前のページ 次のページ

第3節 

5 海洋環境の保全

 1994年(平成6年)11月に発効した「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)については、わが国は平成8年6月に締結を行い、同年7月20日にわが国について発効しました。条約の求める義務等については、所要の国内法令の改正により措置をとったところですが、条約の趣旨を踏まえ、排他的経済水域*をも考慮し、海洋生態系の保全を含めた海洋環境保全のための施策の充実強化を図ることが必要です。

*排他的経済水域
わが国の領海基線から最大限200海里の海域、資源開発の主権や海洋環境の保護、保全に関する責務を有する。

(1)未然防止対策
 ア 船舶等に関する規制
 海防法に基づき、油、有害液体物質等及び廃棄物の排出規制、焼却規制等について、その適正な実施を図るとともに、船舶の構造・設備等に関する技術基準への適合性を確保するための検査、海洋汚染防止証書等の交付を行っています。
 また、条約の基準に適合しない外国船舶の排除を目的として、わが国に入港してくる外国船舶に対する監督(ポート・ステート・コントロール)を強化しました。

 イ 未査定液体物質の査定
 有害液体物質に関する規制が実施されたことに伴い、昭和62年から未査定液体物質の査定を行っており、これまでに査定、告示した物質は147物質(平成14年3月末現在)となっています。

 ウ 海洋汚染防止指導
 海洋汚染防止講習会を通じ、海防法の油、有害液体物質及び廃棄物に関する規制等を中心として、その周知徹底及び海洋環境の保全に関する意識の高揚に努めました。
 また、6月5日の「環境の日」を初日とする一週間を「海洋環境保全推進週間」として集中的な訪船指導等を実施したほか、「海洋環境保全講習会」の開催や海洋環境保全推進員制度の活用により、海洋環境保全思想の普及及び海上環境関係法令の周知徹底を図りました。
 その他、船舶の不法投棄については、廃船の早期適正処分を指導する内容が記載された「廃船指導票」を廃船に貼付することにより、投棄者自らによる適正処分の促進を図り、廃船の不法投棄事犯の一掃を図りました。

 エ 海洋投入処分の削減
 廃棄物等の海洋投入処分量の削減について陸上処分方法及び再資源化への転換を進めた結果、平成12年3月までにリンター蒸煮廃液、イースト製造業の濃縮液及びグルタミン酸製造業の発酵廃液については海洋投入処分が取りやめられました。
 また、平成14年2月には、し尿又は浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分を禁止(現在処分を行っている者については5年間猶予)しました。

(2)排出油等防除体制の整備
 「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(以下「OPRC条約」という。)に対応してわが国では「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(以下「国家的な緊急時計画」という。)(平成7年12月閣議決定、平成9年12月改正)を策定しています。この計画に基づき、わが国周辺海域において油汚染事件が発生した際に、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護を図るため、国、地方公共団体及び民間の関係者が一体となって迅速かつ効果的な措置をとることとされており、特に、ナホトカ号流出油災害の教訓を踏まえ、油汚染事故発生時の即応体制、関係機関の緊密な連携等の強化を図っています。また、北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)などを通じた国際協力体制の構築等油防除のための施策を進めています。
 さらに、OPRC条約及び国家的な緊急時計画に基づき、環境保全の観点から油汚染事件に的確に対応するため、1)油汚染事件により環境上著しい影響を受けやすい海岸等に関する情報を盛り込んだ図面(脆弱沿岸海域図)の作成・公表、2)関係地方公共団体、環境NGO等に対し、事件発生時の環境保全面からの対応のあり方に関する知識の普及、研修・訓練の実施(平成13年10月横須賀)、3)油汚染事件発生時における傷病鳥獣の適切な救護について地方公共団体職員等を対象に研修を実施しました。また、ナホトカ号の沈没海難による重油流出事故等への対応の経緯を踏まえ、油汚染事故に対する環境保全対策の一層の充実を図るため、油処理剤の環境影響の評価に関する情報の収集及び調査を進めました。
 ナホトカ号事故等による大規模油流出事故を教訓として、タンカー等の油流出事故等を防止するため、PSC*実施体制の強化を推進し、また、油防除のため油防除資機材の整備、大型のしゅんせつ兼油回収船の建造、荒天対応型大型油回収装置等の研究開発等についても進めています。

*PSC
ポートステートコントロール
船舶の国籍にかかわらず船体構造等要件を満たさない船舶の航行差し止め等を寄港国が行える制度

 また、海上における油等の排出事故に対処するため、巡視船艇・航空機の常時出動体制の確保及び防除資機材整備の充実を図るとともに、機動防除隊の業務執行体制の強化、海上災害防止センターへの指導、排出油防除に関する協議会等の組織化・広域化の推進及びこれらの協議会との連携のもとに行う各種訓練等の内容の充実を図ることにより、官民一体となった排出油防除体制の充実を図りました。
 さらに、マリンレジャーの活発な相模湾に次世代型海流監視システムを整備し、漂流予測体制の強化を図るとともに、沿岸域における情報整備として「沿岸海域環境保全情報」の整備を行い、海図データ及び油の拡散・漂流予測結果とあわせて電子画面上に表示できるシステム(沿岸域情報管理システム)を運用しました。そのほか、油等の排出事故対応に資するため、一週間程度にわたる漂流予測の情報を提供するための海上浮遊物移動拡散予測業務についても引き続き実施しました。
 また、大規模石油災害時に災害関係者の要請に応じ、油濁災害対策用資機材の貸出しを行っている石油連盟に対して当該資機材整備等のための補助を引き続き行いました。
 漁場保全の観点から油汚染事件発生に的確に対応するため、油回収資機材の整備、関係都道府県等に対する汚染防止機材の整備への助成、漁業影響情報図の作成・情報提供、防除指導者の育成のための講習会及び実地訓練等への助成、流出油が海洋生態系に及ぼす長期的影響調査を行いました。

(3)油濁損害賠償保障制度の充実
 タンカーによる油濁事故による損害賠償をより充実するための「1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」及び「1971年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約の補足)」のいわゆる旧油濁2条約について、平成4年に、船舶所有者の責任限度額及び国際基金の補償限度額の引上げ等を内容とする2つの改正議定書が採択され、わが国においてもその国内法である油濁損害賠償保障法を改正して平成6年8月にこれらの改正議定書(新油濁2条約)を締結し、新油濁2条約に基づき平成9年5月旧油濁2条約を廃棄して(平成10年5月に廃棄が発効)新たな条約体制に移行しました。
 また、油濁による漁業被害のうち、原因者不明の油濁被害については、(財)漁場油濁被害救済基金が実施する被害漁業者への防除費の支弁等に対し助成しました。なお、平成12年度における実績は、総件数9件、総救済額704万円でした。
 なお、ナホトカ号事故、エリカ号事故を契機に、被害者に十分な保障を行う必要があるとの認識の下、2000年(平成12年)10月、IMO(国際海事機関)において、国際油濁保障基金の保証限度額等を約50%引き上げることが決定され、2003年(平成15年)11月から適用される予定です。

(4)海洋汚染防止のための調査研究・技術開発等
 種々の生物による環境浄化作用を活用した漁場環境改善方策に係る検討・調査を実施しました。また、有害プランクトンにより引きおこされる赤潮に対して、漁業被害防止のための赤潮対策技術開発試験を実施するとともに、赤潮発生状況等の調査及び赤潮関係情報の伝達体制の整備について助成しました。
 さらに、漁場の健康診断としての長期的な環境監視調査、油濁、赤潮等の発生監視調査を一体的に実施し、漁場者自身が行う簡単な採水調査の実施、観測機器の整備等、漁業者による監視調査への参加を促進する事業について助成しました。また、漁場として重要な藻場・干潟の実態を調査するとともに、消長原因究明のための調査等を実施したほか、一般市民等への漁場環境保全のための啓発普及活動を実施しました。このほか、効率的な海浜及び漁場の美化を総合的に推進するための計画策定、指導員の養成、廃棄物の除去に助成しました。

(5)監視取締りの現状
 海上環境事犯の一掃を図るため、わが国周辺海域における海洋汚染の監視取締りを行っており、特に海洋汚染の発生する可能性の高い東京湾、瀬戸内海等の船舶がふくそうする海域、タンカールート海域等にはヘリコプター搭載型巡視船及び航空機等を重点的に配備し、監視取締りを行うとともに、期間を定めて全国一斉に集中的な取締りを実施しました。さらに、監視取締用資器材の整備等により監視取締体制の強化を図りました。
 最近5か年の海上環境関係法令違反件数は表1-3-8のとおりで、平成13年に送致した573件のうち、海洋汚染に直接結びつく油、有害液体物質及び廃棄物の排出等の実質犯は535件と全体の約93%を占めています。

前のページ 次のページ