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第5節 

2 各種化学物質対策の推進

(1)化学物質審査規制法の実施
 化学物質審査規制法では、製造又は輸入の前にあらかじめ届け出られた新規の化学物質について、難分解性、高蓄積性及び慢性毒性等の有無に係る審査を実施することとしています。これらの性状をすべて有する化学物質を第一種特定化学物質として指定し、原則として、製造、輸入、使用等を禁止しています。また、高蓄積性ではないものの難分解性であり、かつ慢性毒性等の疑いがある化学物質を指定化学物質として指定し、製造量などの実績数量の届出を義務付けています。当該指定化学物質による相当広範な地域の環境汚染により健康被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、有害性の調査を実施し、その結果、慢性毒性等を有することが判明した場合には、第二種特定化学物質として指定し、製造・輸入予定数量の届出、取扱いに係る技術上の指針の遵守、環境汚染の防止に関する表示を義務付けるとともに、必要に応じ、製造・輸入予定数量の変更を命令できることとしています(図1-5-3)。



 平成13年は322件の新規化学物質の製造・輸入の届出があり、審査が行われました。平成14年1月及び2月に指定化学物質として194物質が追加され、平成13年度末現在、第一種特定化学物質としてPCB等11物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質及び指定化学物質としてクロロホルム等616物質が、それぞれ指定されています。

(2)PRTR等の推進
 PRTR制度*はすでにオランダ、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア等で導入されており、1996年2月にはOECDが加盟国に対し同制度の導入を勧告しました。わが国でも環境省が平成9年度よりPRTRパイロット事業を実施し、PRTR制度のわが国への本格的導入に向けての課題の整理や関係者の理解の増進を図ってきました。また、産業界も、通商産業省(現経済産業省)からの支援を受けて自主的にPRTR制度に関する取組を進めるとともに、化学物質の管理に必要な情報を事業者間で提供することによりその管理を促進するMSDS*の導入・普及に取り組んできました。

*PRTR制度
Pollutant Release and Transfer Register
人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、その環境中への排出量及び廃棄物に含まれて事業所の外に移動する量を事業者が自ら把握し、行政に報告を行い、行政は、事業者からの報告や統計資料等を用いた推計に基づき、対象化学物質の環境中への排出量や、廃棄物に含まれて移動する量を把握し、集計し、公表する仕組みをいう。

*MSDS
化学物質等安全データシート



 これらの経験や中央環境審議会及び化学品審議会における議論を踏まえ、PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)とMSDS制度を二つの大きな柱として、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とする「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法)が平成11年7月に公布されました。
 MSDS制度は平成13年1月から施行され、また、PRTR制度は平成13年4月から事業者による排出量などの把握、平成14年4月からその結果の行政への届出、同年秋以降行政による集計・公表等と段階的に施行されます。このため、平成12年度までに、対象化学物質や対象事業者の要件を定める政令、MSDS制度の詳細を定める政令、PRTR制度の排出量・移動量の把握等に関する詳細を定める省令が公布されました。平成13年度においては、オンラインや磁気ディスクによる事業者からの排出量・移動量の届出等の詳細を定める政省令や、事業者から届け出られた排出量・移動量及びこれら以外(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)の排出量の集計の方法等に関する省令が公布されました。経済産業省及び環境省では、法の本格的な施行に備え、引き続き、全国説明会の開催など、制度の円滑かつ効率的な実施に向けて周知に努めるとともに、事業者による排出量把握のためのマニュアルの作成・改善、届け出られた排出量以外の排出量の推計方法の開発・改善等を行いました。

(3)リスクコミュニケーションの推進
 化学物質は、私たちの生活を豊かにし、また生活の質の維持向上に欠かせないものとなっている一方で、日常生活のさまざまな場面、製造から廃棄に至る事業活動の各段階において、環境を経由して人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあり、こうした環境リスクに対する国民の不安も大きなものとなっています。
 このため、化学物質による環境汚染に関して安全で安心な社会を実現するには、市民、産業、行政が情報を共有し、対話などを通じて可能な限り共通の認識の上に立って環境リスク低減のための合理的な行動ができるようにすることが必要です。
 環境省では、情報の共有のため、『PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック』の作成・配布や、化学物質の情報データベースのホームページの設置など、化学物質に関する情報の整備・提供を進めています。さらに、事例集などの関連情報を掲載した「リスクコミュニケーションホームページ」を開設しています。
 また、内閣総理大臣の主宰により開催された「21世紀『環の国』づくり会議」報告(平成13年7月)を踏まえ、化学物質の環境リスクについて、国民的参加による取組を促進することを目的に、市民、産業、行政の代表による情報の共有及び相互理解のための場として「化学物質と環境円卓会議」が平成13年12月に設置されました。「化学物質と環境円卓会議」は、インターネットの活用や地域フォーラムの開催により、国民・各界の意見・要望を集約し、これらの意見・要望を踏まえた対話を通じて、環境リスク低減に関する情報の共有と相互理解を深め、会議での議論やそこで得られた共通認識を市民、産業、行政に発信しようというものです。

(4)政府による各種の取組
 ア 有害大気汚染物質対策
 有害大気汚染物質対策に関しては、自主管理指針の策定等事業者の自主管理を推進するための体制整備を行ってきましたが、平成11年度までに、自主管理の対象13物質について、77団体が自主管理計画を策定しました。平成10年度から実施状況の報告がなされ、中央環境審議会及び化学品審議会で、内容のチェックアンドレビューが行われました。また、大気汚染防止法に規定されている3年後の見直し規定に即して、中央環境審議会及び化学品審議会より、新たに地域単位の自主管理を行うこと等を内容とする答申及び報告が平成12年12月にそれぞれなされました。
 それらの答申及び報告を踏まえ、経済産業省と環境省は、平成13年6月に「事業者による有害大気汚染物質の自主管理促進のための指針」を改正する等事業者の自主的管理を推進するための体制整備を行うとともに、関係事業者団体に対して、平成11年度の年間大気排出量を基準とし、平成15年の年間大気排出量を目標値とした平成13年度から平成15年度までの個別業界団体の自主管理計画及びベンゼンに係る地域自主管理計画の策定を要請しました。
 平成13年10月までに産業構造審議会及び中央環境審議会において、75団体が策定した新たな自主管理計画(案)と室蘭、鹿島臨海、京葉臨海中部、水島臨海、大牟田地区のベンゼンに係る地域自主管理計画(案)について、審議が行われ、評価されました。これにより、第2期の事業者による自主的な有害大気汚染物質対策がスタートしました。

 イ 化学物質環境汚染実態調査
 化学物質の環境中のレベルの調査については、昭和49年度以来実施してきましたが、昭和54年度からは数万といわれる既存化学物質を効率的・体系的に調査し、環境における安全性を評価するため、昭和63年度まで第1次化学物質環境安全性総点検調査を実施しました。平成元年度からは、生産活動等の変化や科学技術の進歩などを踏まえて、調査対象物質の拡大等による調査の充実を図り、第2次化学物質環境安全性総点検調査を開始しました。その後、指定化学物質等検討調査、非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査が追加され、これらをあわせたものとして化学物質環境汚染実態調査が毎年実施されています。

 ウ PCB対策
 PCB廃棄物の処理のために必要な体制を速やかに整備することにより、その確実かつ適正な処理を推進するため、平成13年6月にPCB特別措置法及び改正環境事業団法が制定され、PCB廃棄物処理に向けた枠組みが整備されました。
 PCB関連2法の施行後、環境省においては、環境事業団による拠点的処理施設立地の取組を進め、具体的には中国、四国及び九州の17県を処理対象区域とする事業について平成13年10月11日に北九州市長から立地を受け入れる旨の回答を受けて、同年11月1日に環境事業団に事業を認可したところです。

(5)国際動向
 経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)、国連環境計画(UNEP)などの国際機関では、化学物質対策に関する種々の活発な活動を主宰しており、わが国も積極的に参加しています。

 ア OECDの活動
 OECDでは、化学物質の安全性評価のためのテストガイドライン(化学物質の安全性に関する試験法)の作成及び改廃、GLP(Good Laboratory Practice :優良試験所基準)、化学物質のリスク評価手法及び管理方策、有害性に関する分類と表示の調和、化学品事故への対応、環境暴露評価手法の開発、PRTRの推進等について検討を行っており、これらの成果を受け、化学物質の適正な管理に関する種々の措置について決定や勧告が採択されています。
 新規化学物質については、届出様式の標準化など各国が実施している届出・評価の調和に向けて作業チームを設置し、取組が進められています。
 既存化学物質については、各国で大量に生産されている化学物質(HPV:High Production Volume)の安全性点検を分担して実施する国際プロジェクトを推進しています。
 PRTRにツいては、排出量の推計方法に関するタスクフォースにおいて、各国が実施している推計方法の情報交換や他国での利用可能性について検討が進められています。
 有害性に関する分類と表示の調和については、これまでに急性毒性、発がん性、水生生物への生態毒性など9種類の有害性項目の分類方法について合意されましたが、2001年(平成13年)には、さらに混合物の分類方法などが合意されました。
 1994年(平成6年)より特別プロジェクトとして実施されている農薬ワーキンググループでは、農薬の安全性に係る再評価の国際分担や農薬によるリスク削減対策等についての検討が進められています。

 イ WHOの活動
 WHOでは、UNEP、国際労働機関(ILO)のほか、各国の主要な研究機関との間の有機的な協力に基づき、国際化学物質安全性計画(IPCS:International Programme on Chemical Safety)において、安全性に係る対策の優先度の高い化学物質のリスク評価、健康へのリスク評価手法の開発等の活動が実施されており、この成果として化学物質ごとの環境保健クライテリア(EHC:Environmental Health Criteria)の刊行などが行われています。

 ウ UNEPの活動及び国際条約
 UNEPでは、化学物質の人及び環境への影響に関する既存情報の収集・蓄積並びに化学物質の各国の規制に係る諸情報の提供などが行われています。
 また、有害な化学物質による環境汚染を防止し、環境保全上適正な使用に資するため、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意(PIC:Prior Informed Consent)の手続に関するロッテルダム条約」が1998年(平成10年)9月に採択され、わが国は1999年(平成11年)8月に署名しました。2001年(平成13年)においては、本条約発効までの暫定PIC手続期間中に発生する問題の抽出と対応について検討が開始されました。2001年(平成13年)12月現在、本条約の対象となる27物質に4物質を加えた計31物質が暫定PIC手続の対象となっています。
 PCB、DDTなどの残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)は、国境を越えて広い地域を移動し、生物の体内に蓄積されるため、北極グマやアザラシから検出されるなど、地球規模の汚染をもたらしています。
 このため、1997年(平成9年)2月のUNEP管理理事会において、これらの削減又は排出の廃絶を目的とした国際的拘束力のある手段を2000年(平成12年)中を目途に確立することが決議されたことを受け、1998年(平成10年)6月以降条約化政府間交渉委員会が開催されました。その結果、2001年(平成13年)5月にストックホルムで開催された外交会議で「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択されました。同条約は難分解性、生体内での高蓄積性、長距離移動性、人の健康や環境(生態系)に対する悪影響を有する物質として、当面、PCB、DDT、クロルデン、ダイオキシンなど12物質を対象に、その製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理やストックパイル(在庫・貯蔵物)の適正管理等の措置を各国に義務付けています。わが国としても、条約の早期締結と適切な履行に向け、第154回国会において、5月1日現在、審議が進められています。

 エ 「アジェンダ21」のフォローアップ
 1992年(平成4年)6月の環境と開発に関する国連会議(UNCED)において採択された行動計画「アジェンダ21」の中に「有害かつ危険な製品の不法な国際取引の防止を含む有害化学物質の環境上適正な管理」として1章が割かれ、国際的に取り組むべき項目が以下のように示されました。
 1) 化学的リスクの国際的なアセスメントの拡大及び促進
 2) 化学物質の分類と表示の調和
 3) 有害化学物質及び化学的リスクに関する情報交換
 4) リスク低減計画の策定
 5) 化学物質の管理に関する国レベルでの対処能力の強化
 6) 有害及び危険な製品の不法な国際取引の防止
 7) 国際協力の強化
 これらの効率的なフォローアップを行うため、1994年(平成6年)4月に化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS:Intergovernmental Forum on Chemical Safety)が設立されました。2000年(平成12年)10月にブラジル国バイア州サルバドル市で開催された第3回全体会議(IFCS III)では「2000年以降の優先行動事項」及びこれを基にIFCS III参加者が共同して取組を進めていくべきことを宣言した「バイーア宣言」が合意されました。これを踏まえ、わが国でも積極的に取組を進めており、これらの項目のうち3)及び5)に関連して、化学物質情報の交換手段として、「地球規模化学物質情報ネットワーク(GINC:Global Information Network on Chemicals)」の構築が企図され、日本の積極的な支援により開始されています。また、5)に関連して、国別のプロファイルの整備に向けた作業を開始しました。

(6)国際的動向を踏まえたわが国の取組
 関係府省においては、OECDにおける環境健康安全プログラムに関する調整作業、HPVの安全性点検等に積極的に対応するとともに、試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、GLPに関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関するわが国としての評価作業、化学物質の安全性について総合的に評価するための手法等についての検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。
 平成13年度においては、OECDのHPV点検プロジェクトにおいて、わが国として必要な知見を収集する試験の一環として、生態影響試験、毒性試験等を実施し、OECDの初期評価会合に13物質の初期評価報告書を提出しました。
 また、化学品の分類及び表示に関する世界システム(GHS:Globally Harmonized System)の確立については、アジェンダ21の第19章に明記されたことを受け、国連危険物輸送専門家委員会(UNCETDG)、経済協力開発機構(OECD)、国際労働機関(ILO)が中心となって検討が進められてきました。2001年(平成13年)からは、その成果を踏まえ、国連経済社会理事会に新たに設置された常設委員会(GHS小委員会)において、GHSの履行の確保に関する検討などが進められています。

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