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第2節 

5 まとめ

 これまで、環境対策の推進による技術革新、雇用の創出、生産への波及、将来の損害回避の効果をみてきました。
 環境対策には、導入費用が低いとは言い難いものもありますが、生産規模の拡大により効率の向上と価格の低下が期待できる規模の経済(量産効果)や、技術革新により費用が低下する場合があることも、太陽光発電等の例から明らかです(図1-2-8参照)。
 また、環境対策の実施時期について考えると、あらかじめ十分な対応期間をとった場合には、設備投資の更新時期に環境対策を徐々に組み込んでいくことにより費用の平均化が図られる場合があるのに対し、対応を先延ばしにして十分な対応期間がとれなかった場合には、各主体による創意工夫を活かした取組が難しくなり、減価償却が進んでいない設備を一斉に交換しなければならなくなるなど資金や人的資源を短期集中的に振り向ける必要が生じる場合があります。前出の「環境政策と雇用」に関するOECD報告書は、一般的に、環境規制は個々の企業に大きな遵守コストを課し、国際競争力の喪失等をもたらし得るという通念を紹介しつつも、さまざまな研究結果は、ほとんどの産業にとって遵守コストが総コストのうちの大きな割合を占めることはなく、国際競争力を決定する多くの要素の一つでしかないとしています。また、同じ報告書では、環境政策を講じることにより環境負荷のより少ない生産へのイノベーションが促進されるとするならば、雇用にプラスの効果を持ち得ることとなり、この場合、他国において環境政策が講じられれば、自国以外でより生産的な技術が開発されることとなり、国内資本財メーカー等の売上が減少することがあり得、また、外国企業が新たな環境負荷低減技術を導入することにより、環境規制の対象セクターに属する国内企業においては、生産効率が相対的に低下することにもなり得ることを示しています。
 経済情勢等の変化から一概には比較できませんが、過去の激甚な公害等を克服してきたわが国の公害・環境対策と経済影響の関係について、いくつかの評価がなされています。昭和52年版環境白書では、「毎年増大する公害防止費用のマクロ経済に与えた影響が高度成長の過程で吸収され、それほど大きなショックとはならなかった」と記述しています。また、1977年(昭和52年)にOECDが取りまとめた「日本の経験−環境政策は成功したか」においても、「比較的高い公害防除費用が国民総生産、雇用、物価、外国貿易などのマクロ経済に対して及ぼす影響は、事実上無視できることをすべてのモデルの結果が示唆している点に注目すべきである」としています。さらに、過去の不況期における公害対策による経済影響の分析を振り返ると、平成4年版環境白書では「高度経済成長時代のように生産力増強投資にまい進していた時期ならばともかく、公害防止投資のピークと重なる石油危機後の不況期についていえば、公害防止投資の実施が停滞していた需要を喚起し、設備投資や雇用をある程度下支えする役割を果たしていたと考えられる」としています。
 これまでみてきたように、環境対策が経済に与える効果にはさまざまな側面がありますが、環境対策が適切に行われた際には、上述の技術革新、雇用確保及びその波及的効果等の経済上の利益をもたらす場合があり得、さらに、将来の損害を未然に回避し得るとの意味で、環境対策は経済にとってプラスの効果を与え得ると言うことができます。
 最後に忘れてはならないことは、環境対策を講じずに環境を損なってしまった場合には、人々の健康や生活の基盤が損なわれ、金銭では測ることのできない取り返しのつかない被害が生じてしまう可能性が高いことです。環境が人類の生存基盤であり、社会経済活動は良好な環境があって初めて持続的に行うことができることにかんがみ、私たちは、持続可能な社会の構築に向け、中長期的な視野も持ち、環境対策を講じていく必要があります。

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