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第5節 

6 森林の保全

(1)問題の概要

 世界には、その地域の気候の特性に応じた様々なタイプの森林が分布している。森林の総面積は約35億haで、陸地の約27%を占める(国連食糧農業機関(FAO):「State of the World's Forests1999」)。森林は多くの野生生物に生息地を提供し、また、土壌の保全、水源かん養や二酸化炭素の吸収・固定といった環境調整機能を有し、さらに、用材、薪炭材など人間の生活に欠かせない木材の供給源であるほか、医薬品の原料等の非木材生産物の供給源ともなるなど、多面的な価値を持つ自然資源である。
 しかしながら、世界の森林面積は、平成2年(1990年)から平成7年(1995年)の5年間に全世界で約5,630万ha、1年間当たりにすると1,130万haもの森林が失われた(FAO:「State of the World's Forests1999」)。この面積は日本の面積(約3,770万ha)の約30%に相当し、本州の約半分の広さの森林が毎年失われていることになる。また、熱帯の天然林に関しては、平成2年(1990年)から平成7年(1995年)までの5年間で年平均1,290万haが減少したと推測された(FAO:「State of the World's Forests1997」)。熱帯林には、世界の野生生物種の約半数が生息すると言われ、遺伝子資源の宝庫でもあるが、大面積の消失により、多くの野生生物種が絶滅の危機に瀕していることが懸念されている。熱帯林消失の原因は地域によっても違いがあり、農地への転用、非伝統的な焼畑移動耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧、プランテーション造成などが指摘されているが、その背景には人口増加、貧困、土地制度等の様々な社会的経済的要因が絡んでおり複雑である。さらに、近年ではロシア極東地域においても、森林の減少が懸念されている。
 また、森林消失により放出される大量の二酸化炭素が地球温暖化を加速する一因ともなっているとの指摘もある。

(2)対策

 1992年(平成4年)に開催された地球サミットで、森林に関する初めての世界的なコンセンサスを示す「森林原則声明」及びアジェンダ21における森林減少対策が採択され、それ以降、世界の森林保全と持続可能な経営に関する議論が様々な国際会議等を通じて行われた。
 平成7年4月に開催された第3回国連持続可能な開発委員会(CSD)において、CSDの下に森林分野の広範な課題の検討を行うための政府間パネル(IPF)を設置することが決定された。平成9年2月のIPF第4回会合では、各国・国際機関に対し、各国の森林プログラムの策定、世界的な森林資源評価等多数の「行動提案」を含む報告書を、同年4月の第5回CSD会合及び同年6月のUNGASS(国連環境開発特別総会)に提出した。しかし、IPFでは、森林に関する法的規制手段等の国際メカニズムについては合意にいたらなかった。
 UNGASSでは、CSDの下に「森林に関する政府間フォーラム(IFF)」を設置し、「行動提案」の実施促進、資金・技術移転等の課題の検討、森林条約などの国際的な取決め等の検討及びコンセンサスづくり等を行うことを決定した。平成12年1月から2月にはニューヨークで、その第4回会合が開催され、国連に新たに「国連森林フォーラム(UNFF)(仮称)」を設立すること、及び、各国等の取組の進捗状況の評価に基づき、全ての森林に関する法的枠組みの作成に関連する事項を5年以内に検討すること等の提案を盛り込んだ報告書をまとめた。
 平成6年に採択された「1994年の国際熱帯木材協定(ITTA、1994)」は、「1983年の国際熱帯木材協定(ITTA、1983)」にかわるものとして、地球サミット後初めて採択された協定であり、西暦2000年までに生産国の熱帯木材の輸出を専ら持続可能に経営されている供給源からのものにするという戦略(「2000年目標」)を達成するため生産国を支援することをその目的の一つに掲げるなど、熱帯林保全に向けての国際的枠組みが一層強化された。
 ITTAにより設置された国際熱帯木材機関(ITTO、本部横浜)は、生産国、消費国が協力し、熱帯林の保全と持続可能な経営、利用を目的として活動しており、「2000年目標」を始めとする戦略、ガイドライン及び持続可能な森林経営のための基準・指標を採択してきているほか、約300件余りのプロジェクトを実施してきている。
 熱帯林以外の森林についても、森林経営の持続可能性を把握・検証するための基準及び指標の作成等について、世界の各地域においてそれぞれ論議が行われている。
 まず、欧州諸国においては、同地域内の森林にかかる基準及び指標について平成5年6月以来検討が進められ、平成6年6月に基準及び定量的な指標が暫定的に作成され、その後も引き続き検討が行われている。
 また、日本、カナダ、アメリカ等の非欧州諸国により、平成7年2月に欧州以外の温帯林・北方林を対象として、その保全と継続可能な森林経営のための基準及び指標が作成された。当該グループにおいては、引き続きこれらの基準及び指標の各国における適用に向けての検討が進められている。我が国は、このような国際的な議論へ参画するとともに、従来からの2国間、多国間協力についても引き続きその推進に努めた。
 2国間協力では、森林造成・保全、人材育成、森林関係研究等を中心とする森林・林業分野の技術協力、有償資金協力等を東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米などにおいて実施中である。このうち国際協力事業団(JICA)を通じて、15か国、19のプロジェクト方式技術協力等を実施中である。また、国際協力銀行(JBIC)を通じてフィリピン、インド、メキシコ等に対して大規模な植林等を含むプロジェクトへ有償資金協力を実施中である(平成12年3月31日現在)。
 多国間協力では、ITTOに対し、その活動を引き続き支援するため加盟国中最大の資金拠出を行った。
 また、FAOに対しては、持続可能な森林経営の実証プロジェクト(モデル森林)の実施のための具体的な計画作りに必要な経費の拠出等を行った。さらに、国際農業研究協議グループ(CGAIR)の傘下に平成5年に設立された国際森林・林業研究センター(CIFOR)に拠出を行うなど森林保全研究について支援を拡充している。
 熱帯林の調査研究では、地球環境研究総合推進費による熱帯林の持続的管理の最適化に関する研究が、国立試験研究機関を中心にマレーシアの熱帯林をフィールドにして行われているとともに、海洋開発及び地球科学技術調査研究促進費による熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究が、国立試験研究機関によってタイの熱帯林をフィールドとして引き続き行われた。
 民間部門では、NGOによる東南アジア、アフリカ、中国等での植林活動に対して支援を行ったほか、民間企業の技術協力、資金協力等により、インドネシア・東カリマンタン州における熱帯林再生のためのフタバガキ科樹種等の植栽実験、ミャンマー・マンダレー州における地域住民の生活の向上等を目指した植林事業等熱帯林の保全と持続可能な経営のための取組が行われた。

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