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第5節 

3 化学物質の環境リスクの低減

(1)化学物質の環境リスク評価*の推進

*化学物質の環境リスク評価
化学物質の環境リスク評価は、評価対象とする化学物質の人の健康及び生態系に対する有害性を特定し、用量(濃度)−反応(影響)関係を整理する(有害性評価)とともに、人及び生態系に対する化学物質の環境経由の暴露量を見積もり(暴露評価)、両者の結果を比較することによってリスクの程度を判定するもの。これらには、まず多数の化学物質の中からスクリーニングするための「初期評価」と、次の段階で化学物質の有害性及び暴露に関する知見を充実させて評価を行い、環境リスクの管理方策などを検討するための「詳細評価」がある。

 現在、わが国で約5万種以上流通しているといわれる化学物質の中には、発がん性、生殖毒性等多様な毒性を持つものが多数存在し、これらが大気・水等さまざまな媒体を経由して人や生態系に影響を与えているおそれがあります。
 こうした影響を未然に防止するためには、多くの化学物質を対象に、その生産、使用、廃棄等の仕方によっては人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれのある化学物質が環境の保全上の支障を生じさせるおそれ(環境リスク)の評価を行い、その結果に基づき適切な環境リスク対策を講じていく必要があります。
 平成13年度においては、化学物質の環境リスク評価のための知見の収集を進めるとともに、平成9年度より進めてきたパイロット事業である環境リスク初期評価の結果を取りまとめました。この中で、人の健康に対するリスク(健康リスク)については、発がん性を除く一般毒性などについて定量的な評価を行い、生態系に対するリスク(生態リスク)については、水環境中の化学物質の水生生物に対する影響について評価を行いました。
 このパイロット事業により、環境リスク初期評価を体系的に進めるための方法論が確立され、あわせて39物質について健康リスク、生態リスクの初期評価が行われました(表1-5-4)。



 また、この生態リスク評価やOECDのHPV点検プロジェクトにおける化学物質の安全性点検に向けて生態系に対する影響に関する知見を充実させるため、平成7年度からOECDのテストガイドラインを踏まえて藻類、ミジンコ及び魚類を用いた生態影響試験を実施しており、平成13年度は45物質について試験を行いました。

(2)ダイオキシン類問題への取組
 ア 背景
 (ア)ダイオキシン類とは
 ダイオキシン法では、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に加え、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)をダイオキシン類として定義しています。ダイオキシン類は、極めて強い毒性があり、また、分解されにくいため、通常の生活における微量の摂取によっても大きな影響を及ぼすおそれがあります。
 ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで意図せざるものとして生成されます。現在、わが国での主な発生源はごみ焼却施設ですが、その他にも金属精錬などにおける熱処理工程などのさまざまな発生源があります。
 (イ)環境中の汚染状況
 全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成12年度にダイオキシン法に基づく常時監視などにより、大気、水質、底質、土壌等の調査が実施されました(表1-5-5)。



 (ウ)人の摂取量
 平成11年度に厚生労働省が実施した調査では、わが国における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量の推計値は1.45pg-TEQ/kg/日とされています。そのほか、呼吸により空気から摂取される量が約0.05pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0084pg-TEQ/kg/日と推定され、人が1日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約1.5pgと推定されています(図1-5-5)。この水準は、耐容一日摂取量(生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない1日当たりの摂取量)の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図1-5-6図1-5-7)。







 イ ダイオキシン類対策の枠組みの整備
 ダイオキシン対策は、現在二つの枠組みに基づいて進められています。一つは平成11年3月に「ダイオキシン対策関係閣僚会議」において策定された「ダイオキシン対策推進基本指針(以下「基本指針」という。)」であり、この基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリーの作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理及びリサイクル対策の推進を定めています。
 もう一つは、平成11年7月に、議員立法により制定されたダイオキシン法で、平成12年1月15日から施行されました。この法律では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物処理に関する規制、汚染状況の調査、汚染土壌に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。これらの規定に基づき設定された特定施設及びその排出基準値は表1-5-6のとおりです。ダイオキシン類の水底の底質の汚染に係る環境基準については、平成13年12月に中央環境審議会へ諮問し、その設定に向けた調査・検討を行っています。



 ウ 基本指針に基づく施策
 (ア)排出インベントリー
 平成13年12月にダイオキシンの排出量の目録(排出インベントリー)の見直しが行われました(表1-5-7)。それによると、平成9年のわが国のダイオキシン類の年間排出量は約7,340〜7,600g-TEQ、平成12年は2,200〜2,220g-TEQで、平成9年からの3年間でおおむね7割の削減がなされたと見積もられています(表1-5-7)。



 (イ)ダイオキシン類に関する検査体制の整備
 ダイオキシン類の環境測定における的確な精度管理を推進するために定めた「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」の普及を図るために、平成13年度に環境省が実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、環境省が測定分析機関に対し同指針に規定された事項等が実施されているかの受注資格審査を行い、ダイオキシン類に係る環境測定を的確に実施できると認めた機関であることを受注先の要件に加えました。また、「ダイオキシン類の環境測定を外部に委託する場合の信頼性の確保に関する指針」に沿ってダイオキシン類測定を進めました。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を引き続き実施しました。
 (ウ)健康及び環境への影響の実態把握
 ダイオキシン類の人体への摂取経路、食物を通じた生物濃縮等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、発生源周辺地域などにおける精密暴露調査や環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。
 (エ)調査研究及び技術開発の推進
 平成13年度においては、特に廃棄物の適正な焼却技術、汚染土壌浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、精度管理等に関する技術開発及び毒性評価、環境中挙動、人への暴露評価、生物への影響等に関する調査研究に重点的に取り組みました。
 (オ)廃棄物処理及びリサイクル対策の推進
 平成11年9月に設定した廃棄物の減量化の目標量を踏まえ、政府全体として一体的、計画的な廃棄物対策を推進しました。
 また、循環型社会形成推進基本法をはじめとする廃棄物・リサイクル関連法を整備し、使い捨て製品の製造・販売や過剰包装の自粛、製品の長寿命化等を図るなど製品の開発・製造段階、流通段階での配慮の促進、国民の生活様式の見直し等により、廃棄物等の発生抑制に努めるとともに、循環資源の再使用(リユース)や再生利用(リサイクル)を推進しました。
 さらに、学校においては、原則としてごみ焼却炉を廃止したため、今後は適切なごみ処理やごみの減量化等を推進することが重要です。

 エ ダイオキシン類対策特別措置法の施行
 (ア)特定施設の届出状況の把握
 ダイオキシン法に基づく特定施設の届出状況について、平成13年4月に調査しました。その結果では、大気基準適用の特定施設については、平成13年3月31日現在、全国で19,688施設の届出があり、廃棄物焼却炉が18,750施設(4t/h以上の大型炉:1,070、2〜4t/hの中型炉:1,668、2t/h未満の小型炉:16,012)、産業系施設が938施設(アルミニウム合金製造施設:775、製鋼用電気炉:116等)となっていました。また、平成12年3月以降、約8,420の廃棄物焼却炉が廃止又は排出基準の適用を受けない小さな規模に構造を変更されたことがわかりました。
 水質基準適用の特定施設については、平成13年3月31日現在、全部で4,255施設の届出があり、その大部分(3,700)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設となっていました(図1-5-8)。



 (イ)環境の汚染状況の調査
 ダイオキシン法に基づき、都道府県が実施する大気、水質、底質、土壌の汚染状況の常時監視に対し、補助を行いました。
 (ウ)特定施設の追加について
 平成13年11月に硫酸カリウム製造に係る施設等3業種の施設を、一定レベル以上の濃度のダイオキシン類の発生が新たに確認された施設として、ダイオキシン法の特定施設(水質基準対象施設)に追加しました(施行は、同年12月1日)。
 (エ)土壌汚染対策について
 環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、1地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定され、対策計画ェ策定されました。この地域について、都道府県が実施するダイオキシン類による土壌の汚染の除去等に当たって都道府県が負担する経費を助成しました。
 (オ)小規模な廃棄物焼却施設について
 小規模な廃棄物焼却炉の構造及び維持管理については、厚生省生活環境審議会廃棄物部会ダイオキシン対策技術専門委員会において検討を行ってきた結果、廃棄物処理法に基づく処理基準による規制を行うことが適当であること等の結論を受け、廃棄物処理法施行規則等の改正等必要な基準の設定及び改正を行いました。
 ごみ固形燃料化施設については、平成13年2月から廃棄物処理法に基づく排出基準を適用することとしました。既設の施設については、対応技術を導入するまでの間(平成14年11月)について、排出実態等を勘案し、当面の基準を設定しました。
 (カ)その他の取組
 ダイオキシン法に基づく大気総量規制に関し、その手法の検討を平成12年度から、引き続き実施しました。また、ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性や暴露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、環境中の臭素系ダイオキシン類を測定するパイロット調査などの調査研究、分析法の開発などを進めました。

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