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第5節 

1 化学物質による環境問題の現状

 現代の社会においては、物の生産などに多種多様な化学物質が利用され、私たちの生活に利便を提供しています。また、物の焼却などに伴い非意図的に発生する化学物質もあります。今日、推計で約5万種以上の化学物質が流通し、また、わが国において工業用途として届け出られるものだけでも毎年約300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。化学物質の開発・普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、人類や生態系にとって、それらの化学物質に長期間暴露されるという状況は、歴史上、初めて生じているものです。
 しかし、化学物質の中には、その製造、流通、使用、廃棄の各段階で適切な管理が行われない場合に環境汚染を引き起こし、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものがあります(総説第2章第3節1(5)参照)。

(1)化学物質による環境汚染の現状
 ア 化学物質環境汚染実態調査の概要
 (ア)化学物質環境安全性総点検調査
 環境省では、「化学物質審査規制法*」が施行された昭和49年度から、化学物質の一般環境中の残留状況を調査しています。

*化学物質審査規制法
「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」昭和48年10月16日法律第117号

  a 化学物質環境調査の概要(水質、底質、魚類)
 化学物質環境調査は、一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的としています。
 平成12年度は、全国56地点を対象とし、水質14物質(群)、底質13物質(群)及び魚類11物質(群)について調査を実施しました。この結果、水質から1物質(群)、底質から4物質(群)及び魚類から2物質(群)が検出されました(表1-5-1)。これらのうち、ヘキサブロモベンゼン(大気系調査とあわせて評価)及びフタル酸ブチルベンジルについては、今後も環境調査等を行う必要があります。また、ジオクチルスズ化合物については、一定期間をおいて環境調査などを行う必要があります。



  b 化学物質環境調査の概要(大気)
 平成12年度は、全国22地点を対象とし、14物質(群)について調査を実施しました。この結果、14物質(群)が検出されました(表1-5-2)。このうち1,4-ジオキサンについては、環境大気中の検出状況、これまでの環境水中の検出状況及びスクリーニング的に実施した文献調査の毒性情報により、発生源周辺を含めた詳細な環境調査を行い、あわせてリスク評価を行う必要があります。このため環境リスク初期評価を実施する化学物質の候補として優先的に扱うこととしています。



  c 底質モニタリングの概要
 底質モニタリングは、環境調査の結果等により水質及び底質中の残留が確認されている化学物質(主に第一種特定化学物質)について、その残留状況の長期的推移の把握により環境汚染の経年監視を行うことを目的として昭和61年度から実施しています。
 平成12年度は第一種特定化学物質を中心に、p,p'-DDT等20物質について全国17地点で調査を実施しました。
 その結果、対象20物質すべてが検出されました(図1-5-1)。調査対象物質ごとの最高値を記録した地点をみると、大和川河口(7物質)、洞海湾(7物質)及び大阪港(5物質)であり、閉鎖性水域の内湾部の汚染レベルが高いことが示唆されています。



  d 生物モニタリングの概要
 生物モニタリングは、第一種特定化学物質及び環境調査結果などから選定した物質について、生物(魚類、貝類、鳥類)中の蓄積状況を把握することにより環境汚染の経年監視を行うことを目的として、昭和53年度から実施しています。
 平成12年度は第一種特定化学物質を中心に、PCB等18物質について全国20地点の魚類8種、貝類2種、鳥類2種を対象に調査を実施しました。
 その結果、魚類からはPCB、p,p'-DDE等18物質すべて、貝類からはtrans-クロルデン、p,p'-DDE等11物質、鳥類からはβ-HCH、p,p'-DDE等8物質が検出されました(図1-5-2)。



 PCBは製造などが中止されてからおよそ30年経ちますが、分解されにくく、なお延べ11地点から検出されています。PCBなどは生物の体内に入ると、排泄されにくいため蓄積されやすくなっています。このため、一般に食物連鎖の上位に向かうほど濃縮率が高くなります。DDT類、クロルデン類なども農薬や防虫剤等として用いられたものであり、引き続き残留状況を調査していく必要があります。今後ともこれらの物質を中心に監視を継続することとしています。
 (イ)指定化学物質等検討調査結果の概要
 化学物質審査規制法の指定化学物質を中心とした物質について、環境中の残留性及び人への暴露状況の調査を行っています。
 平成12年度の環境残留性調査では、大気についてはクロロホルムなど6物質を全国31地点で、水質、底質については1,4-ジオキサンを全国34地点で調査しました。また、暴露経路調査では、室内空気については、クロロホルムなど6物質を、食事についてはクロロホルムを全国8地区各3世帯で調査しました。
 その結果、環境残留性調査においては、大気では6物質すべてが、水質、底質では3物質すべてが、検出されました(表1-5-3)。また、暴露経路調査では、室内空気からは全6物質が8地区すべてで検出され、食事からはクロロホルムが8地区すべてで検出されました。



 (ウ)有機スズ化合物に関する環境調査結果
 有機スズ化合物による環境汚染の状況については、生物モニタリングと指定化学物質等検討調査の結果をあわせると次のとおりです。
 (トリブチルスズ化合物)
 トリブチルスズ化合物は、環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは、近年では水質において改善、生物については横ばいないし改善、底質についてはおおむね横ばいの傾向にあります。
 また、トリフェニルスズ化合物は、環境中に広範囲に残留しており、その汚染レベルは、近年では水質については改善、底質については横ばいないし改善、生物については横ばいの傾向にあります。
 トリブチルスズ化合物及びトリフェニルスズ化合物とも、わが国では開放系用途の生産・使用はほとんどないことを考慮すれば、汚染状況はさらに改善されていくものと期待されています。しかし、未規制国・地域の存在に伴う汚染も考えられることから、今後も引き続き、環境汚染対策を継続するとともに、環境汚染状況を監視していく必要があります。
 また、これらの物質については、内分泌かく乱作用を有する疑いがあるとの指摘があることなどから、関連の情報を含め毒性関連知見の収集に努めることも必要です。
 (エ)非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査結果の概要
 一般環境中における非意図的生成化学物質の環境残留性を把握するために昭和60年度から「有害化学物質汚染実態追跡調査」(平成5年度より「非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査」に名称を変更)を行っています。平成12年度はPCBについては、水・底質、生物(魚類)、大気の4媒体を、臭素化ダイオキシン類については底質を調査しました。その結果は、次のとおりです。
 PCBについては、昭和47年までに製造、輸入及び開放系用途の使用が中止されましたが、依然として広範な地点の環境中に存在しており、全地点の全媒体において検出されました。 今後とも全地球的な汚染監視の観点からも、モニタリングを継続しその消長を追跡する必要があります。また、PCBの環境中の組成等を調査することにより、非意図的生成割合、環境中挙動などの汚染機構の解明に努める必要があります。また、臭素化ダイオキシン類については、一般環境中の底質からごく微量ながら36地点中5地点で検出され、塩素化ダイオキシン類と比較して存在量は少ないものの、臭素化ダイオキシン類に関する他の関連情報が十分でないことから、毒性や暴露実態に関する知見を収集、解析するとともに、測定感度の一層の向上に努めつつ、存在状況の把握を進める必要があります。なお、「ダイオキシン法*」を踏まえた新たな調査研究事業が開始されていることから、汚染実態調査についても今後、同事業により継続することにしています。

*ダイオキシン法
「ダイオキシン類対策特別措置法」平成11年7月16日法律第105号

 (オ)大気モニタリングの概要
 有害大気汚染物質のモニタリング調査は昭和60年から実施されていますが、平成9年4月に施行された改正大気汚染防止法に基づき、平成9年度から地方公共団体(都道府県、大気汚染防止法の政令市)においても本格的にモニタリングが開始され、さらに平成10年度には調査規模が大幅に拡大されました(測定結果については、本章第2節1(6)参照)。

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