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第3節 

2 環境コミュニケーションを促進していく上での行政の役割

 これまでみてきたように環境コミュニケーションは、各主体の環境意識を高め、自主的な取組を促し、各主体間の相互理解を深め、環境保全への参加・協働を進めます。このようにして環境保全のためのパートナーシップが形成され、ひいては社会経済全体を持続可能なものへと変える原動力となっています(図3-3-1)。ここでは、環境基本計画においても「環境教育・環境学習の振興や事業者、国民、民間団体による自発的な環境保全活動の促進に資するため、環境保全に関する様々なニーズに対応した情報を整備し、各主体への正確かつ適切な提供に努めること」とされているように、環境コミュニケーションを活性化させるために行政が果たすべき役割について考察します。



 ア ITの活用
 環境負荷低減型のライフスタイルや環境経営を実現していく上で、情報通信技術(IT)の積極的な活用は、環境コミュニケーションを活性化し、各主体が環境情報を幅広く共有し、主体的な活動につなげるための基盤の構築に役立ちます。

 イ 調査研究等の充実や環境情報の整備・提供
 持続可能な社会経済を構築していくためには、行政によって基盤となる調査研究や監視・観測等の充実、技術の振興が図られることが必要です。それらは、各主体が環境コミュニケーションでやり取りする環境情報の基盤として、適切に整備、提供されなければなりません。
 (ア)調査研究、監視・観測等の充実
 環境保全施策を実施していく上で不可欠な調査研究や技術開発、監視・観測等により得られた情報の蓄積は、政策主体にとどまらず他の主体にとっても重要です。このため、調査研究、監視・観測等を総合的に推進するための体制整備を行う必要があります。また、これらの成果については、行政が適宜適切に公表し、その普及と活用に努めることが求められます。例えば、温室効果ガスの観測をし、あるいは温室効果ガスの排出量の情報を集計し、それを国民に提供することなどが行政の役割としても重要です。
 (イ)環境情報の体系的な整備(収集、整理、加工)
 各主体から必要とされる環境情報を、新たに収集、整理、加工し、体系的にデータベース化を行うことが重要です。例えば、環境に関する基礎的な情報や統計の整備は、各主体が環境コミュニケーションを行っていく上での基盤ともなり、行政によって一層推進される必要があります。また、すでに異なる主体によってそれぞれに保有されている環境情報のネットワーク化を推進することが望まれます。
 (ウ)環境情報の提供
各主体にとって使いやすく整備された環境情報を入手しやすくすることは、環境コミュニケーションを進める上で欠かせません。このため、インターネットを含む様々な媒体を通じて、広く環境情報の提供を行っていくためのシステムを整備することが必要です。
 環境省ホームページのアクセス件数はインターネット人口や国民の環境意識の高揚に伴い年々増加を続けており、国民に対する行政サービスの一環としてより充実した情報提供が期待されています。平成12年度に環境省が行った「環境省ホームページに関する調査結果」によると、さらに充実を希望する掲載情報として、環境法令や世界の環境情報、報道発表情報などが挙げられました。また、各分野に応じた多様な環境情報へのニーズに応えることも重要です。例えば、環境省ホームページから簡単に、かつ必要な時に、国立公園の自然環境の現状をみられる「インターネット自然研究所」や自分の住んでいる地域の大気環境状況をみられる「そらまめ君」などがその好例です。
 なお、アメリカの環境保護庁では、その戦略計画の10の目標の中で、環境情報に関する目標を設定しており、2006年を目標に、質の高い環境情報の共有化を促進することを目指しています。そこでは、「国民とあらゆるレベルの意思決定者が、環境教育サービスや環境情報などにアクセスでき、信頼性のある質の高い環境情報を確保し、環境の状況の理解や意思決定、意見交換などが可能となる。」状態をあるべき姿として掲げ、質の高い環境情報を提供していくこととしています。

*インターネット自然研究所、そらまめ君
講じた施策第4章第6節2参照

 ウ 環境コミュニケーション手法の開発と普及
 環境コミュニケーションが進展するためには、環境負荷、環境保全への取組とその効果などを適切に評価し、得られた情報が円滑に伝達され、各主体が共有するためのしくみづくりが重要です。行政としては、そうした面で適切な役割を果たすことが期待されます。
 (ア)情報開示・提供の手法
  a 環境報告書
 環境報告書の作成と公表を通じた、様々な規模や業種を含めた広範な事業者と広い意味での利害関係者との環境コミュニケーションを活性化するためには、わかりやすく、信頼されるような環境報告書を作成することが必要です。そのため、環境報告書に何をどのように記載するのかについてまとめた環境報告書ガイドラインが策定されました。また、優れた環境報告書の表彰制度や事業者と利害関係者の協働の下でのネットワークの構築なども進められています。
  b 環境ラベリング
 消費者がグリーン購入を適切に進めていく上で、どの製品がライフサイクル全体でみて環境負荷がより少ないのかを見分けることは不可欠です。よって、環境ラベルによる製品の環境情報提供がより充実されることが求められます。
 (イ)評価手法の整備
  a 環境パフォーマンス評価
 企業が環境保全への取組を進めていく上で、自らが発生させている環境負荷やその削減効果を的確に把握し、自己評価することが重要です。そのため、環境負荷やその削減効果を測るための指標である環境パフォーマンス指標が策定されました。
  b 環境会計ガイドライン
 企業が効率的かつ効果的に環境保全への取組を進めるため、その取組のコストとそれによる効果を可能な限り定量的に把握、分析し、公表していくための環境会計という仕組みが活用されています。その取組を促進するため、環境会計についての共通の枠組みや考え方を示した「環境会計ガイドライン*」が実務関係者などの意見を採り入れながら策定されました。さらに、環境会計の普及促進のために、「環境会計支援システム*」の運用も始められ、また、シンポジウムなどを通じてもその普及が図られています。
  c ライフサイクルアセスメント
 製品やサービスについて、環境負荷がどれだけあるのかを的確に把握することが必要です。
 ライフサイクルを通じて投入される資源、エネルギー量や排出されるもののデータ収集、分析、それらの環境影響の評価など、ライフサイクルアセスメントを行うために必要な手法の開発や確立、その普及などが取り組まれています。

 エ 環境教育・環境学習などの推進
 子どもだけでなく大人についても環境教育・環境学習が進められることにより、各主体の環境に対する意識が一層高まり、共通の認識が生まれ、環境コミュニケーションも一層活性化されます。様々な個別政策分野において、また、幅広い年齢層に対して環境教育・環境学習を推進していく上で、行政の果たすべき役割は非常に重要です。
 (ア)人材育成
 環境教育・環境学習の企画を担える人や、環境保全活動の参加者を上手に引き込んで促進する役割の人や、人や組織の間の調整やネットワークづくりを担える人などを育成することが重要です。このような人たちは、環境コミュニケーションにおいても、同様の役割を果たすことが期待できます。
 (イ)プログラム整備、情報の提供
 環境教育・環境学習を進めるに当たっては、「関心を高める→理解を深め、意識を高める→参加意欲を高める→問題解決能力を育てる」という一連の流れを踏まえてプログラムを整備することが重要です。また、自主的、自発的な環境学習や実践行動を促進するためには、環境に関する正確な情報を適宜入手できるよう、環境情報の収集や、様々な媒体を通じた情報提供の推進が必要です。
 (ウ)環境教育の場の機会の拡大
 誰もが身近に環境学習や実践活動の場や機会をもっていることが必要です。そのため、環境教育・環境学習のための拠点整備や学習機会の提供が図られることが重要です。

 オ 利害関係者の合意形成のための枠組み
 環境保全施策を進めていくためには、各主体がもつ様々な利害を調整することが不可欠です。よって、環境コミュニケーションを進め、利害を調整し、合意を形成していくための枠組みづくりが重要です。例えば前述の情報公開法やパブリックコメントもその方法の一つであり、また、地球環境パートナーシッププラザの運営や、各種の住民参加制度など、開かれた形で各主体の参加の下で施策をつくりあげていくことも、より直接的な方法といえます。


地球環境パートナーシップの様子

コラム 環境省 環境報告書ガイドライン(2000年度版)

 環境省では第2節2で述べたような企業による環境コミュニケーションの取組を促進する上で、事業者が環境報告書を作成する際、又は、利害関係者が環境報告書を読み解く際に参考となる手引きが必要なため、「環境報告書ガイドライン(2000年度版)」を策定しました。ガイドラインの策定に当たっては、GRI等の国際的なガイドラインの動きと整合するよう配慮がなされています。事業者や市民の間でこのガイドラインが幅広く活用されることが期待されます。
 主な構成は次のとおりです。
 まず第1章で、環境報告書の作成・公表の必要性とメリットの解説や、環境報告書の受け手や利害関係者の分析をしています。また、インターネット等を用いた環境報告のあり方や、中小企業や個々の工場における環境報告のあり方を説明しています。
 第2章では、環境報告書の基本的要件(報告組織や期間等の明確化)や原則(適合性や比較可能性)について示すとともに、第三者レビュー等による環境報告書の信頼性確保に向けた仕組みについて解説しています。
 第3章では、環境報告書に何を記載することが望ましいか、具体的に提案しています。要約すると、以下のとおりです。
 1  基本的項目
(経営責任者緒言、対象組織・対象期間、事業概要等)
 2  環境保全に関する方針、目標及び実績等の総括
(方針、目標、計画、実績、環境会計情報の総括)
 3  環境マネジメントに関する状況
(環境マネジメントシステム、研究開発、情報開示、規制遵守、社会貢献)
 4  環境負荷低減に向けた取組の状況
(物質・エネルギーのインプット、不要物のアウトプット、グリーン購入、環境に配慮した製品・サービスの提供、輸送、土地利用等に係る状況と対策)
 環境報告書ガイドラインは、環境省ホームページ(http://www.env.go.jp/)からダウンロードすることにより入手できます。

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