1-16)。



 世界の1人当たりの資源消費量については、2.28グローバルヘクタール(全世界の平均値となる自然の生産能力を持つ面積1ヘクタール分)、これに対し、生産能力は、1.90グローバルヘクタールで、日本の場合には、それぞれ4.77グローバルヘクタール、0.71グローバルヘクタールとなっており、日本はその生産能力の約7倍の資源を消費していることになります(図序-1-17)。



 世界全体で見た場合、資源消費量と自然の生産能力とを比較すると、人々の資源消費はすでに1970年代に生産能力を上回っており、地球の環境容量を超えているとされています(図序-1-18)。日本人が地球の環境容量の中で生活していくためには、現在の資源消費量を半分以下にする必要があります。



 このように地域を越えて環境容量や資源量の制約といったいわば地球的規模の限界に直面しつつある今日において、私たちは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させる」持続可能な社会の構築に向け、実効ある取組を着実に実行し、人類の生存基盤である環境を守り続けていくことが必要です。

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