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第1節 

2 地球規模の大気環境の保全

 講じた施策1章1節1(1)アでみたとおり、最も主要な温室効果ガスである二酸化炭素は、人間活動のあらゆる局面から生じるものであり、その排出の抑制・削減に当たっては、従来の公害対策とは異なった対応を要します。また、その他の温室効果ガスであるメタン、一酸化二窒素、HFC(ハイドロフルオロカーボン)等のいわゆる代替フロンについても、それぞれの排出実態を踏まえた対策を実施していく必要があります。このため、工場、事業所、家庭など、経済社会の中の様々の場所で対策を強化していくことはもちろんとして、各方面の対策を有機的に組み合わせて、将来的には、現代の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済システムを見直し、変更していく抜本的な取組が必要となっています。

(1)地球温暖化対策
 COP3直後の平成9年12月には、内閣総理大臣を本部長とする「地球温暖化対策推進本部」が設置され、平成10年6月には政府として2010年に向けて緊急に推進すべき対策をまとめた「地球温暖化対策推進大綱」を決定しました(序説第2章第2節図2-2-7参照)。同大綱はその実施状況について、毎年点検を行うこととされており、平成12年9月の「地球環境保全に関する関係閣僚会議」及び「地球温暖化対策推進本部」では、関係省庁が平成11年度に実施した地球温暖化対策及び今後重点的に取り組むべき対策が報告・了承されました。
 また、地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するため、「地球温暖化対策の推進に関する法律*」(図1-1-31)及び同法に基づく「地球温暖化対策に関する基本方針*」に沿って各種の対策を推進しました。さらに、同法に基づき環境大臣が指定した全国地球温暖化活動推進センターにおいて、国民の地球温暖化防止に向けた取組を支援しています。
 その他、平成12年度に政府が国内で講じた主な施策は次のとおりです。

 1) 平成12年8月からは、家電製品の省エネ性能をわかりやすく比較することができる省エネラベリング制度が制定されました。これは、省エネ法に定める省エネ達成率などを表示するもので、エアコン、蛍光灯器具、テレビ、電気冷蔵庫、電気冷凍庫の5品目について、カタログなどに表示されています。
 2) 二酸化炭素排出低減・抑制に資する交通体系の形成のため、引き続き、物流拠点間の幹線輸送においては内航海運、鉄道及びトラックといった多様な輸送モードが自由に選択可能で、これによりモードの特性に応じて適切な役割分担がなされるマルチモーダル施策の推進や効率的物流システムの構築、バス・鉄道等の公共交通機関の利用促進等を図るとともにバイパス等の整備を行いました。また、低公害車の導入に対する支援策として、地方公共団体や民間事業者に対する導入補助、自動車取得税の軽減等の措置を引き続き行いました。
 3) 産業界における省エネルギー・二酸化炭素排出削減のための行動計画の実施状況について、関係審議会においてその内容の聴取を行いました。また、HFC等について、国が告示した指針を基に産業界が策定した排出抑制のための行動計画を、化学品審議会で審議の上、中間報告としてとりまとめました。これらの行動計画については、今後関係審議会等において実施状況の定期的な点検を行い、その実効性を確保することとし、また、行動計画を策定していない業種に対し行動計画の早期の策定と公表を促しました。
 4) 温室効果ガス排出の少ないエネルギー供給構造を形成するため、安全性の確保を前提とした原子力の開発利用や水力、地熱の利用、コンバインドサイクル発電、太陽光発電等の新エネルギーの導入等を引き続き推進しました。
 5) 廃棄物の減量・再資源化、ごみ焼却余熱・下水排熱等の有効利用を図るため、熱利用下水道モデル事業の推進及びごみ固形燃料発電事業の起債措置等を行いました。
 6) 地球温暖化対策を地域において推進していくため、地方公共団体における地球温暖化対策に関するマスタープラン(地球温暖化対策地域推進計画)等の策定に対して引き続き補助等を行うとともに、効果に優れ、他の団体への波及効果が高い事業に対する支援を行いました。
 7) 温室効果ガスの排出抑制のためのより高度な新エネルギー技術や省エネルギー技術、二酸化炭素の固定化・有効利用等の革新的技術開発について、ニューサンシャイン計画における研究等を引き続き積極的に推進しました。
 8) 地球温暖化に係る不確実性を低減させ、科学的知見を踏まえた一層適切な対策を講じるため、引き続き、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究、温室効果ガスの観測並びに人工衛星等を用いた観測技術の開発を実施しました。また、地球環境研究総合推進費等を活用し、これら調査研究等の推進を図りました。
 9) 地球環境にやさしいライフスタイルを実現するため「地球環境と夏時間を考える国民会議」報告書を踏まえ、夏時間についての普及啓発を実施しました。
 10) 地球温暖化対策を周知・普及するため、12月の地球温暖化防止月間に集中的に広報活動を展開するとともに、地球温暖化防止シンボルマークの統一的な活用を広く呼びかけました。また、パンフレット等の作成、各種会議を通じた周知のほか、関係省庁だけでなく地方公共団体や民間団体による啓発などが幅広く実施されました。
 11) 中央環境審議会企画政策部会では、平成12年8月に「地球温暖化防止対策の検討に係る小委員会」を設置し、京都議定書の締結に必要となる6%削減目標を確実に達成するための国内制度の一環として、自主的取組、税、排出量取引等の経済的手法、規制的手法、環境投資など各種政策手法の組合せ(ポリシーミックス)による複数の政策パッケージ案の作成と、こうした政策パッケージを適切に実施するための基盤となる仕組みの検討を行い、12月13日に企画政策部会に対して検討結果の報告を行いました。現在は、環境省に新しく設置された中央環境審議会地球環境部会の下で、2つの小委員会を設置し、引き続き、地球温暖化対策のあり方について審議を行っています。

*地球温暖化対策の推進に関する法律
国、地方公共団体、事業者及び国民それぞれの責務と取組等を定めたもの

*地球温暖化対策に関する基本方針
国、地方公共団体、事業者及び国民といった各主体が講ずべき措置に関する基本的事項等を定めたもの



(2)オゾン層保護対策
 ア 国際的取組とオゾン層保護法
 オゾン層の破壊を防止するために、「オゾン層の保護のためのウィーン条約*」が1985年(昭和60年)3月に、また「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が1987年(昭和62年)9月にそれぞれ採択されました。わが国においてもこれらを的確かつ円滑に実施するため、「オゾン層保護法*」を制定するとともに(図1-1-32)、同年9月に条約及び議定書を締結しました。
 しかし、その後の科学的知見の集積により、従来のCFC等の規制ではオゾン層の適正な保護に不十分であることが分かり、1990年(平成2年)、1992年(平成4年)、1995年(平成7年)、1997年(平成9年)及び1999年(平成11年)の5度にわたって、議定書の改正等による規制強化が図られました。現在の規制スケジュールは表1-1-8のとおりです。
 わが国では、オゾン層保護法等に基づき、次のような施策を実施してきています。

*オゾン層の保護のためのウィーン条約
オゾン層の保護のため国連環境計画(UNEP)を中心として国際的な対策の枠組みが検討され、採択された条約。ウィーン条約と略称される。国際的に協調してオゾン層やオゾン層を破壊する物質について研究を進めること、各国が適切と考える対策を行うこと等を定めている。1988年9月に発効し、2000年12月現在175か国と1経済機関(EC)が加入している。

*オゾン層保護法
「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」昭和63年5月20日法律第53号




 (ア)CFC等の製造等の規制
 オゾン層保護法では、モントリオール議定書に基づく規制対象物質*を「特定物質」として、製造規制等の実施により、モントリオール議定書の規制スケジュールに即して生産量及び消費量(=生産量+輸入量−輸出量)の段階的削減を行っています。この結果、ハロンについては1993年(平成5年)末をもって、CFC、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン及びHBFCについては1995年(平成7年)末をもって、生産等が全廃されています。他のオゾン層破壊物質についても、HCFCについては2019年(平成31年)末をもって、臭化メチルについては2004年(平成16年)末をもって、検疫用途等を除き、その生産等が全廃されることとなっています。

*モントリオール議定書に基づく規制対象物質CFC、ハロン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、HCFC、HBFC(ハイドロブロモフルオロカーボン)及び臭化メチル

 (イ)CFC等の排出抑制・使用合理化
 オゾン層保護法では、特定物質を使用する事業者に対し、特定物質の排出の抑制及び使用の合理化に努力することを求めており、そのための「特定物質の排出抑制・使用合理化指針」を昭和64年に共同で告示し、逐次改正するとともに、その周知普及を図っています。
 (ウ)国家ハロンマネンジメント戦略
 1998年(平成10年)に開催されたモントリオール議定書第10回締約国会合において、先進国は2000年7月末までに、「国家ハロンマネンジメント戦略」を策定し、UNEPのオゾン事務局に提出することが決定されたため、関係省庁で検討を行い、当該戦略を平成12年7月末に提出しました。

 イ CFC等の回収・再利用・破壊の促進
 CFC等の主要なオゾン層破壊物質の生産は、平成7年末をもってすでに全廃されていますが、過去に生産され、冷蔵庫、カーエアコン等の機器の中に充てんされた形で存在しているCFC等が相当量残されており、オゾン層保護を一層推進するためには、こうしたCFC等の回収・再利用・破壊を促進することが現在の課題となっています。1992年(平成4年)のモントリオール議定書第4回締約国会合において、CFC等の回収・再利用・破壊の推進が決定され、また、1999年(平成11年)の第11回締約国会合において、先進国は2001年7月までにCFCの管理戦略を策定することが決定されました。
 わが国では、関係省庁からなる「オゾン層保護対策推進会議」において、平成7年6月にCFC等の回収等の促進方策を取りまとめ、さらに平成9年9月に、平成7年6月の取りまとめ以降の状況の変化を踏まえたCFC等回収等の一層の促進方策を取りまとめました。本取りまとめにおいては、家庭用冷蔵庫だけでなく、カーエアコン、業務用冷凍空調機器に関しても破壊のための回収を行うこととするとともに、それぞれの機器ごとに、関係者が協力して回収等を行うための関係者の立場に応じた具体的な役割分担を含めた回収の仕組みについて考え方を示しています。これらを踏まえて、これら機器のメーカー、ユーザー事業者、整備業者等を所管する省庁においては、所管する業界団体等に対して、CFC等回収等の一層の促進に取り組むよう要請を行いました。これらの取組の状況については、オゾン層保護対策推進会議においてフォローアップを実施しています。
 環境省においては、CFC等回収システム構築のためのモデル事業の実施等により地域における効率的かつ信頼性のあるCFC等回収システムの構築を支援するためのモデル事業を実施しています。
 これまでのCFC等回収システム構築のための取組状況は以下のとおりです。
(ア)地域におけるフロン回収等推進協議会
・地域におけるCFC等回収システムの構築と運用、関係者のコンセンサスの形成。
・運搬・保管体制整備、回収協力店制度、CFC等回収済ステッカー事業等の実施。
・すべての都道府県・政令指定都市において協議会を設置(平成11年8月)。
(イ)カーエアコンの関係業界
・平成10年1月より1都3県にて収集・運搬・移充填に係るシステムの運営を開始。
・システム運営上の問題点等を検証・改善しつつ、10年10月までに全国展開。
(ウ)業務用冷凍空調機器の関係業界
・全国29地域に、「冷媒回収促進センター」を設置。
・回収された冷媒の管理・運搬実務を行う「回収冷媒管理センター」(96か所)を設置(平成12年7月末現在)。
・冷媒回収装置の性能試験方法を制定し、能力表示を統一(平成12年6月)。
(エ)家庭用冷蔵庫の関係業界
・地域におけるフロン回収等推進協議会の取組に参画するとともに、地方公共団体等へCFC等回収機を供与・貸与。
・家電リサイクル法*に基づき、平成13年4月より家電メーカー等が素材のリサイクルと併せて冷蔵庫、ルームエアコンのフロンの回収を実施。

 こうした取組の結果、家庭用冷蔵庫からのCFC等の回収等に取り組んでいる地方公共団体数は、平成11年度末では2,732市区町村であったものが、平成12年度以降実施予定分も含めると2,789市区町村(全体の86%)となるなど、地方公共団体によるCFC等の回収は着実に進みつつあります。CFCの回収率は、関係業界及び地域における回収システムが整備される時期でもあり、取組の進展がみられる関係業界及び地域があるものの全般的には低い水準でした(表1-1-9)。
 一方、CFC等の破壊処理について、平成11年3月に「CFC破壊処理ガイドライン」(平成8年5月策定)を改訂するとともに、冷媒・断熱材CFC及びハロンについて破壊処理技術の実証を行うため、平成12年度、全国4つの地方公共団体に委託して破壊モデル事業を実施しました(表1-1-10)。
 フロン破壊処理施設は、平成11年度末で40施設あり(図1-1-33)、平成11年度のフロン破壊処理量は1,004tと平成10年度の760tに比べ約1.3倍に増加しました。また、フロン再生施設は平成11年度末で4施設あり、フロンの再生量は66トンでした。

*家電リサイクル法
「特定家庭用機器再商品化法」平成10年6月5日法律第97号







 ウ CFC等の排出抑制、使用合理化への支援対策等
 CFC等の代替品を使用する洗浄設備、冷凍冷蔵関連装置等については、法人税及び所得税についての特別償却、固定資産税の課税標準の特例といった税制上の措置を講ずるとともに、これらの関係設備について日本開発銀行(平成11年10月より日本政策投資銀行)等による低利融資等の金融上の措置を実施しています。

 エ オゾン層の破壊に係る観測・監視、調査研究の推進
 オゾン層の適正な保護を図るため、オゾンゾンデ、オゾン分光光度計、オゾンレーザー・レーダー、人工衛星に搭載した観測機器等を用いてオゾン層及びその破壊関連物質の観測・監視を行うとともに、オゾン層破壊機構の解明及びモデル化に関する研究、オゾン層破壊により生ずる影響に関する研究等を実施しています。

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