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第6節 

3 海域〜海岸、藻場、干潟及びサンゴ礁の状況

(1)自然海岸の減少は鈍化が認められるものの依然として続いている

 自然状態を保持した海岸は生物の繁殖及び生息の場として重要である。都市化や産業の発達に伴い、高度成長期には海岸線の人工的改変が急速に進められた。しかし、人工的改変は不可逆のものであり、慎重に行わなければならない。
 海岸調査では、海岸の自然状態について第3回調査以降の変化を把握、分析した。調査結果は3-6-6図のとおりである。昭和59年の第3回調査結果と比べ、海岸線については本土部分が214km、島嶼部分が135km増加しているものの、全国の自然海岸は296km減少している。ただし、第2回と第3回の調査の間には自然海岸は565km減少しており、減少傾向の鈍化が認められる。

(2)藻場、干潟及びサンゴ礁は海域環境の生態系を形成するものとして重要である

 藻場とは大型底生植物の群落であり、魚介類の産卵場やエサ場などの生育場として沿岸地域の生態系に重要な役割を果たしている。
 藻場の調査は日本沿岸全域を対象に行った。調査の結果、全国で201,212haの藻場が把握され、昭和53年の第2回調査以降6,403haの藻場の消滅が判明した。一続きで最大の藻場は、静岡県の相良から御前崎に位置する藻場で7,891haであった。また、連続したものではないが、最も多くの藻場が分布するのは能登半島周辺の海域で、14,761ha(全国の7.3%)であった(3-6-5表)。藻場の消滅の原因の上位は、埋立と磯焼けが占めている(3-6-6表)。磯焼けは多くの場合原因が特定できないが、現象としてはよく繁茂していた大型海藻が枯死消失し、その後無節石灰藻類が繁殖しほかの海草や海藻が生えなくなる現象である。いったん無節石灰藻の被覆ができてしまうと、その状態は数年から十数年にわたって持続する例が知られている。

 干潟は干出と水没を繰り返す環境条件から、海域環境の中でも特異な海洋生物や水鳥等の生息環境として大切な役割を持つ。干潟には河川と陸上の両方から様々な栄養物質が堆積し、潮の干満の際に空気中の酸素が大量に海水中に溶け込むため、多くの微生物や底生動物が生息し、それを餌とする渡り鳥も数多く飛来する。また、これら微生物が有機汚濁を分解するなど、干潟の水質浄化能力も注目されている。しかし、干潟の多くは水が滞留しやすい内海にあるため、干潟の浄化能力で対応しきれない人的汚染も広がりつつあり、影響が懸念される。
 第4回調査では51,443haの干潟が確認された。海域別では、有明海で20,713ha(全国の約40%)の存在が認められた。また、3,857haの干潟が昭和53年の前回調査時以降消滅したことが判明した。最も多く干潟が消滅したのも有明海で、その面積は1,357haに達していた(3-6-7表3-6-8表)。
 干潟の保全については、自然公園法や「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」等による保全に加え、瀬戸内海においては、瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき、藻場、干潟及び自然海浜の保全、埋立てに当たっての環境保全上の配慮の総合的な施策が進められている。
 わが国のサンゴ礁地形は鹿児島県のトカラ列島以南に多く存在する。八重山列島にはわが国最大の面積のサンゴ礁があり、同海域の造礁サンゴ類の種の多様性は世界でも屈指のものである。
 サンゴ礁調査は、?鹿児島県トカラ列島小宝島以南の「サンゴ礁海域」?トカラ列島悪石島以北の「非サンゴ礁海域」に分けて実施された(ただし、小笠原諸島は「サンゴ礁海域」に属するが、本調査では「非サンゴ礁海域」としている。)。サンゴ礁は暖かい透明度の高い海域に発達し、その分布、被度(生きているサンゴの面積割合)等サンゴ礁の生育状況の把握は環境の健全性や人為的影響を知るうえでも重要である。
 南西諸島海域において、サンゴ礁池で被度を調査した結果、被度5%未満は分布地域の61.3%、被度5〜50%は30.6%、被度50%以上は8.2%であった。わが国のサンゴ礁池のサンゴ群集は、大部分が被度の低いものであることが分かった。礁縁において行った調査では、沖縄島海域以外は被度5〜50%が最大の比率を占めるが、沖縄島海域では被度5%未満が46.2%を占め、礁縁においても被度が低いことが明らかになった。
 小笠原群島海域は、父島列島及び母島列島において調査し、456haのサンゴ群集が記録され、そのうち約70%が被度50%以下であった。
 本土海域のサンゴ群集(面積0.1ha以上、被度5%以上)の合計面積は1409.3haであった。特に面積が大きかったのは、東京都(424.8ha)、宮崎県(292.7ha)であり、この両者で全体の50%を超える。東京都の分布は八丈島がほとんどを占めている。





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