前のページ 次のページ

第2節 

4 将来の損害の回避

(1)取組を進める必要性
 対策の実施時期については、現在のような経済状況の厳しい中、対応にちゅうちょする向きもみられます。環境対策については、費用が現在の時点で発生するのに対し、効果は現在よりもむしろ未来に対して発生するものであり、かつその利益は個別企業に限定されず幅広く社会の利益となるものです。したがって、費用の負担者が必ずしも費用に見合う利益を得られるわけではないという性質を持ち、ともすれば負担を回避したり、先送りしてしまう状況があります。しかし、環境汚染によって人の健康に被害が生じた場合には取り返しがつかないこと、一度失われてしまった環境を復元することは困難であるか、極めて高額の費用を要する場合があることなど、わが国は、すでにこれまでの歴史の中で苦い教訓を得ています。

(2)わが国における経験
 過去の公害を振り返ると、わが国は1960年代に高度経済成長を経験し、激甚な公害に見舞われましたが、その後、官民一体となって急速に公害対策を進めました。そのうちのいくつかの公害事件について、実際の被害額等と被害を防止するための対策が講じられていたと仮定した場合の対策費用等の試算が試みられています。これらの試算では、金銭的に評価可能な被害のみについて貨幣換算を試みていますが、それだけでも一度被害が生じた場合には多大な費用が発生しており、いずれのケースにおいても被害の発生以前に防止対策を行う方が対策費用の節減に資することが分かります(表3-2-3)。



 また、最近の事例である香川県豊島の産業廃棄物不法投棄事件では、公害等調整委員会による調停が最終合意に達した平成12年時点で、既に排出事業者が3億2,600万円の解決金を支払っているほか、約10年間をかけ隣接する直島において廃棄物の焼却・溶融により中間処理を行うとともに、豊島において土堰堤の補強、遮水壁の設置、高度排水処理施設の設置等を行うため、約300億円を費やす予定となっており、通常の廃棄物処理費用に比べ極めて莫大な費用を必要とすることが分かります。
 さらに、地球規模の問題では、被害額は膨大になります。UNEPによれば今後の地球温暖化による経済的損失として、大気中の二酸化炭素濃度が2050年に産業革命以前の2倍に達すると仮定した場合の被害総額は、全世界で3,042億ドルに達すると試算されています(図3-2-9)。

前のページ 次のページ