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第7節 

2 野生鳥獣・水生生物の現状

(1)野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理が求められている

 野生鳥獣は自然環境を構成する重要な要素の一つであり、永く後世に伝えていくべき国民共有の財産であることから、個々の種や地域における個体群を長期にわたり安定的に維持することが必要とされている。
 西中国山地のツキノワグマなどのように生息域の分断などにより地域的に絶滅のおそれが生じている野生鳥獣の個体群、シカなどのように地域的に増加又は分布域を拡大して、農林業被害や自然生態系のかく乱など人とのあつれきを起こしている野生鳥獣の個体群に関する問題に対して適切に対応していくためには、種や個体群の維持存続を図りつつ人と野生鳥獣とのあつれきを可能な限り少なくすることにより、人と野生鳥獣との共存を図っていくことが必要である。そのためには、被害防除対策の適切な実施を図りつつ、野生鳥獣の生息数や生息環境を望ましい状態に維持・誘導するという「保護管理」の推進が求められている。
 しかし、野生鳥獣の保護管理のあり方については多様な価値観が存在するため、各般の保護管理施策が円滑かつ効率的に実施されるよう、行政、地域住民、専門家など野生鳥獣の保護管理に関わる様々な主体の間において、人と野生鳥獣との共存に向けた施策について、合意形成及び施策間の整合性の確保に努めるよう調整を図ることが必要とされている。
 また、地域個体群の安定的な維持又は被害の防止の両面において、保護管理施策の実効性に関する理解を高めるとともに、科学的な不確実性を補い、問題解決的な姿勢で現実に直面している事象に積極的に対応していくため、情報の適切な公開などにより、施策の種類、内容及び効果などに関する透明性を確保するとともに、モニタリングの実施やその結果の保護管理への反映などによるフィードバックシステムを導入することが特に必要とされている。
 野生鳥獣の種及び個体群の安定的な維持を図りつつ、野生鳥獣に関する多様な社会的要請に応えるためには、欧米において定着しているワイルドライフ・マネージメントに相当する野生鳥獣の「科学的・計画的な保護管理」を、?科学的知見及び合意形成に基づいた明確な保護管理目標の設定、?多様な手段の総合的・体系的実施、?適切なフィードバックシステムの導入の3点を基本的な考え方のポイントとして、積極的に推進する必要がある。

(2)野生鳥獣の保護管理の担い手としての狩猟者の育成が求められている

 狩猟は人間の生業やスポーツ等として行われてきたが、野生鳥獣を自然の収容力に見合った生息数に維持管理する手段としての役割も果たしている。わが国に生息する哺乳類及び鳥類については、一部を除き全種が「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」によって保護の対象とされており、狩猟ができる鳥獣は47種類に限定されている。狩猟については、期間(狩猟期間)、場所(鳥獣保護区の指定等による狩猟の禁止)、資格(狩猟免許)等の制限が定められており、これらの捕獲規制によって鳥獣の保護を図っている。
 狩猟者人口は、昭和51年度の約53万人が平成10年度には約23万人にまで減少しており、しかも高齢化がかなり進んでいる。平成10年度に有害鳥獣駆除に従事した狩猟者は約70万人・日と推計されているが、中には従事者の確保が困難なところも見受けられる。
 また、狩猟鳥獣の保護管理を科学的・計画的に進めるに当たっては、狩猟鳥獣の生息動向の適時的確な把握が肝要である。狩猟による鳥獣の捕獲実績データ等は、鳥獣の生息動向を把握する上での重要な情報源である。今後は、狩猟者も野生鳥獣の保護管理の一端を担うため、その担い手としての狩猟者の育成等を図っていくとともに、過大な負担とならない範囲内で、必要に応じて狩猟実績の報告等を充実させていく必要がある。

(3)水産資源に係る水生生物の状況は総じて低水準にある

 四方を海に囲まれたわが国は、周囲に寒流・暖流が交錯する生物多様性に富む豊かな漁場を有している。わが国は伝統的に水産物を重要な蛋白質として活用してきており、多様な水産資源の恩恵を受けている。
 水産物の生産量は戦後ほぼ一貫して増加し、昭和56年に養殖業を除く海面漁業の生産量が1,000万tを超え、昭和59年には1,150万tに達した。しかし、平成元年以降生産量が減少し、平成10年の生産量は昭和59年に比べ約54%減の約532万tにまで低下した(3-7-1図)。主要魚種別生産量の推移を見ると、まいわし、すけとうだら、さば類及びまあじの生産量がいずれも減少している(3-7-2図)。わが国周辺水域では漁船性能の向上等による漁獲強度の増大等もあって底魚類を中心に総じて資源状態が低水準にある。まいわし、まさば、まあじ等の浮魚資源は海洋環境の影響等を受けて資源状態が大きく変動しており、この中で現在減少傾向にあるまいわし資源については今後の動向を注視していく必要がある。

 国内の水産資源に係る水生生物の保護については、漁業法や水産資源保護法の適正な運用により、その保護を図っている。また、水産資源の維持・増大と合理的利用を図る資源管理型漁業の推進、生物多様性に配慮しつつ、栽培漁業、養殖漁業等を推進し、併せて漁場の造成と改良により生産力の向上や希少水産生物の保護・管理を推進している。


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