4 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策
(1)固定発生源対策
ア ばい煙発生施設
大気汚染防止法では窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん等をばい煙、その発生施設をばい煙発生施設と定義し、規制等を行っています。平成10年度末現在におけるばい煙発生施設の総数は約209千施設です。ばい煙発生施設を種類別に見ると、ボイラーが137千施設(66%)と最も多く、次いでディーゼル機関19千施設(9%)です(表1-1-11)。
また、ばい煙発生施設に関する行政処分件数は、平成10年度は、改善命令3件でした。
イ 窒素酸化物
(ア)窒素酸化物の排出規制等
大気汚染防止法で規定するボイラー等の「ばい煙発生施設」について、施設の種類及び規模ごとの排出規制が行われ、昭和48年以降、逐次排出基準の強化や規制対象の追加などの見直しを行っています。
さらに、工場・事業場が集合し、施設ごとの排出規制では二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域*においては、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき工場単位で規制する総量規制が実施されています。
平成8年度における固定発生源からの窒素酸化物総排出量は、年間417百万立方メートルN(856千t)でした(図1-1-34)。
*環境基準の確保が困難であると認められる地域
現在、東京都特別区等地域、横浜市等地域及び大阪市等地域の3地域が指定されている。
(イ)窒素酸化物対策
固定発生源から排出される窒素酸化物の低減技術については、低NOx燃焼技術*及び排煙脱硝技術があります。
排煙脱硝装置の設置基数及び処理能力は着実に増加しています(図1-1-35)。
*低NOx燃焼技術
2段燃焼法、排ガス再循環法、低NOxバーナー等
(ウ)小型燃焼機器等への対応
大気汚染防止法で規定する「ばい煙発生施設」に該当しない業務用小型ボイラー等の小規模燃焼機器については、特に大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないことから、優良品推奨水準としての窒素酸化物排出濃度に係るガイドライン値(表1-1-12)を定め、それに適合する低NOx型燃焼機器の普及啓発等を行っています。
ウ 粒子状物質
(ア)粒子状物質の排出規制等
大気汚染防止法では、固定発生源から排出される粒子状物質について、「ばいじん*」と「粉じん*」に区別しており、粉じんはさらに一般粉じんと、特定粉じん(石綿)に分けられています。
ばいじんについては、施設の種類及び規模ごとに排出基準が定められており、さらに、施設が密集し、汚染の著しい地域における新増設施設には、より厳しい特別排出基準が定められています。
平成8年度における固定発生源からのばいじんの年間総排出量は、95千tでした(図1-1-36)。
また、一般粉じんを発生する一般粉じん発生施設に対しては、構造、使用及び管理に関する基準が定められています。
平成10年度末現在における一般粉じん発生施設の総数は約61千施設で、種類別にみると、コンベアが最も多く35千施設(59%)です(表1-1-13)。
(イ)ばいじん対策
ばいじんの発生源対策としては、適切な燃焼管理等のほか、集じん装置の設置があります。
*ばいじん
工場・事業場から発生する粒子状物質のうち、燃料その他の物の燃焼等に伴い発生する物質
*粉じん
物の破砕、選別その他の機械的処理等に伴い発生、飛散する物質
エ 硫黄酸化物
(ア)硫黄酸化物の排出規制等
硫黄酸化物については、施設単位の排出規制及び工場単位の総量規制が実施されています。施設単位の排出規制はK値規制と呼ばれ、地域ごとに定められる定数(K値)に応じて硫黄酸化物排出量の許容限度が定められており、工場単位の総量規制は、国が指定する地域において、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき実施されています。
平成8年度における、固定発生源からの硫黄酸化物の年間総排出量は、231百万立方メートルN(660千t)でした(図1-1-37)。
(イ)硫黄酸化物対策
硫黄酸化物に係る発生源対策として、重油の脱硫、排煙脱硫装置の設置等の対策が講じられています。
この重油脱硫等により燃料の質の改善が進んでおり、排煙脱硫装置については、設置基数及び処理能力とも着実に増加してきています(図1-1-38)。
これらの諸対策により、二酸化硫黄による大気汚染の状況は昭和40年代前半に比べ著しく改善されてきています。
(2)移動発生源対策
ア 自動車排出ガス対策
大都市地域において、二酸化窒素、浮遊粒子状物質等による大気汚染は依然として厳しい状況であり、その主原因である自動車排出ガス対策が求められています。自動車排出ガスの総量が低減しない理由としては、自動車の単体対策などの対策効果が自動車保有台数の増加(図1-1-7参照)に伴う走行量の大幅な伸び(図1-1-39)などに相殺されていることが考えられます。
(ア)自動車構造の改善等
自動車排出ガスについては、昭和48年以降、大気汚染防止法に基づく規制を逐次強化し、自動車からの大気汚染物質の排出量を大幅に削減してきたところです(表1-1-14)。
最近では、平成元年答申に基づく規制以降における自動車排出ガス低減対策のあり方について、平成8年5月、環境庁長官が中央環境審議会に諮問し、大気部会で審議が開始されました。
平成8年10月には、有害大気汚染物質対策の観点から早急に実施すべき施策についての中間答申が取りまとめられました。
平成9年11月には、ガソリン・LPG自動車の排出ガス規制強化及び現在未規制のディーゼル特殊自動車(建設機械、産業機械、農業機械)の排出ガス規制導入を内容とする第二次答申が取りまとめられました。同答申に基づき、ガソリン・LPG自動車については、車種により平成12年から平成14年にかけて規制(規制値・耐久要件・燃料蒸発ガス試験)を強化し、窒素酸化物、炭化水素等の排出量を削減します(表1-1-15)。また、ディーゼル特殊自動車を規制対象に追加します。さらに、同答申は、ガソリン・LPG自動車についての中長期的な対策として、平成17年頃を目途に排出ガスをさらに2分の1以下に低減することを求めており、具体的な規制値・規制時期は改めて決定することとしています。
平成10年12月には、ディーゼル自動車の排出ガス規制強化を内容とする第三次答申が取りまとめられました。同答申の概要は以下のとおりです。
1)ディーゼル自動車の排出ガス規制
ディーゼル自動車について、窒素酸化物及び粒子状物質に重点を置いて排出ガス規制を2段階で強化し、1台当たりの排出量を大幅に低減する。
2) 当面の排出ガス低減目標(新短期目標)
車種により、平成14年から16年にかけて、窒素酸化物で25〜30%、粒子状物質で28〜35%低減する(表1-1-16)。また、使用過程における排出ガス性能の維持のため、耐久走行距離を大幅に延長するとともに、OBD*の装備を義務付ける。
*OBD
「車載診断システム」。異常の有無を監視する車載の故障診断装置
3) 中長期的な排出ガス低減目標(新長期目標)
各車種とも、平成19年頃を目途に新短期目標のさらに2分の1程度に排出ガスを低減すること(窒素酸化物、粒子状物質で平成9〜11年規制の6割強の低減)を目標に技術開発を進めることが提言されている。
さらに、平成12年11月には、中央環境審議会第四次答申が取りまとめられました。同答申の概要は以下のとおりです。
1) 第三次答申で平成19年頃を目途とされたディーゼル新長期目標を2年前倒しし、平成17年までに達成すること。なお、新長期目標値は平成13年度末を目途に決定するが、その際、DEP(ディーゼル排気粒子*)リスク評価結果を踏まえ、粒子状物質については新短期目標の2分の1程度とされた目標値をさらに低減することを検討すること。
*ディーゼル排気粒子
ディーゼル自動車から排出される粒子状物質のこと
2) 軽油中の硫黄分の許容限度設定目標値を平成16年末までに現行の10分の1に低減すること。
3) ディーゼル特殊自動車の低減目標を1年前倒しし平成15年までに達成することが提言されています。
また、大気環境の改善には使用過程車の排出ガス低減も重要であることから、DPF(「ディーゼル排気微粒子除去フィルター」。排気管等に装着したフィルターにより、粒子状物質を捕集し、電熱線や触媒の作用等によりそれを除去する装置)等の排出ガス後処理装置の技術的可能性・効果等を検討するため、ディーゼル車対策技術評価検討会を開催し、平成12年7月に中間報告書が、平成13年5月に最終報告書が取りまとめられました。
(イ)燃料対策
自動車燃料の品質を確保することは、自動車排出ガスによる大気汚染を防ぐのに必要な対策の一つです。平成8年4月からガソリン、軽油等の石油製品の輸入が自由化されましたが、それに伴い自動車燃料の品質が悪い燃料が流通し自動車排出ガスによる大気汚染が悪化することのないよう、同月に施行された改正大気汚染防止法において、自動車燃料の品質確保のための体制が整備されました。
その後平成9年には、軽油中の硫黄分を0.2質量パーセント以下から0.05質量パーセント以下に、また、平成12年にはガソリン中のベンゼンを5体積パーセント以下から1体積パーセント以下に低減しました(表1-1-18)。さらに前述のとおり、平成12年11月に中央環境審議会から、軽油中の硫黄分の許容限度設定目標値を平成16年末までに現行の10分の1に低減することが答申されました。
(ウ)大都市地域における自動車排出ガス対策
固定発生源対策や自動車単体対策のみでは二酸化窒素に係る環境基準を確保することが困難な大都市地域が、「自動車NOx法*」に基づき、特定地域*として指定され、平成12年度末までに二酸化窒素に係る大気環境基準をおおむね達成することを目標として、車種規制*、低公害車の普及、物流・人流・交通流対策などの各種対策が総合的・計画的に推進しました。
しかし、各種対策の効果が自動車走行量の増大等によって減殺され、平成12年度末までの環境基準のおおむね達成は厳しい状況にあり、さらなる対策の強化が求められています。
また、浮遊粒子状物質については、大気環境基準の達成率は芳しくないことに加え、ディーゼル排気粒子について発がん性を有することが強く示唆されていることなども明らかになっており、その対策の推進が社会的に大きな課題となっています。
このため、平成12年4月に環境庁長官から中央環境審議会に対して「今後の自動車排出ガス総合対策のあり方について」について諮問を行い、同審議会の大気・交通公害合同部会における審議を経て、同年12月に答申を得ました。この答申を踏まえ、1)規制対象への粒子状物質の追加、2)名古屋市及びその周辺地域等の特定地域への追加、3)車種規制の強化、4)事業者指導の強化等を内容とする自動車NOx法の改正案の第151回国会への提出を含め、これらの施策の実現に向けて、自動車排出ガス総合対策の充実・強化の推進を図っているところです。
道路交通環境が厳しい地域を対象として、警察庁、経済産業省、国土交通省及び環境省で構成される道路交通環境対策関係省庁連絡会議において対策が検討され、実施されています。最近の動きとしては、平成12年6月に「国道43号等の道路交通環境対策の推進について(当面の取組)」を、さらに、平成13年3月に「名古屋南部地域の道路交通環境対策の推進について(当面の取組)」を取りまとめました。
*自動車NOx法
「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(平成4年法律第70号)
*特定地域
埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県、大阪府及び兵庫県内の196市区町村
*車種規制
特定地域内に使用の本拠地を有するトラック・バス等について、新車か否かを問わず、特別の排出基準の遵守を求めるもの
イ 低公害車・低排出ガス車の普及促進
低公害車の普及は、自動車交通に起因する大都市地域を中心とした大気汚染等の解決に有効であり、従来より電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車及びハイブリッド自動車の4車種が低公害車に位置付けられ、その普及促進が図られてきました。
これらの車種の一層の普及を図るには、車両価格や燃料供給施設の整備等の課題を克服することが必要です。そこで、低公害車の導入に対する支援措置としては、地方公共団体や民間事業者の低公害車導入に対し、国や公健法の基金による各種補助を行っています。また、低公害車の取得に関して、自動車取得税の軽減措置や、所得税・法人税についての特別償却又は特別税額控除といった税制上の特例措置を講じています。
低公害車の普及台数は、平成12年3月末現在、全国で約45,600台(電気自動車2,400台(推定)、天然ガス自動車5,252台、メタノール自動車224台、ハイブリッド自動車37,719台)です。
インフラ整備に関しては、平成12年度末までに124か所の燃料等供給施設(エコ・ステーション)の整備を行いました。また、低公害車用の燃料等供給設備に係る固定資産税等の軽減措置を講じています。
政府による低公害車の導入に関しては、各省庁において率先的に公用車への低公害車の導入が進められており、平成12年3月末現在で、通常の行政事務用の車両として246台(政府保有の公用車のうち3.22%)、その他の業務(郵便事業等)用の車両として207台の低公害車が導入されています。
その他、低公害車の大量普及のための制度的な普及方策の検討、わが国で入手可能な低公害車に関する情報を取りまとめた「低公害車ガイドブック」の刊行、東京代々木公園等全国各地で低公害車を一堂に展示する「低公害車フェア」の開催等も行いました。
なお、近年、乗用車を中心に、ガソリン自動車やLPガス自動車等の排出ガス性能も大きく改善してきており、燃料種を問わず排出ガス性能の優れた自動車を低排出ガス車に認定する制度も整備されたため、従来の低公害車4車種に限定せず、これらの低排出ガス車を含めてその一層の普及を図っていくことが必要です。
ウ 微小粒子状物質に関する検討
近年、SPMの中でも微小粒子状物質(PM 2.5)(浮遊粒子状物質のうち、粒径2.5μm(1μm=10(-3)mm)以下の小さなもの。健康への影響が強く懸念されている)と健康影響との関連が懸念されつつあることから、PM2.5の測定法について調査・検討を実施し、質量濃度に注目した測定方法暫定マニュアルを作成しました。さらに、PM2.5の健康影響の評価を進めるため疫学調査や実測調査、動物実験等を含む微小粒子状物質等曝露影響調査を実施しました。
ディーゼル排気粒子は発がん性や気管支喘息、花粉症等の健康影響等との関連が懸念されていることから、「ディーゼル排気微粒子リスク評価検討会」によるリスク評価が行われているところであり、平成12年9月、同検討会は、「DEPが人に対して発がん性を有していることを強く示唆していると考えるが、定量的に健康リスクを評価するには、さらに慎重な検討が必要である」等とする中間報告をとりまとめました。
エ スパイクタイヤ粉じん対策
積雪寒冷地域においてスパイクタイヤを装着した自動車が道路を損傷することにより大量の粉じん(以下「スパイクタイヤ粉じん」という。)が発生し、生活環境の悪化をもたらすのみならず、人の健康への影響も懸念されて深刻な社会問題となったことから、「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」が平成2年6月に公布、施行されました。平成13年1月現在、18道県の817市町村が環境大臣により指定地域とされ、その地域内でのスパイクタイヤの使用が原則的に禁止されています。
また、同法においては、国及び地方公共団体は、スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する施策の推進・実施に努めなければならないこととされており、脱スパイクタイヤの普及・啓発のためのパンフレット、凍結路面における安全運転のためのチラシ、指定地域地図等を作成し、都道府県等に配布しました。
オ 船舶・航空機排出ガス対策
船舶からの大気汚染物質の排出については、平成9年9月の海洋汚染防止条約締約国会議において、「船舶からの大気汚染防止に関する規則*」を海洋汚染防止条約に追加するための議定書が採択されました。その発効に向けて、国際海事機関(IMO)において各国間の調整が続けられています。また早急にその受託が可能となるよう国の体制の整備が求められています。
船舶排出ガスの都市の臨海部への影響等の観点からも、船舶排出ガス対策を進めることが重要であり、国際的動向を踏まえ、排出削減技術の動向等を把握して排出削減手法等を検討しているところです。
また、航空機からの大気汚染物質については、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準を踏まえ、航空法により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等について基準が定められ、規制されていますが、ICAOにおいてさらなる基準強化が審議されているところです。環境省としては、こうした国際的動向を踏まえつつ、空港周辺の環境保全のための対策についても調査検討を行っているところです。
*船舶からの大気汚染防止に関する規則
窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等を規制対象とした附属書