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第3節 

2 個人の資産選択における環境保全意識の高まりとその社会的影響

 平成11年9月現在の日銀の資金循環統計によれば、日本国内の個人金融資産は約1,332兆円に上る。その主な内訳は「株式・出資金、株式以外の証券」(株式、公債、事業債、金融債、投資信託、抵当証券等)が約14%、「保険・年金準備金」が約28%、「現金・預金」(流動性預金や定期性預金等)が約55%である。各家計における金融資産は、独自の判断に基づいて様々な金融商品の組合わせとして保有されている。
 これらの個人金融資産は、銀行や保険会社、証券会社等を通じて、その一部が民間部門における投資のための資金となっている。
 従来、個人金融資産と環境保全との関係はあまり論じられることがなかったが、ここでは、近年の環境問題への個人の意識の高まりを受け、昨年から公募が開始されて話題を呼んでいるエコファンド(環境への配慮の度合いが高く、かつ株価のパフォーマンスも高いと判断される企業の株式に重点的に投資する投資信託)を中心に、どのように個人金融資産が環境保全に影響を与え得るのかについて、具体的な商品や金融機関の取組事例を見ながら考察する(2-3-21図)。



(1)エコファンドが日本でも登場した意味を考える

 平成11年の夏以降、日本でも相次いでエコファンドが発売され、平成12年3月現在、5社から同趣旨の投資信託の商品が発売されており、当初の予想を大幅に上回る販売実績をあげている。なぜ今エコファンドがこれほど話題になっているのか、その背景や売上げの現状、投資家の特徴、投資先の選別方法等について概観する。

ア エコファンドの登場を巡る状況
(ア)欧米で誕生した社会的責任投資
 欧米では投資対象の収益面のみならず、倫理的・社会的な側面まで配慮して行う「社会的責任投資」(Socially Responsible Investment)の考え方が早くから登場している。具体的には、酒、たばこ等への投資を控える動きがあり、1980年代後半からは環境面での評価もそれに加わるようになった。社会的責任投資の普及や促進のための活動を行っている米国の非営利団体であるSocial Investment Forumの1999 Report on Responsible Investing Trends in the United Statesによると、1999年時点の米国における社会的責任投資の資産総額(ファンド以外の形態のものを含む。)は、2.16兆ドルに上っている。
(イ)日本におけるエコファンドの登場の背景と現状
 日本におけるエコファンドの登場の背景としては、長引く不況の中で、今まで安全資産として人気の高かった定期預貯金の金利が、最も受入額の多いもの(期間が1、2年で300万円以下)でも平成11年後半には0.2%を切ったことや、また高利回りの定額貯金の満期も控えていることに加え、銀行等の金融機関の投信窓販、私募投信の解禁等の投資信託改革などの日本版ビッグバンによって、エコファンドを含む投資信託や外貨預金等のリスクを伴う資産が個人金融資産の受け皿になりやすくなったという基盤があったといえる。
 それらに加え、深刻化する環境問題に対する意識の高まりに注目した「成長力の高い企業への投資のみならず、個人の資産によって社会貢献が可能」という視点や、「環境対策に適切に取り組んでいるかどうかがその企業の成長力や株価、資金調達の条件に影響を与える」という考え方が多くの個人投資家に受け入れられたことがあげられ、環境問題に関心があるためにエコファンドを通じて初めて投信に挑戦する個人投資家も見られるようになった。日経産業消費研究所の調べ(首都圏、近畿圏を中心とした全国消費者700人を対象に昨年実施したもの)によると、「環境配慮度が高い企業の業績イメージ」を複数回答で聞いたところ、「中長期的に成長力がありそう」という答えが68%と最も多かった。
 エコファンドの販売はいずれも順調であり、国内で発売を行っている5社の純資産の合計は、平成12年4月10日現在で約2,171億円となっている。また、発売済みのエコファンドの購入者の約9割は個人投資家(金額ベースでもほぼ同じ。)であり、投資信託の初心者や女性が多いことが特徴である。前述の日経産業消費研究所の調べによると、「エコファンドへの関心度」に対する回答では、「関心がある」との回答が4割に上った(2-3-22図)。


(ウ)投資先企業の選定基準
 エコファンドといっても投資先企業の選定基準があまり開示されないために明確ではなく、その銘柄は総じて情報系、電機系等のパフォーマンスの良い大企業ばかりだという批判も一部にはある。これからは、選定基準をより明確にした上で、どの企業がどのような環境保全への取組を実施しているかについて適切に評価し、エコファンドの投資先を選定することが重要になってくる。今後、環境保全に関する支出がコストアップになるというよりもむしろ、環境対応能力が企業の競争力の一要因であるという見方が浸透し、エコファンドが定着するとすれば、幅広い人々が企業の環境保全への取組に関心を持つようになり、このような環境面からの企業の評価のあり方もますます注目されるようになるといえる。
 ここでは、すでに販売されているいくつかのエコファンドについて、その銘柄の選定方法を一部見てみる。
a 投資収益性
 投資信託である以上、ある一定程度の投資収益を上げることが望まれるため、環境面からの評価と併せて、時価総額、企業規模、財務内容等の従来型の財務分析や株価判断により対象企業の収益性・安定性を評価して銘柄を絞り込んでいる。したがって、現状では環境面での評価が高い企業が必ずしも投資対象となるわけではないことに留意する必要がある。
b 環境面からの銘柄選定の基準・方法
 環境面からの銘柄選定のための調査項目や評価方法は商品によって異なるが、共通の評価項目としては、経営方針における環境保全の取組の明確化、環境マネジメントシステムの構築、環境監査、環境会計、製品やサービスにおけるライフサイクルアセスメント(LCA)を踏まえた環境保全の取組(省エネルギーや省資源、廃棄物・リサイクル対策等)、個別の業界特有の環境リスク対策、環境情報の開示等が中心となっている。ただし、共通の評価項目以外では、各業種によって重点的に対処すべき環境問題や関連する規制や制度、市場環境も実際は異なることにも注意が払われている。
 また、特定の業種を全く排除してしまうことなく、同一あるいは類似の産業に属する企業群の中で相対的に環境パフォーマンスの高い企業を選択し、すべての業種を投資対象とすることによって分散投資を図っている商品もある。
 なお、「環境優良企業」とは、環境に配慮した経営を行っている企業も含み、必ずしも主たる事業が環境関連ビジネスである企業を意味する訳ではない。
c 環境面からの銘柄選定の主体
 財務内容、収益性等である程度銘柄を絞った後に環境面から更なる選定が行われることが多いが、環境面からの銘柄選定の主体は商品によって様々である。既存の商品では、外部の環境専門の調査機関への調査、分析、助言などの委託、グループ内の特別チームによる環境に関する分析等が見られる。

イ エコファンドが金融機関の投資行動や企業経営に与える影響
 今後エコファンドの普及が進めば、環境保全への取組の程度を一つの要素として組み込んだ競争力や収益性、成長性の考え方を通じて、企業の株価や資金調達条件が影響を受けるようになるといえる。例えばある研究機関の選択した環境先進企業30社の株価は、TOPIXと比較しても良いパフォーマンスを示しているという事例もある。ただし、この「企業の環境対策の度合いと株価のパフォーマンスの間の正の相関関係」については、もともと対象となった優良企業が環境対策に取り組む資金的余裕があるからなのか、あるいは環境対策の適切な実施によりコスト抑制が可能になったからなのか、因果関係はいろいろ考えられる(2-3-23図)。
 したがって、企業が環境対策をアピールするためにも、金融機関等が企業を評価する際にも、環境面から企業を適切に評価するための方法が重視されるようになる。このような流れに伴い、企業はどのような対応をするようになるのか、金融機関等の投融資行動はどう変わり得るのかを考察する。


(ア)エコファンドが企業経営に与える影響
 今後環境保全への取組が企業の成長性やリスクに影響を与え、その株価や資金調達のあり方を左右するようになると、前述の「環境面からの銘柄選定の基準・方法」であげたような項目について企業は敏感に取り組まざるを得なくなる。また、企業間での行動においても、環境庁で毎年行っている「環境にやさしい企業行動に関するアンケート調査」の結果によれば、上場企業のうち16%が「取引先の選定に当たり、環境に配慮した取組等の状況を考慮している。」と回答しており、その割合は年々増加している。つまり、環境経営の理念を明確化し、実行し、更にそれらの過程や結果や根拠等を分かりやすく外部に情報開示していかなければならない。そのための手段として最近注目されているのが、企業の環境マネジメントシステムの仕様を定めているISO14001の認証の取得や、企業による環境に関する取組等をまとめた環境報告書、環境対策に関する支出やそれによる効果を分かりやすく表現した環境会計などであり、いずれも企業が自主的に取り組んでいるものである。特に環境会計では、今まで把握してこなかった環境保全に関する費用と効果を定量的に把握・公表する機能が期待される。環境庁では平成11年3月に「環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン(中間とりまとめ)」を発表し、更に検討を深めた環境会計システムの導入のために役立つガイドラインのとりまとめを行っている。
 なお、企業が環境を踏まえた上で合理的な行動をとるためには、前提として環境の外部不経済が市場価格に適切に内部化されていることが重要である。
(イ)金融機関の投融資行動に与える影響
 従来金融機関と環境問題の関わりはあまり論じられてこなかったが、ごく最近になって、資金の流れを通じた環境保全への影響というものが注目され始めている。他人の資産を運用する受託者の伝統的な義務は、「リスクを極小化し、リターンを極大化し、資産の保全を図ること」であり、環境問題や社会問題等の財務的パフォーマンスとは直接的な関係の見出しにくい要素は運用判断から除外するのが当然であった。これはプルーデントマン・ルールの考え方(受託者は投機的な観点ではなく、受託した財産の恒久的運用という見地から、投資される資本の安全性だけでなく、収益性をも十分考慮して、慎重で思慮分別のある賢明な人のように運用しなければいけないという原則)に基づいている。
 ここで問題になるのは、数字も価格もなく、財務報告にも表せない土壌や海、水、動植物等の人類を支えている環境や生態系に対する長期的なリスクにはどう対応したらよいのか、ということである。環境保全の取組を進め、環境汚染の危険性を低め、ひいては投資家のリスクをも低減させてきた企業は、投資対象としてその株価も高く評価される可能性が高くなるのではないだろうか。いわばプルーデントマン・ルールの拡大である。その中では、企業と直接対話し、経営の質や経営判断を評価しているアナリストの認識は大切な要素となる。定量モデルに組み込まれにくい環境の要素をいかに企業の評価に反映させるかというのは、アナリストのこれからの課題でもある。そのためにもできるだけ外部経済である環境コストを市場に内部化させ、客観的評価を可能にすることが求められる(2-3-24図)。



(2)保険会社や年金基金の運用においても環境配慮の可能性がある

 損害保険業は金融業の中でも環境保全への対応が早く、過去の環境汚染行為によって生じた損害に対する補償金の支払い等の環境汚染対応型の保険の開発や、保険のためのリスク評価における環境要素の配慮等が行われてきた。ここでは「個人」に視点を移し、個人金融資産の約3割を占める「保険・年金準備金」が保険会社や年金基金を通じて、どのように環境保全に影響を与え得るのかについて、具体的な取組事例を見ながら考察する。
 個人の生命保険や損害保険の掛金や、退職後の年金のための積立金は、それぞれ金融機関によって運用されている。平成11年9月現在の日銀の資金循環統計によれば、保険部門の資産は約352兆円、年金基金部門の資産は約90兆円であり、それぞれの約6割は「株式・出資金、株式以外の証券」の項目が占めている。個人の金融資産を含むこれらの資金の運用における環境配慮が可能であれば、十分社会的にインパクトを与え得るといえる。

ア 保険会社の運用における環境配慮
 ノルウェー国内の各種保険市場の約4割のシェアを占めるある保険会社は、1995年から3年ごとに、この会社自身が環境に与える影響や、環境に配慮した商品やサービス、国際環境協力などについて盛り込んだ環境行動計画を策定し、実行し、評価している。1998年に新しく策定された計画では、環境指標や環境監査の確立等の目標を掲げている。1996年には様々な産業において財務・環境パフォーマンスの両面で優れた企業に投資を行う環境ファンドを設立しており、設立後の22か月間で、その規模は7000万ドルから1億3500万ドルに増加し、運用実績もベンチマークであるMSCI-WI(Morgan Stanley Capital International - World Index)より5%上回るという好成績で推移している。
 このファンドでは、「環境配当」という概念でこのファンドと市場全体の平均環境効率性の差を表現しており、はじめの1年では、市場全体に比べてこのファンドの平均環境効率性の方が28%も高いという結果になった。このファンドのためのデータベースも1996年6月に150社分であったのが、1997年12月には500社分に充実してきており、新しい行動計画では750社分に拡大することが目標とされている。それに併せて選別のための倫理的なガイドラインの策定、他の類似のファンドとの連携等も盛り込まれている。

イ 年金基金における環境配慮型の運用
 イギリスの例では、あるグループ会社の従業員年金基金の一部がインドネシアの熱帯林の違法伐採で罰金を課されたことのある合板メーカーに間接的に投資されていた事実に対し、この年金基金に積立てをしている従業員を代表する労働組合が非難の意を表明した事例があった。実際は基金のごく一部がそのメーカーに投資されており、しかも運用成績は平均以上で、基金の健全な運用に対する寄与は大きかったにもかかわらず、積立て人の総意は、環境資源を誤用する問題のある事業に対しては投資すべきでない、という結論であった。これを受け、年金基金の運用の際には企業の環境面にも配慮が行われるようになった。
 また、1995年の年金法改正により、年金基金は、社会的責任、環境保全的・倫理的投資に関する方針及び年金受益者の権利行使に係る方針を公開することが義務づけられた。これに伴い、イギリスにおける社会的責任投資が今後も増加することが期待されている。
 従来、年金基金の真の所有者である年金受益者は、それほど集団としての意識があるわけではなく、年金が将来間違いなく受け取れるよう安全な運用がなされていれば問題はなかった。しかし、先に見たように、基金の所有者が所有者として運用のあり方に対して明確な意識を持ち始めるような事例も見られるようになっている。
 日本では、日本労働組合総連合会の環境指針において、労働組合の年金基金の運用に当たって環境保全の視点を入れていくことが示されているという事例がある。

(3)預金においても環境配慮の可能性がある

 ここでは、大企業だけではなく中小企業やベンチャー企業の環境保全事業や民間非営利団体による環境保全活動にも資金を供給できる仕組みについて、具体的な事例を踏まえて考察したい。

ア 環境保全型事業に対する銀行独自の融資
 1980年にオランダで設立され、1995年にイギリスに進出して以来急激に成長しているある銀行では、有機農業、再生可能エネルギー、フェアトレード(途上国の生産者と先進国の消費者を結び、貿易に伴う環境への負荷が生じないこと、生産者が正当な利益を得ることなどを保証する貿易形態)といった、環境保全等を目的とする事業にのみ投融資を行っている。特に有機農業関連事業への融資に積極的に取り組んでおり、1997年には、有機農業等を融資対象とした預金口座を開設し、高い人気を得ている。
 ドイツでは、営利追求ばかりの銀行のあり方に疑問をもつ様々な職業の個人が、環境保護や人権擁護等を進める企業・個人に積極的な投融資を行うために、組合員の預金を貸し付ける形態の協同組合銀行(日本の信用組合に当たる)を設立した。自分達の預金が戦争や環境破壊につながる企業に投資されるのは避けたいという預金者の支持を受け、1998年時点での組合委員数は2万3700人にもなり、総資産額は3億8000万マルクに上る。ここでは、環境保護、社会的弱者救済などに分けられた低金利の助成基金が創設されており、組合員は各基金を指定して預金し、銀行はその基金で外部の専門家の厳しい審査に基づいて融資を行い、その結果を組合員に報告している。
 ドイツのこの銀行の影響を受け、日本においても環境保全事業を含む社会的に意義のある事業の起業に対して融資を行う制度が、ある株式会社と信用組合の提携によって始まっている。この融資制度の対象事業は社会性と事業性の面から厳しい審査を受けるが、起業家に事業相談サービスを行ったり、起業後にどのように事業をうまく継続していったら良いかというフォローを行ったりして、起業家を育成しており、今まで貸し倒れは出ていない。主な環境関係の融資事例は、廃食油を使った石鹸工場や、廃材を使った家具・インテリアづくりなどで、この融資制度の現在の融資の状況は、全部で100件、総額5億円に上っている。
 わが国のいくつかの地方銀行では、独自の環境保全事業への低利融資が新設されている。具体的には、公害防止・リサイクル事業等の整備費用やISO14001の認証の取得費用、大気汚染や省エネ対策の資金、低公害車の購入資金等に係る一般企業への低利融資制度等がその例である。さらに、環境ビジネスを含むベンチャー起業家向けの融資を設けている地方銀行も見られる。
 オランダにおける税制面での優遇措置を組み込んだグリーンファンドの制度も特徴的である。これは、銀行等に設置されるグリーンファンドが、オランダ中央銀行の定める基準に合致し、少なくともその70%が森林、自然環境地域の保護、環境技術等のグリーンプロジェクトに融資され、かつプロジェクトの内容がオランダ住宅空間計画環境省に申請された場合については、ファンドの出資者たる個人の利子所得について非課税になるという制度である。この非課税措置は1995年に、商業ベースでの資金確保の難しいグリーンプロジェクトに対して、より多くの一般市民がファンドを通じて資金を供給できるようにすることを目的として作られたものである。

イ 環境保全活動を行う民間非営利団体への寄付が組み込まれた金融商品
 わが国では、融資制度のほかにも金融機関が独自に開発している商品がある。銀行口座の普通預金の利息の一部や、信託銀行に預けた資金の運用収益の全額(元本は信託期間後に返還)を、環境保全活動を実施している団体への寄付に充てる商品等が登場している。受取利子の20%が民間非営利団体に寄付される郵便局の国際ボランティア貯金の加入者も年々増加している。
 また、エコファンドの中でも、投信手数料の一部を環境保全活動を行う団体に寄付する商品がある。

(4)いかにすれば個人の資産選択が環境保全につながるか

 個人の金融資産が様々な金融商品を経由することによって、どのように環境保全に影響を及ぼし得るのかという事例をこれまで見てきた。個人がモノを購入する際にできるだけ環境配慮型の商品を選択するという「グリーン購入」の考え方に加え、個人が自己の金融資産を運用する際においても環境保全を気にかけて選択を行う「グリーンインベストメント」という概念が日本でも登場し、浸透しつつあるといえるだろう。特に当初の見込み以上のエコファンドの人気や、環境保全事業に対する融資制度の登場には、それを支える個人の資産選択の変化が少しずつ反映されてきていると考えられる。そのような意味で、個人が、企業や社会に対して間接的ではあるものの、環境保全の観点から良い影響を与えられる一つのツールとして金融資産を考えることができる。
 資金の流れの中で、金融機関が企業を、個人が企業や金融商品を、あるいは企業が取引相手先を選択する際に、環境というファクターが今後ますます重要になっていくことが予想される。特に経済が急速に変化しつつある現在、企業の業績やその業界における序列、さらには社会における認知度が極めて変わりやすくなっている。この変化に影響を与える要素としてはもちろん市場に受け入れられる製品の開発等もあるが、それだけではなく、金融機関による資金の供給が果たす役割も大きいと考えられる。そのため、金融機関が融資に当たって企業の環境に対する配慮の状況を判断材料とすることにより、企業の行動に影響を与え、ひいては社会全体を環境保全型に変革することができる。それに伴い、より適切かつ客観的な企業の評価が必要となるため、今後は環境報告書による情報の適切な公開や、環境パフォーマンス評価、環境会計等の評価の精度をより高めていくことが望まれる。

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