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第7節 

1 野生生物種の現状

(1)野生生物は生息・生育を脅かされつつある

 日本には、動物は脊椎動物約1,400種、無脊椎動物約35,000種、植物は維管束植物約7,000種、藻類約5,500種、蘚苔類約1,800種、地衣類約1,000種、菌類約16,500種(いずれも海棲のものを除く。)の存在が確認されている。生物種の数は熱帯林を擁する国々と比べると少ないが、先進国(特にヨーロッパ各国)と比べると多い。多様な生物種の生息を可能にしている要因は、亜熱帯から亜寒帯にわたる気候帯や起伏に富み標高差のある国土といった多様な自然環境である。また、わが国は四つの主要な島と3,000以上の属島から構成されており、中には特異な生物相を有する島嶼も含まれている。
 わが国では、特に戦後の経済の高度成長期を中心に開発による自然環境の改変が進行し、全国的に自然林や干潟等が減少した。また、都市化等に伴う汚染や汚濁など生物の生息環境の悪化・消滅、あるいは希少な動植物の乱獲、密猟、盗掘等が進んだ。さらに里地自然地域等における人との関わりの減少も、2次的な自然環境に適応してきた生物の生息・生育の場を減少させている。この結果、わが国でも多くの種が存続を脅かされるに至っており、これらの種の絶滅を防ぐことが緊急の課題となっている。

(2)絶滅のおそれのある野生生物種への対策が進められている

 わが国に生息する絶滅のおそれのある種のうち、緊急に保護策を講じなければならないものから順次「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき、国内希少野生動植物種として指定され、捕獲及び譲渡等の規制、生息地等の保護、保護増殖事業等の対策が講じられる。国内では現在57種が指定されている。また、指定された国内希少野生動植物種について、その生息や生育環境の保全を図る必要があるときは、同法に基づき生息地保護区が指定され、工作物の設置や木竹の伐採等が規制される。平成10年6月にはキクザトサワヘビについて、同年11月にはアベサンショウウオについて生息地等保護区が追加指定され、全部で6種について7か所の生息地等保護区が指定されている。
 わが国の絶滅のおそれのある野生生物の個々の種の生息状況等は、平成3年に、「日本の絶滅のおそれのある野生生物(通称:レッドデータブック)―脊椎動物編―、同―無脊椎動物編―」として取りまとめられた。このレッドデータブックでは、野生生物の生息状況や生息環境の変化に対応するために定期的な見直しが必要であるとし、これまでに両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類及び汽水・淡水魚類の新しいレッドリスト(レッドデータブックの基礎となる日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)の取りまとめを終了している。植物についても平成9年8月にレッドリストをまとめ、現在レッドデータブックを作成中である。これに併せて、従来、種の存続の危機の度合いの高い順に「絶滅危惧種」、「危急種」、「希少種」と定性的に分類していたものを、「絶滅危惧?類」、「絶滅危惧?類」、「準絶滅危惧」と定性的要件と定量的要件を組み合わせたものに改訂し、順次新たなカテゴリーに移行している(3-7-1表)。これによると、わが国に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の2割強、爬虫類、維管束植物の2割弱、鳥類の1割強の種が存続を脅かされている。
 国内希少野生動植物種57種のうち、平成11年8月に策定されたオオトラツグミ・アマミヤマシギを含めた19種について保護増殖事業計画が策定されている。なお、保護増殖事業は小笠原の希少植物、北海道の希少海鳥類を含めて、現在15事業が実施されている。
 トキについては、日本産の最後の1羽が佐渡トキ保護センターにおいて飼育されている。また、中国から贈呈されたトキ1ペアについて、平成11年1月より同センターにおいて飼育が開始され、同年5月にはわが国で初めて人工飼育下で1羽のヒナが孵化した。12年度以降の繁殖に期待が持たれている。北海道のタンチョウは昭和27年にはわずか33羽の生息しか確認されなかったが、地元の保護活動と一体となった保護増殖事業の成果が現れ、平成11年1月には709羽の生息が確認されるまでになった。一時は絶滅したと考えられていたアホウドリについても、デコイ(実物大模型)を用いた新たな繁殖地の形成などが実施され、現在、鳥島等で約1,000羽の生息が確認されるまでになった。また、長崎県対馬に約70〜90頭しか生息していないツシマヤマネコについては、モニタリングや各種ウィルス感染状況等の調査が行われている。さらに、将来飼育下で個体を繁殖させ、野生に復帰させていくための、野外の個体の捕獲、飼育繁殖技術の開発等が実施されている。



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