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第6節 

4 海洋汚染の防止

(1)問題の概要
 海洋は、地球の全表面の4分の3を、海水は地球上の水の97.5%を占め、重要な生物生産の場であるとともに、大気との相互作用により気候に影響を及ぼすなど地球上のすべての生命を維持する上で不可欠な要素となっています。
 海洋の持つ種々の特性や資源は、古来から、人間により利用され、開発されてきましたが、特に近年、海洋資源に対する依存性の増加や人間活動に伴う各種の汚染の拡大等に伴い、海洋環境の保全は重要な課題となっています。世界的な海洋汚染の状況は、調査海域が先進国の周辺海域に偏っていることなどから、その全体像は必ずしも明らかではありませんが、北海、バルト海、地中海等の閉鎖性海域においては、赤潮発生の拡大、重金属などの有害物質による汚染が広がっています。また、大型タンカーの航行、海底油田の開発等に伴う重大な海洋汚染の危険が存在し、一度事故が発生した場合の被害が長期間かつ広範囲に及ぶことなどから、海洋環境の保全は重要な課題となっています。特に、近年相次いで発生した大型タンカーの事故による大量油流出事故は海洋環境に深刻な影響を与え、改めて海洋環境保全の重要性を国際世論に訴えることとなっています。2002年(平成14年)1月には、「交通に関する大臣会合」が東京で開催され、油流出事故の原因の一つである安全・環境に関する国際基準を満たさないサブスタンダード船を排除するための具体的な計画が採択されました。

(2)対策
 わが国は、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」の制定及び改正等の所要の国内法整備を行った上で、廃棄物等を船舶等から海洋投棄することを規制するロンドン条約*、船舶等からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出や船舶の構造・設備等を規制する海洋汚染防止のための包括的な条約であるMARPOL73/78条約*並びに大規模油流出事故が発生した場合への準備、対応及び国際協力を防災のみならず海洋環境の保全の観点からも強化することを目的としたOPRC条約*等を締結し、海洋汚染防止対策の充実強化を図ってきたところです。

*ロンドン条約
廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約

*MARPOL73/78条約
1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書

*OPRC条約
1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約

 ロンドン条約はわが国においては1980年(昭和55年)に発効していますが、1996年(平成8年)には海洋投棄の大幅な規制強化を目的とする「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書(仮訳)」が採択されました。
 また、MARPOL73/78条約については、油、ばら積みの有害液体物質、容器に収納した状態で海上において運送される有害物質及び船舶からの廃棄物による汚染の防止のための規則が発効しており、現在未発効の船舶からの汚水による汚染の防止のための規則(附属書IV)についても、IMO(国際海事機関)において早期発効に向けての努力が続けられています。1997年(平成9年)9月には、MARPOL73/78条約に船舶からの大気汚染防止に関する規則(附属書VI)を追加するための1997年(平成9年)の議定書も採択されました。さらに、船舶からの廃棄物による汚染の防止のための規則(附属書V)の改正が2002年(平成14年)3月に発効し、これまで一定の海域において認められていた船舶で発生する廃プラスチック類の焼却灰の排出が禁止されたことに伴い、わが国国内法令においても同様の内容を規定して船舶からの廃プラスチック類の焼却灰の排出を禁止しました。
 OPRC条約は、1989年(平成元年)に米国アラスカ州沖で発生した「エクソンバルディーズ号」の座礁事故に伴う大量油流出事故を契機として締結された条約で、わが国は、1996年(平成8年)発効し、また、本条約を危険物質及び有害物質まで対象範囲を拡大する議定書が2000年(平成12年)3月に採択されています。
 1994年(平成6年)に発効した国連海洋法条約*は、領海、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底等に関する各国家間の権利義務関係を規定する包括的な海洋法秩序の構築を目指した条約で、海洋環境保全についても、各締約国が、陸上活動、船舶、海底活動等に起因する汚染の防止を図るために必要な措置を講ずることを求めています。わが国も、所要の国内体制の整備を行い、1996年(平成8年)7月20日の海の日に発効しています。

*国連海洋法条約
海洋法に関する国際連合条約

 また、有機スズ化合物を含有した船底塗料から溶出した有機スズ化合物による環境影響が懸念されてきましたが、IMOにおいてわが国、オランダ、北欧諸国から有機スズを含有する塗料の使用に関する世界的規制の必要性を提案し審議が進められてきた結果、平成13年10月に有機スズを含有した船底塗料の使用禁止等を内容とする「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」が採択されました。
 2001年(平成13年)11月には、「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画(GPA)第1回レビュー会合」が開催され、今後も各国が協力して、GPAを推進していくこと等を内容とした「陸上活動からの海洋環境の保護に関するモントリオール宣言」が採択されました。この会議に先立ち、アジア地域からのこの会議への貢献策を取りまとめるため、2001年(平成13年)9月に陸上起因の都市排水からの海洋環境の保護に関する国際ワークショップが富山市で開催され、アジア太平洋地域の12か国から代表が出席しました。
 海洋環境保全のための地域的な取組としては、1994年(平成6年)に日本、韓国、中国及びロシアの4か国により、日本海及び黄海を対象海域とするNOWPAP*が採択されており、1996年(平成8年)の第2回政府間会合においてNOWPAPに基づく事業計画が作成され、1999年(平成11年)の第4回政府間会合では、活動を一層強力に進めるため、各国に設置する地域活動センター(RAC)の役割が決定され、わが国においては「特殊モニタリング及び沿岸環境評価に関する地域活動センター」(CEA-RAC)として(財)環日本海環境協力センターが指定されました。また、2000年(平成12年)に東京で開催された第6回政府間会合において、本計画の地域調整ユニット(RCU)を、わが国(富山)と韓国(プサン)へ共同設置することが原則合意され、具体的設置に向けた準備が進められています。

*NOWPAP
北西太平洋地域海行動計画

 本計画に従った具体的な活動としては、対象海域のモニタリング計画を策定するために河川や大気を経由して流入する負荷量の把握に関する調査を行っているほか、環境の状況を把握するために人工衛星からのリモートセンシングによるデータの受信・処理のための施設を富山県に設置しました。さらに、2002年(平成14年)3月には特殊モニタリングの一つであるリモートセンシング技術に関する第2回ワークショップが開催されました。また、2001年(平成13年)5月には、青島(中国)において「油汚染対策に関する第4回フォーラム」が開催され、関係国の協力体制について議論されました。この結果を踏まえ、2001年(平成13年)11月には、東京において専門家諮問会合が開催され、「油汚染地域緊急時計画」の策定に向けた具体的な議論が行われました。
 さらには、PICES*のための条約が1992年(平成4年)に発効しており、現在、日本、米国、カナダ、中国、韓国及びロシアが加盟しています。同条約に基づいて、海洋環境委員会等4種の科学委員会において海洋科学の推進が図られています。

*PICES
北太平洋地域の海洋科学研究の促進及び関連情報整備の促進等を目的として、平成2年12月に採択された北太平洋の海洋科学に関する機関

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