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むすび

むすび

 この一年を振り返ると、21世紀の環境政策を方向付けるいくつかの大きな動きがみられました。平成12年6月には循環型社会形成基本法やグリーン購入法をはじめとする循環型社会関連法が相次いで制定、整備されました。12月には中央環境審議会における国の環境基本計画の見直し作業が完了し、「環境の世紀への道しるべ」と題する新しい環境基本計画が閣議決定されました。そして、13年1月には中央省庁の再編が行われ、環境省を中心とする環境政策の推進体制が整備されました。

 公害国会の余韻が残る昭和46年7月1日、公害対策本部を発展させる形で環境庁は産声を上げました。同時に進められた関係法制度の整備による公害規制の強化が功を奏して、昭和50年代に入り産業公害は一定の沈静を見ました。その後、環境影響評価制度の法制化の苦難の歴史が物語るように、環境庁の存在意義が問われる厳しい時期もありました。平成の時代に入り、環境問題が地球規模化し、私たちの日常活動と密接に関連するようになると、環境行政は私たちが営む社会経済の持続可能性に深く関わる重要な行政領域となりました。21世紀が幕を開けた平成13年1月6日、中央省庁の編成が一新する中で環境政策を統括する組織として環境庁は環境省へと生まれ変わりました。

 この環境白書は、組織体制が一新して再スタートを切った政府が初めてとりまとめた年次報告であり、まさに21世紀の環境政策が目指す具体的な方向を明らかにすることが求められています。このため、白書の記述のかなり多くの部分が新生環境省が中心となって推進していく今後の環境政策の基本戦略を明らかにするという役割を担っているといえます。

 こうした趣旨を受けて、序説の第1章「21世紀社会の環境政策に与えられた課題とその基本戦略」では、まず環境問題の変容と今後の環境政策の課題を見据えることから始めました。また、わが国が有する特徴を一層発揮すれば、そうした課題に対応して実績を上げ、環境の面で国際社会に範を示すことができ、それこそがわが国にふさわしい国際貢献の仕方ではないかと訴えました。新環境基本計画には、そのための基本戦略が盛り込まれているという視点からその要点を明らかにしました。

 これからの環境政策を考える上で、何より「地球の有限性」を正しく認識することがその出発点であるといえましょう。
 46億年前、宇宙の片隅で誕生した地球は一面をマグマと水蒸気の層が覆うだけの惑星でした。マグマが冷めると、大気中の水蒸気は雨となって地上に降り注ぎ、海をつくりました。海に生まれた生命は、20億年以上かけてオゾン層を形成し、その結果地上に現れることができた植物が多くの生命を維持できる環境をつくりました。そして、多様な動物も生まれ、水と緑に恵まれた地球環境が形成されました。この悠久の時の流れにおいてごく最近に登場した人類は、約200年前の産業革命以降、その作り上げた現代文明によって急激に環境を劣化させ、「地球の有限性」に直面することになったのです。

 こうした問題意識から、第2章「地球と共生する社会経済活動のあり方を求めて」では、地球温暖化による影響の深刻化、資源利用の非効率性、化学物質による影響の蓄積などに象徴されるように、地球の環境容量や物質循環の視点から見て人類の存続が脅かされつつあることを明らかにしています。これら社会経済活動に根ざした環境問題が今後の中心課題となると考えられることから、地球温暖化対策、循環型社会の形成、化学物質対策という三つの環境問題を取り上げて、それぞれの基本戦略を明らかにしました。また、環境保全のための相乗効果が期待され、各方面で進められている特色ある取組事例を紹介するとともに、そうした取組を加速する方策の必要性を制度的、技術的側面から明らかにしました。

 本年1月、環境省のスタートに当たり、これから重視する政策スタイルとして「パートナーシップ=協働」というキーワードと、それを具体的に表現する三つの方向が示されました。
 一つ目は「地球大で活動する」ことです。例えば、UNEP、OECDなどの国際機関や欧米先進国との間で環境政策の面で協調を図ったり、アジア近隣諸国に対する環境協力を進めていくことです。また、わが国としては、今後地球環境保全について戦略研究を実施し、世界に向けた政策提案を行っていくことが求められています。
 二つ目は社会を構成する他の主体と「共に歩む」ことです。環境政策を推進する主体としては、できるだけ環境に関わる生の情報に接することによって「現場感覚」を身につけ、国民や事業者など他の主体との間で双方向の「対話」を重視していこうという姿勢です。
 三つ目は行政施策の「わかりやすさ」の追求です。今後の環境政策の本質はまさに社会の構造改革であるといえます。このため、政策の達成目標を社会の構成員にわかりやすく提示し、環境行政の意思決定過程をできるだけ透明にし、様々な主体がともに取り組めるようにすることが必要です。

 こうした発想から、第3章「環境コミュニケーションで創造する持続可能な社会」では、社会経済の営みの各段階において個々の主体の意識や行動に環境配慮を織り込む上で、環境コミュニケーションに期待される役割の大きいことに着目しました。これにより社会を構成する各主体の参加・協働を促し、重層的で多様なパートナーシップの形成を図ることが持続可能な社会の構築につながることを明らかにしました。

 ここで、環境問題に関する国際社会の対応の歴史を概観してみましょう。
 20世紀半ばまで、環境問題は地球上の局地的な社会事象としてしか認識されなかったといえます。しかし1970年代に入り、こうした認識を変化させる動きが相次ぎました。72年ストックホルムで開催された国連人間環境会議においては、「かけがえのない地球」を合言葉に、先進工業国においては経済成長から環境保護への転換を、途上国においては開発の推進と援助の増強を求めた人間環境宣言がまとめられました。
 こうした国際的な認識の深まりに大きな影響を与えたのが、世界の賢人たちの有益な意見表明でした。まず、72年にローマクラブは、人口増加や環境悪化などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達するという報告書「成長の限界」を公表しました。また、80年にはアメリカ政府が、漁業資源・森林・動植物種の減少、水質や大気など地球環境の悪化が進むことを予測した研究報告書「西暦2000年の地球」を公表しました。さらに、87年には「環境と開発に関する世界委員会」(ブルントラント委員会)は、「我ら共有の未来」を発表し、初めて「持続可能な開発」の概念を提唱しました。
 そして、92年にリオデジャネイロで開催された地球サミットは、180か国が参加した画期的な国際会議でした。この会議では、「環境と開発に関するリオ宣言」とその諸原則を実行するための行動計画「アジェンダ21」などが採択されました。

 わが国がこうした環境問題の国際史に直接的な関わりを持った代表的な出来事が、地球温暖化防止京都会議です。議長国であったわが国としては、この会議でまとめられた京都議定書ができるだけ早期に発効するよう努めることが国際的な責務であるといえます。このためには、国内体制を確立しながら国際社会に効果的に働きかけていくことが成功の鍵となります。こうした課題を含め、地球環境問題への対処において国際社会に貢献していくことがわが国に求められる大きな役割の一つといえましょう。
 持続可能な社会への変革に向けた実績を示しながら、アジア太平洋地域などの途上国に役立つ政策提言や環境技術、環境情報を積極的に発信していくことによって、わが国は国際社会でリーダーシップを発揮していくことが期待されています。今回の白書における最も重要なメッセージは、世界に誇れる「環の国」日本の実現を目指していくことこそ、この21世紀にわが国の進むべき途であるということに他なりません。

 ところで、新環境基本計画においては、政府の環境保全施策の点検結果について、「毎年国会に対して行うものとされている年次報告などに反映」することが明記され、政府の環境政策の評価機能を一層期待されています。こうした趣旨を受けて、序説と一体となって「環境の状況」を構成する次の第2部においては、最初の環境基本計画策定後これまでの個別分野の環境保全施策の進展状況と課題について総括的に記述しています。今後は、これらの部分と政府の環境保全施策の点検結果との関連性を深めていく必要があります。

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