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第2節 

3 NGO等を中心として見た場合

 NGOとコミュニケーションは非常に密接な関係を有しており、NGOはコミュニケーションを不可欠な手段として成り立っているとも言えます。
 NGOはそもそも同じ問題意識を持つ個人が自発的に集まって組織されたものであり、ばらばらであった個人が組織として活動するためには、まず組織内のコミュニケーションが不可欠です。設立された組織が継続的に活動を発展させていくためには、そのNGOの存在意義や活動内容、問題意識などを外部に向けて発信し、共感を得ていくことが必要になります。さらに、外部との連携を図った活動を行う上で、問題意識を共有し、協働していくためにはコミュニケーションは不可欠です。また、高度に専門化したNGOでは、専門的な情報を解釈、分析した上で発信する活動がよくみられます。

(1)NGOと環境コミュニケーション
 環境NGOは、これまでみてきたように、行政や企業、個人とそれぞれ密接な環境コミュニケーションを行っています。ここでも簡単に概観してみましょう(図3-2-8)。
 まず、行政や企業の有する専門的な環境情報を媒介することにより、最終的な情報の受け手が環境情報を理解しやすくする役割を果たしています。また、NGOは自ら有する情報や調査、価値観に基づき、政策提言といった形で行政や企業に対し環境に関する意見を提出する場合もあります。さらに、これらの環境コミュニケーションを通じて、活動そのものを協働して行うケースも増加しており、企業や行政、NGOに所属する個人とのパートナーシップも盛んに築かれつつあります。



(2)環境NGOの動向
 NGO全般の増加傾向と同様に、環境NGOも増加を続けています。中でも「環境情報」を活動の重要な要素としている団体が近年特に大きな伸び率になっています。
 平成10年12月のNPO法*の施行以来、当該法律に基づいて法人格を取得する団体は増加を続けています。旧経済企画庁による「特定非営利活動法人の活動・運営の実態に関する調査」によれば、平成12年9月末までに認証を受けた2666法人のうち、環境の保全を図る活動をその定款に掲げている法人は全体の25.7%にのぼっています(すべての団体が法人格を取得しているわけではありません。)。ただし、一つの法人が複数分野にまたがる活動を行う場合もあります。
 さらに、環境事業団の「環境NGO総覧」によると、環境保全活動を実施している民間の非営利団体である環境NGOは1970年代以降増加が顕著になっており、特に1980年代以降では、環境保全を主目的とする環境NGOについては、以下のように、「情報系」の伸びという特徴がみられます。活動形態を見ると、「実践」の伸び率が小さくなり、「普及啓発」、「調査研究」、「政策提言」の伸び率が大きくなっています。活動分野をみると、1970、1980年代に「自然保護」や「水環境保全」が急増しましたが、1990年代以降は「環境教育」や「リサイクル」が大きな伸びをみせています(図3-2-9)。

*NPO法
「特定非営利活動促進法」平成10年法律第7号



(3)環境コミュニケーションにおいて高まるNGOの役割
 近年、情報発信能力や政策立案能力がますます高まり、また、政府や企業とパートナーシップを築いていくにつれ、環境NGOが社会に与える影響が大きくなり、環境コミュニケーションにおいても重要な役割を果たす機会が増大しています。

 ア NGOの政策立案能力の向上
 公害問題や自然保護などの社会運動から始まった環境NGOの活動は、近年、継続的に政策提案や環境保全事業を行う団体に変化するなど、その発展形態にも特色があります(表3-2-2)。
 従来国際交渉の場では、国際法の主体として国家という基本単位が、国益を重視しながら活動していました。地球環境問題など地球規模の問題が深刻化した1980年代には、様々な環境条約においてNGOの地位が定められるようになり、国際会議へのオブザーバー参加の規定が盛り込まれるなど、国際的な合意形成過程においてNGOが参画する機会が増加しました。例えば、気候変動枠組条約締約国会議では、図3-2-10のように積極的なNGOの参加がみられます。ある国際的なNGOネットワークは、政府代表団やマスコミに向けて、会議での交渉過程や結果についての分析や独自の立場の表明を行うニュースレターの発行などを通じて、国際交渉に少なからず影響を及ぼしています。
 わが国でも、NGOの環境に関するすぐれた政策提言を広く周知し、行政の政策立案に活用される機会を設けるため、有識者の呼びかけにより「NGO環境政策提言フォーラム」が環境大臣も出席して開催されることになっています。





 イ 媒体として環境情報を発信する環境NGOの活動
 環境コミュニケーションにおいて重要になってきている環境NGOの役割の一つとして、行政や企業の発表する数値データ等の環境情報をわかりやすく整理・加工し、消費や投資行動の判断材料に活用できるよう、一般市民や企業に対して、HPやニュースレターなどを通じて公表するという活動が挙げられます。 例えば、日本のPRTR制度に当たるアメリカのTRI*制度や、イギリスのCRI*制度において、様々なNGOが、政府の発表する環境情報をわかりやすく加工し、公表しています。具体的には、NGOが、事業所から排出、移動される有害化学物質に関する情報など、それぞれの環境庁が保有しているデータベースを活用し、地域別、あるいは産業別、分野別等に、見やすくかつわかりやすく加工した上で、それらをHPで公表しています。
 また、消費者や投資家などに向けて、企業の環境パフォーマンスに関する情報を分析し、業種ごとに環境の観点から順位をつけて企業名を発表することにより、より環境パフォーマンスの高い会社に投資をしたり、その会社の製品を購入したりすることによって、環境により良い社会を作り出していくことを呼びかけているNGOもあります。あるいは、投資家に様々な企業の分析データを提供しているアメリカのNGOでも、有害化学物質排出量の業界ごとの平均値と各企業の排出量を比較して公表するサービスを行っています。
 今後、日本においても、多くの企業が環境報告書などを発表するようになるにつれ、それらの内容を整理し、解釈する仲介役としての可能性がNGOに期待されます。

*TRI
Toxic Release Inventory

*CRI
Chemical Release Invetory

 ウ 環境コミュニケーションの発展過程で環境NGOに期待されるもの
 様々な主体が自らの行動に環境配慮を織り込み、また、環境コミュニケーションの中で相互に取組を促進させていく過程では、何らかの推進力が必要であり、そこでのNGOの役割も注目されます。
 まず、市民、行政、企業などの各主体の環境問題への意識が低い状態では、各主体が環境問題への意識を行動に結び付けるための啓発者が必要となります。次に情報の受発信、他主体への働きかけを始める段階では、環境情報を分かりやすく伝え、市民の主張の代弁者となるような仲介者が必要となります。さらに、各主体が相互理解と問題解決への協力関係を築く段階では、対話の促進者として中立的な立場の主体からの支援が重要となります。
 環境保全を明確な存在意義としていることから、意思決定や活動を行うに当たって、将来世代の利益を代弁し、生態系の持続性を重視し、国益などの個別の利害を超え得るという特性を持つNGOは、環境コミュニケーションの発展過程において、このような推進力としての役割を担える可能性を持っており、今後の活躍が期待されます(図3-2-11)。このような取組を推進する上で、環境保全活動を行い、一定の要件を満たす特定非営利活動法人に対する寄付金に係る税の特例措置をはじめとする支援の枠組みが充実されつつあります。



(4)環境コミュニケーションにおけるメディア等の影響
 人々の活用する情報源はどうしても偏る傾向がありますが、これから環境に関する情報源が多様化していくのに伴い、環境コミュニケーションにおいて、様々な情報を活用していくことが必要です。
 1998年に行われた「地球環境とライフスタイルに関する世論調査」によれば、地球環境に関する知識や地球環境を保全するための方法についての情報源に関する質問に対して、ほとんどの人がテレビ(89.0%)や新聞(75.2%)、雑誌や書籍(24.3%)を挙げています。この結果から、マスメディアが人々の環境問題に関する情報源として大きな影響力を持っていることがわかります。一方、国立公衆衛生院の調査によれば、情報源への信頼度についての質問に対して、行政の発表やテレビ局の調査はあまり信頼できないととらえられ、逆に大学や研究機関の専門家による調査については信頼されているという結果がでています。
 今日、情報源や情報そのものの内容が多様化する中で、情報の受け手が、行政、企業、NGO、研究機関や専門家などの発信・仲介する情報などを状況に応じてバランスよく受け取り、評価、活用していくことが今後必要になっていくといえます。

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