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第5節 

5 有害廃棄物の越境移動の規制

 1970年代から80年代にかけて、欧米の先進諸国から有害廃棄物がアフリカや南米の諸国に輸出され、不適切な処分や不法な投棄により環境汚染が生じたり、輸出先国に陸揚げを拒否され、有害廃棄物を積載した輸送船が行き先もなく海上を漂うなどの事件が多発した。このような事件の背景としては、先進国でも処分が困難な有害廃棄物が、より規制が緩く処理費用もかからない開発途上国等へ輸出されがちなことが考えられる。こうして、有害廃棄物の越境移動問題は、先進国間だけでなく、途上国をも含んだ地球的規模での対応が必要な問題であるという認識が強まった。
 こうした問題に対処するため、平成元年3月、UNEPを中心に、有害廃棄物の輸出に際しての許可制や事前通告制、不適正な輸出、処分行為が行われた場合の再輸入の義務等を規定した「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(以下「バーゼル条約」という。)が採択され、平成4年5月5日に発効した。
 また、有害廃棄物の越境移動問題は、平成4年にブラジルで開催された地球サミットにおいても地球環境問題の重要なテーマの一つとして取り上げられ、またアジェンダ21の中でもこの問題への取組の重要性が指摘されている。
 このため、我が国において、地球環境の保全に資する観点から早期にバーゼル条約に加入することが必要であるとの認識から、「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」(以下「バーゼル法」という。)が、バーゼル条約の国内対応法として平成4年12月16日に制定、公布され、平成5年9月17日にはバーゼル条約への加入を果たした。同年12月16日から同条約は我が国について発効し、条約対応法である同法も同日付けで施行された。
 また、OECD加盟国間のリサイクルを目的とした廃棄物の国境を越える移動の手続を規定するものとして、平成4年3月に採択されたOECDの「回収作業が行われる廃棄物の国境を越える移動の規制に関する理事会決定」についても、我が国はバーゼル条約の我が国についての発効に先立ち加入したため、同決定の適用のある廃棄物の越境移動は平成5年12月16日以降バーゼル法に基づき、必要な規制が行われている。
 バーゼル条約の締約国は平成12年1月4日現在で133か国及びEUとなっており、おおむね2年ごとに開催される締約国会議において内容の充実及び見直し等が随時進められている。平成7年9月の第3回バーゼル条約締約国会議において、OECD加盟国等から非OECD加盟国等への有害廃棄物の輸出を禁止すること等を内容とする条約改正案が採択されたが、国際的な議論が継続して行われていることもあり、2000年(平成12年)3月現在発効には到っていない。
 平成10年2月にマレーシアで開催された第4回バーゼル条約締約国会議において、規制対象の範囲の明確化を図るため、同条約の規制対象及び規制対象外の廃棄物リストが新たな附属書として採択された。これを受け我が国においては、同年11月に、バーゼル法の規制対象物となる「特定有害廃棄物等」を該当する物を定める告示を改正し、即日施行された。
 さらに、平成11年12月にスイスのバーゼルで開催された第5回バーゼル条約締約国会議においては、有害廃棄物の越境移動及びその処分に伴って生じた損害についての賠償責任と補償の枠組みを定めた議定書が採択された。
 なお、このほか平成4年12月16日に公布された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律」が、平成5年12月15日から施行され、廃棄物の輸出の場合の厚生大臣の確認、廃棄物の輸入の場合の厚生大臣の許可等廃棄物の輸出入についても必要な規制が行われている。
 バーゼル法に基づいて輸出が承認された有害廃棄物等の量は、毎年数百トンから数千トンとばらつきがあり、平成10年の1月から12月までの1年間では5,540トンとなっている。相手国はベルギー、ドイツ、韓国及び米国であり、品目としては、はんだくず、ニカド電池等のくず等であり、いずれも銅、鉛、錫等の回収・再生利用を目的としたものであった。一方、バーゼル法に基づき輸入が承認された量は毎年数千トンから1万トン程度であり、平成10年の1月から12月までの1年間では4,720トンとなっている。相手国はオーストリア、オランダ、米国、韓国、シンガポール、フィリピン等であり、品目としては、貴金属の粉、写真フィルムのくず、使用済み触媒、廃水処理汚泥及び蛍光体等であり、いずれも銅、銀、砒素等の金属の回収及び使用済み蛍光体等の再生を目的とするものであった。
 平成11年12月に、我が国の産業廃棄物処理業者がフィリピンに再生原料の古紙と称して輸出した約2,300トンの貨物の中から廃プラスチック等に混じって使用済み紙おむつ、点滴用チューブ等が見つかり、フィリピン政府よりバーゼル条約に基づき30日以内に日本への回収を要請されるという事件が起こった。輸出を行った処理業者に日本への回収等の措置命令を行ったが、履行されなかったために、国が行政代執行を行い、当該廃棄物を速やかに日本に持ち帰り適正に処理した。
 関係省庁により、このような事件の再発防止のための検討を行うとともに、フィリピン当局とも共同の作業部会を設け必要な協議を行った。

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